アブスト:銀河・銀河団分科会

講演a-1: z 〜 2の銀河団とその周辺領域における中性水素によるLyαの散乱効果

講演者名: 舩木 美空、所属: 東北大学、学年: M1

 銀河形成には、冷たいガスの降着が重要な役割を果たしている。中でも、z 〜 2は銀河や銀河団へのガスの降着が効率的に行われ、星形成の活動性も最盛期を迎えた時代である(cosmic noon)。ガス降着の結果、銀河団コアは衝撃波加熱によりいずれ高温になり、銀河団ガス(ICM)は完全に電離する。そのため、冷たいガスの降着は、銀河形成や宇宙の電離史を紐解く上で鍵となっている。しかし、冷たい中性水素(HI)ガスを直接観測することは難しく、ガス降着の実態と銀河形成との関係は不明のままである。
 そこで本研究では、HαとLyαの共鳴散乱効果の違いを利用したユニークな手法を用いて、間接的にHIガスの分布を調査した。実際に、Subaru/HSCの狭帯域フィルターを使用し、COSMOS領域に存在するz = 2.23の原始銀河団及びその周辺の大規模構造の広視野撮像観測を行った。この領域では、HiZELS サーベイ[1]によってすでに多数のHα発光天体(HAE)が発見され、1度超のスケールに渡ってフィラメンタリーな構造が確認されている。また、CLAMATO HI トモグラフィーサーベイ[2]により、周辺領域ではHIガスの超過も発見されている。
 観測の結果、原始銀河団を中心とする20分角 × 20分角の領域内に109個のLyα発光天体(LAE)を発見した。また、LAEとHAEの空間分布の比較と、両輝線プロファイルの比較により、Lyαの共鳴散乱とダスト減光に大きな環境依存性があることを発見した。本講演では、これらの結果に基づき、冷たいガスが周囲のフィラメント構造に沿ってどのように銀河団へ降着し、その後銀河団コアがどのように電離されるかについて議論する。

1. Sobral, D., et al. 2013, MNRAS, 428, 1128
2. Horowitz, B., et al. 2022, ApJS, 263, 27

 

講演a-2: RIOJA: 最遠方の原始銀河団の一つであるA2744-z7p9ODのメンバー銀河の星間媒質

講演者名: 大曽根 渉、所属: 筑波大学、学年: M1

原始銀河団の研究は、高密度環境が銀河進化に与える影響を理解する上で重要である。特に宇宙再電離期においては、銀河全体の星形成率密度に占める原始銀河団の割合は大きく(Chiang et al. 2017)、また、電離バブルの形成によって原始銀河団は宇宙再電離を優先的に引き起こしていた可能性があると考えられている(Tilvi et al. 2020)。そのため、原始銀河団は宇宙再電離期における極めて重要な研究ターゲットといえる。本研究の対象天体は、最遠方の原始銀河団の一つであるA2744-z7p9ODである。同原始銀河団のコア領域では、Hashimoto et al. (2023)でJWSTのNIRSpec/IFS(面分光モード)を用いて、赤方偏移z = 7.9にある4つの銀河を[OIII]λλ4960,5008Å輝線によって分光同定したことが報告された。その後、Venturi et al. (2024)では、コア領域に対して星質量や星形成率、金属量勾配が調査されるなど、現在JWSTを用いた研究が盛んに行われている。本研究では、JWST/NIRSpecによる分光データとJWST/NIRCamによる撮像データを駆使し、コア領域に加え同原始銀河団の他のメンバー銀河に対しても、詳細な解析・比較を行った。結果、コア領域に属する天体は、輝線比O32(=log([OIII]λ5008Å/[OII]λλ3727,3730Å)) ~ -0.1-0.4であり、同じ時代にある典型的な天体と比較して~ 0.8 dex低い値を取ることが明らかになった。これはz=3の典型的なライマンブレイク銀河と同程度であり、コア領域のメンバー銀河の星間ガスの電離状態が一般領域の銀河のものと異なることを示唆している。本講演では、本天体の星間ガスの性質を原始銀河団における銀河進化に関連づけて議論する予定である。

 

講演a-3: 銀河団同士の衝突における元素量の空間分布を用いたコールドフロントの形成シナリオの分別

講演者名: 大宮 悠希、所属: 名古屋大学、学年: D2

銀河団同士の衝突は、生成したMpcスケールの衝撃波を通じて、銀河団プラズマ(ICM)全体に加熱や攪乱・粒子加速・磁場増幅を引き起こす宇宙最大のエネルギー解放現象である。3つの非熱的圧力の生成・散逸過程の理解は、最も関心の高い問題の一つである銀河団の質量推定時の系統誤差の最小化につながるが、観測感度や精度の不足によって、議論は定性的なものか理論的なものに限られていた。昨年打ち上げたX線天文衛星XRISMは、超精密分光観測器によって、ICMの攪乱速度の精密測定を世界で初めて実現する。さらに、近年の巨大な電波望遠鏡(MeerKAT・ASKAPなど)は、シンクロトロン電波放射構造を広帯域かつ高感度で捉え、加速粒子・磁場の詳細な空間分布を明らかにしており、非熱的エネルギーを定量化できる時代がついに到来する。しかし、これらを融合して生成から散逸を理解するには、初期状態や衝突年齢などの衝突描像の解明が必要不可欠である。
そこで私は、多くの衝突銀河団に存在するコールドフロント(CF)に着目した。CFは、低温高密度と高温低密度のICMの圧力接触不連続面である。CFの形成シナリオは2点考えられる。一つ目は、ストリッピングシナリオである。この場合、主銀河団に突入した副銀河団の周囲のICMは剥ぎ取られ、最終的に残った中心ICMがCFを形成していると解釈できる。一方で、衝突時にオフセットがあると、角運動量によって副(or主)銀河団は回転しながらCFを形成する。これがオフセット(or スロッシング)シナリオである。これらの区別には、高元素量を持つ銀河団中心の探査が必要不可欠になる。そこで、私はbullet銀河団やAbell 2319などの代表的なCFを持つ衝突銀河団の元素量の空間分布を探った。本講演では、その結果や可視光BCGとの位置関係などから衝突オフセットの距離などの衝突描像について議論する。

 

講演a-4: 近傍銀河の銀河内部における星生成進度の異なる要因

講演者名: 濵 響子、所属: 北海道大学、学年: D1

銀河は星やガスの集合体であり,銀河のどこでどのように星が作られているのかを明らかにすることは銀河進化を解明していくことに繋がる。星は低温のガスから生成されるため,個々の銀河の内部における原子ガスと分子ガスのガス分布に星生成率や恒星質量等の情報をあわせることで,銀河内部での星生成過程の進度を明らかにすることが期待される。多くの銀河は分子ガスが内側に集中し,その周囲に広く原子ガスが分布するが,分子ガスが支配的な領域の半径は銀河によって様々であり,何で決まっているのかは明らかでない。またガスから星が生成される割合や効率も,銀河の形状や構造等の違いも相まって多種多様である。本研究ではNRO 45-m電波望遠鏡で取得された12CO(J=1–0)輝線とVLAで観測された21cm線,WISEとGALEXで取得されたデータをもとに算出した恒星質量と星生成率を使用し,近傍銀河約40天体を対象として銀河ごとに内部での星生成の進み具合が異なる要因を考えた。
各銀河について原子ガスと分子ガスの面密度の動径分布を求め,両者が等しくなる半径を「原子-分子転換半径」と定義し,この半径よりも内側と外側の領域に分けて星生成率,星生成効率,比星生成率を比較した。その結果,先行研究で示されているように分子ガスが卓越している原子-分子転換半径より内側では現在の星生成がより活発であることがわかった。また分子ガスから星が生成される効率は銀河内の場所による違いがほとんど見られないのに対して,原子ガスから星が生成される効率は内側の方がより高い。さらに比星生成率の逆数を星生成が始まってから経過した時間とみなすと,これは銀河内で大差がなかった。以上より,銀河での星生成活動の違いは主に原子ガスから分子ガスが生成される過程に起因していると推定される。しかしここまでの結果は分子ガスが解離する過程が考慮できていない。ガス転換を促進する要素として理論的にも予想されている星間雲の圧力や紫外線による放射の影響も踏まえた結果を報告する。

 

講演a-5: 衝突銀河団Abell 3667外縁部のICM構造と非熱的成分

講演者名: 伊藤 大将、所属: 名古屋大学、学年: M2

 銀河団は、高温な銀河団ガス(ICM)を持ち、これは衝突・合体を繰り返すことで成⻑してきた。特に銀河団同士の衝突は、10^63 ergを超える重力エネルギーを衝撃波でICMの加熱に変換する宇宙最大の現象である。さらに、衝撃波はICMの乱流励起・磁場増幅・粒子加速などの非熱的エネルギーを生成し、それはレリックと呼ばれる電波構造として観測されているが、その分配量は未だ定量化されていない。そこで、代表的な衝突銀河団Abell 3667に着目した。
 Abell 3667は北西にレリックを持ち、最新の電波観測から磁場や相対論的電子の詳細な空間分布が明らかにされている。また、マッシュルームと呼ばれる、北西レリックに隣接するICMの高輝度領域が存在し(Sarazin et al. 2016)、レリックとの相互作用が強く示唆されている(de Gasperin et al. 2022)。私は、マッシュルームを支える熱的・非熱的圧力を定量化することで、衝撃波のエネルギー分配量を明らかにできると考え、北西レリックとマッシュルーム周辺領域をX 線衛星 XMM-Newtonの観測データを用いて解析した。
 まず、マッシュルームは4~5 keVとほぼ等温だが、レリックとの境界で最大45%の熱的圧力差に相当する1.75倍の密度ジャンプを見つけた。これはマッシュルームが熱的圧力だけでなく、非熱的圧力で支えられている可能性を示唆する。もしそれが磁気圧のみなら7-8 µGに達する極めて大きな磁場が得られ、他の非熱的成分を必要とすることがわかった。また、レリック中央でマッハ数M~2に相当する衝撃波を捉えたが、電波で示唆される衝撃波の位置とは大きく離れていることから、当該領域のICM構造が複雑であることがわかった。
 本講演では、北西レリック周辺の構造や熱的圧力差が磁場や相対論的電子、乱流で説明できる可能性を議論する。

 

