アブスト:観測機器分科会

講演a-1: Si ピクセル検出器 Timepix3 を用いた MeV ガンマ線の指向性計測と冬季雷観測

講演者名: 田中 敦也、所属: 名古屋大学、学年: M2

MeV帯域の宇宙ガンマ線は宇宙における粒子加速や重元素生成を探る重要なプローブであるが、keV(X線)、GeVガンマ線帯域に比べて感度に数桁という大きな差があるMeV ガンマ線の指向性観測といえばコンプトンカメラやコーデッドマスク、コリメータなどが挙げられるが、コンプトン反跳電子や電子陽電子ペアに大きなエネルギーが与えられる数MeV領域になると電子飛跡検出技術が有効となる。一般に電子飛跡検出にはガス検出器が用いられ、京大の SMILESや東大/阪大のGRAMSがあり開発が進んでいる。一方で近年、100 µm を切る細かいピッチの半導体アクティブピクセル検出器の実用化により、MeVガンマ線観測においても、Siを固体電離箱として用いるシステムが実現できる可能性が出てきた。固体中では電子飛跡が短くなるものの、半導体検出器の特徴であるエネルギー分解能、位置分解能の良さを活かし、我々はSiピクセル検出器Timepix3を用いて電子飛跡の検出に挑戦した。
Timepix3 は0.5 mm 厚のSi素子とToT ADC搭載の2次元ASICを接合したもので、1.56 ns の時間分解能、55×55 μm2のピクセルサイズで、15×15 mm2 を撮像できる。これまでに1.27 MeV のガンマ線を照射し、反跳電子を60イベント抽出することで、電子飛跡を検出する方法を開発・検証した。
我々はTimepix3を北陸冬季雷の観測に投入し、2022年に雷放電突発ガンマ線(下向きTGF)の観測に成功した。今回の知見をそのデータに適用し、TGFと同期していた放電の位置情報と矛盾ない結果を得られた。しかしASICのバッファサイズが小さすぎるために短時間に大量イベントを産むTGF信号のごく一部しか正確に読めないという課題が浮き上がったと同時に、将来的にMeVガンマ線の電子飛跡追跡型の観測装置としての運用は十分可能であると言う結論を得た。
本講演では、Timepix3 の解析手法の開発状況とTGFイベントに関する解析状況について報告する。

 

講演a-2: MeV天文学における符号化マスクを用いた狭視野Si/CdTe望遠鏡miniSGDの角分解能の向上

講演者名: 西村 悠太、所属: 名古屋大学、学年: M1

sub-MeV・MeV帯域は、 熱的粒子の世界と非熱的粒子の世界の境界で、粒子加速や元素合成といった宇宙の高エネルギー現象を理解する上で重要な帯域であるが、現状の MeV 天文学では他波長と比べ観測感度が数桁低く、その観測は遅れている。2027年にはNASAからCOSI衛星が打ち上がる。COSI衛星はGe半導体コンプトン望遠鏡を導入し、長らく停滞していた MeV帯域の全天観測で1桁高い感度を実現する。MeVガンマ線観測の高感度化に伴い、百を超える天体を観測しようとすると近い将来にはこれらを分解するためには数分〜数十分角レベルの角度分解能の実現が必須である。特に、銀河中心に存在すると期待されるMeVダークマターの崩壊起源の放射を間接観測する際には、ブラックホールや中性子星などの寄与を取り除く必要があり、COSI衛星に匹敵する感度を持ちつつ、銀河中心に点在する複数の天体を分解できる15分角レベルの角分解能をもつ検出器の開発が必要だと考える。
我々は、sub-MeV・MeV帯域の宇宙観測でさらなる精度向上を目指し、狭視野Si/CdTeコンプトン望遠鏡の性能実証実験機miniSGDを開発している。miniSGDは、SiとCdTeの両面ストリップ検出器からなる半導体コンプトン望遠鏡と、BGOシンチレータからなるアクティブシールドで構成される。高いエネルギー分解能と位置分解能が得られるため、コンプトン望遠鏡としては良好な角分解能を得ることができた(大熊講演)。
本研究では、miniSGDに重金属製の符号化マスクを導入してさらなる角度分解能の向上を狙い、MeV帯域での精密な撮像分光偏光能力を実証してその技術的課題を検証する実験を進めている。さまざまな線源によるガンマ線を照射し符号化マスクとコンプトン再構成を組み合わせた実証実験の長時間測定を実施し、実際のデータを用いてその利点と課題を検証した。本講演ではその解析結果をもとに、符号化マスクを用いたコンプトン望遠鏡の性能の現状を報告する。

 

講演a-3: 宇宙線ミューオンの角度再構成による位置検出器 DSSD の二枚積層モジュールの評価

講演者名: 佐藤 丞、所属: 東京理科大学、学年: M1

アルテミス計画は、NASAを中心に国際的に進められている有人月探査計画である。月面、火星探査を目標としたこの計画の中では月、火星のみならずその先の深宇宙への新たな拠点となる月周回有人拠点Gatewayの建設を予定している。このような月探査計画が推進されていくにあたり不可欠となるのが宇宙放射線による被ばくの管理である。これまで地磁気圏内での宇宙放射線計測は行われていたものの、月周回軌道を含む地磁気圏外での実測データは少ないのが現状である。そこで、月周辺での被ばく線量を評価するシステムとして、JAXA、理化学研究所、東京理科大学の共同でエネルギースペクトロメータ「Lunar-RICheS」の開発を進めている。
Lunar-RICheSは、20 MeV-250 MeVのエネルギー領域を計測できる低エネルギー計測部と、250 MeV-2 GeVのエネルギー領域を計測できる高エネルギー計測部の2ユニットで構成されている。これにより、宇宙飛行士や搭載実験への放射線影響に関する20 MeV-2 GeVの一次粒子のエネルギーが計測可能となる。またそれぞれの計測部には、前方と後方に粒子の通過を検知するための位置検出器として両面Si検出器DSSDが積層されており、入射粒子の到来方向を決定し、検出器内での粒子の軌跡を追跡することができる。我々東京理科大学は、この両面Si検出器DSSDの開発を担当している。
本研究では、両面Si検出器DSSDの積層モジュールを用いて宇宙線ミューオンの観測を行い、入射粒子の到来方向を計測した。天頂角分布および方位角分布の測定結果について、東西効果および建物の遮蔽を考慮し、両面Si検出器DSSDの積層モジュールによって到来方向の決定が可能であることを明らかにした。

 

講演a-4: CdTe DSDを用いた薬物動態イメージングとがん治療への応用

講演者名: 古川 湧基、所属: 東京理科大学、学年: M1

 私が所属する研究室では主にX線を用いた天体の観測的研究やX線/ガンマ線検出器の開発を行っている。さらに、それらの宇宙観測用の技術を医療分野、特に核医学の分野に応用した検出器の開発についても取り組んでいる。今回紹介する研究はがん治療の現場で薬物動態イメージングを可能とする検出器の開発である。
 近年、日本人の2人に1人が生涯でがんになると言われている。それほどがん治療技術の発展はこれからの私たちにとっても欠かせないものであり、現在も多種多様な研究が進められている。我々の研究では、I-125やIn-111の放射線核種を結合させたがん治療薬を体内に投与し、体外からそれら核種の放出するX線やガンマ線によるイメージングを行うことで、体内におけるがん治療薬の動向を観測するとともに、薬剤ががんの病巣に集積しているかどうかの視覚的な評価を目的としている。これを実現させる検出器の開発はCdTe DSD(両面ストリップ型検出器)を基盤として進められている。テルル化カドミウム(CdTe)を用いた検出器は宇宙観測用のX線天文衛星ひとみ(ASTRO-H)に搭載されていたことがあり、低エネルギーのX線に対して高いエネルギー分解能を有する。しかしそれに加えて、がん治療の効率化を図るうえで正確な薬物動態を把握するためには、高水準の検出感度や画像分解能が必要とされている。
 本講演ではCdTe DSDを用いたイメージングの観測例を紹介するとともに、半導体センサ内の反応深さ情報を用いたイメージング能力の改善や前臨床実験における小動物生体イメージングのためのコリメータの最適化といった今後の研究の展望について報告する。本研究は天体観測分野から医療分野への応用にとどまらず、高水準なイメージング技術を再び天体の観測技術に還元することで、天文・天体物理のさらなる発展に寄与することも期待される。

 

講演a-5: 超小型X線衛星 NinjaSat に搭載するガスX線検出器の軌道上における検出器応答関数の構築

講演者名: 青山 有未来、所属: 東京理科大学、学年: M1

 2023年11月11日に打ち上げられた超小型X線衛星 NinjaSat は、2月23日に科学運用を開始し、現在は観測と並行して検出器較正を実施している。NinjaSat は 2−50 keV に感度をもつ非撮像型ガスX線検出器 (Gas Multiplier Counter; GMC) を2台搭載している。打ち上げ前に実施した地上較正試験の結果から、GMC が取得するエネルギースペクトルは、温度依存することが明らかとなった。本研究は軌道上で GMC が取得した天体のエネルギースペクトルが持つ温度依存性を評価し、軌道上の検出器応答関数を構築することを目的とする。
 検出器に入射したX線は、ガスにより光電吸収され、電子信号に変換後、電子増幅フォイル (Gas Electron Multiplier; GEM) によって増幅される。円形で半径 33.5 mm の GEM は検出器の温度変化により電子増幅度が変化し、その変化率は面内の場所により異なることがわかっている。この電子増幅度の温度変化を正確に検出器応答関数に取り込むことが、スペクトルの形状を正しく求めるために必須である。地上試験のデータから作成した電子増幅度分布を、別途作成した検出器シミュレータへ実装し、X線較正天体である「かに星雲」のエネルギースペクトルを模擬した。結果は運用温度範囲 (10−25℃) で最大2.3%程度、スペクトルの形状が変化することがわかった。次にこの温度依存性を用いて、GMC の検出器応答関数を構築し、軌道上で取得した「かに星雲」のエネルギースペクトルと比較する。本講演では、NinjaSat に搭載されたガスX線検出器の温度依存性を含めた検出器応答関数の構築と、作成された応答関数と軌道上で取得されたエネルギースペクトルとの比較について発表する。

 

講演a-6: MeVγ線による電子陽電子対消滅線観測計画SMILE-3に向けたガス検出器内充填ガスの最適化

講演者名: 出口 颯馬、所属: 京都大学、学年: M1

MeVγ線による電子陽電子対消滅線の空間分布は低エネルギー陽電子の起源の解明につながり,MeV領域の暗黒物質や原始ブラックホールの存在に大きな制限を与えるため非常に注目されている.しかし,従来のコンプトン法では反跳電子の測定を行っていないためγ線の到来方向が円環状になること,またこのエネルギー帯が雑音優位であることから,実際の観測では最も成果を上げているCOMPTELでさえ約30個の天体の検出に留まっている[1].
我々は電子飛跡検出型コンプトン望遠鏡(Electron-tracking Compton camera,ETCC)の開発を行っている.ETCCはコンプトン散乱を捉えるガス検出器と散乱γ線を検出するためのシンチレーション検出器で構成されており,電子の飛跡を追跡することによってγ線の到来方向を一意に決定できる.これはSMILE-I,SMILE-2+での気球実験によって実証されており,またETCCが強力な雑音低減能力を持つことも示されている[2].
現在,我々はMeVγ線による電子陽電子対消滅線観測計画SMILE-3に向けた検出器の開発を行っている.SMILE-3ではSMILE-2+の5倍以上の検出感度を目標としており,ガス検出器に封入する最適なガスを探索する必要がある[2].雑音低減とコンプトン散乱の発生確率向上の観点からCF_4ガスが望ましい候補であるが,ゲインが出にくいといった問題がある.先行研究では,Ne-CF_4(分圧比50:50) 2気圧での信号取得に成功し,ゲインの測定ではSMILE-2+の約1.5倍の散乱角の決定精度が示された[3].私は,その結果を踏まえた上で,SMILE-3で想定されている3気圧のガス封入における最適なガスの探索を行っている.
本講演では,ETCCに用いられるガス検出器の概要と,ガス検出器に封入するガスの探索の現状について述べる.

