講演a-1: ALMAを用いた大マゼラン雲N44領域分子雲フィラメント構造解析で探る HI flowによる大質量星形成シナリオの考察
講演者名: 東野 康祐、所属: 大阪公立大学、学年: M2
大マゼラン雲は小マゼラン雲との相互作用により、中性水素原子(HI)ガスの衝突による大規模な星形成が誘発されていることが報告されている。特に、N159E・N159WS領域において発見された数pcスケールの(ハブ)フィラメント構造は、互いに~50pc離れているにも関わらず南北方向に整列している等非常に酷似した構造を有しており、分子雲スケールを超えた大局的な星間ガスの衝突が形成を促したものと考えられている。このHIガス衝突によるフィラメント構造の形成、及びそこで活発な星形成が行われているというシナリオの普遍性等を検証することを目的とし、我々は大マゼラン雲内でHIガスの衝突が示唆されているN44,N11,N79 HII領域等に付随する分子雲複合体に対してALMA-ACAにより取得された空間分解能1.6pcの12CO,13CO(J=2-1)データ等の解析を推進している。この3領域でいくつかの数10pcの長さを持つフィラメント構造を検出した。その中でも特にN44NW領域において~100pcに及ぶ領域内に南北に整列したフィラメント構造が少なくとも5本以上存在し、大質量星原始星がこの構造の南端付近に位置することが共通している。これらの分子雲は、原始星が付随していない分子雲に比べ、13COで観測される比較的密度の高いガスが多く含まれており、ビリアル解析を行うと、重力的な束縛が強い分子雲であることが示された。また、領域内の一部の原始星では~0.1pcの分解能で0.87mmとHCO+(4-3)のデータが取得されており、12CO/13COの空間分布と比較すると、スケールや密度が1桁以上異なるにもかかわらず非常に酷似した構造が見受けられた。これは空間スケールの大きい現象が原始星形成に直結する局所的な高密度ガスの構造形成に影響を与えていることの間接的な証拠となる可能性がある。
講演a-2: 低金属量銀河小マゼラン雲における大質量原始星に付随するフィラメント状分子雲の有無
講演者名: 國年 悠里、所属: 大阪公立大学、学年: M2
小マゼラン雲は最も近い星形成銀河の1つで、金属量が太陽系の約0.2倍程度であることから低金属量環境下における星間物質の性質や星形成を探る上で重要な天体である。これまでの研究より、太陽系近傍をはじめとする銀河系や大マゼラン雲の分子雲はフィラメント状の形態をとることが知られており、フィラメントに沿って星形成は促進される可能性があると考えられている。そのため、より金属量の低い小マゼラン雲で同様な構造の有無を明らかにするなど、母体分子雲の性質を調べることが星形成活動の金属量依存性を調べる上で一つの重要な課題であった。
本講演では小マゼラン雲における11個の大質量原始星のALMAデータを用いた0.87mm帯の連続波及び、12CO輝線の解析結果を紹介する。空間分解能は0.”34(~0.1pc)であり、銀河系の研究で示されているようなフィラメント状分子雲の有無を判別することが十分可能な値である。本データの特徴として、0.87mm連続波は原始星周辺の数0.1pc付近を捉えており、星形成の母体となった10^5-10^6cm^-3程度の分子雲コア領域のみを捉えている。さらに、12CO輝線は銀河系の典型的な環境とは異なり10^4cm^-3程度の密度領域をトレースすること、原始星に付随するアウトフローが4個程度確認されており原始星の進化段階が若いことが挙げられる。12CO輝線はこれらの原始星のうち7個で分子雲コアに接続するように長さ1-10pc、幅0.1pc程度のアスペクト比の大きい構造を示すことが分かった。また、各フィラメントの物理量は銀河系の大質量星形成領域で見られるものと同程度であった。しかし、4個の原始星周りではフィラメント状分子雲が確認できず、小マゼラン雲では分子雲のフィラメント状の構造は必ずしも付随しないことが明らかになった。この要因として、原始星形成時にフィラメント状分子雲が形成されていたとしても後に散逸する可能性などを議論する。
講演a-3: ALMA望遠鏡を用いた大マゼラン雲における大質量星原始星に付随する分子ガスの観測的研究
講演者名: 安達 大揮、所属: 大阪公立大学、学年: M1
大質量星は周囲に放射する強力な紫外線や星風により星間物質に大きな影響を与え、一生の終わりに超新星爆発を起こし、重元素を宇宙空間に供給することから銀河進化に多大な影響を及ぼす。したがって、その形成過程を明らかにすることは天文学・宇宙物理分野の重要課題である。天の川銀河における大質量星形成領域のその大半は銀河面上に位置しており、星形成直前/直後のガスの物理状態や星形成フィードバックの詳細を明らかにするためには必ずしも理想的なターゲットではない。そこで我々は星形成銀河として最も近く視線方向上の重なりなどの困難を最小限に抑えられる大マゼラン雲を観測対象とし、星形成領域の分子ガスの観測的研究を推進している。Spitzer 望遠鏡の観測により同定された原始星のうち最も光度の高い部類に属する40天体のALMA望遠鏡により得られたデータの解析を行なった。空間分解能は0.5 pc程度であり、観測輝線/波長は13CO(1-0)、CS(2-1)、3 mm帯連続波である。ほぼ全ての天体から13COでアスペクト比が高い細長い構造が見受けられた。FilFinderアルゴリズム (Koch & Rosolowsky 2015) による解析に基づいて、同定されたフィラメント状分子雲の物理量を求めると、数100-1000 M_sun/pcと線質量が大きいことがわかった。また40天体中 35天体で原始星の方向からCS(J = 2-1)輝線が検出され、今後も原始星が活発に形成されると考えられる密度10^5 cm^-3程度の高密度ガスが豊富に存在している。この傾向は3 mm帯連続波およびHαでトレースされる電離領域が顕著に発達している天体に関しても共通しており、自身や周囲の星のフィードバックが必ずしも即座に質量供給を妨げないことを示唆している。
講演a-4: 3次元流体シミュレーションを用いた超新星残骸の高分解能X線スペクトル生成
講演者名: 藤丸 祐生、所属: 京都大学、学年: M1
超新星残骸とは、爆発放出物が星間物質との間に衝撃波を形成し、ガスが加熱されることで光る天体である。超新星残骸は3次元的構造を持つ天体であり、その構造の非対称性の由来を探ることは、観測されている細部にわたる構造を再現・理解するうえで重要である。非対称性の由来については、爆発時に備わっていた爆発放出物由来なのか、それとも爆発放出物より外部の環境によるものなのかがよく分かっていなかった。しかし、近年、3次元流体シミュレーションに基づき、爆発放出物自体の3次元モデル由来の非対称性が見えることが分かってきた。Ferrand et al. (2019) では、代表的なIa型超新星残骸Tychoに見られる3次元的構造を爆発放出物由来で再現している。また、Ferrand et al. (2021) では、4つの異なるIa型超新星の爆発モデルの違いが超新星残骸の構造にも残されることを示した。
超新星残骸が放射するX線スペクトルは、元素組成を知る手掛かりとして有用であり、超新星の爆発放出物の性質や、超新星残骸の3次元的構造の理解へつながるという意味で重要である。昨年にはXRISM衛星が打ち上げられ、今後は高分解能なX線スペクトル観測が可能となる。そのため、様々な爆発モデルでX線スペクトルを計算することで、観測された詳細なスペクトルに基づき、爆発モデルを制限することが可能となると考えられる。そして、超新星残骸の爆発放出物や親星の性質に迫ることができる。
そこで、我々は一様な環境下において先述した4つの爆発モデルで3次元流体シミュレーションに基づき期待されるX線スペクトルを生成した。さらに、他のモデルや星周環境でもシミュレーションを行い、リスト化する研究を進めている。また、より多くのシミュレーションを行うために高速化も行っている。本講演では、計算の手法と結果を紹介し、今後の展望について議論する。
講演a-5: Ia型超新星残骸の鉄族元素量測定へ向けたプラズマ実験装置EBITと放射光による 多価イオンX線精密分光
講演者名: 平田 玲央、所属: 東京大学、学年: M2
白色矮星を親星とするIa型超新星は宇宙の標準光源として利用される重要天体だが、観測的性質に顕著な多様性があることが知られている。その要因の1つと考えられる爆発時の親星中心密度の多様性を明らかにするためには、Ia型超新星残骸に含まれる鉄族元素(クロム, マンガン, 鉄, ニッケル)の質量比をX線観測によって精密測定することが重要である(e.g., [1])。2 keV以下に検出される鉄族L殻輝線は、非常に高い分光性能を有する回折格子やマイクロカロリメータ検出器で分離可能になり、従来鉄族元素量測定に使われてきた6 keV付近のK殻輝線よりも光子数が多いことから、様々な超新星残骸で鉄族元素量の精密測定を行うのに適している。しかし、L殻遷移は多電子系ゆえに複雑で、観測量(輝線の波長や強度)から元素量を算出する際に参照する遷移エネルギー(波長)や振動子強度といった「原子データ」の精度が低く、L殻輝線による元素量決定の信頼性が著しく損なわれている。また、元素量の決定精度を高めるにはL殻輝線がプラズマから受ける共鳴散乱(光子の吸収・再放射過程)の影響を正しく考慮することも重要である。 そこで我々は、ネオン状に電離した(束縛電子が10個の)鉄イオンのL殻共鳴遷移(3s → 2p や 3d → 2p)について、プラズマ実験装置「電子ビームイオントラップ(EBIT)」と放射光施設SPring-8を組み合わせた実験によって精確な原子データの取得を目指す。 EBITとは、電子ビームを超高真空中の試料に照射することで任意の重元素多価イオンを生成し、その特性X線を検出する装置である。EBIT内部のイオンに単色化した放射光を入射することでイオンによる光子の吸収・再放射を起こし、散乱された光子を検出する。入射光子エネルギーに対する散乱光子数の依存性から、放射光の高いエネルギー分解能(E/∆E ∼ 10^4)を用いた精密なスペクトルが得られ、輝線の波長と振動子強度を高い精度で決定できる(e.g., [2])。本実験では、まず比較的容易なヘリウム状酸素イオンのK殻輝線の測定を通して手法を確立し、実験難度の高いネオン状鉄イオンのL殻輝線の測定に繋げる。本講演では実験手法と結果の詳細を報告する。 [1] Yamaguchi et al., 2015, ApJL, 801, L31 [2] Kühn et al., 2020, Phys. Rev. Lett., 124, 225001
講演a-6: MeerKAT銀河中心サーベイで解明する非熱的電波フィラメントの偏波構造
講演者名: 沈 嘉耀、所属: 鹿児島大学、学年: M2
銀河中心非熱的電波フィラメント(NTF)は過去40年間にアメリカのVLA電波干渉計によって広く発見されてきた。NTFはシンクロトロン放射で明るく光り、ほとんど銀河面に垂直した構造である。このようなNTFの形状と放射機構の観点から、NTFの偏波構造を解明することが銀河中心領域の大局的なポロイダル磁場への理解につながると考えられている。VLAによる偏波測定の結果、NTFは強い直線偏波成分を持つ ことが示された。しかし、NTFの形成を起因する磁場と宇宙線の起源、宇宙線の加速メカニズムはいずれも不明のままである。NTFの形成メカニズムを説明するために、数多くのモデルが提案されているが、VLAで得られた観測結果ではこれらのモデルを棄却することには至らなかった。SKAの先行機であるMeerKATが2019年で行われた高分解能高感度の1.28GHz銀河中心領域連続波サーベイによって、NTFがより細部な構造まで確認され、NTFに関する研究に新たな進展と刺激を与えた。我々はMeerKATの銀中サーベイデータを使用して偏波解析を実施した。その結果、偏波強度画像はストークスI画像と同様の構造を示し、フィラメント内の偏波率の勾配が確認された。一部のフィラメントでは60%に近い高い偏波率を示した。本発表ではNTFの偏波構造及び偏波解析の結果、展望について述べる。
講演a-7: Keck高空間分解能撮像を用いた重力マイクロレンズ惑星候補イベントOGLE-2014-BLG-1367Lの解析
講演者名: 永井 堤、所属: 大阪大学、学年: M2
惑星系(レンズ系)が恒星(ソース星)の前を通過するとき、惑星系の重力によって恒星の光が曲げられ、一時的な増光現象が観測される。この増光現象を用いて惑星を発見する手法を重力マイクロレンズ法といい、光度曲線の解析により主星-惑星質量比を測定できる。しかし、主星や惑星の質量そのものや惑星系までの距離を測定することは困難であり、これはほとんどの場合質量-距離関係を表す物理量がアインシュタイン角半径しか得られないからである。質量と距離を決定するにはさらにもう一つの質量-距離関係を表す物理量が必要であり、その一つがレンズ系の主星の明るさである。増光時にはレンズ系とソース星は直線上に並んでおり、2天体は分離できない。これらを分離し、主星の明るさを測定するためには、数年後、2天体が直線上から外れた後に高空間分解撮像を用いて追観測する必要がある。