講演a-6: X 線天文衛星「すざく」を用いた衝突銀河群探査

講演者名: 原田 空凱、所属: 名古屋大学、学年: M1

宇宙の力学的進化史解明のため、過程である銀河同士や銀河群・銀河団同士の衝突の観測は重要である。しかし、衝突銀河団クラスの天体と比べ X 線で暗い衝突銀河群のサンプルは少ない。先行研究では、銀河が紐状に分布した銀河フィラメントの交点であり、活発な構造形成が期待される Filament Junction (FJ) を X 線観測し、衝突銀河群の可能性がある天体が検出された (Kawahara et al., 2011 / Mitsuishi et al., 2014)。さらに他波長観測から、それらの天体の最も明るい銀河 (BCG) と高温ガスが共通した一方向に引き伸ばされた形状をもつという特徴が指摘された (Mitsuishi et al., 2014 / Tovmassian et al., 2005)。
本研究ではより効率的な衝突銀河群の探査を試みた。BCG の形態に着目し可視光同定銀河群候補をリストアップした論文 (McIntosh et al., 2008) から、 FJ 近くに位置する 3 天体をすざく衛星を用いて観測した。全領域より複数の X 線ピークをもつ不規則形状 X 線ハローを初検出した。また、X 線バックグラウンド成分と熱的プラズマモデルを組み込んだ分光解析の結果、全 X 線ハローは熱的放射と推定された。温度は 0.85 – 1.5 [keV]、X 線光度は 10^43 ~ 10^44 [erg/s] 程度であった。
次に 3 天体の温度と X 線光度を、先行研究 (Xue & Wu 2000 / White et al., 1997) にて銀河群・銀河団サンプルに見られたスケーリング則と比較し、X 線ハローの放射は銀河群 ~ 銀河団クラスであると判明した。また衝突銀河群・銀河団システムではBCGとX線輝度ピークが大きな空間オフセットを持つことが知られているため (Sanderson et al., 2009) 、観測値と先行研究の衝突サンプル基準を比較し、2 領域において衝突系の可能性が示唆された。以上より、新たにBCG の形態に着目した X 線探査により、衝突銀河群の特徴をもつ天体を検出した。

 

講演a-7: JWSTで探るz~2のLAEの特性

講演者名: 清水 駿太、所属: 東京大学、学年: M1

Lyman-α Emitter(LAE)は、高赤方偏移で強いLyα輝線を放つ銀河の一種であり、そのLyα輝線の輻射がどのような物理過程に影響されるかは未解明である。Lyα輝線は中性水素やダストによって散乱されやすいため、一般にLAEはダストが少なく、典型的なLBGと比べて比較的若い(~10Myr)銀河であると考えられている[1] 。しかし、年齢が古く質量が重いLAEも存在することが示されている[2]。このような古いLAEは、若いLAEと異なり、成長してダストに覆われた銀河であるが、サブハローの降着などによる星形成によってダストが吹き飛ばされ、その方向にLyα輝線が見えるようになるというシナリオが考えられている[3]。ただし、その詳細なメカニズムは依然として明らかにされていない。
本研究では、すばる望遠鏡のHSC-SSPによる超広視野画像を用いてNBフィルターで検出されたLAEサンプル[4]と、赤外線領域で非常に高分解能かつ深いJWSTデータを活用し、z~2のLAE天体のstellar populationを詳細に調べた。さらに100Myrを境に若いLAEと古いLAEに分け、異なる特徴がみられるかについても考察した。本講演では、これらの解析結果に基づく議論を行う。

[1] Ouchi, M., Ono, Y., & Shibuya, T. 2020, ARA&A, 58, 617
[2] Iani, E., Caputi, K. I., Rinaldi, P., et al. 2024, ApJ, 963 97
[3] Shimizu, I., & Umemura, M. 2010, MNRAS, 406, 913
[4] Kikuta, S., Ouchi, M., Shibuya, T., et al. 2023, ApJS, 268, 24

 

講演a-8: 銀河のLyα等価幅とシミュレーションで探る宇宙再電離史

講演者名: 影浦 優太、所属: 東京大学、学年: M1

初代天体の形成以後、宇宙に広がっていた中性水素ガス(HIガス)は天体が発する紫外線により電離され、宇宙再電離が起こったと考えられている。QSOの観測などから、再電離はz~5-6頃に終了したことがわかっているが、それ以前の宇宙で水素の中性度xHIが赤方偏移に沿ってどのように進化してきたか(宇宙再電離史)はいまだ未解明である。
再電離史を探る1つの方法が、z>6の銀河のLyα輝線の等価幅の観測である。高赤方偏移の銀河から出たLyα光子はHIの吸収を受けるため、Lyα等価幅は本来よりも減衰し、等価幅の確率分布も変化する。吸収後の等価幅分布はxHIに依存するため、等価幅の観測からベイズ推定によってxHIを求めることができる。Nakane et al. [1]はJWST/NIRSpecの観測データを使って、この方法によりz~7-13でのxHIを求め、z~9頃から急激に再電離が進む「遅い再電離」シナリオを支持する結果を得ている。
本研究ではMason et al. (2018) [2]の手法を土台として、宇宙論的準数値シミュレーションコード21cmFAST [3]を使い、再電離期の銀河が発するLyα光子の透過率を求めた。この際、Lyα輝線銀河の赤方偏移やUV等級の依存性を考慮することでLyα等価幅分布の系統誤差を改善し、「遅い再電離」シナリオを支持するより強い証拠を得た。さらに本講演では、再電離期の電離バブルの進化やUV光度関数、銀河スペクトルとの関係について議論する。

1. Nakane, M., et al. 2024, ApJ, 967, 28
2. Mason, C. A., et al. 2018, ApJ, 856, 2
3. Mesinger, A., et al. 2011, MNRAS, 411, 955

 

講演a-9: すばるHSCを用いた1

講演者名: 今井 聖也、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2

宇宙再電離の詳細な物理プロセスを理解することは、宇宙初期の銀河形成を解明する上で重要である。JWSTの活躍により、再電離期の銀河の直接観測が可能となった。しかし、見かけ上暗く、小さいため、その詳細な物理状態は未解明である。近傍宇宙に再電離期の星形成銀河に類似した銀河が存在することが知られている。強い[OⅢ]λ5007Åの輝線を持ち、可視光で緑色に見えることからgreen pea galaxyと呼ばれている。SDSS,LAMOSTなどによって近傍宇宙では数千平方度に領域で探査されている。しかし、1講演a-10: JWST NIRSpec IFUで探るz=6.6のHimikoの動力学的性質

講演者名: 清田 朋和、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1

本研究では、z=6.6の空間的に広がったLyman alpha輝線(約17 kpc)を伴う大質量銀河「Himiko」[1][2]について、James Webb Space Telescope (JWST) NIRSpec IFUデータの解析結果を報告する。今までの先行研究から、Himikoは、3 つのクランプからなり、星質量10^10 太陽質量程度、高い星形成率を持ち、ダストが少ない天体と報告されている[1][2]。このような特徴からHimikoは初期大質量銀河の形成過程、さらには銀河周囲物質(CGM)との関わりを調べる上で良いターゲットである。ただ、この空間的に広がったLyman alphaの起源やAGNの有無、金属量の特徴とその空間分布、各クランプやその周囲の速度分散の様子などは解明されておらず、Himikoの性質には謎が多い。
この謎を解明する手掛かりとして、静止系可視光の分光データは豊富な情報を提供する。しかし、JWSTの登場以前は、この分光データの不足によって、特にHimikoのような高赤方偏移天体の性質には謎が多かった。近年、JWSTによって高赤方偏移天体の静止系可視光の分光データが得られるようになり、これら天体の性質を詳しく調べることができるようになった。特に、Himikoは、JWST NIRSpec IFUによって3次元面分光データ(空間、波長方向)が取得されている。3次元データによって、Himikoの各クランプの速度分散や周囲のガス分布などを、空間情報も含めて議論できるようになった。
今回我々は、IFUデータを用いて、[OIII]λλ4959, 5007輝線などから、Himikoにさらに2つのクランプを伴うことを見つけた。これらのクランプは、今まで知られていた中央のクランプからそれぞれ天球上0.4、1.1秒角(2.2、6.1 physical kpc)北に位置している。他にも、[OIII]λ5007やH alpha輝線に幅の広い輝線成分が存在することを見つけ、そのFWHMが> 230 km s^-1と大きいことから、outflowの兆候も確認した。本公演では、Himikoの動力学的性質や金属量の2次元分布などを報告する。そして、初期大質量銀河の形成メカニズムなど物理的描像について議論する。
[1]. Ouchi et al. 2009, ApJ, 696, 1164.
[2]. Ouchi et al. 2013, ApJ, 706, 1136.

 

講演a-11: 窒素が豊富な銀河から探る初期宇宙における元素合成

講演者名: 武田 唯、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の登場によって赤方偏移z>4の高赤方偏移銀河の元素組成比を調べることができるようになり, 初期宇宙における元素合成の進化について徐々に明らかになりつつある. その中で, JWST観測でz=10.6にある銀河, GN-z11では[N/O]=0.52と非常に高い窒素酸素比を持つことがわかった[1]. Isobe et al.(2023)[2]によると, GN-z11では[C/N]<-1と極めて低いC/N比を持つことも示されており, 同様の傾向がz=6.23にあるGLASS_150008とz=8.68にあるCEERS_01019でも示された. これらの銀河についてC/N vs. O/H平面上にて比較したところ, 重力崩壊型超新星爆発が放出するガスの組成よりもCNOサイクルの平衡状態の寄与が大きい場合を仮定した場合の組成の方に偏っていることがわかった.

本講演では, 新たにNIRSpecで検出された窒素が豊富な銀河の解析結果を用いて初期宇宙における元素合成がどのように進んだのかをIsobe et al.(2023)[2]と合わせて議論する. この天体はAbell1703の重力レンズ効果を受けているz=7.05の銀河Abell1703_s00006で, 強いNIV]λ1483,1486を示している. この銀河について窒素酸素比及び炭素窒素比をMarkov Chain Monte Carlo法を用いて[N/O]の値を測った. さらに, GN-z11に代表される窒素が豊富な銀河が初期宇宙においてどの程度の個数の割合で存在していたのかを統計的に議論する.

1. Bunker et al., A&A, 677, A88, 2023

2. Isobe et al., ApJ, 959, 100, 2023

 

講演a-12: JWSTで観測されたN/Oが高い銀河における強いHeI輝線の起源

講演者名: 柳澤 広登、所属: 東京大学、学年: M2

JWSTによる遠方銀河観測で、近傍銀河に比べて窒素(N)と酸素(O)の存在比N/Oが非常に高い銀河が見つかっている[1-3]。このような特異な化学組成は、恒星内のCNO cycleで反応速度の遅いNが蓄積したガスの組成によって説明できる可能性がある。CNO cycleのガスを選択的に放出する様々なモデルが提案されている[1, 2, 4-7]が、どの過程が遠方銀河で支配的なのかは明らかになっていない。
CNO cycleではNだけでなく、生成物であるヘリウム(He)も増加するので、Heと水素(H)の存在比He/Hを求めることで、初期銀河の化学進化について新たな制限が得られる可能性がある。しかし、これらの銀河のHe/Hは求められていなかった。
本研究では、N/Oに制限がついている遠方(z>6)銀河に対し、JWST/NIRSpecの分光観測により得られたHe, H輝線のスペクトルを解析し、近傍銀河に比べて非常に強いHeI輝線を検出した。これらの輝線からHe/Hを求めた結果、N/Oが高い銀河ではHe/Hまたは電子密度が非常に高い可能性があることが分かった。さらにWolf-Rayet星や超大質量星、潮汐破壊現象などの化学進化モデルを用いて、このような化学組成を再現する物理過程についても考察する。

1. Cameron et al. 2023, MNRAS, 523, 3516
2. Isobe et al. 2023, ApJ, 959, 100
3. Topping et al. 2024, MNRAS, 529, 3301
4. Watanabe et al. 2024, ApJ, 962, 50
5. Senchyna et al. 2023, ApJ, 966, 92
6. Charbonnel, A&A, 673, L7
7. Nagele et al. 2023, MNRAS, 523, 1629