[1] V. Schonfelder, et al, The first COMPTEL source catalogue, 2000
[2] 高田淳史,谷森達,SMILEによるMeVガンマ線天体探査-MeVガンマ線天文学の夜明け-,RADIOISOTOPES,vol68,pp865-875,2019
[3] 小林滉一郎,修士論文,京都大学,2023

 

講演a-7: ISS搭載MoMoTarO検出器による太陽フレアの観測の検討

講演者名: 中山 和哉、所属: 京都大学、学年: M1

月面から漏出する中性子を利用した水資源探査や中性子寿命測定、ガンマ線バースト(GRB)観測を目的として、超小型中性子・ガンマ線検出器Moon Moisture Targeting Observatory(MoMoTarO)を開発している。2026年にMoMoTarO検出器をISS船外実験スペースに搭載することが決定し、宇宙空間での検出器の動作実証、サイエンスの創出を目指している。
ISSでの中性子・ガンマ線検出器の半年間運用に際して、現在活動が活発になっている太陽フレアに由来する中性子や、高エネルギー天体現象からのGRBなどの突発現象を測定できる。超新星残骸や中性子星など高エネルギー天体現象は宇宙線の起源の候補だが、太陽フレアでも電子や陽子、中性子などの粒子加速が起きている。中でも磁場の影響を受けないで地球に到来する太陽中性子を観測することで、粒子加速の情報を得ることができる。また、MoMoTarOで測定できるGRBは、数十億光年スケールの遠方から極めて明るいガンマ線が到達する現象である。MoMoTarOは月や深宇宙への展開を目指しており、多地点での到来時間差からGRBの発生方向を決めることも目指しており、GRBを用いた宇宙論への貢献も期待できる。このように、地球近傍と遠方両方の視点から宇宙線加速機構の解明や宇宙論へ貢献する。
私はISS搭載MoMoTarOで検出しうる太陽フレアやGRBにより検出されうるフラックスや、地球アルベド粒子のフラックスをシミュレーションしている。これらの観測を行うために、大面積・多チャンネルのシンチレータ検出器を開発している。開発した検出器を小型気球に載せて飛翔させ、打ち上げ時の振動、高真空、高レートの放射線環境という宇宙に近い環境での動作実証試験を行っている。この小型気球実験においても、太陽中性子やGRBの観測が期待できるため、複数回の実施を計画している。

 

講演a-8: 中性子を用いた月の水資源探査

講演者名: 小俣 雄矢、所属: 京都大学、学年: M1

近年、アルテミス計画を始めとした月探査が国際的に活発化しており、中でも水資源探査は月面での拠点開発において重要である。本研究は、中性子とガンマ線の放射線検出器Moon Moisture Targeting Observatory(MoMoTarO)を開発し、月面ローバーに搭載することで、月面下において非接触・非破壊の水資源探査を行うことを目的としている。銀河宇宙線が月表面の物質に衝突すると、核反応を起こし、高い運動エネルギーを持つ高速中性子が生成される。高速中性子は、水に含まれる水素のような軽元素があると効率的にエネルギーを失って、エネルギーの低い熱・熱外中性子となる。月面から漏出した中性子をエネルギー毎に弁別し、計数率を測定することによって、水資源探査が可能となる。
従来の中性子検出器はヘリウムガス検出器が主流であったが、振動に弱く、高コストであることが欠点であった。本研究では、リチウムを添加したプラスチックシンチレータ(EJ-270)とシリコン半導体光検出器(SiPM)を用いる。振動に強く、小型・省電力であり、ヘリウムに比べて安価な検出器を製作できる。さらに、シンチレータ中の反応の違いによる波形の違いから、熱/熱外中性子・高速中性子・ガンマ線を弁別しながら同時に測定することが可能となった。しかし、熱中性子と高速中性子が弁別できていない領域があるため、弁別性能の改良に向けて、回路定数の最適化や温度特性の試験を行っていく。現在、月の水資源探査の原理実証として土槽実験を行っており、極低〜低含水率の月模擬土壌に対して中性子の計数率を測定した。含水率が高いほど、熱中性子の計数率も増加していることが示唆された。また、MoMoTarOは宇宙遠方からのガンマ線バーストも検出する能力があり、天文学研究にも使うことが出来る。

 

講演a-9: TES型マイクロカロリメータのエネルギー分解能向上の為の超伝導転移温度と熱容量のコントロール

講演者名: 奥村 華子、所属: 北里大学、学年: M1

 バリオンは現在の宇宙の構成要素の約5%を占めると考えられているが、その半分は未検出で、ダークバリオンと呼ばれる。シミュレーションより、大半のダークバリオンは宇宙の大規模構造に沿って分布しており軟X線帯域で輝く希薄なガスである中高温銀河間物質(Warm Hot Intergalactic Medium; WHIM)を成すと考えられ、WHIMを含むダークバリオン探査は現代宇宙物理学の重要課題の一つである。Super DIOS (Diffuse Intergalactic Oxygen Surveyor)は、宇宙の広範囲で定量的にWHIMを観測しダークバリオン分布を調べる計画である。ゆえに広視野・高分解性能の検出器が要求され、次世代の非分散精密分光器である超伝導転移端(Transition Edge Sensor; TES)型マイクロカロリメータの3万ピクセルアレイの搭載を予定している。
 TESカロリメータはX線光子一つ一つを熱として測定しており、超伝導と常伝導の間の急峻な抵抗変化を温度計として用いることで高いエネルギー分解能を誇る。我々が開発しているTESカロリメータはAu/Tiの二層薄膜で形成され、広視野・高分解能両立のために広い受光面積を持つマッシュルーム型吸収体を採用している。現在9 eV@5.9 keV(Miyagawa’s master thesis)を達成しているが、Super DIOS計画では2 eV以下の分解能が要求されるため、更なる性能の向上を試みている。エネルギー分解能は熱容量の平方根と超伝導転移温度に比例するため、改善には低熱容量のために出来るだけ薄く、且つ超伝導転移温度が低いものを定常的に作成出来るような成膜条件の確立が必要になる。
 現在は様々な条件で成膜して各値を評価しており、本講演ではその現状について述べる。

 

講演a-10: EBITへの搭載に向けた、TESマイクロカロリメータの磁場特性の評価

講演者名: 中野 祥大、所属: 東京大学、学年: M1

 XRISM衛星により精密X線分光観測が可能となった現在、より高い精度がX線放射モデルに要求されている。一方で、高エネルギー天体の輝線放射に関与する多価イオンの振る舞いは解析的に解くことができず、近似計算による放射モデルには不定性が伴う。
 電子ビームイオントラップ(EBIT)は、電子ビームを用いて多価イオンを生成し、コイルの強力な磁場でトラップし、高エネルギー天体と等価なプラズマを実験室で再現できる装置である(P. Micke et al. 2018) 。宇宙科学研究所においても小型EBITの開発が進められており、理論計算が困難な多価イオンの放射を地上で観測し、微細構造による輝線エネルギーや強度を決定することで、より精密なモデルの構築が期待されている。しかしながら、現状EBITに搭載されている分光器(SDD)のエネルギー分解能は100 eV程度であり、微細構造まで分解したモデルの構築には、より高分解能のX線検出器の搭載が必須である。
 我々が開発を進めている超伝導転移端型(TES)マイクロカロリメータは、超伝導-常伝導転移端での急激な抵抗変化を利用した高感度な温度計を用いて、入射光子一つ一つのエネルギーを測定する装置であり、その分解能はSDDよりも二桁程度良い。TESカロリメータがEBITへ搭載されれば、より高精度な放射モデルの構築が可能となる。TESカロリメータ搭載における課題として、EBITの周りの強い磁場環境の下でTESカロリメータの分解能が劣化する点が挙げられる(Ishisaki et al. 2008) 。従って、外部磁場が我々のTESカロリメータの性能にどの程度影響を与えるかを調べ、許容できる磁場レベルに低減するための磁気シールドの設置や冷凍機構造の改善が必要となる。そこで本研究では、磁場を印加した際のTESカロリメータの応答を測定・評価し、その結果を報告する。

 

講演a-11: 機械学習を用いた半導体ピクセル検出器における X 線イベント判定法の開発

講演者名: 東 竜一、所属: 甲南大学、学年: M2

現在、X 線天文衛星に搭載される、X 線ピクセル検出器で観測したデータの解析で用いられているのがグレード法 (e.g., AXAF ACIS calibration report) である。グレード法とは、各ピクセルで検出した信号電荷による波高値が、あらかじめ決めたしきい値を超えた場合イベントとみなし、それらの配置パターンから X 線イベントか、それ以外の荷電粒子バックグラウンドによるものかを識別する手法である。しかし、エネルギー帯域に応じた検出器ノイズとイベントの識別に対する最適化がされておらず、エネルギー推定に誤差が生じる場合がある。それに加え、座標は波高値が最大のピクセル中心とするため、イベントの空間分布情報やセンサの特性を活かしきれていない。
 そこで我々は、検出したX線光子の入射エネルギーと座標決定精度の向上を目的とし、機械学習を用いた X 線イベント判定法の開発に取り組んでいる。本研究で使用する機械学習は、画像認識の分野で主に用いられる畳み込みニューラルネットワークを用い、 X 線ピクセル画像と正解ラベルをセットにした学習データを学習させることで、未知の画像データを入力すると予測を返すというものである。学習データは汎用の検出器シミュレーションツールである、コンプトンソフト (Odaka et al. 2010) を用いたモンテカルロシミュレーションによって作成した。シミュレーションデータでそれぞれの方法を検証した結果、機械学習による予測は、グレード法の分解能 ~180 eV @ 5.9 keVに対し、~140 eV @ 5.9 keV という結果が見られた。また機械学習による座標決定精度は、ピクセルサイズが 48 um の検出器の場合、ピクセル境界付近に入射した X 線イベントに対しては < 10 um となった。本講演では、グレード法と機械学習予測による X 線イベントのエネルギー再構成精度と、検出器上の座標決定精度を比較した結果について発表する。  

講演a-12: IceCube-Gen2実験用光検出器LOM内部に搭載するPMTの事前性能評価方法の再構築

講演者名: 辻 智紀、所属: 千葉大学、学年: M1

 千葉大学は、南極の氷の内部に検出器を埋め込み、宇宙ニュートリノをとらえるIceCube実験に参加している。宇宙ニュートリノは電場や磁場の影響を受けず、その直進性と透過性から散乱されず、直接伝搬するという特徴がある。IceCube実験では、宇宙ニュートリノが南極の氷と相互作用することによって荷電粒子が生成され生じるチェレンコフ光を観測することでニュートリノをとらえている。現在、1PeV以上の高エネルギーニュートリノの検出頻度を高めるために、検出器を埋める範囲を拡大するIceCube-Gen2計画を予定しており、そのためのより高感度な光検出器LOMの開発が進んでいる。1つのLOM内部には4インチの光電子増倍管(PMT)を18個実装する。
 私は、このLOMの製作に関わり、LOM内部に実装するPMTの事前性能評価を行っている。2024年5月現在、2台のLOMの製作に成功し、ひと月に2台のペースで2024年中に総数10台のLOMを製作する予定である。この事前性能評価は、完成後のLOMの品質保証において重要な役割を持っている。
 PMTの事前性能評価は、-40℃の冷凍庫の中で外部からの光を遮断した状態でレーザーを照射して行っている。しかし、PMTの既存の測定方法では、1回の測定に対して一つのPMTしか測定ができず、測定する際に必要な個々のPMTの制御電圧を手入力する必要があった。さらに、レーザー強度を手動で変更する必要があったために、オペレーターの作業可能時間で、計画が律速してしまっていた。
 そこで、事前性能評価の測定システムの再構築を行った。一度に4つのPMTの測定、レーザーの強度の自動変更、測定リトライと電圧の自動記入などを実装し、作業者の習熟度によらず測定できるように改良を加えた。本講演では、開発したシステムについて発表を行う。

 

講演a-13: IceCube-Gen2実験の新型光検出器の製作とその結果

講演者名: 笠井 勇次郎、所属: 千葉大学、学年: M1

IceCube実験は南極点の氷河を利用し高エネルギー宇宙ニュートリノをとらえるプロジェクトである。そのアップグレード計画として現在の検出体積の約8倍の領域に検出器を埋設するIceCube-Gen2実験がすすめられており、そのための新型光検出器の製作を行っている。従来の実験で使用されている光検出器は検出部のPMTが1つで下向きに搭載されているが、検出領域を広げるにあたって検出器同士の間隔が広くなり1つの検出器に対する検出効率を上げる必要がある。そのため新型光検出器では上半球下半球各9台計18台搭載することにより、従来の4~5倍の感度を実現することができる。PMTの増加で製作工程は複雑になるものの、2023年度には新型光検出器のプロトタイプとして2台製作し、組み立て手法を確立させた。さらに今年度中に10台の実機の量産を予定している。また製作した検出器を用いて-40℃の冷凍庫で検出器内の各PMTの1光子あたりの増幅率を調べるgain測定、光が照射されていない暗室での信号検出頻度を調べるdark rate測定を行った。特にガラス球内部で放射性崩壊が起こることによって引き起こされるdark rateはPMT同士で相関があることが考えられ、物理の性能を悪化させる可能性が高い。本研究では、検出器を実地で使用する前の品質検査を徹底的に行い、得られる物理成果を最大化することを目指す。

 

講演a-14: XRPIXによる低バックグラウンドの硬X線分光観測について

講演者名: 上村 悠介、所属: 京都大学、学年: M1

 ここ数年の研究で、超新星は爆発前の数日以内に大規模な質量放出を起こし、吐き出された物質(CSM)が爆発時に星周を取り囲んでいるらしいことが分かってきた。超新星のCSM構造は親星の質量放出を反映しており、CSM構造を観測から推定できれば、不明な点が多い爆発前の不安定な質量放出の描像を制限することが出来る。
 爆発衝撃波により加熱されたCSMの領域は広い帯域でX線を放射する。私は超新星のX線観測データを系統的に解析し、吸収量、光度の時間変化からCSMの密度構造を推定した。しかし爆発後数日間の状態を捉えた観測は僅かであり、爆発直前に放出されたCSMの構造が把握できていない。また初期の超新星からの放射は外側の厚いCSMによる吸収と高い温度のため硬X線成分が卓越するが、従来のX線CCDでは~10 keV 以上の帯域で非X線バックグラウンド(NXB)が大きいため、近傍で見つかった場合でなければ硬X線成分の検出は難しい。
 私が現在開発に携わっているXRPIXでは低バックグラウンドの軟X線ー硬X線分光を目指している。XRPIXは~10 μs という従来のX線CCDに比べ5桁細かい時間分解能を有している。~10 keV 以上の帯域ではNXBが~1 ms の頻度で望遠鏡外から入射するため、これを検出器シールドと検出器で同時検出し弁別する際に、XRPIXの高い時間分解能が必要となる。またXRPIXは、他天文台との連携により突発天体が現れた箇所を0.3ー80 keV の広帯域で即座に観測するCHRONOS(仮称)ミッションでの検出器候補となっている。CHRONOSによって初期の超新星のスペクトルが得られれば、爆発直前の質量放出の様子が明らかになると期待されている。
 本発表では超新星の光度変化から推定したCSM構造と、XRPIXを用いた硬X線検出について説明する。

 