またレンズ系とソース星を分離することで、2天体の相対固有速度を求めることができる。これにより、さらに正確な光度曲線解析が可能になる。
このように高空間分解撮像による追観測は、重力マイクロレンズ法で発見された惑星の詳細な理解に大変有用である。
本研究では、惑星候補イベント OGLE-2014-BLG-1367L を7年後に Keck 望遠鏡によって観測し、レンズ系の明るさ及び相対固有速度の測定を試みた。本公演では解析方法、及びその結果を報告する。
講演a-8: HD131835周りのデブリ円盤のALMAデータ解析による円盤ガスの起源の考察
講演者名: 福富 一真、所属: 東京大学、学年: M1
デブリ円盤とは主系列星のうち赤外超過が見られる天体の円盤のことである。惑星系形成を終え,ガスが存在しないはずのデブリ円盤に15年ほど前からCOを持つものが発見され,現在では20のデブリ円盤から検出されている。このCOの起源について,従来は惑星系が誕生したのちに,彗星同士が衝突することにより供給されるという供給説が考えられていたが,予想される彗星の衝突によって供給されるCOの量と比べて,円盤のCOの量がかなり多いということがわかった。ここで新たに唱えられたのが残存説である。これは,デブリ円盤の前段階である原始惑星系円盤のガスが散逸されずに残っているとする説である。二つの仮説の違いとして水素分子の密度があげられる。残存説であればCOよりも水素分子がはるかに多いはずである。一方,供給説では彗星からCOが得られるが,彗星は水素をほとんど持たないので残存説の場合と比べて円盤の水素分子密度は低い。そこで非局所的熱力学平衡モデルを用いて,ガスの運動温度とCOのflux比と水素分子密度を関係づける。ここでCOのflux比とはCOの回転遷移𝐽=3−2輝線と𝐽=2−1輝線のflux比,F 3−2/ F 2−1である。水素分子の数密度が十分に高いならば輝線のflux比はボルツマン分布によって得られるそれぞれのエネルギー準位の存在量の比に一致するが,臨界密度より低いときは自発放射が効き,低いエネルギー準位のCOが増え同じ温度であれば高密度のときよりも輝線のflux比は低くなる。COのflux比を測定することにより水素分子密度を制限でき,これにより二つの仮説のどちらが正しいのか検証できる。
本研究ではCOの存在するデブリ円盤の一つであるHD131835周りの円盤について調べた。この天体はALMAによって13COとC18Oのそれぞれ回転遷移𝐽=2−1と𝐽=3−2の計4つの輝線が観測されている。そのデータを解析し,flux比を測定したところ,13COでは2.10±0.11であり,C18Oでは2.47±0.29であった。これによりどちらの場合も水素分子密度は,104.5cm-3以下であることがわかり,これは供給説を支持するものであった。
講演a-9: ハッブル宇宙望遠鏡を用いた若い星の周りを公転する系外惑星V1298tau b,cについての大気分析
講演者名: 和久井 開智、所属: 東京大学、学年: M2
V1298 tauはトランジット法にて4つの惑星b、c、d、eを持つことが発見されている恒星であり、その年齢は約23万年ほどと推測される若い星である。[1]また、誕生後およそ一億年以内にある若い星はその活発な恒星活動によって放たれるXUV放射により、系内の惑星の質量がはぎとられる可能性が示されている。[2]約23万歳のこの星は今その現象の最中であると考えられ、この星系の惑星V1298tau bも質量を損失していくことにより従来の24M_earthから最大で14M_earth程にまで損失しうるシミュレーション結果も出ており[3]、これらのような変化期にある惑星の様子について解析を行うことで惑星の発展段階について新たな知見を得ることができる。
本研究ではその中でも大気の様子について解析を実行する。HSTにより観測されたこの星系の2つの惑星b,cのスペクトルについてretrievalパイプラインPetitRADTRANSを用い、大気中に含まれる分子の濃度等についての事後確率分布を計算する。解析に使用する分子は基本的なH2O、CH4、CO、CO2、HCN、NH3の6種類とOptical absorberとしてFeHを用いて解析を進めている。本発表では大気内の分子についての詳細な解析結果やこれらの種の惑星の発展段階についての議論も行う。
[1]Trevor J. D. et al 2019 AJ 158 79
[2]Poppenhaeger K. et al 2021 MNRAS 500 4
[3]Barat, S. et al. 2024 Nat Astron
講演a-10: 分子雲フィラメントで生まれた星の進化過程
講演者名: 井手口 隼大、所属: 甲南大学、学年: M2
宇宙空間には星間媒質ガスが存在するが、そのなかでも比較的高密度なガスを分子雲という。 分子雲の高密度部分はフィラメント状であることが観測的に知られており、分子雲フィラメントが重力によって収縮することで星は生まれる。星は生まれた直後フィラメント状に分布するが、少なくとも数百万年の年齢を持つ若い星団はすでに球形状に近い分布を観測的に示している。2体散乱による緩和時間は非常に長いため、この具体的な進化過程の理解にはN体計算が必要になる。そこで本研究ではフィラメント状の初期分布を持った星団の進化シミュレーションを行った。フィラメントは初期の自由落下時間の数倍程度の時間スケールで分裂を始め、複数の球状の分裂片となった。その後も分裂片は次々と合体をし、最終的に1つの星団になるまで合体が続いた。ここで分裂片の同定にはk-means法と呼ばれる機械学習の手法を用いている。分裂片は合体後もすぐに球形状に進化するため、どの時刻でみても1つ1つの分裂片(星団)は球形状であり観測とは無矛盾であった。
講演a-11: 分子雲の構造進化の理解に向けた自己重力流体シミュレーションの解析
講演者名: 佐々木 誇虎、所属: 筑波大学、学年: M1
星形成は分子ガスの塊である分子雲で起こることがわかっているが、分子雲がどのような構造をとりながら星形成に至るかという詳細な進化過程はまだ明らかになっていない。星形成に至る分子雲の進化過程を理解するためには、観測に加え、シミュレーションを用いた研究が重要である。本研究では,分子雲進化を想定した自己重力流体シミュレーションを観測的研究でしばしば用いられるDendrogramを用いて解析することで、分子雲内の構造進化を調べた。対象のデータは四つの時点に分かれており、観測データと同じようにそれぞれ視線速度、位置、位置からなる三次元空間にガスの質量が格納されている。解析はデータを視線方向に積分した積分強度図と、三次元散布図それぞれに対して行った。解析の結果、積分強度図において同定された構造のうち、最も外側の構造については自己重力により収縮していく様子が確認できた。またこの構造のビリアルパラメータの推移から、分子雲全体としてビリアル平衡に近づいていることがわかった。また内部構造については、そのサイズ、質量、ビリアルパラメータが増減を繰り返していることがわかった。三次元散布図の解析結果からは、同定された各構造のサイズ、質量、ビリアルパラメータが増減を繰り返していることがわかった。一方で時間発展につれ比較的大きな構造が生じ、成長していく様子も見られた。以上の解析結果から、分子雲進化の構造について、自己重力による収縮が平衡に近づき、内部では小規模な構造がより大規模な構造へ成長するということが明らかになった。小規模な構造が大規模な構造へ成長する過程において、構造同士の衝突などの原因で星形成が促進される可能性がある。
講演a-12: 高密度コアの衝突によるストリーマーの形成
講演者名: 吉野 碧斗、所属: 東京大学、学年: M2
星は分子雲中の高密度コアが重力収縮することで誕生する。この過程は古典モデルにおいて、ほぼ軸対称のコアが重力崩壊し、原始星とその周囲に原始星円盤が形成されるものと考えられてきた[1]。しかし、近年の高空間分解能観測により、ストリーマーと呼ばれる非軸対称なガス降着が検出され、これが円盤へ物質を供給することが示唆されている[2][3]。例えば、ペルセウス座分子雲中の太陽から距離300 pcに位置する原始星系Per-emb-2では、炭素鎖分子が豊富な大規模ストリーマーが発見されている[2]。ストリーマーは原始星への降着の化学特性やダイナミクスを変化させる可能性が示唆されている[2]。さらに、このようなガス降着は星の質量決定にも重要な役割を果たす。しかし、ストリーマーの起源や特性、役割についてはまだ十分に解明されていない[2][4]。
ストリーマーの起源の候補として、コア衝突がある。コアの衝突は星形成過程に大きな影響を与え得るが、その具体的な役割はまだ十分に調べられていない[5]。公開されているコアカタログを基にした衝突頻度の見積もりでは、コア衝突は多くの星形成領域で十分に発生し得ることが示唆されており、星形成において重要な物理過程である可能性が示されている[5]。
本研究では、ストリーマーの形成過程を解明するために、コア衝突のシミュレーションを行った。計算には、AMR法を用いた流体力学計算コードのEnzo[6]を使用した。シミュレーション結果を観測結果と比較するため、基準モデルを作成し、それに基づいてパラメータサーチを実施した。その際に、降着が起こりやすいインパクトパラメータやガスの速度構造などを調査した。また、計算精度を向上させるために、適切なAMRの条件についても検討した。本講演では、これらの結果と考察を示すとともに、最近の観測結果およびそれを説明する理論モデルを紹介して今後の研究への展望も議論する。
[1] Terebey et al. 1984, ApJ, 286, 529
[2] Pineda et al., 2020, Nature, 4, 1158
[3] Valdivia-Mena et al. 2022, A&A, 667, A12
[4] Pineda et al. “From bubbles and filaments to cores and disks: gas gathering and growth of structure leading to the formation of stellar systems.” arXiv preprint arXiv:2205.03935 (2023).
[5] Yano et al. 2024, ApJ, 964, 119
[6] Bryan et al. 2014, ApJS, 211, 19
講演a-13: z>100の極初期宇宙における初代星の形成
講演者名: 伊藤 茉那、所属: 東北大学、学年: M2
初代星は宇宙の再電離や重元素の供給に寄与し、その後の宇宙の進化に大きな影響を及ぼす重要な天体である。一般に初代星の形成時期は、標準的なΛCDMモデルにおける天体形成論に基づいて、z〜20ー30だと推定されている。一方で、銀河スケールより小スケールの密度ゆらぎには観測的な制限がないため、実際はΛCDMモデルで考えられているより大きなゆらぎによって天体が形成された可能性がある。その場合、初代星の形成時期はz〜20ー30より早くなる。しかし、これまでの研究では、より高赤方偏移での初代星の性質についてあまり調べられていなかった。
本研究では、z〜100以上の極初期宇宙における初代星の形成過程を調べた[1]。z〜20ー30における初代星の形成では、宇宙背景放射(CMB)の影響は小さいと考えられているが、高赤方偏移ではCMBは高温であるため、その効果は無視できない。そこで本研究では、重力・輻射・化学反応に加えてCMBの効果を考慮したone-zoneの熱化学進化コードを用いて、始原ガス雲の温度進化を計算した。
その結果、形成時期z<130ではCMBの影響は小さく、標準的な初代星と同様の熱進化が見られた。一方で、130<z<500における初代星の進化過程では、CMB光子によるH-の光解離反応でH2の生成が阻害されるため、H2冷却が効きづらくなり、標準的な熱進化より高温となった。これにより、形成される初代星の質量は1000太陽質量を超えることが明らかとなった。さらにz>500では、H2がほとんど生成されず冷却効率が大幅に下がるため、星質量は10^5太陽質量を超えた。以上の結果から、初代星の典型的な質量は形成時期に依存することが示唆される。
[1] Ito, M., Omukai, K., 2024, submitted to PASJ (arXiv:2405.10073)
講演a-14: 1次元モデルによる長寿命ガスリッチデブリ円盤の再現
講演者名: 大山 航、所属: 京都大学、学年: M2
近年の観測で5000以上の系外惑星が発見されており、その形成過程は重要な問題である。惑星形成は原始惑星系円盤で行われ、円盤進化過程は惑星起源を考える上で重要である。原始惑星系円盤は一般に降着の時間進化の観測から数百万年でガス成分は散逸すると考えられている。散逸に寄与するメカニズムとしては粘性や円盤風での角運動量輸送、中心星輻射による光蒸発が挙げられる。