 

講演a-13: 極低金属量星を用いた、初代星の初期質量関数の解明

講演者名: 石川 諒、所属: 東北大学、学年: M2

天の川銀河における初代星の性質を理解するための手がかりとして、元素汚染が初代星の超新星爆発のみの影響による、つまり第二世代の星の元素組成があげられる。星の金属量は、過去の超新星爆発などの元素汚染を繰り返し受けることで増加するので年齢が古い天体ほど低金属量である傾向があるため、極端に金属量が低い星(EMP; [Fe/H] < -3.0)のなかには初代星の影響を残存させた第二世代の星が含まれている。 我々は、観測されたEMP星に対して機械学習を用いて、元素汚染がただ一つの超新星爆発の影響によるものと、複数の汚染の影響を受けたものとをデータ主導で分類する方法を提案する。また、観測されたEMP星の多くを説明できるコア崩壊型超新星の核合成収率のモデルと、初代星の初期質量関数(IMF)モデルを組み合わせる。本研究はこれを用いることで、初期の銀河系形成史を明らかにする上で重要な、EMP星の多重汚染度を観測的に制約を得ることを目的とする。 以上の手法を用いた結果、EMP星の大部分は複数の元素汚染源からの影響を受けた星である可能性が高いことが予言された。これは初代星が比較的小さな星の集まりで生まれたことを示唆しており、PopulationⅢの星形成に関する最近の流体力学的シミュレーション(Clark et al. 2011,Sci)などと一致する。更に、EMP星の中でも特に低金属量な天体は、一回の超新星爆発によって濃縮された可能性が高く、また炭素と鉄の存在比が高い傾向が見つかった。本公演ではこれらの結果を、初代星のIMF、単一の超新星爆発の元素汚染を受けたEMP星の化学動力学的な性質などの観点から議論を行う。  

講演a-14: SED fitting を用いた BAL クェーサーの統計的調査

講演者名: 柳谷 百合、所属: 信州大学、学年: M1

遠方宇宙に存在する銀河の一部は、非常に狭い中心領域から、莫大なエネルギーを放出している。このような銀河の中心領域をクェーサーという。クェーサーのうち、10-40 % の割合で、そのスペクトル上に幅の広い吸収線 (broad absorption line; BAL) が検出される。このようなクェーサーを「BAL クェーサー」という。BAL クェーサーが検出される理由として、(1) クェーサーから吹きガスの流れ(アウトフロー)の放出方向が、我々がクェーサーを観測する視線方向とほぼ平行である「inclination シナリオ」、(2)大量のガスとダストに覆われた進化の初期段階にあるクェーサーを観測している「evolution シナリオ」、という2つの有力なシナリオが提唱されている。このうち前者については、シミュレーションでは再現されているものの、観測からは十分に検証されていない。
本研究では、SDSS、2MASS、WISE の多波長測光データを用いて、解析コードCIGALEでの SED fitting により、3つの主要パラメータ (傾斜角、ダストトーラスの開口角、ダストによる減光量) を推定した。BAL クェーサー、non-BAL クェーサーの両者に対して解析を行い、「inclinationシナリオ」の検証を通して、BAL の検出シナリオの絞り込みを試みた。

 

講演a-15: SDSSとeFEDSを用いたBALクェーサーのX線吸収強度の統計的調査

講演者名: 渡邊 一樹、所属: 信州大学、学年: M1

 活動銀河核 (AGN) のアウトフローは、超大質量ブラックホールとそのホスト銀河の共進化に寄与したと考えられている。しかし、その加速機構は未だ完全には解明されていない。特にアウトフローを効率的に加速させるためには、中心光源からのX線放射によるガスの過電離を防ぐ必要がある。その役割を果たす遮蔽物質として、光源とアウトフローの間に存在するX線吸収体 (Warm absorber) が有力視されている。実際に、速度幅の大きい紫外線吸収 (BAL) を持つ(すなわち、効率よくアウトフローが噴き出している)BALクェーサーにおいて、紫外線とX線吸収強度の間に正の相関がみられることが示唆されている。ただし、大規模なX線データに基づく統計的解析はこれまでにほとんど行われていない。
 そこで本研究では、紫外線 (SDSS) および X線(eFEDS)のAGNカタログを用いて、Warm absorberによるX線遮蔽シナリオを再検証した。その結果、従来の結果と同様に、紫外線とX線の吸収強度に正の相関が見られたものの、Warm absorber の柱密度が小さくても紫外線吸収が強いクェーサーが存在することが分かった。この結果は、X線の遮蔽効果を受けずともクェーサー固有のX線強度が十分小さければ、アウトフローが効率よく噴き出す可能性があることを示唆するものである。

 

講演a-16: Type2クェーサーの接線近接効果

講演者名: 佐藤 良、所属: 信州大学、学年: M1

クェーサーから放射される強力な紫外線は、クェーサーの周囲数 Mpc に存在する銀河間物質(intergalactic medium; IGM)中の中性水素を過剰に電離する現象「近接効果」を引き起こす。しかし、典型的な Type1 クェーサー(face-on方向から降着円盤を見ている)の接線方向の中性水素の量が、視線方向の量に比べて多いことが知られているため、近接効果には方向による偏り(異方性)があることが示唆されている(Prochaska et al. 2013)。この異方性は、ダストトーラスによって紫外線が遮られることによって生じるというのが、現在最も可能性が高いシナリオとなっている。実際、傾斜角の大きい BAL クェーサー(edge-on 方向からクェーサーを見ている)では逆の傾向が見られ、このシナリオを支持している(Misawa et al. 2022)。
本研究では、BAL クェーサーよりも大きな傾斜角を持つことが保証されている、Type2 クェーサーの周辺で同様の解析を行った。この結果と、過去の Type1 クェーサー及び BAL クェーサーの周辺の結果を比較し、ダストトーラスによる異方性シナリオを検証した。

 

講演a-17: SKIRTコードを用いたAGNポーラーダストからの反射X線スペクトルモデルの作成

講演者名: 藤原 寛太、所属: 京都大学、学年: M1

銀河とその中心にある超大質量ブラックホール(Supermassive black hole; SMBH)との共進化の機構は現代天文学の大きな未解決問題の一つである。この問題を解く鍵はSMBHが質量降着によって成長している現場である活動銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)である。AGNは様々なスペクトル形状を示すが、それらをSMBHとその周りのトーラス(吸収体)を見込む角度の違いで説明する統一モデルがある。この統一モデルを検証する際には、透過力が強く、トーラスを含む吸収体の構造を反映するX線が有用な手段の一つである。実際に、統一モデルに基づくX線スペクトルモデルを用いたAGNの解析が行われている[1]。一方、従来の統一モデルでは考慮されていなかった、極方向に広がったダスト成分(ポーラーダスト)が近年の中間赤外線観測で明らかになってきている[2]。
この構造は吸収体・散乱体としてX線スペクトルにも影響を及ぼすことから、このポーラーダストを考慮した新たなX線スペクトルモデルを作成する必要がある。そこで本研究ではモンテカルロ輻射輸送計算コードSKIRT[3]を用いて、現実的なトーラス構造を再現したXCLUMPYモデル[4]に、放物線形状ポーラーダストを加えたモデルを作成し天体に適応した。本発表では作成したモデルの詳細を報告し、実際の天体へ適応した例を議論する。

1. Ogawa, ApJ, 906, 19, 2021
2. Asumus, MNRAS, 489, 2177 2019
3. Baes et al, MNRAS, 343, 1081B
4. Tanimoto, ApJ, 877, 16, 2019

 

講演a-18: 準解析的銀河形成シミュレーションへのダスト形成・進化モデルの組み込み

講演者名: 五十嵐 諒、所属: 新潟大学、学年: D1

ダストは星間空間に存在するおおよそ∼1-10^(-3) μmほどの大きさの固体微粒子である。ダストは紫外線を吸収し赤外線を放射するため、銀河のスペクトルエネルギー分布に大きな影響を及ぼす。さらにダストは銀河進化において重要な役割を担っており、ガスの冷却や、H_2をはじめとする分子形成に寄与するばかりでなく、銀河中心の超巨大ブラックホールへのガス降着の促進がもたらされる可能性が示唆されており、その影響は大きい。

銀河の形成・進化を解析する方法の1つに準解析的銀河形成シミュレーション手法がある。直接シミュレーション手法とは異なり、流体や重力を原理的に計算するのではなく、銀河形成・進化に必要な物理過程をモデル化してそれぞれ組み合わせて計算する方法を取っている。この物理過程のモデル化により計算コストを抑えることができる。この手法ではこれまでダストは銀河の色や明るさに影響するようなモデリングがなされていたが、近年ではダストの形成・進化を組み込んだモデルもあらわれはじめ、ダスト質量関数やダスト質量推移といった解析も可能になっている(例えばParente et al.(2023))。

本講演では準解析的銀河形成シミュレーションモデルの1つである”ν^2GCモデル”へのダストの組み込みについて紹介する。既存のν^2GCモデルでもダストは減光効果を与えるようなモデルが組み込まれており、ダスト形成・進化は考慮されていない。ダストモデルはHirashita(2015)の2サイズ近似を採用する。ダスト形成・進化過程ではダストの破壊・成長も考慮されており、このとき、そのサイズによって物理過程が異なる。2サイズ近似はこれらの特性をとらえつつ、計算コストを抑えている特徴があり、準解析的銀河形成シミュレーション手法への組み込みは有効である。

 

講演a-19: 異なるIMFを持つ初代銀河の形成・進化シミュレーション

講演者名: 石田 怜士、所属: 東北大学、学年: M2

 初代銀河は宇宙で最初に形成された銀河であり、z〜10-20の間に形成されると考えられている。近年のJames Webb Space Telescope(JWST)の進展によってz~8-14 の宇宙初期の銀河が観測され始めており、初代銀河解明の機運が高まりつつある。一方でJWSTで観測された銀河は標準的な理論予想よりも紫外線で明るい銀河が多く報告されており(e.g. [1])、この観測を説明可能な銀河形成理論の構築が求められている。JWST観測と理論の不整合を解決するシナリオの一つが初期宇宙では星の初期質量関数(IMF)がトップヘビーになり、大質量星の割合が大きくなるというものである。Chon et al. 2022 [2] では高赤方偏移・低金属量になるにつれ、IMFがトップヘビーになることが示されている。一方で大質量星の割合が増加すると、放出される金属量も多くなるため、JWSTで観測された銀河で実際にそのような低金属量環境が実現しているかは不明である。
 本研究では、IMFを変化させた初代銀河の形成・進化の宇宙論的流体シミュレーションを行い、宇宙初期環境における銀河の金属汚染がどのように進むのかを解明する。また、その結果得られる星の質量・空間分布から銀河光度を計算し、IMFと銀河光度の関係を明らかにする。シミュレーションにはsmoothed particle hydrodynamical/N体コード:GADGET-3 [3] を用い 、計算はz=100からz=9まで行う。本講演では現在までの計算で得られた結果を紹介し、議論する。