講演a-15: 1.85m 電波望遠鏡による 3 帯域同時観測に向けた準光学系バンドパスフィルターの開発

講演者名: 河本 琉風、所属: 大阪公立大学、学年: M1

私が所属する電波天文学研究室では、星形成過程の解明という目的のもと研究を行なってきた。我々の研究室が所有する1.85m電波望遠鏡ではこれまで、CO同位体(12CO,13CO,C18O)の回転遷移数J=2–1とJ=3–2の回転遷移輝線が存在する210–275GHzと275–373GHzの観測を行ってきた。[1] ここでさらにCO同位体の回転遷移数J=1–0の回転遷移輝線が存在する84–116GHzも追加した合計3帯域の同時観測を目標にしている。導波管限界のため、84−375 GHz という比帯域 (周波数幅/中心周波数)130 %を1つのフィードで供給することは不可能である。そのため、フィルターを用いた準光学的な手法を用いる。つまり、ある周波数よりも高い周波数と低い周波数の光路を透過・反射で分岐させ、それぞれの周波数帯の受信機に導く仕組みである。ここで私は準光学系バンドパスフィルターの開発に取り組んでいる。
 フィルターの種類としてLC回路を用いたフィルターを採用している。六角形の繰り返し構造をしたキャパシティブ層2枚と六角形の格子状をかたどった構造のインダクティブ層1枚が交互に重なったような構造となっており、それぞれは金属でできている。金属の層の間に誘電体と接着シートが挟まっている。この六角形のパラメータの最適化や誘電体の誘電率・厚み、重ねる層数等を最適化することにより、全ての帯域の確保や、入力損失の最小化に取り組んだ。準光学系バンドパスフィルターを作成する手法として、フレキシブル基盤 (FPC: Flexible printed circuits) を用いたため構造の細かさ、誘電率や接着シートの厚みなどはある程度固定されてしまう。よってこの点も考慮し、最適化を行なった。さらに、フレキシブル基盤の会社に依頼して実際に作成した準光学系バンドパスフィルターをベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いて透過特性の測定を行った。
 本公演では電磁界シミュレーションソフトHFSSを用いた準光学系バンドパスフィルターのシミュレーション結果と、実測結果を報告する。

 

講演a-16: CMB偏光観測衛星LiteBIRD低周波望遠鏡用偏光変調器のための低温保持機構の開発

講演者名: 秋澤 涼介、所属: 東京大学、学年: M2

 LiteBIRDは宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測によって、原始重力波由来Bモード偏光を探索することで、インフレーション仮説の検証を目指すJAXA/ISASの戦略的中型衛星2号機である。原始重力波由来のBモード偏光探索には欧州衛星実験Planckのおよそ100倍の感度が求められる。この精密偏光観測を実現するのが「低温偏光変調器」である。低温偏光変調器は、およそ5Kで連続回転する半波長板によって入射偏光に変調をかけて目的信号だけを抽出し、S/N比を最大化することで、観測装置由来の系統誤差を低減する。限られた衛星リソースでこの偏光変調器を運用するには、宇宙機の5K冷却環境下において数 mW の発熱で動作する「低発熱・極低温連続回転機構」が必要である。目標とする低発熱を実現するには、構成部品単体での低発熱化・動作最適化が求められる。
 本発表では偏光変調器の構成部品のうち、低温保持機構に関する低温発熱測定結果を紹介する。この低温保持機構は軌道上において、偏光変調器の回転子保持機構および回転子の熱伝導経路として働く。Kavli IPMUで行った10K以下における発熱測定結果および、モーターへの電流や動作時間の最適化について議論する。

 

講演a-17: CMB偏光観測に向けたアルミナ赤外吸収フィルターのためのレーザー加工によるモスアイ反射防止構造の開発

講演者名: 相澤 耕佑、所属: 東京大学、学年: M2

 宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background; CMB)のBモード偏光観測はインフレーション理論の検証に感度を持つ。それゆえ、多くの観測計画が発見に向けた競争を繰り広げている。これに伴い高感度観測への鍵として、統計感度の更なる向上のため広帯域かつ大スループットのミリ波光学素子の開発が重要な研究課題として認識されている。
 中でも、赤外線を吸収し、かつ熱伝導率が高いアルミナが、観測低温レシーバーへの入熱源である赤外線吸収素子として注目されている。しかし、アルミナはその屈折率(~3)に起因する反射による透過率の低さが課題である。よって広帯域かつ高感度の偏光観測を実現するには、偏光感度への系統誤差を最小限に抑え、かつ低温でもロバストに機能する反射防止構造を開発・実装しなければならない。
 この反射防止技術の確立のために我々は、超短パルスレーザーによるモスアイ反射防止構造の素材表面への直接加工により反射防止を実現し、作製した素子を地上CMB偏光望遠鏡へ実装することで本技術のCMB偏光観測における性能実証を目指す。
 本講演では、地上CMB偏光望遠鏡にて大気の影響を受けない30、125、250GHzの三つの周波数帯用のアルミナ赤外(IR)フィルター用にモスアイ反射防止構造の設計・製造・評価を発表する。この三帯域はそれぞれ、二つのサブバンドに分割され、各30%の比帯域を持つ。三つの帯域別に、パルス幅4 ps、出力40 W、波長1030 nmの超短パルスレーザーを用いてアルミナ表面にモスアイサブ波長構造を加工した。 加工した形状に基づき、予想されるアルミナの誘電損失(誘電正接4.0e-04)を考慮し、合計六つのサブバンド全てに対して97%以上の平均透過率をシミュレーションにより示した。 本講演では特に、透過率性能、体積アブレーション率、モスアイの均一性、構造による擬似偏光生成、CMB偏光望遠鏡実装用モデルへのスケールアップの見通しについて報告する。

 

講演a-18: CMB偏光観測衛星LiteBIRD低周波望遠鏡偏光変調器のための低温回転機構の開発

講演者名: 岩垣 大成、所属: 東京大学、学年: M1

 宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background = CMB)は宇宙の晴れ上がり時に直進できるようになった光が黒体放射として現在も観測できる宇宙最古の光である。CMBのBモード偏光を精密に観測することで宇宙誕生時に急激な空間の膨張があったとするインフレーション仮説を検証できる。この仮説では、インフレーションによって生み出される原始重力波がCMBにBモードと呼ばれる特殊な偏光パターンを生成すると考えられている。現在、JAXA/ISASが中心となってこのBモード偏光観測に特化した人工衛星計画LiteBIRDが進められている。LiteBIRDの科学目標は原始重力波強度に相当するパラメータであるテンソル・スカラー比の誤差δr < 0.001の観測精度を実現することである。  Kavli IPMUではLiteBIRDの低周波望遠鏡に使われる偏光変調器の開発をしている。これは観測対象であるCMBの偏光が観測システム由来の1/fノイズに埋もれないために、入射偏光を半波長板で回転させることで変調する装置である。感度向上に鍵となる装置である一方で、検出器へ寄与する熱ノイズを低減するために望遠鏡自体を約5Kの低温に保つ必要があり、衛星環境にて限られた冷凍能力の中でその性能を実現する技術的課題がある。この偏光変調器の低発熱化を実現すべく、現在各装置の改良・回転時の発熱量の算出を目的とした低温環境下での回転試験を行なっている。本講演では、この回転機構の構造と現在得られている結果と課題、今後の計画について報告する。  

講演a-19: CMB偏光観測のための低温光学測定系の開発

講演者名: 井澤 拓海、所属: 東京大学、学年: M1

現代宇宙論ではビッグバンと呼ばれる初期宇宙の状態から始まったことがわかっている。この描像を確立する上で大きな役割を果たしたのが、特にビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background = CMB)の詳細観測である。
現在、現代宇宙論では解決できない問題を一挙に解決すべく、初期宇宙にて指数的な膨張があったとするインフレーション仮説が提案されている。この仮説はCMBの偏光観測により検証が可能であり、この科学目的に特化したJAXA/ISASのLiteBIRD計画はESA Planck衛星計画後の世界唯一の次世代CMB観測衛星計画である。
LiteBIRD 衛星に搭載予定の望遠鏡用偏光変調器はサファイアを用いた半波長板(Half-Wave Plate; 以下HWP)を連続回転させることにより入射偏波を変調する。微小偏波を観測するために、光学素子は冷却される必要があり、結果として冷却環境でのミリ波光学素子の評価が必須となる。しかし、実験室にて5K程度でのミリ波光学測定を行う測定系は未だ構築できていない。
本講演では、液体窒素温度でミリ波光学素子の透過率を測定する測定系の構築について測定結果の現状を発表する。特に、測定系内で生じる定在波を抑えて透過率測定を行い、屈折率や誘電損失を導出する工夫について説明する。また、さらに5 K程度の温度環境での測定計画についても議論する。

 

講演a-20: 宇宙重力波望遠鏡におけるバックリンク干渉計の開発

講演者名: 大熊 悠介、所属: 東京大学、学年: M2

 宇宙重力波望遠鏡DECIGOは日本が進める将来の宇宙重力波望遠鏡である。DECIGOは互いに1,000km離れて編隊飛行する三台の衛星からなり、この三台がファブリペロ干渉計を構成する。ファブリペロ干渉計はレーザー光を共振することで、重力波に対して高い感度を実現できるという強みを持つ。一方で1,000kmに及ぶ衛星間ファブリペロ干渉計においてレーザーの共振を維持することが課題となっている。これまでに衛星軌道を制御することで共振状態を維持する手法が考案されている。しかし衛星間の距離を数10 nmの精度で制御する必要があり、実現は容易ではない。この課題の解決を目指し、バックリンク干渉計が考案された。本手法は一台の衛星に二基のレーザーを搭載し、レーザー周波数を制御することで共振状態を維持する。これにより問題となっていた衛星軌道の精密制御を克服することができ、ファブリペロ干渉計を用いた宇宙重力波望遠鏡の実現に近付くことができる。
 本研究はバックリンク干渉計の実験実証を目標としている。具体的には、疑似重力波信号を用いて本手法を用いた重力波信号の取得が可能であることを実証する。本講演ではバックリンク干渉計のシステムを説明した後、現在までの実証実験の成果を報告する。

 

講演a-21: トモグラフィー補償光学における波面推定の開発に向けた波面再構成手法の検討

講演者名: 田邊 ひより、所属: 東北大学、学年: M1

 補償光学は地球大気を通ることで乱れた光の波面を観測し、可変鏡などを用いて波面を補正することで地上望遠鏡による観測の空間分解能を向上させる光学技術のことである。その際レーザーガイド星(LGS)などを用いて波面の乱れを測定するが、1つのLGSのみを使用する場合は無限遠にある天体と有限の高さにあるLGSの通る光路が異なることにより補正の精度を減少させるコーン効果が生じる。これを改善するために考案されたのがLTAO(Laser Tomography Adaptive Optics)であり、4つのLGSを用いて通る光路の差を埋め、トモグラフィー推定法を使用し波面乱れを推定することでコーン効果を軽減することができる。このトモグラフィーを行うには、波面センサーで測定したスポットの位置ずれから波面の再構成を行うことになる。その際逆問題を解く必要があるが、同時に波面上でワッフルのような模様が生じるwaffle-modeが擬似的に現れることには注意が必要である。これを踏まえた上での逆問題の解き方は2通り存在する。1つ目はwaffle-modeを抑制するフィルターを付け加えた上で最小二乗法や特異値分解を用いて逆問題を解く方法であり、2つ目は最小分散推定を用いて大気モデルやノイズの統計性質を計算に含むことでフィルターを付け加えることなく逆問題を解く方法である。
 本研究では、すばる望遠鏡においてシャックハルトマン波面センサーを用いて観測したデータを使用し、位相構造関数を用いることで再構成する際の手法を比較評価した。地球大気はKolmogorovの大気モデルに従うことが期待されており、この時の位相構造関数の傾きの理論値は1.667となる。この値に対して再構成手法の比較を行なった結果、最小二乗法と特異値分解でラプラスフィルターを作用させた時の傾きが1.753となり最も近い値を取った。また手法の比較に加えて模擬光源系に位相板を取り付けて測定を行うことで、観測結果がKolmogorovの大気モデルに従うかの確認も行う。これらの結果を踏まえて最適な波面の再構成手法について考察をする。

 

講演a-22: 赤外全天雲モニタの開発

講演者名: 小嶋 拓斗、所属: 京都大学、学年: M2

 天文学の研究で望まれている「望遠鏡を用いた天体観測の完全自動化」には、雲の監視が必要不可欠である。京都大学の保有するせいめい望遠鏡では人が目視で天候を判断するのに可視光の雲モニタを使用しているが、これは月光や街明かりの影響を受けるため自動観測には適さない。そこで、雲の熱放射を検出するため自動観測に適した中間赤外線の雲モニタ導入が望まれる。しかし、従来の赤外全天雲モニタは高価なゲルマニウムの魚眼レンズを用いたり、あるいは全天をカバーできないなどの欠点を抱えていた。本研究ではこれら欠点を克服した雲モニタの開発を進めている。採用した方式は、複数の廉価な市販の赤外カメラの画像を統合し、全天をカバーするというものである。
 まず、試作機としてカメラ1つを制御し一枚の画像を読み出してwebページに表示するシステムを開発した。次に、この試作機を用いてカメラの歪曲を測定し、正確な視野形状と、画像の統合に必要な歪曲の補正量を得た。この結果をもとに、カメラ12個で全天をカバーする配置を設計した。高額なGe製の光学窓のサイズを抑えつつ気密する方法としては金属の「窓枠」にGe窓を接着する方法を検討しており、天文台のある岡山の気温条件下で接着剤が10年間耐用することを加速試験によって確認した。
 現在は1つのマイコンで6つのカメラを制御するシステムの開発、温度変化による窓と窓枠の接着の剥がれがないかを評価する温度サイクル試験、筐体構造・カメラの固定構造・気密構造の設計を進めている。
 本講演では以上の開発・実験の詳細と今後の展望について述べる。

 