原始惑星系円盤に関するトピックとして観測にて見つかっている主に中間質量星の周りの10Myrを超えてガス成分が存在するガスデブリ円盤の起源が挙げられる。長寿命なガスデブリ円盤の起源として原始惑星系円盤のガス成分が生き残ったものであるというシナリオがある。
ガスデブリ円盤の起源についての先行研究として、ダストが進化し、光蒸発の内ダストに当たることによって起こる光電効果で駆動されるfar ultraviolet(FUV; 13.6eV<hν≲100eV)の寄与が抑制されるモデルを考えた[1]がある。[1] では空間構造を考えない0次元モデルを用いて、寿命が10Myrより長いディスクの再現に成功していた。また、中心星質量が2太陽質量で寿命が最大になっており観測とも一致する。
本研究では[1]のモデルを1次元に拡張し計算を行った。1次元に拡張することの利点としては空間分布を計算することが挙げられる。同様に寿命が10Myrより長いディスクの再現に成功した。ただし、光蒸発の面密度への依存性によって全体的に0次元モデルよりも寿命が長くなる傾向が見られた。また、中心星質量が2太陽質量で寿命が最大になっており観測とも一致する性質も確認できた。
[1] Nakatani et al, ApJL, 959, L28, 2023
講演a-15: 原始惑星系円盤の降着に対する惑星の抑制効果
講演者名: 鈴木 慧次、所属: 東北大学、学年: M1
惑星は、主系列以前の恒星の周囲に存在する原始惑星系円盤と呼ばれるガスとダストから なる降着円盤の中で形成されたと考えられている。原始惑星系円盤のリング構造や円盤回 転速度の観測結果から、そこで進行する巨大惑星形成の情報を得ようとする研究が数多く 行われている。
Manara et al. (2019)[1]は、原始惑星系円盤の円盤質量と中心星への円盤降着率との間に
みられる比例関係に対して、巨大惑星形成がどの程度の影響を与えるかを調べた。円盤中
で巨大惑星が形成されていると中心星へ降着するはずだった円盤ガスの一部が惑星に降着
するため、巨大惑星は中心星への降着を抑制する。Manara et al. (2019)は、Mordasini
et al. (2012)[2]の巨大惑星形成モデルを用いて、巨大惑星形成が中心星への降着率を何桁も
抑制することを示した。しかし、彼らのモデルでは巨大惑星への降着率を過大評価してお
り、それが中心星への降着の抑制に影響を与えている可能性がある。
本研究では、粘性降着円盤の面密度進化も同時に考慮した巨大惑星形成の最新モデル[3]を
用いて巨大惑星による中心星への円盤降着の抑制を再検証した。我々の結果によると、巨
大惑星形成による中心星への円盤降着率の減少は高々1桁以内であることが明らかになっ
た。これは、巨大惑星の成長が周辺の円盤面密度を減少させることで惑星自身への降着率
も減少させるためである。我々の結果は、円盤降着率が円盤質量と比例関係にあり大幅に
減少していない原始惑星系円盤の中でも、巨大惑星が誕生している可能性があることを示
唆している。
[1] Manara et al, 2019, A&A, 631, L2
[2] Mordasini et al, 2012, A&A, 547, A111
[3] Takana et al, 2020, ApJ, 891, 143
講演a-16: 超新星残骸G284.3﹣1.8とガンマ線連星1FGL J1018.6﹣5856の関連性
講演者名: 寺農 夏樹、所属: 甲南大学、学年: M2
大質量星とコンパクト天体からなるガンマ線連星の1FGL J1018.6-5856(以下J1018)を囲むG284.3-1.8 (以下G284)はW50/SS433のように中心に連星系が存在する非常に珍しい超新星残骸である。J1018がその連星系であると注目されているが、これまでの研究ではその確実な証拠が見つかっていない。J1018は光度変動の定常性からコンパクト天体は中性子星であると示唆されている(Tanaka et al. in prep)。本研究では、G284とJ1018が同一起源かどうかを明らかにするため、超新星残骸のG284のX線放射に着目した。この超新星残骸については、Chandra衛星とXMM-Newton衛星による結果が既に報告されている(Williams et al. 2015)が、我々はバックグラウンドがより低く安定しているSuzaku衛星搭載XIS検出器の約210 ksにわたる長時間観測データを解析した。G284の放射はXISの視野全体に広がっており、視野内からX線バックグラウンドを抽出することができない。そこで、X線バックグラウンドとG284の放射をいずれもモデルとしてデータに合わせることにした。その結果、G284にかかる星間吸収の柱密度はNH = (0.68 ± 0.01)×10^(22) cm^(-2)となり、J1018で得られているNH = (0.64 ± 0.02)×10^(22) cm^(-2)とほぼ等しい値となった。したがって、G284とJ1018の距離が同程度であると考えられる。またG284のスペクトル解析により、我々は爆発噴出物からNeに対してMgの組成比が非常に高い(Mg-rich)ことを発見した。この事実は燃焼殻融合(shell merger; e.g., Yadav et al. 2020)という爆発しやすい密度構造を獲得することでMg-richに至ると理解できる (Sato et al. 2024)。この効果によって爆発後に中性子星を残す15太陽質量以下の重力崩壊型の超新星を起源に持つことが分かり、一般にブラックホールを残すと考えられている25太陽質量以上の星が起源という主張(Williams et al. 2015)の矛盾を上手く説明することができる。本講演ではG284を起こした親星や爆発メカニズムとJ1018との関連を議論する。
参考文献
Wiiliams et al. 2015, ApJ, 808, L19
Yadav et al. 2020, ApJ, 890, 94
Sato et al. 2024, ApJ, arXiv:2403.04156
講演a-17: X線天文衛星すざくによる超新星残骸G82.2 + 5.3の観測
講演者名: 正嶋 大和、所属: 近畿大学、学年: M2
G82.2+5.3(W63)ははくちょう座にある視直径1度以上に広がる超新星残骸である。ROSATとASCAによりその中心に熱的X線プラズマが見つかっている。(Mavromatakis et al., 2003, A&A, 415, 1051-1063)。Mg、Si、Feの組成比が太陽の3-4倍程度と大きいことから、爆発噴出物(イジェクタ)が主であると考えられたが、星間物質(ISM)成分とは切り分けられておらず、電離状態も詳細にはわかっていない。そこで本研究では、スペクトルの質が良いX線天文衛星すざくのデータを解析し、G82.2+5.3のプラズマの調査を行った。すざくのXISの視野全面にX線放射が広がっているため、バックグラウンドは近傍の視野のデータを用いた。得られたスペクトルからNe、Mg、Si、Sの輝線を検出した。スペクトルは高温(kT~0.6 keV) の電離平衡 (CIE) プラズマと、低温 (kT~0.2 keV) の電離非平衡 (NEI) プラズマの2成分モデルで再現できた。それぞれイジェクタとISM起源と考えられる。また、領域を分けて2成分モデルでフィットした結果、ISMは一様に分布している一方、イジェクタは非等方に噴出していることがわかった。本講演では、解析の詳細な結果について報告し、本SNRの起源について議論する。
講演a-18: 超新星残骸CTB109の空間分布解析
講演者名: 上野 桃愛、所属: 東京理科大学、学年: M1
約10–30M⊙の質量を持つ恒星は最期に重力崩壊型超新星爆発を起こし、中心に中性子星を残す。爆発の衝撃波は星間物質を加熱し、かき集めつつ広がっていく。その内側では爆発噴出物もまた逆行衝撃波により加熱されX線を放射している。爆発噴出物には親星や爆発時に合成された元素が含まれているため、爆発噴出物からのX線スペクトルから含まれる元素量を測定することで、親星の質量を推定することができる。CTB109は中心にマグネター(超強磁場中性子星)を付随する超新星残骸である。中野ら(2017)は、「すざく」衛星により観測されたCTB109の半球全領域の解析を行い、爆発噴出物におけるSiに対するNe, Mg, S, Feの組成比から親星の質量は30-40M⊙と推定した。恒星の質量が30M⊙より大きいものはブラックホールを残すため矛盾が生じる。ただし、このとき中野ら(2017)は残骸成分の平均アバンダンスを用いていた。残骸からの放射には特に放射が強い超過領域も存在しており、この解析手法では元素量に系統誤差が残る可能性がある。
本研究では中野ら(2017)と同じデータの再解析を行った。それぞれ円環領域に区切るという形で、2成分と各輝線の空間分布を調べた。2成分の温度と爆発噴出物におけるSiに対するMg, Sの組成比には顕著な空間依存性は見られなかったが、Siに対するFeの組成比には北東領域に超過が見られる領域が存在した。CTB109では接触不連続面の内側には加熱された爆発噴出物成分が集中し、外側には加熱された星間物質が分布しているとすると観測された2成分の輝度分布を再現することができた。爆発噴出物における各重元素質量を重力型超新星による重元素合成モデル(Sukhbold et al. 2016, Nomoto et al. 2006)と比較すると、親星質量は12-20M⊙と推定することができ、中性子星を残すことに矛盾はない結果となった。
講演a-19: X線天文衛星「すざく」によるシェル型超新星残骸G296.1-0.5のプラズマの観測
講演者名: 竹内 清香、所属: 奈良女子大学、学年: M2
G296.1−0.5 は X 線、電波ともにシェル状の放射をもつ銀河系内の中年超新星残骸(Supernova Remnant; SNR) である。一般的な SNR は、超新星爆発によって V ∼ 10^4 km/sの速さで星間空間にまき散らされた恒星からの噴出物 (イジェクタ) が星間物質(InterStellerMedium; ISM) との間に衝撃波を形成し、高温プラズマ状態となる。 SNR のプラズマはイジェクタ由来のプラズマと ISM 由来のプラズマで構成される。 すざく衛星のデータを用いた先行研究 [1] ではイジェクタを検出したことが報告されており、0.5-0.8 keV 程度の 1 成分、もしくは 2 成分の電離非平衡のモデルで再現できると結論づけられた。しかし、全ての領域で0.6 keV 付近に大きな残差が確認できた。
本研究では、すざく衛星による観測データを 5 つの領域に分け、0.4-10 keV のバンドでスペクトル解析を行った。バックグラウンドについては観測天体と銀緯が同程度の別の視野を使用し、銀河面 X 線放射を考慮したモデルを用いて慎重に評価した。スペクトル解析の結果、0.3 keV 程度の電離非平衡 プラズマモデルと0.1 keV 程度の電離平衡プラズマモデルでよく再現された。さらに、X 線による放射が明るい部分については低温の電離平衡プラズマからの放射が多く観測され、イジェクタと衝撃波により掃き溜められた ISM によって構成されていることが分かった。
1. F. Gok et al. 2012, MNRAS, 419, 1603
講演a-20: 系外黄道光ダスト空間分布と系外惑星の関係の理論的研究
講演者名: 清水 颯人、所属: 名古屋大学、学年: M1
太陽系では,地球まわりの黄道光ダストが非一様な空間分布をしている(e.g., Kondo et al. 2016).系外惑星のまわりで,系外黄道光ダストでも特徴的な構造をつくるのか理論的な研究を行う.中心星周りを公転しているダストは中心星輻射を非等方性に吸収または再放射するので徐々に角運動量を失い(ポインティング・ロバートソン効果:以下,P-R効果),中心星方向にらせん軌道を描き移動する.移動してきたダストは惑星軌道に近づくと,惑星と重力相互作用をする.その結果,惑星周りに非一様な分布が形成される(Ueda et al. 2017).本研究では,ダストへの中心星輻射の影響を考慮して,中心星,惑星,ダストの3次元3体問題の軌道積分を行う.ここで,軌道積分は,4次エルミート法に基づき自分でコードを書いて実施した(Makino & Aarseth 1992).エネルギー保存や角運動量保存の精度確認や惑星との近接遭遇による軌道進化を過去の研究との比較を行い,信頼できるコードが作成できた.中心星質量が太陽質量,惑星質量と軌道が地球と同様な場合で軌道計算を行った.また,ダストはサイズに応じて輻射圧の強さが変わる.10µm程度のサイズのダストを模擬して軌道計算を行った.落下してきたダストは地球との平均運動共鳴に捕獲され,特定の軌道に一定時間とどまった.その結果,惑星周りのダストの分布に非対称性が生まれることが分かった.この特徴的なダストの分布図から系外惑星の存在をあぶりだせるかを最終的な目標として,現状の結果を報告する.