[1] Harikane, Y., Ouchi, M., Oguri, M., et al., 2023, ApJS, 265, 5
[2] Chon, S., Ono, H., Omukai, K., & Schneider, R., 2022, MNRAS, 514, 4639
[3] Springel V., 2005, MNRAS, 364, 1105

 

講演a-20: 初代星フィードバックの宇宙論的3次元輻射流体シミュレーション

講演者名: 松田 凌、所属: 北海道大学、学年: M1

近年、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって高赤方偏移銀河の観測が急速に進展している。その観測結果を最大限利用するために、初代銀河の形成に関する理論的な理解を進めることも強く求められている。これらの初代銀河の性質は、より過去の宇宙に存在した初代星によるフィードバックの影響を大きく受けているはずである。このフィードバックの効果について、先行研究では1次元的な計算によって詳しく調べられているが、3次元的シミュレーションでの研究は限られている。そこで我々は初代星によるフィードバックが及ぼす効果の体系的な理解を確立することを目的とし、3次元宇宙論的輻射流体シミュレーションを用いて、初代星が周囲に及ぼすフィードバックの影響を研究している。
本研究では、宇宙初期の密度ゆらぎを初期条件にした3次元シミュレーションを行い、暗黒物質ハローの中に初代星が誕生し、その後、初代星周りの電離バブルや超新星バブルが膨張する過程を計算した。初代星の超新星爆発エネルギーや光子の放出率は初代星の質量に依存するため、複数のハローに対して、形成する初代星の質量を変えた計算を行い、フィードバックの影響の初代星質量依存性を調べた。その結果、先行研究の1次元計算の時と同様に、ハローの質量が小さく初代星の質量が大きくなるほど電離バブルや超新星バブルがより広がることが分かった。一方で、ハローの3次元的な構造のために、方向によってバブルの広がり方に違いが見られた。そのため、フィードバックの効果がハローを超えて広がる条件について、1次元的な計算の結果と振る舞いが異なることが明らかになった。加えて、初代星の質量によってフィードバックのかかり方が大きく変わり、初代銀河を構成するような第二世代星の形成時期にも大きな違いが見られた。このことから、初代銀河形成を考える上で初代星の性質を適切に決定することが重要であることが示唆された。

 

講演a-21: 銀河の性質と環境の相互依存性: グラフニュー ラルネットワークによる解析

講演者名: 内田 舜也、所属: 名古屋大学、学年: M1

現在の宇宙において、銀河は孤立した天体ではなく、その性質は環境に大きく 依存している。小スケール (~1 kpc) では、銀河の合体がガスの流入、ガスの金属 量の変化、中心ブラックホールへの降着を通じて銀河の特性に影響を与えることが 知られている。中間スケール (~1 Mpc) では、相互作用するハローの潮汐効果が それぞれのハローの形成に影響を与え、銀河ハローの歴史に影響を与える可能性 がある。より大きなスケール (ハローのビリアル半径より大きい距離; 1~4 Mpc) では、銀河の星形成率に相関があることが知られている (galactic conformity)。 したがって、銀河とその空間分布との関係を理解することが重要である。
空間分布の特徴の定量化の方法として、伝統的には二点相関関数などが用い られてきた。しかし、従来の統計的手法は銀河分布の平均的特徴量を扱うため、 個別の位置情報は失われ、環境依存性の取り扱いが困難となる。そこで、銀河の グラフデータの情報を用いた新たな解析法を考案した。グラフデータは、銀河の 3D 分布のような情報を持つ空間ポイントデータを表すのに理想的な数学的デー タ構造である。ノード (頂点) とエッジ (辺) から構成され、ノードは個々の特徴量 (例えば、銀河の恒星質量や SFR) を、エッジはそれらの要素間の関係や相互作用 (銀河間距離) を表す。このデータ形式は、銀河の特徴量と空間分布の情報を同時 に関連させることができるため、環境効果の理解に適している。
本研究では、UniverseMachine などのシミュレーションデータや、SDSS のよ うな観測データからグラフデータを構成する。構成したグラフデータを用いて、 銀河の性質が周囲の銀河からどの程度定まるのかを、機械学習手法の一種である グラフニューラルネットワーク (GNN) の予測結果から定量的に評価し、パフォー マンスについて議論する。

 

講演a-22: NGC 1068多輝線データを用いた分子雲形態の統計学的解析

講演者名: 大久保 宏真、所属: 筑波大学、学年: D1

銀河を構成する分子雲は星形成の場であり、その理解を深めることは、銀河進化を探求する上で必要不可欠である。分子ガスの化学組成は、温度や密度などの物理的性質や衝撃波などの動力学を反映することが知られているため、銀河の化学組成を調べることは非常に重要な役割を持つ(e.g.,Harada et al. 2019)。
NGC 1068は近傍に位置するセイファート2銀河であり、活動銀河核(Active Galactic Nucleus : AGN)とリング状の爆発的星形成領域(Starburst Ring : SBR)が存在することが知られている。これまでに多くの分子輝線が観測されている(e.g., Takano et al. 2014, Nakajima et al. 2023)。そのため、1つ1つの分子輝線を解析することは困難である。そこで、複数の分子輝線を恣意性なく定量的に判断できる、統計技術の1つである「次元削減手法」が注目されている。代表的な線形的次元削減手法である主成分分析(Principal component Analysis : PCA)は天文学において普及しつつある(Okubo et al. in prep)。しかし、銀河では様々な現象が複雑に絡み合っているため、線形性のみで分子輝線同士の相関を正確に抽出するには限界がある。この問題を解決できる、非線形的な相関まで詳細に抽出できる「カーネル主成分分析」が存在しているが、未だ天文データへの適用例はない。
そこで、我々はNGC 1068分子輝線データにカーネルPCAを適用した。その結果、物理的解釈が可能な複数の特徴を抽出した。この結果は、カーネルPCAが天文データに適用可能であること示す世界初の研究結果である。さらに、AGNアウトフローがSBRまで影響を及ぼしている可能性を示唆する特徴を抽出した。これは、物理的/化学的アプローチや従来のPCAでは報告されていない、初の成果である。これ以外にも特徴を複数抽出したため、本講演ではこの詳細を報告する。

 

講演a-23: 棒渦巻銀河M83における大局的速度場から逸脱した高速度分子雲の探査

講演者名: 長田 真季、所属: 東京大学、学年: M1

銀河における星間物質は超新星爆発やアウトフローなど大質量星からのフィードバックや銀河円盤上での腕やバーによる非円運動成分、そして銀河噴水や外部からのガスの流入など極めて動的な環境に晒されている。これらは大局的な速度場 (例えば銀河回転)とは数10 km/s以上異なる速度差を持つものも知られており、ガス雲同士の衝突による星形成の誘発や銀河噴水による物質循環など銀河進化に本質的な影響を及ぼす可能性がある。銀河系では天体の重なりの影響上、そのような高速度成分を持つ分子雲を包括的/定量的に調べることは困難であるため、face-onの近傍銀河においての分子雲を空間分解した観測が重要である。本研究では近傍渦巻銀河M83に着眼する。これは銀河系と比較的似た構造を持つとされる銀河であることと、ALMAの観測で取得された空間分解能40 pc、速度分解能5 km/sで分子ガスの層をほぼ全面観測したCO (1–0) データ (Koda et al. 2023) が利用可能なためである。検出質量限界は∼10^4 Msunであり高い感度で分子雲探査が可能である。まず、大局的な速度場を導出するため、分解能を400 pcまでスムージングすることにより平均速度場を求めた。そしてastrodendroアルゴリズム (Rosolowsky et al. 2008) で同定された構造のうち、平均速度場からのずれが極めて大きい (50km/s以上) 分子雲を16個見出した。これらの高速度分子雲は銀河中心付近だけでなく、円盤部の渦巻腕付近などにも点在する。また、分子雲半径が20–80 pc、質量が10^4–10^6 Msun、速度分散が2–20km/sに渡り、M83内の他の分子雲と比較すると速度分散が大きい傾向にあることがわかった。これらの性質と超新星残骸カタログ (Long et al. 2022)やHαマップなどとの比較から、高速度分子雲の起源について議論する。

 

講演a-24: 位置天文衛星Gaiaによって同定した小マゼラン銀河の大質量星候補から探る銀河相互作用

講演者名: 中野 覚矢、所属: 名古屋大学、学年: D2

本研究では,Gaia DR3 を用いた小マゼラン銀河(SMC)の大質量星選定と,その運動から明らかとなる銀河相互作用の証拠を紹介する.SMC と大マゼラン銀河(LMC)は最も近い相互作用銀河であり,銀河全面の星を1つ1つ分解して観測できる.軽い SMC は相互作用の影響を強く受けており,SMC の大質量星は相互作用銀河の大質量星形成機構の解明に最適な研究対象である.しかし,現状の SMC の大質量星カタログは,異なる研究グループ・手法によって得られた不均一なサンプルから成り,統計的な解析に適さない.そこで,我々は位置天文衛星 Gaia による均質な G 等級,GBP 等級,GRP 等級のデータから SMC の星の色等級図 (GBP-GRP, G) を作成し,色等級図上で質量 8Msun 以上の大質量星の分離を行った.得られた 7426個の大質量星候補の空間分布は電離水素領域と一致し,その運動も先行研究が指摘した若い星の運動と合致する.よって,我々の選定によって,SMC における統計的に有意な大質量星カタログを初めて取得できたと結論付けられる.次に,我々が選定した大質量星候補の形成時期・場所を明らかにするために,SMC の空間・速度3次元構造の解明を目指す.大質量星候補を面密度から 9つの構造に分離すると,9つの構造は東西で逆向きに,互いに遠ざかる固有運動を持つことが分かった.同様に,構造の視線速度は SMC の東ほど大きく,西ほど小さい.東西の構造の性質の違いは SMC が南東の LMC からの潮汐力によって破壊的に引き伸ばされている描像に一致する.一方,東西で逆向きの固有運動は SMC の銀河回転と矛盾する.SMC が回転していない場合,過去の軌道計算で用いられた物理モデルの見直しが要され,SMC,LMC と天の川銀河の 3体相互作用の歴史が大きく変わる可能性がある.