講演a-23: Lobster Eye Optics を用いた広視野光学系のアライメント実証

講演者名: 安藤 慶之、所属: 金沢大学、学年: M1

HiZ-GUNDAMは、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バースト(GRB)を高感度の広視野 X 線モニターにより観測する人工衛星である。これによって観測されたGRBから初期宇宙や重力波源の探索を行う。HiZ-GUNDAMに搭載する広視野 X 線モニターには、Lobster Eye Optics (LEO)と呼ばれるガラス製のX線光学系と 2次元イメージセンサを用いたシステムが検討されている。この検出器は、0.4–4.0 keV の軟X線帯域において、約 0.6 ステラジアンの視野を 10^−10 erg/cm2/s (100 秒間露光) の感度で監視し、入射 X 線の到来方向を目標精度 < 3 arcmin で決定する。広視野 X 線モニターは、9 枚の LEO で 1 台の検出器を構成し、合計 16 台の検出器を配列することで目標視野を実現する。しかし、LEO には製造時に生じた焦点距離のばらつきが存在するため、個々の素子のアラインメント調整が必要となる。本研究では、広視野Xモニターのプロトタイプとなる光学フレームを用いて、複数のLEOで結像位置が合うようにLEOの位置を調整し、そのアライメントの再現性の確認・検証を行なった。また、X線ビームの平行度が高い宇宙研の 30 m X線ビームラインを用いて、アライメント評価後の結像性能や角度応答の評価を行った。本発表では、広視野X線モニターの試作フレームを用いて、LEOのアライメント実証を行った結果を報告する。  

講演a-24: 将来衛星計画HiZ-GUNDAMのためのFPGAベースのpnCCDドライバ&読み出しシステムの設計と開発

講演者名: 今度 隆二、所属: 金沢大学、学年: M1

ガンマ線バースト(GRB)は、10^52~10^54 erg程度のエネルギーを数十ミリ秒から数百秒かけて放出する宇宙で最も明るい爆発である。HiZ-GUNDAMは、GRBをプローブとして初期宇宙を探査する将来の衛星ミッションである。ロブスターアイ光学系(LEO)と焦点面検出器からなる広視野X線モニターを利用し、GRBの検出と方向決定を行う。PNSensor社製のpnCCDイメージセンサは、高速読み出し、大面積の撮像、高感度を持ち、55mm×55mm以上の撮像領域、10fps以上のフレームレート、100umの画素サイズなど、HiZ-GUNDAM衛星に必要な条件を満たしている。
そこで、我々はpnCCDの電荷転送信号を生成するpnCCD Driver基板、ASICからのアナログ信号をデジタル信号に変換するADC基板、各基板の制御信号を生成するFPGA基板で構成されるpnCCD駆動・読み出しシステムを開発した。しかし、この読み出しシステムには複数の電圧源が必要である。以前の読み出しシステムでは、これらの電圧源を安定化電源から供給していたが、現実的ではなかった。そこで、FPGAによって制御され、少数の電源から必要な電圧を生成・供給できる電源供給基板を開発し、検出器システムのコンパクト化を実現した。本講演では、開発した電子基板の紹介と性能評価を行い、新たに構築した読み出しシステムを用いたpnCCD駆動実験の結果について説明する。

 

講演a-25: X線分光撮像衛星XRISM搭載 軟X線撮像検出器(SXI)の軌道上における検出感度の評価

講演者名: 樋口 茉由、所属: 東京理科大学、学年: M1

 我々は、2023年9⽉に打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISM搭載の、軟X線撮像検出器(SXI)の性能評価を⾏っている。SXIは4枚の裏⾯照射型の X線CCDからなり、200umの厚い空乏層を持つことで、0.4-13keV の広エネルギー帯域で⾼い検出感度を実現している。
 しかし、X線CCDは紫外線や可視光線にも感度があるため、それらを遮光する必要がある。そこで、可視光線を遮光する⽬的でCCDのX線の⼊射⾯に厚みが230nmのアルミニウムを主成分とする可視光遮光層(OBL)を蒸着している。2015 年まで観測を続けていた Suzaku 衛星搭載のX線CCD検出器(XIS)では、衛星内部のコンタミ物質が、X線CCD⽤の可視光遮光膜(OBF)に付着したことで、1keV以下の軟X線帯域のCCDの検出感度が低下した。そこでXRISM 衛星のSXIでは、コンタミ物質が付着することを防ぐことと、紫外線の遮光の両⽅の⽬的で、ポリイミドの両⾯にアルミニウムを蒸着したコンタミネーション防⽌膜(CBF)を装備している。
 我々は、XRISM搭載SXI⽤CCDの打ち上げ前段階における検出効率の評価実験を、KEKの放射光施設(KEK-PF)で⾏った。その結果、O-K 輝線(525eV)付近のCCD単体の検出効率が65%、CBFのX線透過率は52%、合わせてSXIの検出効率が34%という結果を得た。
 現在、地上の評価実験から求めた SXI の検出効率が軌道上と同等であるかを確認するために、軌道上の観測データを⽤いて評価を進めている。また、CBFによるコンタミ防⽌の機能が⼗分に果たせているか確認することも⾏っている。これまでの解析により、光軸上のコンタミ物質の付着量を⾒積もった結果、増加の傾向は⾒られなかった。本講演では、以上の軌道上におけるコンタミの評価結果の詳細について報告する。

 

講演a-26: 太陽フレア観測ロケット FOXSI-4 搭載用 X 線望遠鏡の開発 ~光線追跡シミュレーション~

講演者名: 吉田 有佑、所属: 名古屋大学、学年: M1

 我々は世界で初めて太陽フレアの X 線撮像分光観測を実施した日米共同太陽観測ロケット実験 FOXSI-4 搭載用の X 線望遠鏡の開発を行ってきた。FOXSI-4 は太陽物理学の長年の謎であるコロナ加熱問題に一石を投じるため、フレアに伴うエネルギー解放やプラズマの加熱過程について探ることを科学目標に掲げている。本ミッションで我々は軟/硬X 線望遠鏡を各々1 台ずつ製作し、搭載品の地上較正試験を実施した。結果、12 keV にて広がった天体に対する感度の指標である HPD は欧米の大型 X 線天文衛星の搭載品に匹敵する ~16 秒角、点源の分解能力の指標である FWHM は世界最高レベルの ~1 秒角を達成した (Yamaguchi et al., Rev. Sci. Instrum., 2023)。FOXSI-4 は 2024 年 4 月 17 日(UCT)、M クラスフレアの発生に伴い無事に打ち上げられ、観測に成功した。このように、我々は国産高結像性能X線望遠鏡を国際ミッションに搭載するという日本の X 線天文学分野では初の偉業を成し遂げた。
 地上較正試験で得られた離散データに対する内挿/外挿処理を行い、科学成果創出に必須となる応答関数を構築するため、我々は独自の光線追跡シミュレータの構築を進めている。様々なエネルギーや入射角の X 線に対する結像プロファイルは、太陽フレアの形状や輝度分布を調べるために重要となるため、本シミュレータを用いた結像性能のモデル化を初めて試みている。我々は結像性能劣化の主要因として反射鏡の母線方向形状誤差に着目し、これにより生じる反射角の理想値からのずれを本シミュレータに実装した。このずれの分布として正規分布とコーシー分布を採用し、光軸光に対する実測値のHPDを再現するようにパラメータの最適化を行なった。結果、正規分布では大散乱角で予想値が実測値を大きく下回ったが、コーシー分布では大散乱角でも再現性が高く、動径方向プロファイルは 40 秒角まで数 10% の精度で実測値と一致した。現在は非光軸光に対する最適化を行い、パラメータの非光軸角依存性を調べている。本発表ではこれらの詳細について発表する。

 

講演a-27: 高温塑性変形技術を用いた湾曲Siブラッグ反射型偏光計

講演者名: 石牟礼 碧衣、所属: 東京都立大学、学年: M1

宇宙X線観測において偏光は撮像・分光・時間変動と並ぶ第四の観測手段になると期待されている。X線偏光の観測によって、磁場を介したシンクロトロン放射を用いて磁場の情報を得る、あるいはブラックホール周辺におけるコンプトン散乱を通じて降着円盤について調べること等が可能になり、高エネルギー宇宙現象の理解が格段に深まると同時に新たな現象の発見に結びつくと考えられる。近年、X線偏光観測衛星 IXPE が2021年に打ち上げられる等、偏光観測は活発化しており、さらなる発展が期待される。
我々は将来のX線偏光観測を目指して、ブラッグ反射を用いた独自の偏光計を開発している。Si結晶のブラッグ反射を利用する手法であり、従来の平板結晶を用いる手法では、偏光測定能力を示すM値は理論上100%近くが達成出来るが、検出可能な波長帯域は狭く、ブラッグ条件を満たす特定の波長のみであり、集光も簡単ではなかった。そこで我々は平板のSi結晶を自由に湾曲させる高温塑性変形技術を活用することで、高いM値は維持しつつ集光可能であり、かつ湾曲によって反射角度を変えることで波長域を広げる手法を考案した。そして高温塑性変形によって球面変形させた試作結晶を用いて世界で初めてX線偏光の検出を確認した[1-2]。
私はこの開発をさらに進めるべく、2つの異なる波長のX線を湾曲Si結晶に当て、ブラッグ反射角の違いによる集光と、オフプレーンにわざと検出器を配置することで結像位置から分光が可能であることを確認することを目的とした。実験はJAXA 宇宙研 30 mビームラインを用い、湾曲Si結晶に対して Fe Kα1 6.404 keV, Kα2 6.391 keV を照射し、結晶に対して2θすなわち約90°傾いた場所にCMOS検出器を配置して集光像を取得した。その結果、2本の輝線に対応する位置に偏光X線像を取得することに成功した。これは本手法で世界で初めてである。本講演では本手法の原理と実験について述べる。

[1] 内野修論, 東京都立大 (2021)
[2] Y. Ueda, et al., “Development of Bragg reflection-type X-ray polarimeter based on a bent silicon crystal using hot plastic deformation”, Proc. SPIE, 12181, 12181100, (2022)

 

講演a-28: 湾曲Si結晶を用いたブラッグ反射型偏光計の分光性能評価

講演者名: 菅井 春佳、所属: 中央大学、学年: M1

太陽フレアでは、磁気再結合をきっかけとして、まずは粒子の加速が起こると考えられているが、未だその現場は十分に理解されていない。しかし、並進運動をする電子がプラズマ中に突入すると偏光した輝線が生じ、そこから電子加速の有意義な情報が得られると考えられる。
我々は、中性FeおよびFeイオンの輝線群(6.4 – 6.9 keV)を含む連続帯域(5.5 – 8.1 keV)に感度を持つ、Si(100)結晶と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いた回転放物面状の反射鏡(ParaDAXAS)、およびX線イメージセンサ(CMOS)から成るブラッグ反射型X線偏光計を開発している。偏光能力を表すM値はこの輝線群の帯域でほぼ1となっており、高い偏光検出能力を持つ。また、CMOS センサをあえて焦点からずらすことでエネルギーごとの検出位置を変化させ、高い分光能力も狙っている。
現在はCubeSatへの搭載を目標として、2 U(10 cm立方 × 2)に収まるサイズの反射鏡を作成している。Fe-Kα1(6403.8 eV)とFe-Kα2(6390.8 eV)をターゲットとして分光実験を行ったところ、Fe-Kα1におけるエネルギー分解能は反射鏡の焦点からCMOSまでの距離dを用いてΔE = (2.92 + 236.5 / (d [mm])) [eV]、実用時(d = 80 mm)ではΔE = 5.9 eVという結果を得た。これは、現在稼働中の XRISM/Resolve と同等の分解能といえる。
本講演では、分光実験の詳細を報告する。

 

講演a-29: ISS から観測する大気透過 CXB を用いた大気密度測定の精度見積もり

講演者名: 岸本 拓海、所属: 近畿大学、学年: M2

高度100 km付近の超高層大気は、地球における気候変動や地震・火山などの影響を受ける一方、太陽からも影響を受けるため重要な研究対象である。しかし、人工衛星や気球によるその場観測が困難なため、観測データが乏しい。そこで我々は、超高層大気を専門に測定する観測装置SUIMを開発している。SUIMは、我々が独自に開発しているSOI-CMOSイメージセンサとコリメータを組み合わせることで、超高層大気を透過した宇宙X線背景放射(CXB) が受ける吸収を高度毎に測定し、大気密度を測定する。2025年ごろに国際宇宙ステーションの進行方向の曝露部に搭載し、地球の水平線方向を半年間観測する計画である。
本研究では、CXBの統計量と、非X線バックグラウンド (NXB) との比較という観点でSUIMにおける大気密度測定のフィジビリティスタディを行った。荷電粒子バックグラウンドに起因する検出器のデッドタイムと、ISS の姿勢に起因する視野のゆらぎを考慮すると、CXBの有効観測時間は全曝露時間の約70%であり、半年間で得られるCXBの統計量は1ピクセル当たり1photonと見積もられた。また、SUIMの受光面積あたりのNXBを、検出原理の近いひとみ/SXI と同程度と仮定すると、3-10 keVにおけるCXBはNXBレベルの21.5%であった。以上の結果から、SUIMで得られる半年間のCXBの統計量としては、高度15 km毎に大気密度を測定することが可能ではあるが、実データに基づくNXBの見積もりが必要不可欠であることがわかった。

 

講演a-30: 宇宙X線による超高層大気の密度測定に向けたコリメータ開発

講演者名: 桒野 慧、所属: 近畿大学、学年: M1

高度100 km付近の超高層大気は、地球温暖化により密度変化するなど、気候変動を予測する上で重要な研究対象である。我々は、国際宇宙ステーションから、宇宙X線背景放射 (CXB) の大気減光を観測して高度100 km付近の超高層大気の密度を測定する計画SUIMを進めている。独自に開発しているSOIピクセル検出器 (SOIPIX) を搭載し、コリメータと組み合わせることで高度毎の密度分布を測定する計画である。本研究では以下の5つの要求を満たすようコリメータの設計を行った:(1) ペイロードの大きさの制限から、コリメータの高さは20 mm以下、(2) 高度60~150km の超高層大気を観測するため視野は6.7°×38°、(3) 高度13.5 km毎に密度を測定できるよう、SOIPIXの1ピクセル (36 μm四方) あたりの視野 (空間分解能) は0.34°、(4) コリメータの隣合うスリットへ10keVのX線が透過してしまう割合は0.01%以下、(5) SOIPIXを搭載した基板とコリメータ間の、熱膨張による相対位置のズレは1ピクセル以内。3DーCADを用いてこれらの要求をすべて満たすコリメータを設計し、それをもとに試作品を製作した。