講演a-21: Streaming Instabilityでつくられるclump内でのダスト衝突速度
講演者名: 和田 航汰、所属: 東北大学、学年: M1
惑星形成の標準的理論では、惑星はkmサイズの微惑星の集積によってつくられたと考えられてきたが、微惑星の形成過程については不明な点が多く未解決問題として残されている。原始惑星系円盤内でダストが中心星に落下する前に、高密度のダスト層が形成されその重力不安定によって微惑星をつくることが提案されていたが、乱流等による巻き上げによりダスト層は十分な高密度とならないことが問題であった。
ダスト層とガス円盤のStreaming Instabilityは、十分な高密度のダスト塊をつくる機構として期待されており、多くの研究者により調べられている(Johansen & Youdin 2007, Bai & Stone 2010, Tominaga & Tanaka 2023)。
Streaming Instabilityとは、ダスト層と円盤ガスのそれぞれ運動がガス抵抗を介して同時に不安定となった結果、ダストを吹き溜まりに密集させる機構であり、これにより高密度のダスト塊の形成が可能となる。しかし、Streaming Instabilityのためには、ダストがcmサイズ程度以上にまで成長することが必要であり、そのサイズまでダストが成長できるかという問題がある。特にBai & Stone (2010)によると、Streaming Instabilityが起こる際にサイズが異なるダスト間の衝突速度は 20m/sと高速になることが指摘されており、ダスト成長が妨げられる可能性がある。また、Streaming Instabilityが発達する前にダストが落下してしまうという可能性もある。
本研究では、Bai & Stone (2010)と同様なダストサイズ分布を考慮したStreaming Instabilityの2次元数値流体計算を行い、そこでのダスト間の衝突速度と衝突頻度を詳細に調べた。その結果、Bai & Stone (2010)と同様に、異なるサイズ間での高速ダスト衝突が起こることを再確認したが、その異なるサイズ間での高速ダスト衝突の頻度は低く、同程度サイズの間の1m/s程度の低速衝突が多くを占めることを明らかにした。この結果からダスト衝突破壊の可能性は低いと言える。また低速衝突によるダスト合体成長時間も見積もったところ、Tominaga & Tanaka(2023)の結果と同様に、ダストサイズ分布を考慮してもダスト落下以前にダスト成長が進行することが確かめられた。
講演a-22: ALMA偏光観測データを用いた原始惑星系円盤のダストサイズ推定
講演者名: 北出 直也、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
惑星は原始惑星系円盤の中でダストが成長することで形成されると考えられており、ダスト成長過程は惑星形成における重要な過程である。しかし理論的・実験的には衝突破壊問題、跳ね返り問題、そしてダスト落下問題などによりダストの成長は阻害されることが知られており、微惑星を形成できるほどダストは成長することができない。そこで円盤内に存在するダストのサイズを観測的に見積もることが惑星形成を理解する上で非常に重要であると考えられている。
これまでダストサイズ推定のためにALMA望遠鏡による偏光観測が用いられてきた。ダストは自己散乱によって偏光を発することが知られており、その波長はダストサイズに依存することが知られている。[1]この自己散乱の波長に対する依存性を用いることによって、原始惑星系円盤内でどの程度のサイズのダストが存在するのかを見積もることができる。これまでも個別の原始惑星円盤に対して偏光観測によるダストサイズ制限は行われてきたが、円盤全般に対する一般的な解釈はなされていなかった。
本研究ではALMA望遠鏡によるアーカイブデータを用いることでこれまでなされてきたものより統計的な解析を行った。本講演ではその解析の手法についてと、偏光から推定されるダストサイズに円盤のどのような物理量が相関を持っているのかについて議論する。
1. Kataoka et al. 2015
講演a-23: 効率的な粒子加速現場の特定を目指したXMM-Newton および NuSTAR による超新星残骸 RCW 86 北東部の解析
講演者名: 藤本 源、所属: 東京大学、学年: M1
超新星残骸は、10^15.5 eV以下の宇宙線の有力な加速源である。宇宙線の効率的な加速として有力な二つのモデルが存在している。一つが低密度領域で大きな衝撃波速度が保存されたときに起こる効率的加速 (Zirakashvili & Aharonian, 2007)であり、もう一つは高密度領域で発生する磁気乱流によって磁場が増幅されることによる効率的な加速である(Inoue et al., 2012)。しかしながら、どちらの環境がより効率的な粒子加速を引き起こしているのか明らかになっていない。
そこで我々は超新星残骸RCW86 の北東部に着目した。X線帯域においてRCW 86の北東部には低密度 (Vink et al., 2006) かつ衝撃波速度が速く(Yamaguchi et al., 2016)、熱的な放射がほとんど存在しない純粋なシンクロトロン放射によって輝いている領域が存在している (Bamba et al., 2000, 2023)。同一天体内で高密度領域と低密度領域が混在しているため、密度の違う環境が及ぼす効率的加速への影響を検証するのに最適な天体である。これまで NuSTAR(3-78 keV) の観測のみでは、加速された粒子の最大エネルギーの指標となるシンクロトロンX線スペクトルの折れ曲がりのエネルギーの特定ができなかった (加藤他、2024年天文・天体物理夏の学校)。折れ曲がりエネルギーを測定するため、我々はNuSTARによる観測に加え、 XMM-Newton (0.4-10 keV) を用いた広帯域スペクトルを解析する。
我々はRCW86 北東部を北部と中央部と南部の密度の違う三つの領域 (Bamba et al., 2023) に分割し、それぞれでべき型関数によるフィッティングを行った。その結果、べき指数が中央部 (2.91 +/- 0.06)の方が北部 (2.29 +/- 0.14)より高いことを示した。 現在はXMM-Newton を含めてスペクトルの折れ曲がりのエネルギーを測定する解析を進めている。本講演では、このRCW86の北東部の解析を元にどの密度の環境がより効率的な加速を引き起こしているのか議論を行う。
講演a-24: 超新星残骸1E0102.2–7219の広帯域の精密X線分光
講演者名: 加藤 寛之、所属: 京都大学、学年: M1
1E0102.2–7219 (E0102)は小マゼラン星雲に位置する超新星残骸である。視線方向に重なる二つのリングからなる特異な構造をしている(Vogt & Dopita 2010)。2つのリングが双極的な視線運動をしているとする研究もあるが(Flanagan et al. 2004)、異なる説もあり(Hughes et al. 1994)、決して確定してはいない。これを明らかにするために、私はX線精密分光解析を行う。輝線のドップラーシフトを精密に測定することができれば、速度構造をより詳細に調べることができる。この特異な速度構造は爆発メカニズムに起因する可能性があると私は考えている。その場合、何らかの兆候が爆発噴出物の元素組成から見出されうる。実際、E0102ではNeに対するMgの存在比が、他天体に比べ有意に少ないことが従来の観測から知られている(Matsunaga et al., submitted to ApJ; Sasaki et al. 2001)。MgとNe, Siなどの組成比を精度良く決定できれば、親星の構造を推定できることが期待され(Sato et al., arXiv:2403.04156)、私はそこから速度構造の形成要因に対する示唆を与えられると考えている。それに加え、今までの検出器では観測できなかった稀少元素からの輝線を観測できれば、同様に親星の情報を得ることができる。
E0102はX線で非常に明るいことから、2023年9月に打ち上げられたX線天文衛星XRISMで較正天体として何度も観測されているため、エネルギー分解能の高いResolveによる高統計のデータを使用できる。ただし、現状ゲートバルブが開いておらず、1.7 keV以下の軟X線を捉えることができない。そこで私はResolveに加え、XMM-Newtonに搭載された反射型回折分光器(RGS)を相補的に用いる。RGSは2 keV以下の軟X線に対し高いエネルギー分解能をもち、Resolveと併せれば全X線帯域をカバーできる。本講演では解析結果を報告し、E0102の速度構造やその成因について議論を行う。
講演a-25: 超新星残骸N132Dにおける熱的X線を用いた衝撃波速度の推定
講演者名: 岡田 佳純、所属: 青山学院大学、学年: M2
超新星爆発により放出された噴出物は周囲の星間物質(ISM)を掃き集めながら広がるため,その相互作用により衝撃波が生成される.一般に爆発後200年程度は衝撃波がそのエネルギーを保ちながら自由膨張するが,掃き集めたISMが噴出物の質量を上回ると徐々に減速しながら拡大する.衝撃波速度は超新星残骸の進化過程を探る上で重要な手がかりであり,一般に可視光やX線で固有運動の直接観測によって測られている.この手法は距離の離れた天体や数1000年以上の若くない天体への適用は難しい.しかしこのような天体に対しても,衝撃波加熱されたプラズマ中で進行する粒子のクーロン衝突を介した熱緩和過程とイオンの電離過程を解くことで,プラズマの電子温度と電離度から衝撃波速度の推定が可能となる.
本研究では,大マゼラン雲の超新星残骸 N132Dにおいて衝撃波面に沿った下流領域のプラズマの電子温度と電離度から衝撃波速度の推定を試みた.N132Dは衝撃波加熱された星間物質の放射が顕著に強く,高角度分解能を持つChandra衛星による長時間観測(900 ks)が行われており衝撃波下流を詳細に空間分解する上で適している.そこで,残骸外縁部の領域から抽出したスペクトルを網羅的に解析し衝撃波速度の空間分布を調査した.その結果,衝撃波速度は方位角方向に依存し,800 – 1500 km/s の幅を持つことが分かった.さらに,熱的放射から推定された速度を固有運動測定から算出した真の衝撃波速度と比較した.南部領域では大まかに一致した一方で,北部領域では両者の値に大きな乖離が見られた.これは衝撃波のエネルギーの全てがプラズマ加熱に使われず何らかの機構で散逸したことを意味する.この乖離を説明するには残骸の進化や断熱冷却による効果では不十分であり,N132Dにおける高効率な粒子加速の存在が示唆される.本研究会では以上の成果の報告を行う.
講演a-26: 超新星残骸G1.9+0.3におけるシンクロトロンX線強度の時間変化
講演者名: 川端 裕也、所属: 甲南大学、学年: M1
PeV以下のエネルギーをもつ高エネルギー荷電粒子群である銀河宇宙線が地球に到来している。その加速源は超新星残骸の衝撃波面であると広く受け入れられているが、実際にここでPeVまで到達する粒子加速が起きているかは大きな謎である。最近のガンマ線観測データを見ると爆発後300年の超新星残骸であるCassiopeia Aのガンマ線フラックスがTeV以上で急激に減少していることが報告されている[1]。これは300年より早い時期でPeVまでの加速が起き、その後フラックスが減少したことが考えられる。そこでSNRの中で最も若く、爆発後僅か100年程度しか経っていないとされる[2]G1.9+0.3に着目した。G1.9+0.3によって加速された電子のシンクロトロンX線放射を観測することで、電子の加速状況を調べることができる。
本研究ではX線衛星Chandraが取得した2007年、2009年、2011年、2015年、2019年、2020年の観測データを用いて解析した。G1.9+0.3によって加速された電子によるシンクロトロン放射に着目してその放射が卓越するシェル部分のスペクトルを抽出し、それらをべき関数でフィットした。その結果X線フラックスが約20%/year増加している事を発見した。シンクロトロンX線の増光から最大加速エネルギーが時間とともに増加していると解釈できる。その放射スペクトルは、フラックスの分布がべき関数の形状を持ち、最高加速エネルギー付近ではフラックスが急激に減少する特徴を持っている。最高加速エネルギーが時間の経過に伴い増加すると仮定すると、そのエネルギー付近での電子数が増加し、最大加速エネルギーがより高いエネルギーへと伸びていることが今回の観測結果から導かれる一つのシナリオである。本講演では観測結果を踏まえてG1.9+0.3での宇宙線加速の状況などについて詳しく議論する。
参考文献
[1] Max et al 2017 MNRAS, 472, 2956-2962
[2] Reynolds et al 2008 ApJ, 680, L41
講演a-27: 現実的な星間媒質中での超新星残骸膨張の研究
講演者名: 小野川 絢心、所属: 名古屋大学、学年: M2
銀河中で太陽のような星は分子雲と呼ばれる、水素を主体とする比較的密度が高いガスの中で形成される。では、この分子雲はどのように形成されるのか。この問題は長年星形成パラダイムを完成させるために重要であったにも関わらず、明確な見解が持たれていない。この問題の解決案として提唱されたのが、銀河中の泡構造モデルである(Inutsuka et.al 2015)。 これは超新星残骸などによって発生する銀河面内を走る衝撃波によって星間ガスが何度も圧縮させられて、分子雲が形成されるというモデルである。近年、ジェームズウェップ宇宙望遠鏡JWSTの観測によって近傍銀河円盤が実際に泡構造で満たされていることが観測された。しかし泡構造の起源は十分に検証されておらず、H I I領域と呼ばれる電離領域もしくは超新星残骸が起源の候補とされている。また、泡構造は中間赤外線でのみ観測することができ、P A Hと呼ばれる芳香族炭化水素が光っているとされているが、このPAHの衝撃波内での破壊率や発光機構についての理解も不十分である。この泡構造の起源や性質を明らかにできれば,泡構造が分子雲を形成するというシナリオを検証し、銀河の中での一般的星形成シナリオを完成させることができる。本公演では放射冷却を含めた超新星残骸の膨張についての数値計算結果を発表し,近傍円盤銀河に見つかった泡構造と比較する予定である。
講演a-28: 熱対流を取り扱うためのSPH法コードの開発
講演者名: 髙橋 航、所属: 名古屋大学、学年: M2
対流は惑星における熱輸送や物質の撹拌に寄与する重要な過程である。対流は流体シミュレーションによりよく調べられているが、主にオイラー的な流体方程式に基づくメッシュ法で行われている。メッシュ法では格子状に空間を離散化するため移流によって分布がならされてしまい、数値計算によって生じる熱拡散より小さな熱拡散での計算が困難である。そこで、ラグランジュ的な流体方程式に基づくSmoothed Particle Hydrodynamics (SPH)法で対流現象を調査する。SPH法では、流体を粒子で離散化することで移流による分布の平滑化が起こらず、数値計算による熱拡散を非常に小さくすることができる。本研究では、SPH法を用いた熱対流シミュレーションを行う。対流現象を引き起こす浮力をより働きやすくしたBoussinesq近似を用いてシミュレーションを実行する。熱対流はレイリー数と呼ばれる無次元量で特徴つけられる。シミュレーション結果をレイリー数と熱輸送効率を示すヌッセルト数とを比較することで、その妥当性を評価した。これらの詳細な結果をもとに、SPH法での熱対流シミュレーションを議論する。
講演a-29: 弾性体力学シミュレーション手法の新しい定式化
講演者名: 内海 秀介、所属: 名古屋大学、学年: M1
我々は角運動量が厳密に保存する数値計算手法を提案する.小惑星は様々な幾何的形状を持ち,その形成は小天体同士の衝突と合体によるものであると考えられている.類似の過程である微惑星の衝突は,固体惑星形成の最終段階においても重要である.この大規模な現象の実験は困難なため,数値シミュレーションによる解析が広く用いられている.このような現象のシミュレーションでは,弾性体力学へ拡張されたSmoothed Particle Hydrodynamics (SPH)法が有効である.SPH法は,流体粒子により空間を離散化しラグランジュ的に記述するため,衝突破壊現象の記述に非常に適している.そしてSugiura and Inutsuka 2017によるGodunov法を拡張した定式化により,従来の弾性体SPH法の問題であった張力不安定性が解決されるなど,弾性体SPH法は発達している.しかしながら,未だに解決すべき種々の課題が存在する.例えば上記論文では以下の2つの問題点が指摘されている.(1)非中心力の導入により,定式化の段階で系の全角運動量が保存されない.(2)偏差応力テンソルの時間発展方程式が必要であり,冗長で計算コストが高い.本研究では,これらの問題点を克服する新たな弾性体モデルを提案する.具体的には,中心力ポテンシャルのみによる相互作用を行う多体系で弾性体を記述する.様々なテスト計算により,ポアソン比,ヤング率,および弾性波の速度を測定し,この新しい手法の有効性を確認した.さらに,理論的定式化を行い,計算コードの設定パラメータに対するポアソン比およびヤング率の依存性を導出した.これにより,現実の具体的な弾性体を容易に再現することができる.このモデルに衝突破壊効果を加えることで,前述した小惑星形成の解析への応用が可能となる.本発表では,我々の新しい弾性体モデルの定式化および妥当性,そして今後の発展について述べる.