 

講演b-1: 電波レリックに付随する衝撃波の速度推定におけるX線前景放射の影響

講演者名: 相原 樹、所属: 東京理科大学、学年: M1

銀河団は数十から数千個の銀河の集合体であり,重力的に束縛された宇宙最大の構造である.大規模構造フィラメントからの降着や,他の銀河団,銀河群との合体を通して成長している.銀河団同士の合体は宇宙最大のエネルギー現象であり,10^64 ergものエネルギーが解放され,この大半は低速の衝撃波や銀河団ガスの乱流により熱エネルギーに変換される.一部の銀河団では電波レリックと呼ばれる,Mpc規模にわたる細長い円弧状の電波放射源が見つかっている.銀河団の衝突や降着で生じた衝撃波によって加速された電子によるシンクロトロン放射が起源であると考えられており,電波レリックと対応する衝撃波がX線観測による銀河団ガスの温度・輝度ジャンプから確認されている(Finoguenov, et al., 2010).粒子の加速は衝撃波統計加速機構(DSA)に従っていると考えられているが,いくつかの電波レリックでは,X線観測から推定される衝撃波速度をもとにすると,予測される電波輝度が観測ほど高くならないといった矛盾が存在している(Akamatsu, H., Kawahara, H., 2013).銀河団外縁部をはじめとする低輝度な放射の観測では,銀河団ガス以外からの前景・背景X線放射を適切に除去することが重要である.近年では従来の前景・背景放射に加え,温度が0.8-1.0 keV程度のプラズマからの放射に似た前景放射(以下0.8 keV成分)の存在が報告されている(Sugiyama, et al., 2023).電波レリックの下流の典型的な温度は1-2 keV程度であり,この前景放射成分の影響が無視できない可能性がある.
 本研究では,いくつかの電波レリックを持つ銀河団についてすざく衛星による観測データを用いて,0.8 keV成分の前景放射を考慮し,Rankine–Hugoniotの関係式から衝撃波速度を推定した.結果例として今回解析したうちの1つであるA3667銀河団においては,衝撃波下流の温度を過小評価していたことがわかり,X線観測とDSAから導いた衝撃波速度の差は,前景放射を考慮したとき,しないときと比較して北西のレリックでは約40%,南東のレリックで約60%減少した.

 

講演b-2: 銀河系中心におけるバブル構造の形成機構:宇宙論的シミュレーションに基づくAGNフィードバックの検証

講演者名: 西濱 大将、所属: 大阪大学、学年: M1

 天の川銀河には、eROSITA/Fermiバブルと呼ばれる銀緯南北方向に伸びる泡状構造が存在する。バブルサイズは天の川銀河中心から最大で14kpcにも達するほどの大きなものである[1]。この泡構造の物理的起源は未だ分かっておらず、長年議論されてきた。この泡構造の発見後、理論モデルがいくつか提唱された。
 理論モデルは大きく2つに大別することができる。1つがスターバースト銀河のような銀河系中心で起こる強い星形成の活動によるモデルである[2, 3]。大量の重力崩壊型超新星爆発により、銀河内のガスが銀河間空間に放出される現象であり、一般に銀河風と呼ばれる。もう一方が、活動銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)からのAGNから噴き出すアウトフローによるモデルである[4]。
 宇宙論的シミュレーションTNG50では、eROSITA/Fermiバブルに似た形態的特徴を持つ銀河が200近く発見され、それらのデータからAGNフィードバックが支配的である可能性を示唆されている[5]。本研究では、さらなるTNG50上の銀河の解析を行うことによりAGN フィードバックによるバブルの形成可能性について検証する。またGADGET4-Osakaコードを用いた宇宙論的シミュレーションCROCODILE[6]において、AGNフィードバックを敢えて除いたシミュレーション上のバブル構造を持つ銀河を解析することで、AGNフィードバックがバブル進化に与える影響について議論する。

[1] Predehl, P., Sunyaev, R. A., Becker, W., et al. 2020, Nature, 588, 227
[2] Nogueras-Lara, F., Schödel, R., Gallego-Calvente, A. T., et al. 2020, Nat Astron, 4, 377
[3] Yusef-Zadeh, F., Hewitt, J. W., Arendt, R. G., et al. 2009, ApJ, 702, 178
[4] Genzel, R., Eisenhauer, F., & Gillessen, S. 2010, Rev Mod Phys, 82, 3121
[5] Pillepich, A., Nelson, D., Truong, N., et al. 2021, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 508, 4667
[6] Oku, Y., & Nagamine, K. 2024 (arXiv), http://arxiv.org/abs/2401.06324

 

講演b-3: 銀河団中のAGNジェットと磁場の相互作用に関する二次元電磁流体+熱伝導計算

講演者名: 松野 なな、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1

銀河団は宇宙最大の自己重力系の天体であり、銀河団同士の衝突は10億年程度の時間をかけて行われる宇宙最大のイベントである。[1] 衝突している最中の銀河団では、衝撃波が発生し、銀河団中のプラズマや磁場などの内部構造に影響を与える。[2] 衝突銀河団の一つであるAbell3376の多波長観測によって、活動銀河核MRC0600-399から放出されたジェットが、接触不連続面で90°に折れ曲がったのち、100kpc以上に渡ってコリメイトされていることが発見された。さらに、三次元電磁流体シミュレーションから、接触不連続面に沿って整列している銀河団磁場によってジェットが曲げられていることが明らかになった。[3]
本研究では、銀河団中の磁場に沿って熱伝導が作用することで100kpcにわたって電波放射領域(N3 from Chibueze, Sakemi, Ohmura et al. (2021))が形成されていると考え、二次元電磁流体シミュレーションに熱伝導の寄与を組み込んだコードを開発し、電波で観測されている構造の再現を目指した。その結果、熱伝導を考慮した電磁流体シミュレーションでは、電波放射領域N3を完璧に再現できることを示した。
1. 北山哲. 銀河団. 日本評論社, 2020, (新天文学ライブラリー, 7).
2. Markevitch, M. and Vikhlinin, A. Shocks and cold fronts in galaxy clusters. Phys. Reports 443, 1–53, (2007).
3. James O. Chibueze, Haruka Sakemi, Takumi Ohmura, Mami Machida, Hiroki Akamatsu, Takuya Akahori, Hiroyuki Nakanishi, Viral Parekh, Ruby van Rooyen, and Tsutomu T. Takeuchi. Jets from mrc 0600-399 bent by magnetic fields in the cluster abell 3376. Nature, Vol. 593, No. 7857, pp. 47–50, May 2021.

 

講演b-4: X線天文衛星XRISMによる銀河中心拡散X線放射の観測シミュレーション

講演者名: 青木 悠馬、所属: 近畿大学、学年: D1

銀河系には広がったX線放射(GDXE)が存在し、GCXE(銀河中心拡散X線放射)、GRXE(リッジ)、GBXE(バルジ)の3成分に分類される。ChandraによるGCXEの観測により、その~40 %が点源成分に分解されたが、残りは未分解である(Revnivtsev, Vikhlinin & Sazonov, 2007b, A&A, 473, 857)。GCXEは高階電離した鉄から放射される輝線(以下、電離鉄輝線と呼ぶ)をもつ。これにより、主成分は高温プラズマであると考えられている。高温プラズマは銀河系の重力束縛を受けずランダムに運動するため、電離鉄輝線はDoppler-broadeningを起こすと考えられる。さらに、銀河回転で説明できないDoppler偏移を生じる可能性がある。

2023年9月7日に打ち上げられたX線天文衛星XRISMには、X線マイクロカロリメータResolveとX線CCDカメラXtendが搭載されている。Resolveは高いエネルギー分解能を有し、Doppler-broadeningおよびDoppler偏移を、それぞれ300 km/s、45 km/sの精度で測定する。さらに、Xtendと同時観測を行うことにより、Doppler偏移の測定精度が向上する。本講演では、XRISMによるGCXEの観測シミュレーション結果について報告する。

 

講演b-5: X線観測シミュレーションに基づいた銀河団スタッキング解析手法の開発

講演者名: 辻田 悠佳奈、所属: 奈良女子大学、学年: M1

銀河団は、銀河や小規模な銀河群が重力的に集まって形成され、今もなお成長中の天体であると考えられる。そのため、銀河団を研究することは宇宙の構造形成史の理解に繋がる。特に、小規模銀河団は大規模銀河団と比較して天体数が多いため、宇宙の構成に大きく寄与している。しかし、小規模銀河団は暗いため、個別に性質を分析することが難しく、十分な調査が進んでいない。このような天体の理解には全天サーベイのデータを用いたスタッキング解析が有効であると期待される。スタッキング解析とは、光子統計が低いデータを複数重ね合わせて天体の平均的な性質を明らかにする手法のことである。このスタッキング解析から精度良く物理量を導出するにはまだ検討の余地がある。
以上のような背景から本研究では、シミュレーションを通してX線望遠鏡eROSITAによる全天サーベイに適用可能なスタッキング解析の手法を開発することを目指す。このために、X線光度が既知のeFEDS銀河団[1]のシミュレーションデータに対してイメージスタッキング解析を行い、精度良く平均X線光度を再現する方法を検討した。3通りの方法を比較した結果、イメージから求めた平均カウントレートに各天体のフラックスで重み付けした光度変換係数をかけると、変換係数の赤方偏移依存性を考慮できるため、約3%という高い精度で光度を導出できることがわかった。今後は変換係数の温度依存性を考慮する方法についても検討する必要がある。
1. A.Liu et al., A&A, 661, A2, 2021

 

講演b-7: すばる望遠鏡HSCデータで解き明かす銀河衝突の痕跡と成長への寄与

講演者名: 道下 野々夏、所属: 愛媛大学、学年: M1

多くの銀河は、衝突・合体を繰り返しながら次第に大きく成長していくと考えられている。衝突が起こると銀河の形は壊れ、合体が完了した後も、潮汐破壊された銀河の痕跡 ( tidal feature ) が銀河の外側に残ることがある。一方で、銀河の中でガスから静かに星を作り続けることでも、銀河は成長する。銀河衝突と星形成、どちらが銀河の主な成長チャンネルなのかは、天文学における大きな未解決問題の1つである。先行研究として、Morales et al. (2018)が広域探査観測である米国の Sloan Digital Sky Survey (SDSS) データを表面輝度の低い恒星構造を検出するために最適化することで、近傍銀河のサンプル中において14%のtidal feature を発見し、検出限界に近い有意義なサンプルを構築することが可能であることを実証した。しかし、宇宙論的な銀河形成モデルの統計的な比較を可能にするためには、より高精度なデータが必要であることもまた明らかとなった。本研究では、銀河衝突の、正確な銀河成長への寄与を解明すべく、SDSS データで行った研究をもとに、より高感度・高解像度を誇るすばる望遠鏡の Hyper Suprime-Cam (HSC) でさらに多くの痕跡の存在を確認できるか調査を行う。Morales et al. (2018) が定義した銀河サンプルのうち、HSC S21A-wide カタログの観測領域にある銀河を選び出し、hsc map と呼ばれるウェブツール から擬似カラー画像を取得し、各銀河の画像をよく観察し tidal feature の有無を判断した。より精度の悪い SDSS 画像での結果に対して、約47%という飛躍的に多くの銀河で tidal feature を見つけることが出来た。そしてその出現割合と典型的な星形成率を比較することで、銀河成長において合体衝突が主な寄与であることを明らかにした。加えて、形態を数値化するパラメータ(非対称性等)を測定した。今後の展望として、目視による tidal feature の有無との相関から、より大規模なサンプルに対する定量的・効率的な銀河衝突痕跡の発見を可能とすることを目標とする。

 