 

講演a-31: GEO-X 衛星用 MEMS Wolter I型望遠鏡の開発

講演者名: 小笠原 勇翔、所属: 東京都立大学、学年: M1

我々は MEMS 技術を用いた X 線望遠鏡の開発を進めている。直径10 cm、厚さ 300-500 µm の Si 基板にドライエッチングで微細穴を開け、側壁を反射鏡とする。そのままではX線を反射させるのに必要な表面粗さ(~1 nm rms @ 1-10 μm スケール)が難しいため、高温水素アニールによって反射面を平滑化し、形状精度を上げるため両端の盛り上がりを研削研磨で取り除く。宇宙からの平行X線を集光させるために高温塑性変形によりSi 基板を球面に変形し、反射率向上のため重金属である Pt を成膜する。最後に 2 枚の曲がった Si 基板を組み立てることで MEMS X線望遠鏡の完成となる。基板が薄いため原理的に世界最軽量のX線望遠鏡を実現できる。
我々は第二十五太陽周期に合わせて打ち上げを目指す地球磁気圏X線撮像衛星GEO-Xへの本望遠鏡の搭載を目指して開発を進めている[1]。4インチのSi 基板をほぼ全プロセスインハウスで加工して、焦点距離25 cm、視野φ5 deg、広がった放射への感度指標である Grasp 10 cm^2 deg^2 @ 0.6 keV を達成する小型望遠鏡とする。GEO-X では月付近の高度(~30-60 RE)からの俯瞰的な観測で磁気圏からの電荷交換X線を観測して、まだ誰もみたことがない磁気圏のX線像を取得することを目的としている。基板はJAXA 宇宙研のドライエッチング装置、東北大のアニール装置、都立大の変形装置、産業技術総合研究所の膜付装置等を用いて製作し、JAXA 宇宙研30 mビームラインで組み立てる。我々は光学系のフォトマスクデザインを改良することで組立手法の大幅な効率化を図り、実際に試験して確かめることができた[2]。本講演では本MEMS X線望遠鏡の製作プロセスと特に組立手順の最近の改良について報告する。

[1] Ezoe et al., 2023 J. Astron. Telescope Instrum. Systems, 9, 034006, 2023
[2] 関口修論、東京都立大、2023

 

講演a-32: MEMS 技術を用いた Wolter I 型望遠鏡の熱耐性の検証

講演者名: 宮内 俊英、所属: 東京都立大学、学年: M1

我々は地球磁気圏 X 線撮像衛星 GEO-X (GEOspace X-ray imager)[1] への搭載に向け MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 技術を用いた超軽量な Wolter I 型 X 線望遠鏡の開発を進めている。この望遠鏡は 300 μm 厚の Si 基板に、幅 20 μm の微細穴を同心円状に形成し、その側壁を反射面として利用する。高温水素アニールにより側壁を平滑化し、高温塑性変形により Si 基板に曲率を持たせ、原子層堆積により Pt を膜付けする。最後に曲率の異なる2 枚の基板を重ねることにより、Wolter I 型望遠鏡とする。
望遠鏡は宇宙空間での軌道遷移中に想定される熱環境への耐性を持つことが必要である。そこで我々は GEO-X 衛星の投入軌道候補である High Earth Orbit への軌道遷移中で想定される熱環境への耐性の検証のために熱構造モデル (STM) を製作した。
熱サイクル試験は 2023年11月に外部設備で実施した。その結果、試験前後で基板の外観に目視で変化はなかったが、レーザー顕微鏡による形状測定の結果、性能に影響を及ぼしうる歪みが生じてることが分かった。この原因として我々は、(1) 熱サイクルによる接着剤の膨張収縮に伴う変形、(2) 測定時に取り付けた熱電対の作業時の変形、(3) 接着剤の硬化時間が不十分であったための変形を考え、これらを検証することとした。そして新たに 3つの STM を製作し,その際に合わせて新たな構造的な改良を加えることで変形がおきにくい設計も試すこととした。本講演では軌道上で想定される温度範囲の見積もり、熱サイクル試験の詳細、そしてこの新しい STM を用いた検証結果について紹介する。

1. Y.Ezoe, et al., JATIS, 9, 034006, 2023
2. 東京都立大学 村川修士論文 2023 年

 

講演a-33: Wolter I型反射鏡における可視光評価システムの開発

講演者名: 康 哲洙、所属: 愛媛大学、学年: M1

 ブラックホールの周りなど高エネルギーの領域からはX 線が放射されていると考えられており、そのX 線を精密に観測できれば詳細な物理現象の解明ができると考えられている。そのためには、集光力と分解能が高いX 線望遠鏡が必要となるが、両者を備えた望遠鏡は今のところ開発されていない。そこで我々は、放物面(P 面)と双曲面(H 面)での2回反射によって集光を行うWolter I 型の反射鏡を用いたX 線望遠鏡の開発を行っている。X 線を用いた望遠鏡の性能評価は宇宙科学研究所などの設備の整った場所で行っているが、利用できる機会が限られているため、研究室では可視光を用いた簡易評価を行っている。しかし、簡易評価では、反射鏡全体の反射像を一度に取得しているため、結像性能を悪化させている箇所の特定が難しく、また、X 線の測定結果との比較が困難であった。
 そのため本研究では、可視光を用いた簡易評価において測定される可視光像から性能悪化を招いている箇所を特定する為の装置の改良と解析ツールXTENSoft(X-ray Telescope EvaluatioN Soft)を開発した。装置の改良では、可視光測定台の可視光入射側にスリットを設置し、Wolter I 型反射鏡を格納するハウジングにリングギアを取り付けた。これにより、ハウジングを回転させることが可能となり、反射鏡の特定部分からの反射像の取得に成功した。解析ツールの開発では、反射鏡のP 面とH 面による反射像について光量の重心座標を中心とする画像の縦方向の強度成分をそれぞれ作成し、総光量と重心座標の変動を計算できるようにした。これにより、反射鏡の各位置における結像性能と結像位置の変化を追跡することに成功した。
 本講演では、作成した可視光測定装置とXTENSoft の処理内容を紹介し、得られた測定結果について報告する。

 

講演a-34: ガラスリボンを用いたX線反射鏡の反射率測定

講演者名: 岡野 恭祐、所属: 青山学院大学、学年: M1

広い宇宙においてX線の観測を行うことは、様々な天体現象を解析する上で有効な手段である。
 X線は波長が短く(約1nm 以下)、屈折率も極めて小さいため非常に浅い角度(~1度)の全反射を用いての集光を行う。その際に反射鏡の表面は滑らかである必要があるが、これは表面の粗さと反射率の関係から知られており、また反射面の素材は原子番号が大きい方が反射率は高くなるため重金属が用いられる。X 線望遠鏡はこのミラーを同心円上に配置して集光を行い、検出器面上で像を結ぶ。我々はX線反射鏡の素材としてリボン状に成形されているフロートガラス(ガラスリボン)に着目した。ガラスリボンは表面が極めて滑らかである上、曲げやねじりに強いため集光系の形状作成の自由度高い。そこで、これを利用して細長いリボンを円錐形に配置することで、高い反射率を持つミラーをつなぎ目なく何層にも渡って製作できると期待される。
 本研究ではガラスリボンに重金属の薄膜を付着させることで、X線反射鏡を試作し、性能評価を行った。ガラスリボン上のX 線反射鏡成形にはスパッタ法を用いた。幅 15.0mm、厚み 45μmのガラスの表面にタングステンの薄膜を生成し鏡面を作成した。この鏡面において入射角を徐々に変えながら反射率を測定し、ガラスリボン鏡面の粗さを評価した。
 本発表ではX線反射鏡の開発方法および性能評価について報告する。

 

講演a-35: 展開可能な軸外し望遠鏡の支持構造設計

講演者名: 河合 優樹、所属: 京都大学、学年: M2

 我々は、自由曲面鏡を用いた軸外し望遠鏡の開発を行っている。この望遠鏡は口径500mmで視野直径4度の3枚鏡光学系をもつ。自由曲面を用いることで視野と解像度を両立している。
 超広視野であることを生かして宇宙望遠鏡への応用を考えているが、軸外し光学系は鏡の軸が一致している通常の光学系と比べて断面積が大きい。これは、同じ打ち上げ能力の下で有効口径が小さくなることを意味する。この問題を解決するため、今回の研究では展開機構をつけた支持構造を開発した。この構造を用いれば、3枚ある鏡のうち1枚を残り2枚の方に折り畳んでコンパクトに打ち上げ、宇宙空間で展開することが可能となる。
 また、本来の光学性能を発揮するため、組立精度として位置は100㎛、向きは0.01度のオーダーの精度が要求される。そこで、複数の1軸ステージとシムを使って10㎛単位で鏡位置を調整可能な機構を開発した。各鏡の縁上の4点と鏡をのせる板上の3点の座標をレーザートラッカーで測定して位置や姿勢を修正、最終的にオートコリメーション法と合わせて位置合わせを行う。また、その鏡同士の位置関係を維持するため、トラス構造を採用して比較的軽量ながら変形しにくい支持構造を実現した。さらに、展開した際に格納前と全く同じ位置に戻るように、ベアリングを用いた回転軸と平面-球面の点接触による位置再現性の高い展開機構を開発した。
 講演では支持構造の設計と鏡の位置調整方法、精度について説明し、実際の作業を通じて得た知見を共有する。

 

講演a-36: 引きずり三点法による大口径鏡の計測誤差の調査

講演者名: 坂本 和樹、所属: 京都大学、学年: M1

 大口径鏡の形状計測手法として、従来より干渉計を用いた手法が活用されているが、口径に比例して装置が大型化するほか、被験面意外に参照面を必要とするという問題を抱えている。これに対し、我々の研究室では、距離センサーを3つ使用する引きずり三点法という新たな形状計測手法を提案し、検証している。引きずり三点法では、10 mm間隔でセンサー3本を並べた全体で長さ20 mmのプローブを構成し、自由曲面の測定や装置の小型化を達成している。被験面の形状を計測するにあたっては、プローブの長さにわたって被験面の曲率が変化しないと仮定した近似を用い、被験面の設計形状からセンサーの出力の適正値を算出し、実際のセンサー出力との比較を行っている。今回の研究では、この近似が計測結果に与える影響について検討を行った。
 シミュレーション上で、現行の手法での適正値と理想的な条件の下でセンサーが出力する値の比較を行った結果、軸対称の放物面鏡で光軸を通る計測経路では、近似誤差の量は口径とセンサー間隔の比率で決定されることがわかった。具体的には、F2の鏡であればセンサー間隔が口径の3%程度、F3ならば5%程度が近似誤差量を許容値(30 nm)内に収める最大のセンサー間隔となり、1m程度以上の口径があれば、現行のセンサー間隔でも問題なく計測できていることがわかった。現在、上記以外の計測経路や双曲面鏡に対しても同様の検証を行っている。今後、センサーの位置ずれれなどによる計測結果への影響なども調査し、引きずり三点法から発展して可変形鏡などにも対応できる非接触型の三点法の開発に取り組む。

 

講演a-37: TAO望遠鏡用近赤外線2色同時多天体分光撮像装置SWIMSの開発

講演者名: 藤井 扇里、所属: 東京大学、学年: M1

 TAO望遠鏡は東京大学理学系研究科付属天文学教育研究センターがチリのチャナントール山(標高5640m)に建設している口径6.5mの望遠鏡で、2025年から運用が予定されている。この望遠鏡は世界一標高が高く乾燥した環境に設置され、大気中の水蒸気量が極めて少ないため、大気中の水蒸気による吸収によって既存の地上望遠鏡での観測が難しい赤外線波長域の観測が可能である。近赤外線波長(0.9 ~2.5μm)を連続的に、さらに中間赤外線波長を約40μmまで観測できる。
 SWIMS(Simultaneous-color Wide field Infrared Multi-object Spectrograph)はTAO望遠鏡の第1期観測装置の一つであり、近赤外線領域の0.9~1.4μmと1.4~2.5μmの2色の波長域を同時に観測することができる。さらに一度の露光で上記の波長域での広い視野(φ9.6’)の撮像観測もしくは多天体分光観測が可能である。
SWIMSは、主に分光用スリットマスク交換機構(MOSU; Multi Object Spectroscopy Unit)、冷却光学系および検出器とそれらを真空冷却下に保持するメインデュワー、その他装置を支える構造からなる。さらに、MOSUはスリットマスクを収納するマスクデュワー、スリットマスクを設置する焦点面デュワー、スリットマスクをマスクデュワーの中から焦点面へ運ぶマスク交換機からなる。
 SWIMSは2018年からハワイにあるすばる望遠鏡で機能評価試験観測を行ったのち、2022年にかけて共同利用観測に供された。その後、日本に輸送されてTAO望遠鏡に設置するための改修を行なっており、主に検出器の増設を目指している。さらにTAO望遠鏡のナスミス焦点に取り付けられるため、MOSUの焦点面が重力方向と平行となり、マスクを設置する際に落下する問題がある。現在、これを改善するための作業を行なっている。具体的にはマスクの焦点面に向かって働く力をサポートする迷光防止羽根の改修とマスク設計時のシーケンスの最適化、マスクが重力方向へ落下しないようにマスクを支えるサポートパーツやストッパーの導入を計画している。
 今後はこのMOSUの改修を含むアップグレードを行い、2026年のTAO望遠鏡への設置と運用開始を目指している。
 本発表では、SWIMSの概要と改修計画を紹介するとともに今後の予定について報告する。

 