講演a-30: 系外惑星の小天体衝突と大気熱進化の理論的研究
講演者名: 御子 裕治、所属: 名古屋大学、学年: M1
惑星大気の形成や進化には衝突過程が大きな鍵を握っている。小天体の惑星への衝突によって発生した蒸気プルーム内は高温・高圧になり、窒素といった二次大気形成を促すだけでなく、生命の誕生に欠かせない有機分子を生成する化学反応が進行する。生成される分子の割合は衝突体の大きさに応じて決まり、木星のガリレオ衛星でも衝突により有機化合物の生成が示唆されている(Ishimaru et al. 2010)。一方、一部の有機化合物の吸収線と観測可能な衝突クレーターの位置との分布に明らかな相関がないが、その理由は衝突によって生成された分子は大気中に広く拡散するためと考えられる。衝突後の大気の運動と熱状態をシミュレーションして、衝突生成物が惑星の大気中をどのように拡散し、どのように進化するか明らかにする必要がある。
本研究ではまず惑星大気の運動について理解するため、惑星大気を模擬した条件で、熱対流のシミュレーションを公開コードAthena++を用いて行った。熱対流はレイリー数と呼ばれる無次元量によって特徴づけられる。線形解析により臨界レイリー数が導出され、レイリー数が臨界レイリー数を下回る系では対流が発生せず、レイリー数が大きくなるほどより不安定な対流となる(Chandrasekhar 1981)。そこで、2次元の計算領域内で一定の温度勾配を持つ大気の設定し、様々な値にレイリー数を変えてシミュレーションを行った。この結果、臨界レイリー数より大きなレイリー数では、大きなレイリー数で強い対流が起こることを確認した。本講演では詳細な計算結果について発表する。また、本手法を用いた衝突後の大気運動の計算についても議論したい。
講演a-31: 近赤外線偏光観測によるオリオン座星雲の構造解明
講演者名: 福永 千裕、所属: 京都大学、学年: M1
星間減光の測定は、星形成領域の詳細な構造と物理的特性を知るうえで重要である。既存の測定法としては同じスペクトル型の星の星間赤化を比べることで間接的に減光を計算する[1]などが主である。しかし、この手法では視線方向の天体の環境にも依存して値が変化するため、正確には求めづらい。
そこで我々は、単一散乱光の近赤外線(J, H, Kバンド)の偏光観測により散乱光を特定し、星間減光の正確な値を得る手法を考案した。
J,H,Kバンドの波長だと、電磁波が星形成領域に侵入できるため、構造把握に適している。
また、散乱光の偏光強度は散乱角にのみ依存しており、散乱角度が90度に近い単一散乱光は強く偏光する[2]。散乱光を直接測定できない要因に、特に星形成領域では他の放射より弱い[3]ことがあるが、偏光観測により単一散乱光を区別して観測することができる。抽出した散乱光の減光度は入射光の波長、ダストの密度、光路長の関数であるので、得られた物理情報から星形成領域の詳細な構造を知ることができる。
今回の発表では、本手法の有効性を確かめるため行った、偏光観測によって単一散乱光を取り出す実験と、今後の研究予定について議論する。
[1] Draine 2011
[2] Simpson et al. 2009
[3] Tamura et al. 2006
講演a-32: VLBIで探る超微細星間空間構造の探究
講演者名: 中島 圭佑、所属: 鹿児島大学、学年: M2
星間空間において星間物質が凝集し分子雲へと進化する際、つぶつぶのガス塊が形成されることで分子ガス形成が促進されるというシナリオが理論シミュレーションにより提唱されている。実際、天の川銀河系内の観測では、微小電離ガス塊による星間シンチレーションや微小原子ガス塊が随所で見られている。ただし、ここで認識された空間尺度はそれぞれ0.01 au以下、10 au以上であり、両者は大きくかけ離れている。一方、分子については、明るくコンパクトなクエーサー方向の結合素子型干渉計観測データに多数の分子吸収線が検出されているものの、それらが微小な空間構造に起因するものであることは未だ示されていない。微細な分子ガス構造(TSMS; tiny-scale molecular structure)の存在を示すには、分子吸収線が時間変動することを示す必要があり、さらに構造について議論するにはより高い空間分解能が必要である。例えば1 kpc先にある3 auのTSMSが銀河回転に沿って運動している状況を想定すると、構造を分解するには3ミリ秒角の空間分解能が必要で、3 au分の固有運動を捉えるには約2ヶ月に渡った監視観測が必要である。本研究では、KVN(Korean VLBI Network)を用いたミリ秒分解能でのTSMS探査を世界で初めて行い、少なくとも3方向で、既に報告されているHCO+に加え、HCNの吸収線を初検出した。本研究のようにVLBI(超長基線電波干渉計)の桁違いに細いビームを用いることで、拡がった輝線成分からの相殺を受けずに吸収構造を探査できる。本講演では、2023年11月と2024年1月のKVN観測の結果について発表し、今後の観測計画について触れる。
講演a-33: NGC1333における分子雲衝突によるフィラメント形成
講演者名: 伊藤 拓冬、所属: 名古屋大学、学年: M1
NGC1333は距離235pcに位置する活発な小質量星形成領域で、137個の若い星が検出されている[1]。
先行研究では、分解能2.7’のCO輝線の観測により視線速度の異なる2つの分子雲が存在することが示され、それらの空間分布から分子雲同士の衝突が提案されている[2]。また、ダスト連続波などによる観測からフィラメント上の分子雲の存在が多数報告されている(e.g., [3])。
本研究では、この領域における分子雲衝突によるフィラメント形成について検証し、その物理過程を明らかにすることを目指す。
過去の一酸化炭素輝線による観測(SMTやFCRAO等)では分解能が低く、また12COと13COの観測のみであることから、幅広い密度レンジを持つフィラメント構造を網羅できていない。そのため、野辺山45m望遠鏡を用いて12,13CO, C18Oの3輝線を14”(=0.015pc)の高分解能で観測した。
観測から13COとC18Oでフィラメント状の構造が確認され、FilFinderアルゴリズムを用いて13CO、C18Oのそれぞれで50本以上のフィラメント構造を同定し、その物理量を求めた。さらに広がった構造の速度場から、分子雲の衝突領域の範囲を決定した。
結果として、この領域のフィラメントのほとんどが約0.1pcの幅で線質量が4-400M_Sun/pcと広く分布すること、線質量や速度分散が大きいフィラメントは分子雲が衝突している領域に局在し、その多くには若い星が付随していることが確認された。衝突領域のフィラメントは周囲の速度場から0.5 km/sほどずれた速度を持ち、位置速度図はフィラメントの周囲で折れ曲がった形状を示す。
これらの結果はフィラメント形成のMHDシミュレーション([4]、[5])と整合的であり、衝突領域でのフィラメントは分子雲衝突による質量降着により、大きな線質量を獲得したと考えられる。さらに講演では、衝突領域外の線質量の小さいフィラメントが原子ガス同士の衝突で形成された可能性についても議論する。
1. Gutermuth et al. 2008ApJ…674..336G
2. Loren et al. 1976ApJ…209..466L
3. Friesen et al. 2017ApJ…843…63F
4. Inoue & Fukui. 2013ApJ…774L..31I
5. Inoue et al. 2018PASJ…70S..53I
講演a-34: リチウムの存在度に基づく若い星団の年代測定
講演者名: 水本 拓走、所属: 兵庫県立大学、学年: M1
太陽質量程度の星は分子雲から誕生してから、原始星、Tタウリ型星、ポストTタウリ型星という段階を経て、主系列星に至る。このうちポストTタウリ型星は、若い星としての特徴が薄いため、その年齢から予想される数よりも発見数が少ない。本研究の当初の目的は、ポストTタウリ型星を探査することである。
同じ星団やアソシエーションに属する星は、もともと一つの分子雲から誕生したものであり、生まれた時には分子雲にあったものと同量のリチウムを星表面に持っている。やがて星が進化して内部が十分に高温になると、対流によって内部へ運ばれたリチウムは破壊され、表面のリチウム量は減少を始める。このリチウム破壊の程度は星の温度(質量)によって異なり、低温の星ほど対流層が厚い期間が長いため、リチウムの破壊はよく進む。このように、星表面のリチウム量は星が年齢を経るにしたがって減少するため、その減少量から星団の年齢をおおまかに見積もることができる。しかし、同じ温度の星でもリチウムの存在度が星団内で大きくばらつくことが分かっており、星の自転速度や星の活動性とも関係があるものの、詳細な原因は解明されていない。したがって、現時点でここから精度よく年齢を推定することは難しい。
本研究では、Gangé et al.2020においてμTau association(MUTA)の星であると同定された星について分光観測を行い、その年齢を推定した。観測には西はりま天文台のなゆた望遠鏡と中低分散分光器MALLSを用い、合計23天体のスペクトルを取得して解析を行った。その結果、MUTAは約100Myrのプレアデス星団と同等の年齢を持つことが分かり、これはGangé et al.2020によってHR図から推定された年齢と矛盾しない。
1. Gagné et al., ApJ, 903, 96, 2020
2. Soderblom et al., AJ, 106, 1059, 1993
3. Bouvier et al., A&A, 613, A63, 2018
講演a-35: Tomo-e GozenによるT Tauri型星の短時間変動の検出
講演者名: 根津 正大、所属: 東京大学、学年: M1
“Tomo-e Gozen”は、東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡に搭載されたCMOSカメラにより広視野(~20deg^2)を高速(最大2fps)で動画撮像できる、可視光観測システムである。T Tauri型星は、活発な磁場活動による表面の巨大な黒点の見え方が星の自転によって変わることや、フレアや降着円盤からの質量降着といったメカニズムにより、数時間〜数日のタイムスケールで大きな変動を示すことが知られているが、秒〜分スケールの変動については、未だ多くは調べられていない。そこで本研究では、Tomo-e Gozenの特徴を活かし、複数のT Tauri型星についてモニタリング観測を行い、短い時間スケールの変動について、統計的な議論を試みた。
2023年11月に行った、近距離分子雲MBM12中の7つのT Tauri型星に対する試験観測では、得られたライトカーブから、16の短時間変動現象の候補を検出することができた。解析手法が未だ洗練されておらず、変動現象候補の数が少なく統計的な議論も難しいため、検出されたすべてがリアルな変動であるとは言えないが、フレアの発生による変動を仮定すると、立ち上がり時間1~100s程度、エネルギー10^32~34erg程度であると見積もることができた。これは、同程度のタイムスケールに対するフレアのエネルギーとしては、太陽やM型星のフレアエネルギーよりも数桁大きく、T Tauri型星での強い磁場活動が示唆される。今後、2024年1月に観測したTaurus星形成領域中の80個近くのT Tauri型星のデータ解析を進め、より有意な統計的な議論を進めていきたい。
講演a-36: ALMA望遠鏡を用いたオリオン座領域原始星OMC-3 MMS5の観測
講演者名: 中村 優梨佳、所属: 九州大学、学年: M2
主降着期に起こる分子流の駆動メカニズムおよび円盤の形成過程を含む星形成過程を観測的観点から明らかにすることは、太陽系の起源を探る上で重要である。Orion-Aに位置するOMC-3 MMS5は、近傍に大質量星を有する、Class 0天体の中でも非常に若い天体である。太陽系は過去に大質量星が近傍にあったと考えられているため、オリオン座領域の小質量原始星初期段階の研究は太陽系形成環境を知る上で重要な位置付けとなる可能性がある。我々のグループで行われた研究では、ALMAの観測によって、MMS5から噴き出す分子流である低速アウトフローと高速ジェットが存在することが明らかにされた(先行研究[1])。また、両者が駆動し始めた時刻が異なることが判明した。しかし、分解能の問題から、アウトフロー/ジェットの駆動半径の違いや円盤とエンベロープの詳細構造などについての解明には至らなかった。本研究では、MMS5をより高い空間分解能で観測した新たな観測データに含まれる5つの分子輝線(CO,SiO,HCO+,CS,C18O)と0.9mm連続波の解析を行った。CO,SiO,HCO+の観測では主に分子流に関連した広がった構造を捉えた。CS,C18Oでは主にエンベロープや円盤付近のコンパクトな構造が検出されており、円盤の回転運動に関する詳細な情報を得ることができた。さらに、本来、連続波を取得するために設定された周波数帯域で検出された、多数の有機分子輝線スペクトルを含むことを明らかにした。これはMMS5がホットコリノ天体(温度が高く、豊富な有機分子を備えている天体)である(先行研究[2])ことを支持するものであり、原始惑星系円盤における惑星形成の起源を探る上で重要な役割を果たすと考えられる。MMS5で見られる円盤や分子流などの構造をさまざまな観点から解析・解明し、原始星の形成初期段階における質量放出・降着、円盤形成機構について議論する。
先行研究
[1] Matsushita et al. 2019, ApJ, 871, 221
[2] Bouvier et al. 2022, ApJ, 923, 10
講演a-37: Evolution of magnetic lever arm in viscosity and MHD turbulence-driven disk winds
講演者名: 盛 宇凡、所属: 東京大学、学年: M1
In the several past decades, multiple models have been proposed to explain various physical processes in accretion disks around young stars, Active Galactic Nuclei and black holes. The central issue lies in how the angular momentum is transported outward and removed from the accretion disk. Viscous heating[1] and MHD-driven disk winds[2] are considered to be main players dominantly working in protoplanetary disks but many features of the disk evolution still remain to be explored. Using a 1D simulation method, we examine the evolution of disks affected by both viscous heating and MHD-driven winds in various physical conditions. Based on current studies[3][4], we probe the interaction of viscosity and turbulence driven winds with/without torque, and determine the time-dependency of the magnetic lever arm parameter λ, which is adopted as a constant in Tabone et al.(2022).