講演b-8: スリット分光で探る z~4,6 クエーサーライマンアルファハローの光度依存性

講演者名: 星 宏樹、所属: 東京大学、学年: M2

銀河の周囲のハローには普遍的に銀河周縁物質 (CGM) と呼ばれるガスが存在していると考えられている。このCGMを理解することは、銀河自身の星形成やその中心に位置するブラックホールにどのようにガスが供給されるのかを知る上で重要である。このCGMはLyα線と呼ばれる輝線を発しており、広がりを持ったLyαハローとして観測される。この LyαハローはCGMを観測的に調べる1つの有効な方法となっている。通常、銀河のLyαハローは表面輝度が低く個別に観測できる例は限られている。一方、強い輻射場を持つクエーサーは個々の天体でLyα 検出することができるため、これを解析することで銀河やブラックホールの進化に関するより詳細な描像を得ることが可能となる。これまでの研究では、面分光を利用する手法が取られてきたが、この手法は手間がかかることもありデータの数が限られてしまっていた。そこで我々はスリット分光データを多数集めてこのLyαハローを検出することを着想した。これにより空間方向の情報は失われるものの、これまでよりも遥かに多くの天体を解析することが可能となる。我々は z ∼ 4、6の暗いクエーサーにこの方法を適用した。特にz~6では研究されてきたクエーサーの光度範囲が狭く、Lyαハローの性質がクエーサーの光度にどのように依存するかが十分に分かっていない。本講演では、本手法を適用し得られたLyαハロー光度とクエーサーの光度の関係性から Lyαハロー発光のメカニズムに示唆を与える。

 

講演b-9: z=7-13銀河におけるLyα輝線等価幅の赤方偏移進化から迫る宇宙再電離史

講演者名: 中根 美七海、所属: 東京大学、学年: M2

宇宙再電離は初期銀河の形成と密接に関わっており、未解明である赤方偏移進化(再電離史)と起源(再電離源)を明らかにすることは重要な課題である。再電離史を決める銀河間物質(IGM)の中性水素割合(xHI)は、z~6-7において、クェーサー(QSO)やγ線バースト(GRB)のスペクトルに見られるLyα減衰翼吸収から推定されてきた。z>7において、QSOやGRBは個数密度が少ないために観測は困難であったが、2021年のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の登場により、z>7-8の再電離期における星形成銀河の観測が可能になった。本研究[1]では、JWST/NIRSpecで分光同定されたz=7-13の53個の銀河におけるLyα輝線等価幅(EW)を用いてxHIを推定し、再電離史の制限を行った。我々は、まずスペクトルフィッティングにより求めたLyα EWが高赤方偏移になるにつれて統計的に減少していることから、xHIの赤方偏移進化を観測量のみで示した。その後、Lyα EWの観測値と数値シミュレーションによるLyα EW分布モデルをベイズ推定を用いて比較する[2]ことでxHIを推定した。得られた推定値はz=7, 8, 9-13においてxHI<0.79, ~0.62±0.25, 0.93±0.06であり、CMBの観測や星形成銀河/QSOの連続光におけるLyα 減衰翼吸収の観測による推定値と整合する結果であった。これらのxHIの赤方偏移進化は、遅い時代(z~10)に始まり、z~7-8の間に急速に進む再電離史と一致している。本講演では、以上の結果に加え、得られた再電離史への制限から示唆される再電離源についても議論する。 1. Nakane, M., et al. 2024, ApJ, 967, 28 2. Mason, C. A., et al. 2018, ApJ, 856, 2  

講演b-10: XMM-Newton RGS で探る NGC 253 中心の O, Ne, Mg 組成 比と電荷交換反応の寄与

講演者名: 渡邉 晶、所属: 東京理科大学、学年: M1

 NGC 253 は星形成が爆発的に行われているスターバースト銀河であり, 大量の大質量星の超新星爆発が高温ガスを加熱し, O, Ne, Mg などの重元素を供給する。この高温ガスのスペクトルを解析することでその銀河の元素組成やガス温度を調べることができ, その銀河がどのような進化をしてきたのかを知る手がかりとなる。NGC 253では冷たいガスと高温ガスが共存しているため,電荷交換反応が期待される。
 Liu+2012 では RGS 検出器を用いた NGC 253 の中心領域の解析において, OVII バンドで共鳴線に比べ禁制線が強いこ とを発見し, 電荷交換反応によるものと解釈していた。RGS は XMM-Newton 衛星に搭載されており, 回折格子を利用し低 エネルギー (0.35-2.5keV) において高いエネルギー分解能を持つが, 分散方向のスペクトルでは放射の輝線と空間分布の情報が縮退するという問題点がある。Fukushima+23 では M82の中心領域の解析において, OVIIバンドでは禁制線が強く見えていたが, 空間的に異なる放射成分を仮定することで電荷交換反応なしでもスペクトルを再現できたと述べられている。
 今回, RGS のデータを使い中心領域を観測領域に取りスペクトルを作成したところ, N, O, Ne, Mg, Fe, Ni 原子のス ペクトルが見えることがわかった。次にエネルギーを OVII 帯,OVIII,Fe-L 帯に分け電離平衡プラズマ成分でスペクトルを再現したところ, OVII 帯は 0.1keV 程度の成分で, OVIII,Fe-L 帯は 0.4 keV,0.1 keV の二成分で再現された。しかし, M82 の場合と違い,OVII 放射領域の空間分布を考慮しても,OVII 禁制線に残差が残ったため, 電荷交換反応の反応領域の広さについて議論を行う。次に, OVIII,Fe-L 帯で再現した結果を使い元素組成比を求め, Fukushima+23のM82の結果と比較したところNe/O,Mg/O,Fe/Oが概ね一致した。太陽組成と比較したところ, M82, NGC 253ともに Ne/O,Mg/O,Fe/O が小さい値になった。これは大量の重力崩壊型超新星によりO,Ne,Mg などが大量に供給されたためであると考えられる。

 

講演b-11: Zackrisson Methodを用いた銀河からの電離光子脱出率の推定

講演者名: 前原 瑚茉、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2

 宇宙再電離とは、赤方偏移z=6~10付近において、宇宙を満たしていた中性水素ガスを再び電離させた現象のことで、現代天文学の最大のテーマの1つである。この現象は大量の電離光子によって引き起こされるもので、主な電離源は再電離期に形成された銀河と考えられおり、銀河間の水素ガスを電離させる電離光子の総数は、UV光度密度と電離光子生成率、電離光子脱出率(f_esc)の積から導出される。そのため、生成された電離光子が銀河外へ脱出する確率f_escを求めることは、銀河の再電離への寄与を議論する上で重要である。しかし高赤方偏移の銀河から脱出した電離光子は、視線上の銀河間物質に含まれる中性水素ガスに吸収されてしまうので、間接的にf_escを導出する必要がある。
 そこで本研究では、間接的な推定方法の一つであるEW(Hβ)-β法[1]を用いて、実際にThe JWST Advanced Deep Extragalactic Survey (JADES) で分光観測されたz=6~9の15天体からf_esc値を推定した。そのうち、Balmer decrement(Hα/Hβ、Hγ/Hβ)が計算できた11天体にダスト補正を行うことで、より正確なf_escの値を推定した。本公演では、再電離期銀河のf_esc推定値の結果と、電離光子脱出率をもとめた銀河の物理量や測光データとの比較、ダスト補正方法による推定結果の違いなどについて議論を行う。

[1] Zackrisson E., Inoue A. K., Jensen H., 2013, ApJ, 777,39

 

講演b-12: M81銀河群における矮小銀河と若い星団の形成過程について

講演者名: 竹内 大晟、所属: 筑波大学、学年: M1

本発表ではStellar Population and Structural Properties of Dwarf Galaxies and Young Stellar Systems in the M81 Group(Sakurako Okamoto et al., ApJ, 884:128, 2019)の紹介を行う。この論文では、すばる望遠鏡のHyper Supreme-Camを用いてM81グループの中心にある初期型矮小銀河と若い星系の構造及び光度特性の調査を行なっている。既知の初期型矮小銀河であるIKN,KDG061,KDG064,BK5N,d0955+70,d1005+68,d1014+68及びd1015+69について、重心、楕円率、半径、総光度及び金属量を導き出した。特に、IKNの総光度がこれまでの推定よりも3等級ほど明るくIKNがM81グループで最も明るい矮小衛星であることが分かった。また、新しい矮小衛星候補としてd1006+69及びd1009+68を特定し、それぞれ4.3±0.2Mpc及び3.5±0.5Mpcの距離にあると推定し、d1006+69はM81グループで最も暗く金属量の少ない矮小銀河であることがわかった。周辺の潮汐水素デブリにある若い星系の光度関数は最近の過去における連続的な星形成と30百万年ほど若い集団の存在を示唆している。本研究ではこのような矮小銀河や星団の星形成過程について理論モデルの構築を目指す。

 

講演b-13: JWSTで近傍円盤銀河に見つかった多数のバブル構造の起源と電離領域ダイナミックス

講演者名: 小林 康大、所属: 名古屋大学、学年: M1

 JWSTによる赤外線観測では、銀河内にバブル構造と呼ばれる数pcから数kpcの大きさに及ぶガスの希薄な領域がシェル状や円形状の構造で確認されている。一方ALMAによる観測で,バブルとバブルがぶつかっている箇所には巨大分子雲が存在していることが分かっており、その形成過程に関する理解は分子雲での星形成や銀河進化について理解する上で決定的に重要であると考えられる。
 そうしたバブル構造形成の候補として考えられているのが超新星残骸である。超新星残骸とは、超新星爆発により分子雲を破壊し星間物質を周囲に掃き出すことで、内部に高温かつ希薄なガスが残った構造のことである。しかし、先行研究により,超新星爆発以前の星のフィードバックにより星形成領域での分子雲破壊が起こっていることが示唆されている(Chevance et al. 2022)。そのため、バブル構造の形成には超新星爆発だけでなく星からのフィードバックも重要である可能性が考えられる。
 そこで、銀河の星形成が初期質量関数に従って行われると仮定し、星の輻射によって形成する電離領域の体積や質量の頻度分布を作成した。その結果、銀河ガスの数十%以上が星の輻射により電離されていることが確認された。本講演では、作成した星の形成する電離領域の頻度分布などを用いて,超新星爆発および電離領域形成による大質量星のフィードバックのそれぞれの寄与を考察し,バブル構造の形成過程を議論する。

 

講演b-14: 種族合成法を用いたSED銀河進化モデルの検証

講演者名: 曹 愛奈、所属: 名古屋大学、学年: M1

銀河は星、ダスト、ガス、ダークマター等を含む自己重力系であり、内部で様々な物理現象が起きている。それらを理解するために、銀河のスペクトルエネルギー分布 (SED: spectral
energy distribution) が用いられる。SEDは銀河の星形成史、恒星の総質量や金属量、ダストやガスの状態などの物理量の情報を反映している。しかし星の進化理論への理解が十分でなかった時代、銀河のSEDモデルを構築して観測結果と一致させることは困難であった。Conroy et al. (2013) は種族合成法によってSED銀河進化モデルを構築する一連の流れと必要な物理量の情報を紹介している。
本講演ではこの論文のレビューを行い、実際に種族合成法によるSED銀河進化モデルを再現した結果について発表する。論文のレビューでは、SEDが持つ物理的情報量とその抽出方法について紹介する。初めに、同じガス雲から形成された同じ年齢と金属量の星の集団simple stellar population (SSP) について取り上げる。SSPは星スペクトル、isochrone (等時曲線) 、IMF (initial mass function: 初期質量関数) で構築されており、特定の星団や非常に単純な星形成史を持つ銀河の物理量の推定に適している。次に複数の異なる年齢や金属量を持つ星の集団を組み合わせたcomposite stellar population(CSP)について解説する。CSPは、SSPに星形成史とダストによる減光と放射のモデルを合わせて考慮したモデルで、広い波長範囲の銀河のSEDモデルを得るために極めて有用である。
今回はBruzual & Charlot (2003)による種族合成コードBagpipes (Carnall et al. 2018) を用いて近傍銀河のSED銀河進化モデルを構築し観測データのフィッティングを行った。その結果から銀河の様々な物理量を推定し、銀河の物理状態について議論する。