講演a-38: 次世代赤外線天文観測装置に用いる非球面鏡の鏡面精度測定

講演者名: 石川 あゆみ、所属: 広島大学、学年: M1

 星や惑星の形成と進化を解き明かす鍵を握る原子・分子輝線は赤外線領域に多く存在する。赤外線は地球大気に吸収されやすいため、宇宙空間での観測が有効である。また、赤外線観測は熱放射の影響を受けるため、装置を極低温に効率よく冷却する必要があり、軽量・コンパクトが欠かせない。この実現には非球面鏡が大きな役割を果たすが、非球面鏡の表面形状を保証(測定)することは容易ではなく、極低温下ではなおさら難しくなる。
 本研究は、次世代赤外線宇宙望遠鏡GREX-PLUSやPRIMAの観測装置に搭載される非球面鏡を絶対温度50Kの低温環境下で測定することを最終目標とする研究の一部である。そこで本研究では、まずは常温下において、形状が既知である非球面鏡を用いて、鏡面測定法の確立と測定精度の定量的な評価を目的とする。その達成のために、要求精度の設定と光学シミュレーション、公差解析を基にテストプランの立案を行った。今回は放物面鏡を測定のターゲットとし、CGH(Computer Generated Hologram)とレーザー干渉計とを組み合わせた。CGHは、不等間隔に溝が刻まれた回折格子であり任意の波面を生成することができる光学素子である。イテレーションの結果として、要求精度を達成するために必要な測定手法、各光学素子と調整・アラインメント精度への要求を導出し、要求を満たす設計解を導いた。本公演では、得られた結果と今後の展望について述べる。

 

講演b-1: MeVγ線観測実験SMILE-3計画にむけた新型ガス飛跡検出器及びトリガーシステムの開発

講演者名: 佐藤 太陽、所属: 京都大学、学年: M1

γ線の中でもエネルギーの低い100 keV – 100 MeVのエネルギー領域は、放射性同位体の崩壊による核γ線を検出可能であり、超新星爆発などによる元素合成の現場や拡散の様子を直接観測できるという点で重要である。しかし、MeVγ線と物質の相互作用はコンプトン散乱が主体である為、到来方向の決定が難しい。また、宇宙空間では観測器本体と宇宙線の相互作用による雑音事象が大量に発生し、その除去が大きな課題となる。このような事情により、現在MeVγ線イメージングは確立された手法が存在しない。
現在我々は電子飛跡検出型コンプトンカメラの開発を行っている。これはコンプトン散乱の反跳電子を検出するガス飛跡検出器と散乱γ線を検出するシンチレータの組み合わせからなる検出器であり、統計手法に頼らない到来方向の決定によって高い角度分解能を実現できるほか、他粒子由来のバックグラウンドを強力に除去できるという強みがある。現在、電波銀河 Cen A や電子陽電子対消滅線の銀河面分布などの科学観測を目的とした気球実験SMILE-3の実施に向け開発を行っている[1]。
現在私は、3軸μ-PIC検出器の性能実証とSMILE-3に搭載するトリガーユニットの開発を行っている。我々はμ-PICを用いたTPCによって3次元ガス飛跡検出器を構成し反跳電子の飛跡を得ているが、3軸μ-PICは電極読み出し方向を3方向に増やすことによって飛跡の不定性を大幅に減らすことができる[2]。また、従来のトリガー方式ではデータ収集レート500Hzで不感時間が20%を超えていた。そこでデータ収集レート1kHzで約3%の不感時間を達成できる新トリガー方式を採用し、数ミリ秒単位で変動するGRBのような天体の観測に対応する [3]。
本発表では、SMILE-3に搭載するETCCシステムの概要と、3軸μ-PICに対応する新型トリガーユニット開発の現状について述べる。

[1] 高田淳史,谷森達,SMILE によるMeV ガンマ線天体探査-MeV ガンマ線天文学の夜明け-,RADIOISOTOPES,vol68,pp865-875,2019
[2] 吉田有良, 修士論文, 2022(京都大学)
[3] 吉川 慶, 修士論文, 2017(京都大学)

 

講演b-2: X線天文衛星搭載用SOIピクセル検出器のX線に対する放射線耐性の評価

講演者名: 藤田 紗弓、所属: 東京理科大学、学年: M1

 我々は次世代のX線天文衛星「JEDI」に搭載するX線半導体検出器「XRPIX」の開発を行っている。XRPIXはSilicon-On-Insulator(SOI)技術を用いて、センサー層(Si)・絶縁層(SiO₂)・CMOS回路層を一体となったモノリシックな構造を持つことが特徴で、200μmを超える厚い空乏層と高速のCMOS回路を同時に実現可能である。これまでXRPIXの開発は、X線CCDと同等まで分光性能を向上させることなどの課題に取り組んでいる。一方、実際にXRPIXを宇宙で使用するには、宇宙空間を飛び交う高エネルギー荷電粒子からなる宇宙線や天体が放射するX線が入射することにより、放射線損傷を引き起こし、分光性能が経時的に劣化する。特に絶縁層内に正の電荷を蓄積するTotal Ionizing Dose(TID)効果の影響が大きく、暗電流の増加やエネルギー分解能の劣化を引き起こすことが知られている。先行研究より、TID効果による暗電流増加の原因は、センサー層・絶縁層界面における空乏化によって界面準位由来の暗電流が増加することが確認されている。したがって、暗電流増加の抑制のためには界面付近の空乏化を防ぐこと、つまり、界面付近の正孔濃度を高くすることが必要である。そこで、TID効果抑制の改良案としてセンサー層にドープした不純物の濃度を上げることが挙げられる。
我々はTCADデバイスシミュレーションを用いて、この改良案の有効性、暗電流値と不純物濃度の関係の確認、濃度変更による懸念点の評価を行った。また、改良案がデザインされた素子にX線を照射する実験を行い、期待した性能が得られているのか検証を行おうとしている。本講演では、その詳細を報告する。

 

講演b-3: ガラスリボンを用いたX線反射鏡の開発

講演者名: 狩野 佑成、所属: 青山学院大学、学年: M2

広い宇宙において、X線の観測を行うことは様々な天体現象を解析する上で有効な手段であり、X線望遠鏡を用いて観測が行われている。一方で、宇宙空間に打ち上げることからX線望遠鏡の軽量化や小型化が課題となっており、これらの解決によって小型衛星へのX線望遠鏡の搭載等が可能になり更なるX線天文学の発展が期待できる。
本研究では、ガラスリボンを用いたX線集光系の開発を行っている。ガラスリボンとはリボン状に成形されているフロートガラスの名称で、素材開発の段階から検討して小型化と軽量化に向けたガラスリボンの利用に至った。ガラスリボンの厚さは非常に薄く軽量化が見込める。加えて、表面が極めて滑らかでねじれや曲げに強いことから集光系の形状作成の自由度が高く、円錐形に巻いて配置することでつなぎ目がなく何層にも渡って制作することが可能であり小型化も見込める。現段階では、実際にガラスリボンにスパッタして反射鏡面の粗さを測定、反射率を求めることで実用化について確かめた。また、Wolter-1型に配置して2回反射させる光学系を設計、ハウジング制作においても検討を進めている。本発表では、これらの制作過程について発表する。

 

講演b-4: 蛍光X線による月面の元素マッピングを行うX線カメラの開発

講演者名: 上林 暉、所属: 京都大学、学年: M1

月惑星の元素組成とその分布は、天体の起源や進化の解明及び宇宙資源の凝集箇所を知るうえで重要な情報である。元素分布を調べる方法として、太陽を一次光源として放射される月面の元素由来の蛍光X線撮像があり、月面の地質、地形情報との比較が可能な高解像度のマッピング探査が期待できる。しかし、将来の着陸探査や資源採掘に必要な1 kmの解像度に対して、従来のX線CCDカメラ搭載の月周回衛星の解像度は20 kmに留まる。このため、元素の凝集箇所を的確に提示することができない。これは高速飛行で生じる被写体のブレが原因であり、その根本はX線CCDの低い時間分解能にある。
この状況を打破するために、我々は独自の「X線SOI撮像素子(XRPIX)」と、それを用いた「X線SOIカメラ」を開発する。XRPIXは従来のCCD素子と異なり、X線の入射のタイミング信号を出力する機能を持つので、CCDを用いた検出器よりも5桁優れた時間分解能(10 μs)を実現する。これにより、秒速1.6 kmで周回する高度100 kmの軌道上においても、被写体のブレを抑えることができるため、1 kmの解像度を達成することができる。また、X線SOIは1¬–20 keV帯域で優れた分光性能を持つため、Mg, Si, Ca, Feといった月面の主要元素由来の蛍光X線を同定するのに有用である。さらに、高い放射線耐性を持つので、月惑星探査における搭載機器として最適である。X線SOI素子自身が高機能回路を内蔵するので、全体システムをコンパクトにすることも可能である。
 本講演では、XRPIXを用いた、蛍光X線による月惑星の元素マッピングを行うX線カメラについて発表する。

 

講演b-5: 超広帯域クアッドリッジアンテナの性能評価

講演者名: 向井 一眞、所属: 大阪公立大学、学年: M1

現在の電波天文学における観測において、周波領域での広帯域化が進められている。しかし、通常の矩形導波管は比帯域(周波数帯域中/中心周波数)66%と物理的制約があり(通常用いられている矩形導波管は基本モードのみを使用するためにこの制約が発生する)、比帯域100%を超えるような広帯域同時観測を行うことができない。そこで、我々は比帯域120%を超える超広帯域フィードであるクアットリッジアンテナ(QRA)に着目した。
現状、QRAを用いた観測ではSKA-midにおける0.35-1.05GHz、ngVLAにおける1.2-3.5GHz並びに3.5-12.5GHzの計画があり、12GHzほどまでしか計画されていない。そこで、我々はさらに高周波で広帯域観測を試み、同軸変換を用いた6-23GHzにおけるQRAに関して2つのモデルを開発した。実測結果より反射損失-10dbを達成したモデル、シミュレーション結果より反射損失-20dbほどを達成したモデルである。2つとも狭帯域ホーンアンテナ型と80 Ωの同軸導波管変換を採用している。
本講演では、6-23GHzにおけるQRAの測定結果とシミュレーション結果との比較について詳しく発表する。

 

講演b-6: VERA 水沢 20 m 電波望遠鏡に搭載する 6 - 18 GHz 帯広帯域受信機の開発

講演者名: 野原 祥吾、所属: 山口大学、学年: M1

現在の国立天文台水沢VLBI観測所20m望遠鏡に搭載されているC帯(6.3 ~ 7.0 GHz)受信機を現在開発中の6 ~ 18 GHz帯広帯域受信機と換装する計画をしている。広帯域化により想定される、人工電波干渉や電磁障害の影響を可能な限り低減させるため、冷却受信機の初段増幅前に低損失かつ特定帯域の急峻が可能な高温超伝導フィルタを開発し、挿入することを検討している。受信機は、超伝導フィルタが動作する温度でかつ、電波望遠鏡ステージに載せるため軽量で小型である必要がある。そこで、新受信機では電気駆動のスターリング冷凍機(Cryotel CT)を搭載することを検討している。同冷凍機で温度の条件を満たすことが可能かを検討するために、3つの実験と計算を行った。1つ目は目標受信機内温度を決定するために高温超伝導フィルタの動作温度調査を行った。2つ目は冷凍機の性能を評価するために試験用受信機を用いて冷凍機の動作試験を行った。3つ目は受信機内の温度を推定するために熱流入量と冷凍機性能を比較する熱計算を行った。本発表では実験結果と推定結果について報告する。

 

講演b-7: すばる望遠鏡・高感度広帯域分光装置NINJAの検出器読み出し系の開発

講演者名: 田中 健翔、所属: 東京大学、学年: M1

すばる望遠鏡では、赤外線高解像度観測装置ULTIMATE-Subaru計画を推進している。高感度広帯域分光装置NINJAは、この計画の最初のフェーズとして、次世代補償光学であるレーザートモグラフィ補償光学(LTAO)に最適化された観測装置である。
LTAOは、すばる望遠鏡の回折限界近くまで星像を結像させる能力を持つ。NINJAは、LTAOによって極限まで集光された光を、可視光から近赤外線の広帯域同時に分光観測することができる。NINJAにより、遠方のキロノバを分光観測することで、中性子星合体における重元素合成のメカニズムの解明を目指す。
私は、NINJAの検出器読み出しシステムの構築をしている。NINJA の検出器(HAWAII-2RG)は、専用の読み出し回路(フロントエンド回路 SIDECAR とバックエンド回路 MACIE)を介して、PC から制御ができる。そこで手始めに、検出器の等価回路(マルチプレクサ)を読み出すコードを作成し、ノイズの評価を行ったので報告する。
この検出器読み出し回路は、ULTIMATE Subaruの次のフェーズである広視野赤外線装置WFIや、現在チリに建設中であるTAO望遠鏡に設置される観測装置SWIMSのアップグレードにも適用でき、今後の応用発展も期待される。

 

講演b-8: O4a観測期間中の重力波候補イベントに対するKAGRAのアンテナパターンの評価

講演者名: 石川 諒弥、所属: 青山学院大学、学年: M1

重力波とは、物体が加速度運動するとき等に生じる時空の歪みが横波として光速で伝播する現象である。重力波は、アメリカの重力波望遠鏡LIGOにより2015 年9月14 日に初検出された。以降3回の長期間観測(O1, O2, O3)が行われ、連星合体からの重力波イベントが90個検出された。また2017年8月17日、2台のLIGOとイタリアのVirgoの3台の重力波望遠鏡により中性子星連星合体からの重力波を初検出した。電磁波望遠鏡によるフォローアップ観測により、重力波源の方向からガンマ線バーストやキロノバが観測された。2023年5月から行われた4回目の長期観測(O4)では、LIGO, Virgoに加え、日本の重力波望遠鏡KAGRAを含めた4台の検出器による同時観測が行われた。2023年5月25日から前半の観測(O4a)が行われ、KAGRA は2023年5月25日から6月21日まで観測に参加した。LIGO, Virgo, KAGRA が重力波を検出した場合、イベント時刻などの情報がパブリックアラートとして即座に一般公開される。重力波望遠鏡は全天に感度があるため、1台でその到来方向を決定することは難しい。そこで複数台で同時に同じ信号を検出し、その信号の時間差から到来方向を推定する。さらに、干渉計は入射重力波に対する方向依存性をもち、入射方向に依って干渉計応答(アンテナパターン)が異なるため、各望遠鏡には重力波検出に優位な方向がある。
本発表では、O4a 観測期間のKAGRA観測運転中に重力波候補イベントに対するKAGRAのアンテナパターンの評価を行った結果について報告する。まず、パブリックアラートで公開されている推定された重力波到来方向(スカイマップ)の信頼領域と重力波望遠鏡のアンテナパターンの関係を可視化した。また観測期間中に報告された3イベントの推定された50%, 90%信頼領域を比較すると、KAGRAの検出器応答が約0.3(最大を1とする)の方向に位置し、これら3イベントがLIGO, Virgoに比べて検出に不利な方向からのイベントであることがわかった。