[1]Shakura & Sunyaev 1973
[2]Bai & Stone 2013
[3]Suzuki et al. 2016
[4]Tabone et al. 2022
講演b-1: 分子雲コアの収縮に対するHall効果の影響
講演者名: 鍋田 春樹、所属: 東北大学、学年: M1
分子雲コアからどのように原始星や原始惑星系が生まれるかは重要な問題である. 特に分子雲コアの収縮に伴って形成される円盤の大きさは, 最終的な惑星系のサイズに直接かかわる重要な量である. 分子雲コアに磁場が入っていると, 磁場は円盤の中心から角運動量を引き抜き, その回転を弱める. 円盤のガスが理想磁気流体であるとすると角運動量が過度に引き抜かれて観測より円盤が過度に小さくなってしまうが, ガスに非理想磁気流体(磁場の拡散)の効果を入れると, 角運動量の引き抜きが小さくなる. その結果円盤は小さくなりすぎず, 観測と整合することになる. このように分子雲コアの角運動量と非理想磁気流体の効果には密接な関係がある. 今回紹介するTsukamoto et al., (2017)は, 非理想磁気流体の効果一つであるHall効果について扱った論文である. Hall効果は他の非理想磁気流体の効果と同等に影響するにも関わらず未知の部分の多い効果である.
Hall効果は他の非理想磁気流体効果と異なり, 同じ磁力線の形でもその向きによってガスの運動への影響が変化する. そこでTsukamoto et al., (2017) では, 一様磁場と分子雲コアの回転を, 磁場と角運動量の向きに角度をつけて与え, それぞれの場合について非理想磁気流体の3次元シミュレーションを行い, 比較している. その結果, 初期の磁場と角運動量の相対的な向きに応じて円盤の大きさは2通りに大別されることが分かった. 分子雲コアにHall効果由来の角運動量成分が生まれ, コア中心部の角運動量に影響が出ることも明らかになった. また, 分子雲コアの内部で星周円盤と逆回転する部分が現れた. これらは降着期の星周円盤の回転方向を変える可能性がある. 以上の影響はHall効果が若い星周りの観測量に影響を与えることを示唆する重要な結果である. 宇宙線電離の空間構造と磁場, 円盤の密度構造が相互に関係することを考慮したうえで, Hall効果が円盤にどのような影響を与えるかも議論する.
・Tsukamoto, Y., Okuzumi, S., Iwasaki, K., Machida, M. N., & Inutsuka, S. 2017, PASJ, 69, 95
講演b-2: 分子雲中の特異な速度構造の抽出
講演者名: 李 欣儒、所属: 東京大学、学年: M2
星は分子雲の中で形成され、その性質や形成効率は分子雲の物理状態や乱流の強さを反映すると考えられている。ところが分子雲は希薄であり外的・内的擾乱の影響で物理状態や運動状態を変化させるため、星の形成過程を理解するには、分子雲の状態への外的・内的擾乱の影響についての理解が重要となる。
分子雲への外的・内的擾乱の例として、超新星爆発の衝撃波、分子雲衝突、双極分子流や恒星風などがある。これらの影響は、線幅の拡大などの特異で局所的な速度構造として検出可能だが、従来の同定の多くは手作業によるもので、探査領域のこれらの擾乱源へのバイアスや、比較対象データの欠落、膨大な未解析データの残存などの課題があった。このため、無バイアスのCO輝線サーベイによって特異な速度構造が見いだされても、付随する励起源が同定されない限り、未知の速度構造として言及されるにとどまってきた。
そこで本研究では、CO分子輝線の観測データキューブに空間方向・速度方向のメジアンフィルターを適用することで「通常の」速度成分を除去し、特異な速度構造を抽出しやすくしたうえで、構造検出のアルゴリズムを適用することで、特異な速度構造の検出・分類の自動化・高速化を目指している。
その第1段階として、野辺山45m電波望遠鏡を用いたわし座リフト領域のCOサーベイデータを用いて手作業での特異的な速度構造の分類に着手し、(1)双極分子流様構造、(2)単極かつ微弱な速度異常、(3)系統速度から顕著な速度ずれを持つコンパクトで明るい構造の3種類を見出した。このうち比較的自動検出が容易と思われる(1)について自動検出を進め、人の目による同定結果と比較することで、自動検出の信頼性の評価を進めている。将来、幾何学的特徴に基づく機械学習により、分子雲の物理パラメータの仮定を設けずに未知の速度構造を識別し類型化することを目指している。
講演b-3: CO J=1-0/J=2-1吸収線観測による銀河系内分子ガスの物理状態の推定
講演者名: 成田 佳奈香、所属: 東京大学、学年: D1
先日ApJで出版されたNarita., et al 2024の内容をもとに講演を行う。我々は銀河系内の分子ガスの全体像を把握するために、銀河面背後のQSOの高空間分解能・高感度のCO(および13CO) J=1-0、J=2-1吸収線を解析した。これらを連立してマルチガウシアンフィッティングして速度成分を分離し、τ1-0とτ2-1からTexを解析的に求めた。また、HNC/HCN比からTk=50Kと推定し、τ1-0とTexからn(H2)とX(CO)/(dv/dr)を精密に推定した。この結果、吸収線解析では通常のX(CO)やTk=10Kの仮定は不適で、暖かく低密度でCO-poorなガスが見えること、吸収線のτ1-0とTexから期待される輝線プロファイルと実際のデータの比較から各成分のサイズ推定が可能なことを示した。これらの結果を紹介する。
講演b-4: ALMAを用いた大マゼラン雲の星形成領域における複雑な有機分子の観測
講演者名: 田村 玲子、所属: 新潟大学、学年: M1
直接的な観測が不可能な初期宇宙における星形成過程や星間物質の化学進化を研究するには、近傍の低金属量領域の観測が必要となる。大マゼラン雲は近傍(50.0+-1.1kpc)(Pietrzynski et al. 2013)の低金属量領域(Z_LMC~0.3-0.5 Z_Sun)(Russell and Dopita 1992 など)の一つである。したがって、金属量の低い環境下における複雑な有機分子COMs(Cを含む6原子以上の分子)(Herbst and van Dishoeck 2009)の性質を調べる上で、大マゼラン雲は有用なターゲットである。
星間COMsは太陽系内小天体に取り込まれた後、初期の地球に届けられ、生命の起源に重要な成分を提供した可能性がある。以前までは、メタノールよりも大きなCOMsは大マゼラン雲の2つのホットコアでのみ検出されていた(Sewilo et al. 2018)。ホットコアとは、大質量星原始星に付随するコンパクト(約0.1pc以下)、高温(約100K以上)、高密度(約10^(6-7)cm^(-3)以上)な領域である(Garray and Lizano 1999 など)。近年、大マゼラン雲の化学的に多様なホットコアの全体像が明らかになりはじめており、メタノールやアセトニトリルが検出されたが、より大きなCOMsは検出されず、銀河系のホットコアと比較すると有機種が少ない。
本講演では、ALMAを用いて大マゼラン雲の星形成領域N105における複雑な有機分子の観測を行った論文[1]のレビューを行う。ここではホルムアミドを検出したが、他のラインと混合された低い信号対雑音比の遷移に基づいているため、この検出は暫定的なものと考えざるを得ない。もし大マゼラン雲におけるホルムアミドの存在が確認されれば、生物学的に重要な分子が銀河系外の低金属量領域で初めて検出されたこととなり、宇宙初期の金属に乏しい系についての洞察を与えてくれるだろう。これはより大きなCOMsが低金属量領域で形成される可能性があることを裏付けており、地球と同様に、これらの系でも生命が出現する可能性を示唆している。
1. Sewilo et al., ApJ, 931, 102, 2022
講演b-5: 窒素を含む模擬星周有機物ダストの化学構造分析
講演者名: 妹尾 梨子、所属: 東京大学、学年: M2
未同定赤外 (UIR) バンドという幅の広い赤外線放射スペクトルの観測から、有機物の分子やダストが宇宙に普遍的に存在することが示唆されている。しかし UIR バンドの担い手である有機物の化学構造はよくわかっていない。近年、QNCC という、新星に見られる UIR バンドの特徴をよく再現する実験模擬有機物が作られた(Endo et al. 2021)。QNCC の分析から、新星の UIR バンドに特徴的な 8μm バンドはアミンの含有に起因すると解釈されているが、その詳細な化学構造の理解には至っていない。そこで、炭素材料分野で用いられる「高温真空TPD」と「X線光電子分光法 (XPS)」を用いて、QNCC と、QNCC の材料となる filmy QCC の分析を行った。「高温真空 TPD」とは、高真空下で一定温度で試料を加熱し、脱離ガスの種類と量を連続的に計測することで、脱離ガス種と脱離温度から試料の化学構造を調べる手法である(Yoshii et al. 2024)。その結果、filmy QCC は、(1) アルキル基 (CnH2n+1-) が少なく H で終端された構造を多く持つこと、(2)sp3炭素(ダイヤモンドのような構造) が多い構造を持つことがわかった。QNCC は、(1)Hで終端された構造が多いこと、 (2)filmy QCCよりも sp2炭素が多いこと、(3)窒素はアミン修飾ナノダイヤモンドが持つアミンと類似している可能性があることがわかった。今後、分析を進めUIR バンドと化学構造の対応を明らかにし、TAO/MIMIZUKUを用いた新星の観測へと繋げる。
講演b-6: 星間ガス乱流と宇宙線加速の相互作用によるフェルミバブルの解明に向けた2相ガスシミュレーション
講演者名: 稲元 燎平、所属: 東京大学、学年: M1
2010年Fermiにより、天の川銀河の厚さ約1kpcほどの円盤から、垂直方向に全長10kpc以上と推定されるガンマ線の放射領域が観測された。この領域はフェルミバブルと呼ばれ、このような大規模な構造がどのように形成されたのかについてはいまだ解明されていない。往来のモデルでは、銀河中心の超大質量ブラックホールからのジェットや超新星爆発のエネルギーが、ガンマ線を放つ高エネルギー粒子を生成し、銀河風として噴き出して構造を形成すると考えられていた。しかしこのようなモデルでは、バブルより広い領域でX線を放出するような熱い星間ガスの存在を説明できない。
私は宇宙線による銀河風駆動と乱流が解決の鍵になると考えている。つまり、ガンマ線放射領域内の星間ガス乱流領域で、宇宙線が再加速される作用と、宇宙線が乱流を増幅させる作用の相互作用的な発展が、必然的にバブルとX線領域の存在を説明する可能性があるということだ。実際、星間ガスの運動についての先行研究(Armillotta et al. 2022)では、現実的な温度分布や速度分布を持つ星間ガスを生成し、宇宙線との相互作用を含めたシミュレーションが行われた。その結果、宇宙線の速度と星間ガスの加速の間には依存性があり、特定条件下において、乱流と宇宙線が相互作用的に発展し、星間ガスを加速することがわかった。
宇宙線のフィードバックを含めた描像を定量的にシミュレーションした例はいまだ無く、そのため私は、そのようなシミュレーションによるフェルミバブルの形成を目指している。乱流の励起から宇宙線の再加速の議論に繋げていくための第一段階として、2Dでの電離プラズマと低温ガスの2相流体シミュレーションを行った。本講演では、Armillotta et al. 2022 のレビューおよび自身の2D計算の現状を報告する。
講演b-7: 超新星残骸の熱的・非熱的放射計算から探る超新星爆発の系統的理解
講演者名: 河嶋 岳、所属: 京都大学、学年: M1
超新星爆発 (Supernova; SN) は恒星進化の最終段階における爆発現象であり、スペクトルや光度進化から観測的分類がなされている。その観測的多様性は、親星の性質や質量放出起源の星周物質 (Circumstellar Medium; CSM) 由来とされているが、その対応関係には不確定な部分が多い。また、SNにより生じる衝撃波は、時間とともに外側向きの順行衝撃波と内側に逆戻りする逆行衝撃波を形成し、主に逆行衝撃波で加熱されたejectaの熱的放射と、順行衝撃波でCSMを衝撃波加熱して生じる荷電粒子 (宇宙線) の非熱的放射が観測される。これらの放射は電波からガンマ線にわたる多波長域で爆発後数百年から数万年にかけて明るく、内側の構造も含めて超新星残骸 (Supernova remnant; SNR) と呼ばれる。SNRのスペクトルや光度曲線にはCSMの分布が反映されるため、その再現は親星のモデル構築や爆発前活動への制限に繋がる。
Court et al. (2024) では非電離平衡モデルを含んだ一次元流体シミュレーションにより熱的放射を計算し、Ia型SNRを対象として、親星が惑星状星雲内で爆発する場合に期待される爆発前環境モデルによって、観測をカバーする結果を得たとしている。他方、Yasuda & Lee (2019) では有力な宇宙線の加速機構と目されている拡散衝撃波加速理論を取り入れて非熱的放射を計算し、様々なCSM環境下でSNRのスペクトル等を再現している。
本発表ではこれらの論文をレビューする。熱的・非熱的放射を同時に計算することは、SNRの各場所で起こっている物理を定量できることに繋がる。自身の研究では、それを可能とする包括的なコードを開発し、多種多様なSN/SNRの系統的理解を目指す研究を進めつつあるため、その進捗と展望についても議論する。
講演b-8: 位置依存型Richardson-Lucy deconvolutionを用いた超新星残骸カシオペア座A の固有運動の解析