 

講演b-15: Jackknife法を用いたより高精度な重力レンズ解析法の確立

講演者名: 西田 峻、所属: 千葉大学、学年: M1

重力レンズの解析によって推定されるレンズ天体のマスモデルは、ハッブル定数などの物理量が計算できるため、その正確性は非常に重要である。重力レンズの解析では、仮定したモデルから予言される複数像の位置が観測結果に合うように、マスモデルのパラメータを動かすことでモデルフィットしている。しかし、従来のマスモデルの妥当性の評価方法は十分でない。なぜなら、レンズ天体のダークマターの複雑なサブストラクチャーによる複数像の位置の測定誤差の正確な値が不明であるため、測定誤差が含まれている最尤推定量の値に不定性が生まれてしまうからだ。そこで、新たな評価法としてJackknife法を提案する。Jackknife法は、モデルフィットに用いる重力レンズの複数像のうち一部を取り除き、取り除いた複数像を再びどれほど予言できるかチェックする方法である。シンプルなモデルでシミュレーションした結果、Jackknife法でうまくいき、実際の観測結果に対してもJackknife法が有効であることが確認できた。また、Jackknife法によってMCMCによる誤差推定の妥当性を評価できる可能性についても議論する。

 

講演b-16: N体モデル銀河内の分子雲衝突による星形成を含む銀河進化シミュレーション

講演者名: 陳 銘崢、所属: 北海道大学、学年: M1

 銀河は宇宙の基本的な構成要素であり、星、ガス、ダークマターやブラックホールなどの天体から構成されている。この中で、銀河の光度や質量の大部分を占めるのは星である。特に近傍銀河においては、バリオン質量の90%以上が星によって占められている。そのため、星形成は銀河形成・進化においてもっとも重要な過程の一つである。星形成の過程は、概ね分子雲の自己重力による収縮と、分子雲同士の衝突の2つが研究されている。近年の理論と観測の研究から、分子雲衝突が大質量星の形成につながり、活発な星形成活動をもたらすと指摘されている。
 本研究では、先行研究の銀河の重力源として重力を解析的な背景ポテンシャルを用いるのではなく、星やダークマターをN体粒子で表した孤立銀河の中でガスの進化を追い、分子雲の形成と合体、それによる星形成を取り入れることにより、銀河の星形成における分子雲衝突の役割を調査している。その結果、分子雲衝突で促進された星形成によって銀河全体の星形成率が約10%増加したことがわかった。また、形成されたすべての星のうち半数以上が、衝突している分子雲の中から生まれたことが明らかになり、分子雲衝突による星形成は銀河進化に重要な役割を果たす可能性が示唆されている。

 

講演b-17: Centaurus A の流体シミュレーション:bar potential の影響

講演者名: 神宮司 麗珠、所属: 鹿児島大学、学年: M1

 銀河中心において多量のエネルギーを放出する活動銀河核 (AGN;Active Galactic Nuclei) は中心の超巨大ブラックホールへのガス降着によって発現すると考えられている。ガスは角運動量が内から外へ輸送されることから中心に降着するが、母銀河と銀河中心領域との角運動量輸送機構は明らかになっていない。これについて提案されている機構はいくつかあり、その中の一つに恒星系からなる棒状の重力ポテンシャル、棒状構造を介した角運動量輸送がある [1]。
 近傍 AGN の一つである Centaurus A には棒状構造の存在 [2] とその影響と思われる分子ガスの非軸対称構造が見つかっており、棒状構造と AGN との関連が示唆される。Espada et al.2009[3] CO(J=2-1)の観測結果にて分子ガスが中心から半径 0.2 kpc 程の明るいリング構造を形成し、そこから2本の腕が伸びるような分布をしていることがわかった。さらにこの構造を weak bar potential model などで解析的に再現している。しかしながら、明るいリング構造やそこに繋がる腕の形成過程は良く分かっていない。
 そこで、Cen A 内の bar potential model を検証するため、棒状構造を仮定した N-body/SPH 法による流体シミュレーションを行い、Espada et al.2009[3] の CO(J=2-1) の積分強度図と速度場図との比較を試みた。その結果、中心のリング構造は再現できた。この構造は
bar potential と銀河円盤上でエピサイクル運動をする粒子が共鳴することによってできると考える。一方、リングの傾きや腕の分布は完全に再現できなかったため、今後原因究明し改善する。
1. Shlosman I., Frank J., Begelman M. C., Nature, 338, 45,1989
2. Mirabel et al. A&A, 341, 667, 1999
3. Espada D. et al., ApJ, 695, 116,2009

 

講演b-18: 銀河中心核星団のN体シミュレーション

講演者名: 布施 龍之介、所属: 神戸大学、学年: M1

 天の川銀河には、中心に超巨大質量のブラックホール(SMBH)があり、その近傍には多数の恒星による星団(NSC)が存在している。NSCでは、SMBHによる強い重力場が星の運動に大きな影響を与えるため、複雑な現象が起きている。観測や数値シミュレーションによる研究から、SMBHに近い場所では、他の天体に比べ赤色巨星の数のみが欠損していることがわかっており、この理由は未解決である。本研究では、Horiguchi2023(神戸大学修士論文)に基づき天体同士の衝突に着目したN体シミュレーションを行い、衝突と巨星数欠損の関連性を調べる。
 今回はN体計算コードGPLUM(Ishigaki et al. 2021)に次のようなモデルを適用して数値計算を行った。一つは、恒星進化モデル(Hurley et al. 2002)を取り入れ、各恒星が初期質量に基づく進化を行うようにした。二つ目は、half-mass radiusの拡大により変化した衝突頻度を、実際の銀河に合わせるため恒星半径を拡大させた。
 結果から、恒星間衝突の有無で巨星の数、密度に違いが見られることがわかり、衝突を考慮した場合はどちらも中心付近でより小さくなっていた、さらに巨星が関わる衝突はどちらも中心付近、かつシミュレーション初期に多発することもわかった。
 本研究のシミュレーション時間は、恒星進化や星団の成長を追うにはまだまだ短いものの、恒星間衝突は巨星数の欠損に影響を与えるといえる。

 

講演b-19: 15次元光度空間におけるダスト情報を含む銀河多様体の発見と解析

講演者名: 山形 大青、所属: 名古屋大学、学年: M1

銀河進化を定式化する上で、銀河内でダストがどのように成長するかということは、重要な問題である。Cooray et al. (2022), 竹内他 (2024)において、遠紫外から近赤外までの11バンドでの等級を各次元に持つ高次元光度空間中で、2次元平面上に銀河が分布していることが報告された。この2次元構造は銀河多様体と呼ばれ、銀河多様体上で恒星質量と星形成率が連続的に変化することが発見されている。しかし、この2次元の銀河多様体上では、銀河中のダストからの放射の情報が含まれておらず、銀河進化とダストの成長の関係を定量的に結びつけることが困難だった。そこで、本研究では、従来の11バンドでの等級データに、中赤外から遠赤外の4つのバンドでの等級データを加えることで、15次元になった光度空間中でダスト放射の情報を含む新しい銀河多様体を発見することを試みた。
本研究ではまず、Reference Catalog of galaxy Spectral Energy Distributions (RCSED; Chilingarian et al. 2017)の遠紫外から近赤外までの11バンドの等級データとWISE観測データの中赤外から遠赤外までの4バンドの等級データを適切にクロスマッチさせることで15バンドの等級データを持つ銀河カタログを作成した。次に、選択効果を排除するために$r$-bandでvolume limitを行った。そして、得られた約24000の銀河の等級データに対して特異値分解(SVD)を適用することにより次元削減を行い、15次元光度空間上の銀河分布について、その分散の94パーセント以上が3つの軸で説明できる、つまり銀河多様体が3次元の構造を持つことを発見した。
この新しい銀河多様体の解析の結果から、銀河分布の分散が1番目に大きい軸に沿って銀河の恒星質量が連続的に変化しており、2番目に大きい軸に沿って銀河の星形成率が連続的に変化していることがわかった。これは、Cooray et al. (2022), 竹内他 (2024)と一致する結果である。銀河分布の分散が3番目に大きい軸は恒星質量や星形成率との関係は見られなかったが、銀河の赤外超過やダスト減光との相関が確認できた。講演ではこれらの解析結果についてより詳細に議論する。

 

講演b-20: Meshless 法を用いた数値流体力学計算のSIMD並列化による高速化

講演者名: 東 佑輝、所属: 筑波大学、学年: M1

宇宙における現象の解析には流体力学の手法が用いられることが多い。流体の運動はNavier-Stokes方程式によって記述されることが知られているが、この方程式には強い非線形性が存在し、一般に解析解を求めるのは難しい。そこで宇宙物理においては星形成、銀河形成、ブラックホール降着円盤といった様々な構造形成の理解において数値流体力学計算が用いられている。より広範な宇宙の物理現象を理解するために、より精確、高速かつ大規模に実行可能な計算手法が求められている。粒子法による数値流体力学計算における主流の手法はSPH法とそれをもとに開発されている幾つかの改良手法であるが、いずれも適合性を満たしておらず、得られる結果が空間0次精度であるという問題がある。一方でMeshless法で得られる結果は空間1次精度を保っており、適合性を満たす。このことから、Meshless法では SPH法よりも精度の良い結果を得られることが期待できる。本講演では、Meshless法による計算をCPUのSIMD命令により高速化する手法を紹介する。SIMD命令のオペランドとして用いられるレジスタは、通常の命令と比べるとレジスタ長が長くなっている。例えば Intel x86_64 CPU においては通常のレジスタ長は64bitであるのに対して、AVX2 SIMD命令で用いられるレジスタ長は256bit である。このような長いレジスタに、レジスタ長の短いデータを複数載せて処理するのがSIMD 命令の仕掛けである。SIMD命令を使った高速化では、この長いレジスタにどのようにデータを搭載して計算するかが重要であり、本講演の中心的な話題である。

 