 

講演b-9: 宇宙機搭載用pnCCDの軟X線性能評価

講演者名: 西 佑記、所属: 関西学院大学、学年: M2

我々は、HiZ-GUNDAM衛星搭載のX線検出器の開発を行っている。HiZ-GUNDAMミッションはガンマ線バーストの観測を行うことで、初期宇宙の探索を目的とする計画である。 ガンマ線バーストとは、重力波や初期宇宙に関する重要な手掛かりとなる宇宙最大規模の爆発現象である。この計画では、0.4~4keV帯域のX線に対し、50%以上の検出効率が要求されており、候補検出器としてpnCCDが挙げられた。本研究では、小型のpnCCD素子を搭載した地上実験用のX線カメラを用いて、軟X線分光性能の評価実験を行なった。実験条件は、X線発生装置の管電圧を設定可能最低電圧の10kVとし、二次ターゲットにはポリイミド箔に小片のテフロン、アルミニウムおよびチタンを合わせたものを用いた。また、暗電流を抑えるためにpnCCDの温度を-20℃、フレームレートを100Hzとした。X線発生装置からの一次X線を二次ターゲットに照射し、発生した複数の蛍光X線を検出し、結果、C-Kα(0.28 keV)からTi-Kα(4.5 keV) の範囲で複数の輝線を弁別することができた。ミッション要求の帯域を下回る0.28keVにおいて、半値幅52eVと高いエネルギー分解能を示すことがわかった。

 

講演b-10: 熱真空試験と振動試験による Lobster Eye 光学系の結像性能評価

講演者名: 長髙 一心、所属: 金沢大学、学年: M1

2030年打ち上げ目標であるHiZ-GUNDAM衛星は宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストを観測し、残光に照らされた初期宇宙を探査することを目的とする。当衛星では広視野X線モニターでガンマ線バーストの発見、方向決定を行い可視光・近赤外望遠鏡で追観測を行う。広視野X線モニターは複数枚のLobster Eye Optics(LEO)が球面状に配置された広視野光学系とCMOSイメージセンサによって構成される。LEOは焦点距離に十字の像を作るX線集光光学系であり、得られた十字の像の座標を用いて入射X線の方向を決定するため、結像性能はX線の方向決定において重要である。LEOはSiO2製で、微細な穴が多数配列された脆性素材のため、ロケットの打ち上げ振動によるLEOが破損の有無や、結像性能がどのように変化するのかを調べる必要がある。
また軌道上の検出器温度は光学系部分で-100℃まで冷却されるため、地上での室温と軌道上の-100℃の温度差でLEOとフレーム光学系に熱歪みが生じる。この熱歪みによってLEOが破損する可能性や、焦点距離や結像性能はどのように変化するかの温度特性を知る必要がある。本研究ではロケットの打ち上げを模擬した振動試験と宇宙空間を模擬した熱真空試験によってLEOの結像性能がどのように変化したのかを発表する。

 

講演b-11: 南極30cmサブミリ波望遠鏡用光学ポインティングシステムの開発

講演者名: 栄野比 里菜、所属: 筑波大学、学年: M2

筑波大学を中心とする南極天文コンソーシアムでは地上で最も水蒸気量が少なく天文観測に適した南極ドームふじ基地に設置する南極30cmサブミリ波望遠鏡の開発を進めている。南極30 cm望遠鏡は500 GHz帯の[CI]((^3)P_1-(^3)P_0)とCO(J =4−3)輝線による銀河系の広域観測を行い、星形成と密接に関係する高温高密度分子ガスの分布と運動の解明、さらにCO(J =1−0)の観測結果と比較することで、分子ガスの進化・星形成過程と銀河形成との関係を明らかにする。500 GHz帯には南極30 cm望遠鏡のビームサイズ9’において強度が強く、点光源とみなせるポインティングに適した天体が限られているため、可視光で3等級以上の星を観測する光学と電波ポインティングの2段階の補正を行う。光学ポインティング用CMOSカメラは南極30 cm望遠鏡の仰角軸に平行になるよう設置されているが、天体を電波で観測した時(電波軸)と可視光で観測した時(光学軸)とのずれが生じるため、これを測定して補正する必要がある。しかし500 GHzの電波は大気吸収により天体を用いた評価は困難である。そのためJAXA筑波宇宙センター実験室内において、受信位置から12.6 m離れた位置に電波送信機を疑似天体として設置し、ラスタースキャン観測による電波強度マップとカメラによる送信機撮影画像を比較することで電波軸と光学軸のずれの測定を行った。また南極30 cm望遠鏡では、受信機クライオスタットを望遠鏡筐体フレームに下から押し付ける形で取り付け、三点で固定することで内部のフィードホーンの位置を一点に定める方法を採っている。本測定ではこの設置方法でビームパターンの再現性があることを実証した。今後、ビームパターンの偏波特性を調べるため送信機を回転させて再測定を行う。本講演では、JAXA実験室内での光学試験の詳細を報告する。

 

講演b-12: ガンマ線バーストを用いた初期宇宙探査計画「HiZ-GUNDAM」について

講演者名: 影山 璃音、所属: 東京都市大学、学年: M1

ガンマ線バースト(GRB)を用いた初期宇宙探査計画であるHiZ-GUNDAM(High-z Gamma-ray bursts for Unraveling the Dark Ages Mission)は2030年頃の打ち上げを目標としてJAXAの公募型小型衛星計画5号機選定を目指している計画である。GRBは宇宙最大の爆発現象であり、100億光年以遠の爆発も検出可能であるため、GRB観測を通して初期宇宙の星形成や宇宙環境を解明することができる。そこでこの衛星は宇宙初期の大質量星が最期に起こすGRBを検出し、すばる望遠鏡や次世代の大型望遠鏡と連携して分光追観測することで、初期宇宙の星形成率の測定と宇宙最電離や重元素合成の変遷の理解を目指している。また、重力波・高エネルギーニュートリノと同期した突発天体を同定し、ブラックホール誕生時のエネルギー変遷、希土類元素生成などの理解を目的としたマルチメッセンジャー天文学の推進も目指している。現在のGRB観測は人工衛星がGRBを発見後、地上小型望遠鏡で残光を観測し、地上中型望遠鏡で赤方偏移を同定、高赤方偏移なGRBに対しては大型望遠鏡で分光観測を行っている。しかし、この方法では大型望遠鏡で突発的なGRB観測を行うまでに時間がかかるためGRBの残光が減少し、分光スペクトルの観測精度が低下してしまう。そのためこの計画では広視野X線モニターと近赤外線望遠鏡を搭載した人工衛星を打ち上げてGRBを探査し、GRBの発見から赤方偏移の決定までを1つの人工衛星で行う予定である。この計画の現在の課題の1つとして、搭載する望遠鏡の冷却がある。赤外線観測では常温下では望遠鏡自体が熱放射で輝いてしまうこと等により感度が劣化してしまうため、望遠鏡の感度を確保するために望遠鏡の温度を200K以下、赤外線検出機は120K以下まで冷却する必要がある。そこで赤外線宇宙望遠鏡や検出器から放熱するための熱設計が課題となっている。私は望遠鏡の形状やミッション部における機器配置を熱的な観点から検討したモデルを設計し、そのモデルにおいて熱解析を行い、最適な望遠鏡の形状を検討していく予定である。

 

講演c-1: 南極30 cmサブミリ波望遠鏡用 新IFボックスの設計と製作

講演者名: 山崎 豪、所属: 筑波大学、学年: M1

筑波大学宇宙観測研究室では南極30 cm 望遠鏡を用いた一酸化炭素分子CO(J=4–3)輝線(461 GHz)と中性炭素原子[CI] (3P1-3P0)輝線(492 GHz)の同時観測の計画が進められている。これらの輝線はサブミリ波帯の中でも高周波帯に存在しているため、大気吸収の影響を受けやすい。そのため、大気透過率が非常に高い南極に30cm望遠鏡を設置し、CO(J=4–3)と[CI](3P1–3P0)の観測を行う。また、この2輝線の同時観測を行うことにより観測時間を短縮することができ、かつ2輝線のポインティング誤差も無くすことができる。南極30cm望遠鏡にはヘテロダイン受信機が搭載され、2輝線の同時観測を行うためにUSBとLSBを分離する2SB受信方式を採用している。この分離と周波数のダウンコンバートは冷却受信器で行われるが、さらに分光器に対応する周波数までのダウンコンバートやアンプによる信号増幅は受信機機外部にあるIFボックスで行う。本研究ではまず新しい分光計の周波数帯域である0-2.5GHzに対応した新IFボックスのブロック図をもとに、IFボックス内に搭載するコンポーネントの配置を設計した。また、配置を決める際は筐体内でのIFボックスと電源や冷却受信機の位置関係も重要となるため、筐体内での配置も同時に設計を行った。さらに、設計したIFボックスの配置を基に実際に組み立て、その状態で安定度の評価をするため、アラン分散の測定を行った。その結果、IFボックス全体で約60秒以上の安定性を得ることができた。

 

講演c-2: 宇宙赤外線干渉計LIFEのためのナル干渉計を用いた極低温可動鏡の駆動精度の計測

講演者名: 谷内 逸華、所属: 名古屋大学、学年: M1

 太陽系外惑星大気の特徴と、太陽系外の生命探査を目的とした宇宙ミッションである宇宙赤外線干渉計Large Interferometer for Exoplanets (LIFE)に取り組んでいる。LIFEは地球に似た惑星を含む数百個の太陽系外惑星の大気を検出し、その特徴を明らかにすることができると期待される。これまで、中間赤外線の波長帯域で中心星とその周りのHabitable Zoneを空間分解することができなかった。そこで、同波長帯で編隊飛行型を採用することで、従来にない高い空間分解能を達成し、地球に似た太陽系外惑星の大気を観測し、特徴付けることができるようになると期待される。
 ナル干渉計は天体からの2光束に半波長の位相差を与えることで、光軸上の主星からの光を打ち消し、軸外の惑星光を観測する。高コントラストの実現には、精密な光路調整が必要となる。そこで今回、サブナノメートルのレベルで安定な鏡を導入し、本実験のゴールとして、光学系全体を極低温真空装置に入れ、要求するnm精度で可動鏡が駆動することをナル干渉計を用いて検証する。実験方針としては、まずマイケルソン型干渉計を組み、ビームスプリッターと反射鏡を極低温真空下に置くことで、極低温真空環境の擾乱を調査することから始める。極低温真空環境下で可動鏡が動作することが確認できた後、ナル干渉計を極低温環境下で組み、ナル干渉光の強度から光路差を推定し、可動鏡の動作の精度や安定性を検証する。

 

講演c-3: 宇宙可視光背景放射観測6U衛星VERTECSの開発状況

講演者名: 中川 俊輔、所属: 九州工業大学、学年: M2

 宇宙背景放射は、銀河系外から飛来する放射の積算であり、暗い天体を含む天体形成史の全貌を解明するために重要な観測量である。これまでの観測ロケットおよび赤外線天文衛星などによる観測の結果、近赤外線の宇宙背景放射は系外銀河の積算公に比べて数倍明るいことが確認されたが、その余剰成分の起源は未解明である。その起源の候補として、宇宙初期の初代星や銀河ハロー浮遊性などが提案されており、これらの天体は可視光波長における輝度スペクトルと空間ゆらぎが異なることが予想されているため、可視光における観測が余剰成分の起源解明のために重要となる。
 あらゆる方向から飛来する宇宙背景放射の検出感度は、望遠鏡口径と視野角の積によって決定されるため、小型でも広視野の望遠鏡によって観測可能である。そこで我々は、6Uサイズの超小型天文衛星VERTECS (Visible Extragalactic background RadiaTion Exploration by CubeSat) にて、可視光における宇宙背景放射の輝度スペクトルを測定し、背景光の余剰成分の起源解明に挑む。
 本衛星は、3Uサイズの可視光望遠鏡および高精度な姿勢制御装置を含む3Uサイズのバスシステムから構成される。2022年12月から開発を開始し、これまでにミッションおよびシステム要求を明確化するとともに、それらの要求を満たす衛星のサブシステムの設計を完了した。2024年4月には設計審査を実施し、現在は2025年半ばの打ち上げに向けブレッドボードモデルおよび熱構造モデルを用いて機能・インターフェース試験を実施している。本公演では、VERTECS衛星の開発状況を報告する。

 

講演c-4: 多層共役補償光学(MCAO)の現状と今後の展望

講演者名: 高橋 光明、所属: 東北大学、学年: M1

 地上で観測できる可視光線・赤外線領域では大気ゆらぎによって大気の密度が一様ではなくなってしまうため、光路長や屈折率も一様ではなくなってしまう。その結果、無限遠にある天体からの光は平面波で到達せずに歪んでしまい、地上から観測する天体像は必ずぼやけてしまう。大気ゆらぎによってぼやけた天体像をリアルタイムで補正して、回折限界の天体像を観測するために、地上からの光・赤外線観測では補償光学を用いて歪んだ波面を平面波に戻して観測を行う。
 しかし、従来の補償光学は波面センサーと可変形鏡を1つずつ用いた基本的なシステムであるため補正の精度や補正できる視野の広さに制限があった。そのため、観測目的に応じた様々なコンセプトの補償光学が考案されてきた。特に従来の補償光学の視野の広さを改善することを目的として考えられたのが広視野補償光学(Wide Field Adaptive Optics; WFAO)である。WFAOの中でも多層共役補償光学(Multi Conjugate Adaptive Optics; MCAO)は複数の高度の大気ゆらぎにそれぞれ対応した波面センサーと可変形鏡を用いることで従来の補償光学の視野の広さを改善した補償光学である。
 本講演では補償光学の原理を紹介した後に、WFAOの中の1つであるMCAOの原理、性能、現状と今後の展望について述べる。