講演者名: 酒井 優輔、所属: 立教大学、学年: D1
X線衛星Chandraは打ち上げから約20年が経ち、望遠鏡や検出器の応答関数の理解や較正が深まっており、微弱な空間構造を抽出する様々な試みが行われている。我々は、画像デコンボリューション法として天文学でよく使われるRichardson-Lucy deconvolution(RL法)の改良を試みた。Chandra衛星の標準的な解析で用いられる標準的なRL法は、観測画像およびその画像の典型的な場所における1箇所のPoint Spread Function(PSF、点広がり関数)を用いて、ベイズ推定によって反復回数により逐次的に真の鮮明な画像を推定する手法である。ただし、ChandraはPSFに場所依存性があるため、1箇所のPSFではなく位置毎のPSFを用いた位置依存型RL法へと拡張を行った。これにより、検出器の焦点面に光子が落ちた位置毎にPSFの影響を適切に考慮し、様々な広い空間スケールでの鮮明化が可能になった。 実際に本位置依存型RL法を、Chandra衛星の2000、2009、2019年の約20年分のカシオペア座Aの全領域で適用し、最尤法を用いて固有運動の解析を行った。その結果、さまざまなスケールの運動成分を観測画像を使用した場合に比べて高確度に測定できることを定性的/定量的に確認した。本講演では、その結果についての報告と議論を行う。
講演b-9: HSTで見るはくちょう座ループ:超新星残骸の構造における星間空間の非一様密度分布の影響
講演者名: 尾崎 奨悟、所属: 新潟大学、学年: M1
超新星残骸は周囲の星間物質を取り込みながら成長していくが、十分に時間が経過すると衝撃波後方で放射冷却が効くようになりその結果形成された波面後方の冷却領域では乱流が発生し単純な一次元定常流とは異なってくる。この衝撃波面後方の乱流を調べることは超新星残骸の成長過程及び星間乱流を理解するうえで非常に役に立つ。
はくちょう座ループは網状星雲とも呼ばれる視直径3°の散光星雲でありその正体は距離725pcにあるⅡ型超新星によって形成されたシェル型の超新星残骸である。はくちょう座ループの年齢は1~2万年と十分に成長が進んだ段階であり、星間赤化の少なさ、明るさの面から見ても観測しやすく、超新星残骸の研究対象にしやすい。
本講演では[1]のレビューを行う。この論文でははくちょう座ループの西部での冷却領域にできる乱流の発達をテーマに、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測データのRolling Hough Transform(RHT)などの手法によるスペクトル分析と[2]の冷却領域の物理的パラメータの再検討、さらに観測された残骸の構造がどのようにして形成されたのかを議論している。今回は構造形成に星間空間の密度分布がどのようにかかわるのかを中心に、熱的不安定性など他の要素の影響も併せて紹介する。
1. John C. Raymond et al., ApJ, 903, 2, 2020
2. John C. Raymond et al., ApJ, 894, 108, 2020
講演b-10: XRISMによる超新星残骸の精密X線分光の展望
講演者名: 園田 悠人、所属: 東京大学、学年: M1
超新星爆発によって恒星の外層が星間空間に拡散すると、星周物質との相互作用により衝撃波を形成する。この衝撃波により爆発噴出物と星周物質の両者が加熱されることで、超新星残骸と呼ばれる高温プラズマが生成される。超新星残骸の研究により、例えば爆発噴出物の三次元構造を明らかにでき、超新星爆発のメカニズムの解明に繋がる。この三次元構造を明らかにする上で必要なデータの一つがプラズマの視線速度である。視線速度を精密に求め、超新星残骸の三次元構造をより正確に推測するには、X線帯域での精密な分光観測が欠かせない。
従来と比べてより精密なX線分光を実現するのが、高いエネルギー分解能をもつX線マイクロカロリメーター Resolveを搭載するXRISM衛星である。Chandra衛星のACIS-Sのエネルギー分解能が150 eV @5.9 keVなのに対し、Resolveのエネルギー分解能は5 eV @5.9 keVを達成している。XRISMは、これまでにN132Dなどの超新星残骸を観測しており、高いエネルギー分解能を生かした精密なスペクトルのデータを提供している。N132Dは、大マゼラン雲(LMC)に属する重力崩壊型超新星の超新星残骸である。Resolveによるスペクトルから、バルクな視線速度は約240 km/s、速度分散は約490 km/sと分かった。視線速度はLMCの視線速度275±4 km/sにほぼ一致する(Vogt & Dopita, 2010)。一方、速度分散は想定よりも小さい値を示した。空間分解能に優れるChandra衛星を用いた固有運動の測定により、平均的な接線速度は約1700 km/s (Paul et al, AAS meeting 2024)と分かっており、N132Dの3次元構造が球対称ではないことを示唆する。本講演では、N132Dの成果を中心に、Resolveによる超新星残骸の観測から得られた知見や、今後の展望について議論する。
講演b-11: 大マゼラン雲内のR136星団中心の撮像と経験的な恒星の質量上限
講演者名: 田中 新太、所属: 新潟大学、学年: M1
恒星の質量上限に関する理論は、大質量星の質量損失率や内部構造の不定性から、まだ十分に理解されていない。経験的には、星形成過程においてどれだけ質量降着できるかによって決まっていると言える。また、大質量星は寿命が短く、星団の明るい中心部に存在することが多いため、観測にも高分解能の装置が必要である。
今まで見つかっている中で最大の質量を持つ恒星のひとつに、大マゼラン雲(LMC)内の散開星団R136の中心領域に存在するWN星R136a1がある。その質量は単一星として251M_Sun[1]と推定されていた。
本講演では[2]のレビューを行う。チリにあるジェミニ南望遠鏡に搭載されたスペックル撮像装置 Zorroを使って、R136星団の中心部2″×2″の領域を角分解能30~40mas、BVRI帯に近い中心波長のフィルターで撮像した。結果、WN星であるR136a1とR136a3に実視伴星(>40mas;2000au)が存在することが分かった。Zorroによって得られた画像から天体の光度を再評価し、R136a1の質量は196M_Sun(+34,-27)と見積もられた。また、同星団に含まれるWN星R136(a2,a3)らの質量も従来の値より小さくなった。これにより、経験的な恒星の質量上限がこれまでの文献値より低くなった。ただし、恒星の初期質量の推定に関しては、参照するモデルの質量損失率に依存するので慎重な議論が必要である。
1.Bestenlehner et al, MNRAS, 499, 2020
2.Venu M. Kalari et al, ApJ, 935, 162, 2022
講演b-12: 銀河系中心における近赤外線高頻度撮像サーベイ:PRIME計画の進捗及び初期成果
講演者名: 布田 寛介、所属: 大阪大学、学年: M2
重力マイクロレンズ法は系外惑星の発見手法の一つである。これは、銀河系バルジから銀河系ディスクまでの広い範囲で惑星を発見できる唯一の手法であり、本手法による銀河系惑星分布の解明が期待されている。
これまで、可視光による銀河系中心方向のマイクロレンズ惑星探査によって200個以上の系外惑星が発見されているが、可視光ではダストによる減光の影響が大きい低銀緯領域の観測は困難であり、これまでの探査は高銀緯領域に限られていた。低銀緯領域の惑星サンプルの増加は、銀河系惑星分布の解明に必要不可欠である。
PRIME (PRime-focus Infrared Microlensing Experiment)計画では新たに1.8mの望遠鏡を南アフリカ天文台サザーランド観測所に建設し、世界初の近赤外線を用いた広視野・高頻度マイクロレンズ探査を2023年から行っている。近赤外は可視光に比べダストによる減光を受けにくいため、可視光では不可能であった低銀緯領域の観測で年間40個以上の惑星を発見できる。また、従来の可視光探査領域における可視光・近赤外での同時観測により、低緯度領域においてより正確な惑星の質量推定が可能となる。
本講演ではPRIME計画を紹介し、銀河系惑星分布の解明及び可視光・近赤外同時観測による質量推定手法について議論する。
講演b-13: 重力マイクロレンズイベント分類アルゴリズムの開発
講演者名: 西尾 茉優、所属: 大阪大学、学年: M1
初めての太陽系外惑星の発見から約30年経過し、現在では5000個以上の系外惑星の発見が報告されている。系外惑星発見法の一つである重力マイクロレンズ法は、水が固体となる境界であるスノーライン(太陽で〜3AU)の外側を周回する、低質量の惑星を発見できる唯一の手法であり、これまで200個程度がこの方法によって見つかっている。
現在は単に未知の惑星を発見する時代から、見つかった惑星のサンプルを統計的に解析し、惑星の形成や進化について理解を深める段階へと移行している。
このような統計解析を行うためには、観測されたマイクロレンズ現象を、「惑星系によって引き起こされた現象」と「単独星によって引き起こされた現象」に分類する必要があるが、従来の研究ではその分類を解析者の目で独自に行なっていた。しかし、この方法ではサンプルの選定基準が曖昧であり、統計的なバイアスが生じる可能性がある。この問題を解決するために、本研究では新たにイベント分類のアルゴリズムを作成した。
これは、惑星系によって引き起こされたマイクロレンズ現象に現れる特徴的なシグナルを自動的に検出するアルゴリズムであり、これにより解析者の曖昧な選定基準によるバイアスを排除でき、よりロバストなサンプルを得ることが可能になる。
本講演ではこのアルゴリズムの詳細及び、実際のアルゴリズムを用いた性能評価の結果について議論する。
講演b-14: M型星周りを公転するスーパーネプチューン TOI-1883 bの質量決定
講演者名: 福田 生鵬、所属: 東京大学、学年: D1
ケプラー宇宙望遠鏡やトランジット探査衛星TESSなどにより、数多くの太陽系外惑星が発見され、その分布の多様性が明らかになっている。これらの発見の中で最も注目すべきことの一つに、質量-半径図における統計的特徴がある。特に、M型星周りの小さな惑星(スーパーアースやサブネプチューン;地球半径の0.7~4倍)よりも、海王星サイズや木星サイズの惑星の数が少ないことである。2024年5月現在、M型星周りを回っている海王星サイズの惑星は、質量が測定された9天体しかない。
本研究では、すばる望遠鏡8.2mの赤外線ドップラー装置(IRD)を用いた視線速度法による追加観測により発見した、10天体目の惑星スーバーネプチューンTOI-1883 bの特徴付けについて報告する。TOI-1883惑星系は1惑星系と考えられていたが、今回の観測を通して少なくとも2惑星を持つ系であることを発見し、海王星に近い質量をもつ内惑星bと、土星の約半分の質量をもつ外惑星cである可能性があることがわかった。
講演b-15: すばる望遠鏡広域観測で見つかった褐色矮星のタイプ分類
講演者名: 水本 琴美、所属: 愛媛大学、学年: M1
褐色矮星とは質量が木星型惑星より大きく、赤色矮星より小さな超低質量天体の分類のことで、通常の主系列星とは異なり中心で軽水素の核融合を起こせるほどの質量を持たないため、低温でありかつ暗い天体である。質量や温度などの物理パラメータにおいて恒星と惑星の間に位置づけられおり、両種族の形成に重要な手がかりを与える存在と言われている。しかし、これまでの観測、特に可視光波長ではその暗さが原因で発見されることが少なかったため、未だ性質も謎が多い天体である [1]。
一方、すばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam (HSC) で行った遠方クエーサー探査 (SHELLQs) [2] では極めて赤く、点状の形態を持つ天体の探査をしている。褐色矮星もこれと同様の形態を示すため、この探査の副産物として100個近くの褐色矮星が新たに発見された。これにより統計的に可視光で見つかった褐色矮星の物理性質を調査することが可能となった。SHELLQsで発見された褐色矮星は96天体であり、全て可視光のスペクトルのみでスペクトル型が分類されている。しかし可視光のデータのみと近赤外のデータを加えたものとではスペクトル型の分類に違いが出ることがある。
そこで本研究ではこれらの褐色矮星について可視光波長のHSC、近赤外線波長のUKIDSS、UHS、VIKINGおよびVHS、中間赤外線のunWISEという複数の探査観測データを組み合わせて用いることで、スペクトル型の決定やSHELLQsの可視スペクトルのみによるスペクトル分類の評価を目的として研究を行う。
発見された褐色矮星96天体のうち、赤外線波長でのデータを取得できたのは34天体であった。これらの天体について、取得したFluxのデータからスペクトルエネルギー分布 (SED) を描いた。このSEDに対し、異なる表面温度に対する星の放射理論モデルを、カイ二乗法を用いることでfittingさせる。これにより褐色矮星のスペクトル型を決定し、SHELLQsでのスペクトル型の評価を行う。
[1] Matsuoka et al. 2011, AJ, 142:64
[2] Matsuoka et al. 2016, ApJ, 828:26
講演b-16: 連星形成におけるアウトフローと高速ジェットの数値シミュレーション
講演者名: 坂本 怜央、所属: 九州大学、学年: M1