講演b-21: IceCubeによる10年間の一般公開観測データを用いたエネルギーバンド間マッピング調査

講演者名: 久田 凜太郎、所属: 京都産業大学、学年: M2

ICECUBEは電磁波・重力波に続きマルチメッセンジャー天文学の新たな一員としてその性能を発揮するニュートリノ観測実験である。南極のアムゼン・スコット基地の地下に設置され南極の分厚く広大な氷床を用いて高エネルギーニュートリノを追っており、宇宙で起こっている高エネルギー粒子の加速現象に付随するニュートリノについての飛来方向を調べることができる。高エネルギー粒子の加速機構はまだわかっていないことが多く、今後の研究が待たれるテーマであり高エネルギーニュートリノが解明の鍵を握るのではないかと思われる。
 本研究ではIceCubeによる10年間の一般公開観測データを用いてニュートリノについて複数のエネルギーバンドでのマッピング調査を行い、バンド間で検出されるニュートリノ源の存在とその候補天体の調査を目標としている。NGC1068のニュートリノ研究では同定がされており、ニュートリノのエネルギーEに対して、E^-γで表されるスペクトル指数γの値がγ=3.2とされていた(R.Abbasi et al. 2022)。これは低エネルギー側での放射が優勢であることを示している。エネルギーバンドに分けて調査をした際にこのスペクトル指数の特徴が表れるのかを調べることは興味深いことである。これらの調査について数個の候補天体と今後の研究について発表と議論をできればと考えている。

 

講演b-22: JWST PRIMERの測光カタログを用いた z ∼ 8 におけるバルマーブレイク銀河候補の探査と SED fit による物理的性質の推定

講演者名: 堀田 修司、所属: 名古屋大学、学年: M1

銀河の形成・進化の歴史を紐解く上で、過去の宇宙、つまり遠方の銀河を観測することは重要である。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の登場により、赤方偏移z >8の銀河候補が数多く発見されているが、その中には星質量が10^10太陽質量を超えるような大質量銀河候補も含まれている。このような銀河は、その時代の宇宙に存在する物質の総量に制限を与えるため、銀河進化だけでなく、宇宙の物質進化を理解する上で重要である。大質量銀河のスペクトルにはバルマーブレイクと呼ばれる特徴が見られる。これは、水素のバルマー系列の吸収が離散的な吸収から連続吸収に変化する波長(3646 Å)に見られる連続スペクトルの段差で、A型星などの寿命が比較的長い星のSEDに顕著に見られる。そのため、バルマーブレイクはより古い時代から星形成を行っている、成熟した銀河の指標として使うことができる。

本研究では、JWSTのPRIMERプロジェクトで構築された天体の測光カタログ(PRIMER-COSMOSとPRIMER-UDS)から、バルマーブレイクを持つようなz~8の天体を選択した。バルマーブレイク銀河は、赤方偏移したバルマーブレイクによってJWST/NIRCamの長波長側のフィルターで明るくなるという特徴がある。そのため、F277W-F444Wの色が赤くなる等の条件を課すことで、z~8のバルマーブレイク銀河候補を選択することができる。また、選択した天体について、SED フィッティングコードBagpipesを用いてSED フィッティングから物理量の推定を行った。その結果、バルマーブレイクで特徴付けられる進化が進んだ大質量銀河のモデルではなく、静止系可視光の輝線が卓越した若い輝線銀河のモデルで説明される天体の方が多く選択されていることが分かった。本発表では、選択した天体とBagpipesを用いて作成したバルマーブレイク銀河・輝線銀河のモデルを比較し、天体の色に注目した際のバルマーブレイク銀河と輝線銀河の違いについて議論する。

 

講演c-1: NGC1068の近赤外線域での3次元構造の再構築について

講演者名: 多中 海斗、所属: 京都産業大学、学年: M2

活動銀河核(AGN)とは、銀河中心に存在すると言われている大質量ブラックホールに物質が連続的に流れ込み、解放された重力エネルギーでガスが高温になり大量の輻射を放出している天体のことである。このAGNには膠着円盤と広輝線領域と取り巻くように「トーラス」と呼ばれるドーナツ状の吸収体があると考える統一モデルがあるが、これは理論モデルなので観測で実際に確認できているわけではない。
AGNにおいてある特定の速度場を仮定できる場合、スペクトルの高空間分解能の面分光データに基づくことで 3 次元構造の再構築が可能であることが示され、このような 3 次元構造の再構築は HSTデータを用いて可視光域で実現された。しかしながら、再構築された画像は母銀河の星間ダストによる吸収を強く受ける影響から精度に問題がある可能性がある。そこで本研究では母銀河による星間ダストによる吸収が少ない赤外線域の高空間分解能の面分光データでのスペクトルを使用してより完全な3次元分布を再構築する。また、母銀河の回転速度から重力ポテンシャルがガスに与える影響を吟味して、より正確な活動銀河核の中心部の構造を評価する。

 

講演c-2: 赤外線干渉計観測による活動銀河核の画像再構成及び、活動銀河核の構造探査

講演者名: 菱川 竜晟、所属: 京都産業大学、学年: M2

活動銀河核(AGN)は、その中心に存在する超大質量ブラックホールの解明に重要な手がかりとなる。AGN研究の一つに、干渉計観測による高空間分解能画像再構成がある。特に赤外線干渉法は、数[mas]の極めて高い空間分解能での観測が可能であり、AGNの詳細な構造を探る上で有用な手法である。一方で、スパース性や位相誤差などの問題から、画像再構成の結果は十分に検討する必要がある。

本研究では、電波干渉計で用いられているハイブリッドマッピングを赤外線干渉データに適用し、その実用性を検証する。さらに再構成された高解像度AGNマップを、先行研究の結果と比較することで、AGNの構造に関する新たな知見を得ることを目指す。

具体的には、観測データに対してハイブリッドマッピングを適用する。この際、モデル画像と観測値を用いて反復的に調整を行ったり、クロージャーフェイズを利用して計算過程で位相を計算できるよう改良を加える予定である。期待される結果として、反復計算により一つの収束解が得られることを見込んでいる。

本研究の意義は、赤外線干渉観測におけるデータ解析の課題であるスパース性や位相誤差の問題を、クロージャーフェイズの利用によりある程度解決できる可能性を示せることにある。これにより、より真のAGN構造に近い高精度な画像再構成が実現できると期待される。

現在は観測データに先立ち、用意したモデルに対してクリーンアルゴリズムを適用し、反復計算により解が収束するか検証を行っている段階にある。

 

講演c-3: X線天文衛星「すざく」を用いた銀河団 Abell222,223 の観測

講演者名: 尾崎 朝世、所属: 奈良女子大学、学年: M1

本研究では、銀河団のスペクトルを解析しながら、重元素の量、天体の密度や
温度を評価し、物理状態や元素組成比に基づいたAbell222,223の銀河団の構造形
成について解明する。その中で銀河団が形成されていく過程を探り、宇宙の大規
模構造についての進化や起源の知見を得ることを目的とする。
 銀河団は重力的に緩和した系として宇宙最大の天体であり、大規模構造や銀河
団は進化の時間スケールが宇宙年齢と比べて小さすぎないため、宇宙年齢の大半
をかけて徐々に形成されてきた。ゆえに、大規模構造や銀河団は宇宙の初期の状
態を記憶していると言える。銀河団は様々な波長 (可視光、X線、電波) で明る
く、重力レンズでも観測できる天体であり、非常に遠方 (過去) の宇宙まで観測
することができる。また、銀河団は銀河と高温ガス、ダークマターの主に 3つの
物質からなっており、銀河間に満ちているプラズマ状態の高温ガスからX線が放
射されるため、これを天文衛星で捉えることによりX線領域でも銀河団を観測す
ることが可能である。
 そこで本研究では、X線天文衛星「すざく」で得られた、地球から約23億光年
の距離にある2つの銀河団Abell222とAbell223 のデータを活用し、これらの2つ
の銀河団部分のイメージ解析とスペクトル解析をおこなった。得られる結果から、
銀河団の進化の過程や、現在の状態を元素分析や高温ガス分布などから調査し、
大規模構造の性質や質量密度などを解明することを試みる。解析方法として、対
象天体のイメージ解析とスペクトル解析を行い、イメージ解析ではヴィグネッテ
ィング補正画像を作成し、スペクトル解析では銀河団部分の温度パラメータの解
析結果と先行研究との比較を行った。その結果、スペクトル解析ではAbell222,
223の領域で温度が先行研究と誤差の範囲で一致した。

 

講演c-4: 銀河の化学進化シミュレーションで探る超大質量星の寄与

講演者名: 海老原 将、所属: 東京大学、学年: M1

 近年、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の登場により、高赤方偏移銀河における分光観測が飛躍的に進化している。化学進化の研究においては、z = 10.59 の不規則銀河GN-z11およびz = 6.23, 8.68 の銀河における窒素量[N/O]が、局所銀河群の銀河と比べて高いという結果が報告されている(Isobe et al 2023 and Cameron et al. 2023)。これらの銀河の[N/O]は、コア崩壊型超新星(CCSN)の生み出す元素存在比と比べて高く、CNOサイクルの平衡状態の生み出す元素存在比に偏った値となっている。つまり、この三つの銀河の化学進化は、CCSNによる重元素散逸とは異なった機構で説明される必要がある。Isobe et al (2023)は、考えられる因子として、超大質量星(>10000M_⊙, Supermassive Stars, SMS)とウォルフ-ライエ星の恒星風、ブラックホールによる潮汐破壊を提案している。これまでの研究は、シンプルな1次元モデルに基づいていたが、より複雑な銀河の形成過程を取り入れた数値シミュレーションで、SMSによる周囲のガスの汚染による[N/O]の増加について調べる。銀河シミュレーションには、N体/Smoothed Particle Hydrodynamics法シミュレーションコードASURA(Saitoh 2018)を用い、化学進化ライブラリにはCELib(Saitoh 2018)を用いる。しかし、これらにはSMSの効果が入っていないため、独自にこれを追加する。具体的には、シミュレーション中に出力される各粒子の状態をまとめたファイル(スナップショット)から、球状星団を見つけ出し、その中央付近の星粒子1つを、重元素散逸を伴って直接崩壊したSMSと仮定する。次に、散逸された重元素の量を恒星進化モデル(Nagele & Umeda 2023[9])から計算し、周囲の粒子に対して足し合わせる。そして、SMSとみなした星を消去する。最後に、このように上書きされたスナップショットファイルを用いて、シミュレーションをリスタートさせる。以上の手順を繰り返すことにより、SMSの化学進化への寄与を計算することができる。

 

講演c-6: Cool-Core銀河団における銀河団ガスのsloshingについて

講演者名: 慶野 翔大、所属: 筑波大学、学年: M1

本講演は、大規模銀河団Abell 1835の冷たいコア内部の銀河団ガスの性質に関する論文
”Embedded Spiral Patterns in the Cool Core of the Massive Cluster of Galaxies Abell 1835”(S.Ueda,T.Kitayama,T.Dotani)とそれに続く一連の論文のレビュー講演である。銀河団ガス(ICM)とは銀河団中を満たす高温のプラズマであるが、A1835銀河団をはじめとする多くの力学的に緩和した銀河団の中心部において、X線表面輝度マップから角度平均値を差し引いた残値マップにスパイラル構造が見出される。スパイラル構造は2本の腕から構成されており1つは輝度が明るくもう1つは暗い。2本の腕はそれぞれ明るい方が低温で高密度、暗い方が高温で低密度という反対の性質をもっているが、元素存在度や圧力については大きな差はない。とくに圧力についてはコア中が圧力平衡に近いということが示唆されている。このようなスパイラル構造の起源は、銀河団のマイナーマージャ―によるガスのsloshingであると考えられておりCool-core 銀河団の中心部の特徴的な温度構造の起源となっている可能性がある。