 

講演c-5: LTAO波面センサー系の調整と問題の報告

講演者名: 一ノ瀬 将也、所属: 東北大学、学年: M2

地上から天体観測を行う場合、大気揺らぎによって光の波面が乱れ、像がぼやけてしまう。光の波面の乱れ を補正し、高い解像度を得るための技術を補償光学(AO)という。従来のAOシステムは、単一のレーザーガイド星(LGS)を用いて波面の乱れを補正するが、コーン効果により補償精度が低下するという問題がある。この問題の解決策の一つが、レーザートモグラフィー補償光学(LTAO)である。LTAOは複数のレーザーガイド星(LGS)を用いることで、LGSAOの欠点であるコーン効果を解決することができる。さらに、トモグラフィーを用いてターゲット天体が受ける大気ゆらぎを高さ方向に分解して推定することができる。すなわち、従来のAOシステムでは大気ゆらぎの「層」を推定することしかできなかったが、大気揺らぎの3次元の構造を推定することが可能となる。

現在、すばる望遠鏡ではULTIMATE-STARTというLTAOの開発プロジェクトが進行中であり、東北大学ではその波面センサー系の開発を行っている。LTAOの実装により可視光領域でも補償光学が適用可能となることが期待される。これにより、高分解能の面分光を用いた局所宇宙に存在する低質量銀河の中心にある超大質量ブラックホールの探査が可能になる。

本講演では、東北大学が開発したLTAO波面センサー系の調整過程と現在生じている問題を報告する。

 

講演c-6: 超伝導遷移端型X線検出器の物理機構の解明を目指した基礎研究

講演者名: 西山 智規、所属: 立教大学、学年: M1

現在の我々の宇宙では宇宙マイクロ波背景放射などの観測から宇宙を構成している約4%ほどがバリオンであるが、未だにその半分しか発見されていない。発見されていないバリオンをダークバリオンという。このダークバリオンは宇宙流体シミュレーションによって銀河団同士をフィラメント状に繋ぐ大規模構造に沿って10^5~10^7 K程度のガス(WHIM)となって分布していることが示唆されている。しかし現在のX線検出器ではWHIMを観測するための十分なエネルギー分解能と視野を備えていない。この問題を解決する次世代の検出器として超伝導遷移端(TES)型X線マイクロカロリメータがある。TESカロリメータは、素子の温度上昇を超伝導から常伝導までの急激な抵抗変化を利用して精密に入射X線エネルギーの測定を可能とする。本研究では、温度計(TES)の形を様々な形に変えた時の電流電圧特性(I-V特性)や交流特性(Z特性)の評価を行うことで、TESカロリメータの構造の最適化を目的として研究を行った。解析の結果、TES温度計の形によってエネルギー分解能はさまざまで、温度計の転移温度を下げることで、エネルギー分解能が良くなるという結果を得られた。本研究では、TESカロリメータの形状による性能依存性を詳細に調査した結果を報告する。

 

講演c-7: PDD構造を導入したX線天文衛星搭載用SOIピクセル検出器のサブピクセルレベルのX線応答特性の評価

講演者名: 志賀 文哉、所属: 東京理科大学、学年: M1

我々は、次世代のX線天文衛星への搭載を目指し、X線SOIピクセル検出器(XRPIX)の開発を進めている。最新のPDD構造を持つXRPIX8.5(XR8.5)は、プロトタイプのXRPIXと比べて、暗電流の抑制、ピクセル内での検出効率のばらつきの減少や、電荷収集効率(信号電荷をどれだけ失わないかの指標)が大きく改善したことによるエネルギー分解能の向上が確認されている。一方で、Suzaku衛星でもわかっているように、空乏層の厚みが同じX線CCDでも、電極側(表面)からX線が入射する表面照射型と、電極のない空乏層側(裏面)からX線が入射する裏面照射型とでは、表面照射型CCDの方が分光性能が良いということが知られている。先行研究では、XRPIXについても、同じように表面と裏面とで分光性能に違いがないか調べた結果、表面照射型の方が分光性能が良いことがわかっている。我々は、XRPIXの開発を進めていくにあたり、分光性能を向上させることを課題としてあげている。その課題解決のためには、この分光性能の違いが何であるか、まず、その原因を究明する必要がある。その原因について、光電吸収後に、何かの原因で電荷が失われているのではないかと考え、電荷損失が起きている場所が、1つのピクセルの内部のどこであるか特定するために、1ピクセル内の場所は照射位置をピクセルサイズの1/9である4μmピッチで変えることで、深さ方向はエネルギーを変えて光電吸収が起こる位置を変えることで、KEKにて、表面、裏面で照射し、その応答特性の評価を行った。その結果、1ピクセルの境界に照射したときは、1ピクセルの中心に照射したときと比べて、電極で回収できた電荷量が少なく、X線イベントのスペクトルで確認できるX線のピークは低波高値側にシフトした。本発表では、最新のPDD構造を導入したXR8.5の1ピクセル内の応答の評価の詳細を報告する。

 

講演c-8: 広視野X線集光系の開発と性能評価

講演者名: 平井 健登、所属: 青山学院大学、学年: M2

いまだ観測されていない重力波源の早期X線放射の全天モニタによる検出を可能とするため、全反射を用いた光学系からなる1次元集光系を開発する。現在稼働している ISS 搭載全天X線監視装置 MAXI の走査方向の光学系はコリメータであるが、これを X 線ミラーを用いた集光系に替えることで X 線の集光量を高め検出感度を上げることができる。
本研究では、焦点距離1500mmのWolter I型光学系を円錐近似した形にミラーを配置する設計を用いる。1次元集光系には平面ミラーとそれを収めるハウジングが必要である。研究では放電加工を用いて加工精度を向上したハウジングとアライメントプレートを組み合わせた新しい集光系テストモデルを作製、シリコンウエハを用いたX線ミラーを挿入し、宇宙科学研究所において30m X線ビームラインを用いたX線集光実験を行った。本実験に際し、集光系テストモデルにおけるWolter I型の円錐近似による誤差と追観測を行う地上望遠鏡の視野(10arcmin程度)を考慮し、 目標性能としてHPW=5arcminという値を設定した。
実施した X 線撮像実験において、10点の測定箇所の内9点で5arcminの目標値を達成し、ミラーの中央では理論値の約1.07倍のHPW(Half Power Width)での結像に成功した一方、一部でX線像の広がりと割れを確認した。本発表では全天モニター用X線光学系を説明しテストモデルでの実験結果を報告する。

 

講演c-10: X線分光撮像衛星XRISM搭載軟X線撮像装置Xtendの軟X線撮像検出器SXIにおけるフレームデータとノイズ性能の評価

講演者名: 伊藤 耶馬斗、所属: 近畿大学、学年: M2

我々は、2023年9月7日に打ち上げX線分光撮像衛星XRISM搭載軟X線撮像装置Xtendの軟X線撮像検出器SXI を開発してきた。SXIは裏面照射型のX線CCD4枚で構成されており、200umの厚い空乏層を作ることで0.4-13keVの広エネルギー帯域で観測可能であり、CCDを-110℃まで冷却し、ノイズの発生を抑えることで高いエネルギー分解能を実現している。
我々はSXIのノイズ性能評価のため、CCDが非冷却時に取得したフレームデータの暗電流やオフセットなどを含んだペデスタル信号の中心値および幅を、打ち上げ前に行われる様々な地上試験において都度測定し、その長期トレンドを調査した。その結果、地上試験のデータでは、ペデスタルは常にほぼ一定であった。軌道上環境を模擬して衛星搭載機器の動作を確認する衛星熱真空試験では、ぺデスタル中心値と幅がそれまでのトレンド値から変動していたが、これはCCD 温度などの環境温度の違いで説明できた。特に、ぺデスタル中心値と環境温度には負の相関関係があった。さらに、打ち上げ後に軌道上で取得したフレームデータにおけるぺデスタル中心値と幅は地上試験と同等であり、ノイズ性能は打ち上げ前から変動していないことを確認した。CCDが冷却状態のフレームデータのペデスタルも地上試験と軌道上とで同程度の値だった。本講演ではこれらの解析結果の詳細を報告する。

 

講演c-11: XRISM衛星搭載極低温検出器の地上・軌道上データを用いたX線イベント処理最適化

講演者名: 望月 雄友、所属: 東京大学、学年: D1

XRISM (X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission) 衛星は、2023年9月7日(JST)に打ち上げられ、地球周回低軌道に投入された。XRISMに搭載されるResolve装置は、X線マイクロカロリーメーター検出器を搭載し、広いエネルギー範囲(0.3–12~keV)で高エネルギー分解能(≦7~eV@6~keV)、高効率、非分散分光を達成することが期待されている。X線イベントをノイズから識別するイベントスクリーニングは、エネルギーとフラックスの高ダイナミックレンジで動作する同装置には特に重要である。イベントスクリーニングのためのいくつかの手法は、先行するX線マイクロカロリーメータミッション(すざく/XRSとひとみ/SXS)で開発されてきた。XRISM/Resolveでは、拡張された地上較正プログラムと軌道上データによる新しいデータセットを取得し、それらを用いて、再評価を行う。具体的には、(1) 観測時間に基づくもの (断熱消磁冷凍機サイクリング、地球掩蔽、高放射線領域通過)、(2) イベント相互の相対到来時刻に基づくもの (反同時係数検出器による除去、電気的・熱的クロストーク)、(3) パルスレコードを調べることによるパルス形状(立ち上がり時間、パルステンプレートからのタイミングシフト)に基づくものである。これらのスクリーニング基準の検証と最適化を行い、最適化されたパラメータをcalibration data baseに実装した。本講演では、これらの結果について発表する。

 

講演c-12: 狭視野Si/CdTe半導体コンプトン望遠鏡による気球実験の試作機miniSGDの開発と現状

講演者名: 大熊 佳吾、所属: 名古屋大学、学年: D2

sub-MeV・MeV帯域は、粒子加速や元素合成といった宇宙の高エネルギー現象を理解する上で重要な帯域であるが、X線やGeV、TeV帯域と比べ感度が数桁低く、その観測は遅れている。2027年にはNASAのMeVガンマ線観測衛星COSIが打ち上がりその感度を1桁向上させるが、さらなる改善が必要である。
我々は、sub-MeV・MeV帯域の感度向上を目指し、2016年打上げの「ひとみ」衛星でも搭載されたSi/CdTe半導体コンプトンカメラとアクティブシールドを組み合わせた狭視野Si/CdTeコンプトン望遠鏡の性能実証実験機miniSGDを開発した。miniSGDは、有効検出面積32×32 mm2で0.5 mm厚のSi両面ストリップ検出器(DSSD)2枚と、同じく32×32 mm2で2 mm厚のCdTe両面ストリップ検出器(CdTe-DSD)4枚からなる半導体コンプトン望遠鏡と、厚さ20-30 mmの9個のBGOシンチレータからなるアクティブシールドで構成される。2023年にオーストラリアで予定していた気球実験はキャンセルされたが、次の放球機会を目指し改良を続けている。
これまでに、気球搭載に向けた開発と地上でのコンプトン望遠鏡の性能試験を行ってきておりその累計動作時間は1000時間を超える。データ解析では、CdTe-DSDの両面の電極の信号差と、アクティブシールドとのコインシデンスによる裏面照射を用いた、CdTe-DSDにおける相互作用深さ(Depth Of Interaction: DOI)の推定方法を開発し、Si/CdTeコンプトン望遠鏡としては世界最高レベルの角分解能を得た。現在は、DOI推定精度の向上と、新たに符号化マスクと組み合わせたイメージングにも挑戦し(西村講演)、さらなる角分解能向上を目指している。
本講演では、miniSGDの開発とコンプトン望遠鏡の性能の現状について報告する。

 

講演c-13: 重力波検出器KAGRAにおける防振懸架装置の制御

講演者名: 玉木 諒秀、所属: 東京大学、学年: D2

大型低温重力波望遠鏡KAGRAは、アメリカのLIGOや欧州のVirgoと共に国際重力波観測ネットワークを形成することにより、重力波源の方向決定精度向上などの面で重力波天文学発展への貢献を目指している。これらのレーザー干渉計型重力波検出器は、鏡の間隔が重力波による空間の歪みで潮汐的に変化する様子をレーザーを用いて観測する。この鏡の変位は微小であり、必要な感度を達成するためには鏡を地面振動から十分防振する必要がある。そこで鏡は多段振り子型の防振懸架装置で吊るされている。
このような振り子による防振装置では共振周波数で鏡が大きく揺れてしまうため、ダンピング制御を行っている。これはマスの変位を局所的にセンサで検知し、アクチュエータによってマスの速度に比例した力をフィードバックするというものである。この制御によって共振周波数における懸架装置の振動を抑えることができる。
しかし、ダンピング制御のようなフィードバック制御ではループに混入する雑音が問題になることがある。実際、前回の観測では10 – 60 Hzの低周波帯において懸架装置の制御系由来の雑音が検出器の感度を制限するという問題が報告されている。
この低周波帯は、例えば重力波の早期検出によるSN比やパラメタ推定性能の向上にとって重要であるため、制御雑音の低減が求められる。そこで、重力波検出器の多段振り子に対し、振り子の振動モードに基づく最適な制御をシミュレーション上で設計し、鏡に伝わる雑音を低減できることを確かめた。
本講演ではKAGRAにおける懸架装置のダンピング制御について、その概要と雑音低減を目指した制御の設計、及びその効果について発表する。