宇宙で誕生する星の半数以上が多重星、または連星として形成されることが観測で明 らかになっている。さらに、星形成領域の非常に若い星の連星率は高く、星形成過程 についての理解するためには単独星だけでなく連星の形成過程の解明が必要不可欠で ある。過去の理論研究では Prompt fragmentation や Disk fragmentation、Capture、 Fission などの連星形成シナリオが提案されてきたが未だ確立していない。また、近年 の観測では連星形成における重要な手がかりが得られており、原始連星系から駆動す るアウトフローと、連星系の各々の星から駆動する高速ジェットが観測されている。 しかし、連星形成は単独星形成より複雑であるため数値シミュレーションの実行が難 しい。そのため、これら原始連星の特徴的な現象が再現された例は少ない。
本講演では Saiki and Machida et al. (2020) [1]のレビューを行い、近接連星形成に伴う アウトフローと高速ジェットについて議論する。この研究では単一の分子雲コアを初 期条件とした3次元磁気流体数値シミュレーションにより、原始星形成後約 400 年間 の進化を計算した。その結果、重力収縮する分子雲コアが分裂し、原始連星を形成し た。さらに、星周円盤やアウトフロー、各々の星から駆動する最大速度 100 kms^(-1)以 上の高速ジェットを原始連星系で確認し、観測で見られる原始連星の特徴を再現する ことに成功した。
1.Saiki Y.& Machida M. N. 2020, ApJL, 897, L22
講演b-17: 初代星が形成される原始ガス雲の条件について
講演者名: 小笠原 宗也、所属: 新潟大学、学年: M1
宇宙初期に形成された第一世代の星は初代星と呼ばれている。この初代星の理解は宇宙の再電離や宇宙の初期進化を理解する上で非常に重要になっている。宇宙初期は金属量が非常に乏しく、原始ガス雲中での星形成過程で水素分子が重要な冷却源になっている。そのため、星形成過程での水素分子の生成反応や解離反応の理解が必要である。原始ガス雲中で超新星爆発が起きれば、その影響についても考える必要がある。
本講演ではNishi & Susa (1999) [1]をレビューする。この論文では一般に非化学平衡過程であるガス雲の収縮中で形成される水素分子量を推定し、放射冷却率を評価している。また、ガス雲が収縮した時刻とガス雲のビリアル温度に対して冷却時間を調べている。そして、その冷却時間と自由落下時間及びハッブル時間を比較することで星形成が可能な原始ガス雲の条件を示している。これらの結果から形成される初代星の質量は非常に大きいと考えることができる。
1. Nishi, R., & Susa, H., ApJL, 523, L103, 1999
講演b-18: 乱流分子雲中の星風バブルの進化に関する研究
講演者名: 浜田 草太郎、所属: 東北大学、学年: M1
星形成は非常に非効率的な過程であり、この原因はフィードバックであると考えられている。フィードバックとは、大質量星からの質量やエネルギー、運動量のインプットであり、最終的な星形成効率を決定するため詳細な理解が必要である。このメカニズムは近年よく議論され、銀河系や大マゼラン雲の星団でも観測されている。フィードバック効果の一つである星風は周囲のInterstellar mesium (ISM)を押しやり、バブル構造を形成する。大質量星からの星風は1000km/s以上になり、衝撃波によってバブル表面に熱く、高圧のガスを生成する。古典的な標準モデルでの解析ではX線による光度が高く、バブルの膨張速度が速いが、これらは観測と矛盾していた。
X線の光度やバブルの膨張速度を矛盾無く説明するためにバブル進化の新たな理論が提唱された(Lancaster et al., 2021)。本論文では過去の古典的なモデルと異なり、より現実的なISMの乱流による密度の非均一性を、バブル表面のフラクタル構造として取り入れバブルの進化を導出した。この効果によってバブルの表面積が大きくなり、冷却がより効率的に起こることがわかった。バブルに関係する物理量は古典的な解に対して、膨張速度と運動量は10-100倍、圧力は100-1000倍小さくなった。観測量と一致する解析解が得られ、X線の光度も観測量と矛盾無く説明することができた。加えて本講演ではこれからの研究である、白色矮星によるバブルについても議論する予定である。
講演b-19: ガス降着による連星の種の成長過程
講演者名: 松永 拓巳、所属: 茨城大学、学年: M1
宇宙空間で形成される星々の多くが連星として存在しているということが観測的にわかってきている。連星の形成のシナリオの一つとして、分子雲コアの重力崩壊の結果、高密度な領域において分裂したコアが連星の種として形成され、残った周囲のガスが連星の種へと降着し種の質量を増やしていくシナリオがある[1]。しかしながら、これまでの連星の種の成長の研究では、等温ガス雲について短期的な成長しか直接計算によって調べられていない。そこで、非等温ガスにおける連星成長を理解することは有益である。例えば、初代星の形成時には、非等温の状態方程式の一種であるポリトロープ関係式(P=Kρ^γ (γ=1.1))が幅広い密度範囲でよい近似を与える[2]。さらには、数値計算を用いて種の成長の長期的な進化を理解することも意義がある。
本研究では、数値計算を用いてポリトロープガス雲の降着による連星の種の長期的な成長を理解することを目的とする。そのため、初期条件として連星の種とその周囲を回転するガス円盤を設定し、連星の種が円運動することを期待して、種の初速度をケプラー速度で与えた。この条件のもとで、種へのガス降着の時間発展を追跡した。そして、種の力学進化を正確に計算するため、3次元SPH法という流体数値計算法を用いて、分裂などの非球対称な複雑な進化も扱えるようにした。また、ガスの自己重力を考慮することで、連星の種の成長を長期にわたって追跡できるようにした。数値計算にはGadget2コードを使用した。
発表では、用いたモデルや計算手法を説明した後、数値計算結果を示しながら連星の種の成長について概観し、その中でも特に連星間距離や連星質量の成長の様子を物理的に考察する。さらには、連星成長における状態方程式や角運動量分布の違いによる影響についての議論も行いたい。
1. Satsuka, T., et al., 2017, MNRAS, 465, 986
2. Omukai, K., et al., 1998, ApJ, 508, 141
講演b-20: ペルセウス座分子雲複合体Barnard 1領域における若い超低質量天体の近赤外測光探査
講演者名: 小柳 香、所属: 埼玉大学、学年: M1
褐色矮星や惑星質量天体など質量が非常に軽い星である超低質量天体は、水素の核融合反応を起こすことができず、低温で暗いため観測例が少ない。したがって、太陽のような恒星と比べてその形成過程や頻度分布について未解明な点が多い。超低質量天体の探査観測から形成の有無や天体数、分布等を明らかにすることは重要である。
本研究では、太陽近傍にあるペルセウス座分子雲複合体に属する低質量星形成領域Barnard 1(B1,距離~295pc;Ortiz-León et al. 2018)を観測対象とした。同じペルセウス座分子雲複合体に属する中質量星形成領域のNGC 1333は、近赤外線JHKsバンドを用いたYSOの測光探査が行われ、Class II天体候補が29天体、そのうち半数以上が超低質量天体候補と同定されている(Oasa et al. 2008)。一方で、B1領域はClass I天体がNGC 1333より高い割合(>40%)で存在し、より若い星形成領域であると考えられているが(Jørgensen et al. 2008)、超低質量天体の探査観測はほぼない。本研究ではB1領域において、超低質量天体が形成されているのか、形成されているならばその天体数や分布について探る。質量が小さいYSOは低温であるため近赤外線で輻射が大きいこと、近赤外線は減光を受けにくいため分子雲に埋もれたYSOを観測しやすいことから、UKIRT3.8m望遠鏡を用いた近赤外(JHK)データの解析を行った。まず、それぞれの波長ごとに測光し、[J-H]/[H-K]二色図を用いて、天体の赤外超過量からYSO候補を選別した。そして、Jバンド等級から距離減光/赤化減光補正を行い、YSO候補の固有の光度を求めた。さらに、年齢を1Myrと仮定し低質量星の理論進化モデル(e.g. Baraffe et al. 2015)から質量を推定した。結果、本研究では褐色矮星候補や惑星質量天体候補などが数十天体新たに同定され、B1領域でも超低質量天体が形成されている可能性が示唆された。
講演b-21: 大規模N体シミュレーション:微惑星散乱による惑星移動が惑星形成過程に及ぼす効果の検証
講演者名: 神野 天里、所属: 神戸大学、学年: D1
標準的な惑星形成理論では、惑星は原始惑星系円盤内で「その場」成長すると仮定されてきた (Hayashi et al., 1981, 1985)。しかし、惑星の「その場」成長を仮定すると、天王星や海王星などの氷惑星の形成時間が太陽系の年齢を超えてしまうことが古くから指摘されている (e.g., Levison & Stewart, 2001)。また、近年の系外惑星観測からは、ホットジュピターやスーパーアースなど多様な惑星が発見されており (e.g., Zhu & Dong, 2021)、惑星はその形成過程で大きく移動することが明らかになってきた。
近年、惑星の移動メカニズムとして、微惑星との重力散乱によって惑星が移動する planetesimal-driven migration (PDM) が注目されている (e.g., Kirsh et al., 2009, Kominami et al., 2016)。しかし、先行研究では計算資源の制約から、微惑星間重力相互作用や惑星-円盤ガス間相互作用は無視されており、 PDM によって惑星がどのように移動するか、その傾向は十分に調べられていない。
そこで本研究では、スーパーコンピューター「富岳」を用いて微惑星間重力相互作用や惑星-円盤ガス相互作用全てを組み込んだ世界初の自己無撞着な PDM の大規模N体シミュレーションを行い、PDM による惑星移動過程を詳細に調べた (Jinno et al., under review)。本講演では、我々が行った PDM の自己無撞着な大規模N体シミュレーションの結果を示し、PDM による惑星移動が惑星形成過程に及ぼす影響を議論する。
講演b-22: 微惑星衝突物理の理解に向けて: 微惑星の衝突シミュレーションと小惑星リュウグウのクレータ
講演者名: 山田 理央奈、所属: 名古屋大学、学年: D1
惑星は,固体天体が衝突をくりかえして形成される.特に惑星の前駆体である微惑星(kmサイズ天体)は惑星形成中に衝突速度が非常に大きくなるため,衝突により何が起こるかの理解は惑星形成理論において必要不可欠である.また,小惑星は微惑星の生き残りである可能性があり,近年では小惑星リュウグウのクレータの詳細が明らかになってきたため,衝突理論が検証可能になる.そこで,微惑星の衝突のシミュレーションを行うため,今回紹介する論文の著者らは,Smoothed Particle Hydrodynamics (SPH)法という流体力学的の数値計算手法を応用して,微惑星衝突に必要な固体の効果を取り入れた固体衝突シミュレーションコードを開発した.このシミュレーションでは,固体の効果として,弾性体力学に基づき一枚岩を計算することと一枚岩が破壊されたときに破片の間の摩擦力を考慮した.そして,半径50 kmの微惑星同士の衝突シミュレーションを行い,衝突の破壊と合体及び衝突後の形状に対して,衝突速度と衝突角度がどのように関係するかを調べた.その結果,衝突速度と衝突角度に応じて,低速度では雪だるまのような形になったり,低角度ではパンケーキ型やかりんとう型になったり,さまざまな形状が衝突により形成された.上記についてレビューを行う.
一方,はやぶさ2探査機により,小惑星リュウグウの詳細な表面画像が撮られた.これらを解析して,クレータ形状の詳細を得た.上記の衝突シミュレーションをクレータ形成に応用し比較することで,上記シミュレーションコードの衝突モデルが改良できる見込みがある.この改良により,惑星形成に必要な衝突理論を一新できる可能性がある.
講演b-23: 現実的な降着条件下における地球型惑星の形成
講演者名: 石田 侑一郎、所属: 東京大学、学年: M1
惑星が形成される。これまでの研究において、すべての衝突において完全な降着を仮定したN体シミュレーションによる研究が行われてきた (e.g., Agnor et al. 1999) 。しかし、速度やインパクトパラメータが大きい場合、衝突後降着せず離れていくひき逃げが起こると考えられている。Kokubo&Genda 2010では、まずSPHシミュレーションを原始惑星の質量比や衝突する原始惑星の総重量や衝突角度、衝突速度というパラメータを変化させ実行し、ジャイアントインパクトでの降着条件を確認したところ、衝突の半分が降着しないことがわかった。この結果をもとに、現実的な降着状況を考慮した地球型惑星形成のN体シミュレーションを行った。結果として、惑星の最終的な数、質量、軌道要素、成長時間スケールは、降着条件の影響がほとんどないことがわかった。また、現実的な降着ではスピン角速度は、完全な降着のスピン角速度よりも30%小さく、回転不安定性の臨界スピン角速度と同じ大きさであることがわかった。発表では、Kokubo&Genda 2010ついてレビューし、巨大衝突過程のシミュレーションにおける機械学習の応用可能性について考察する。
講演b-24: ガス惑星の周惑星円盤における衛星形成
講演者名: 峰平 政志、所属: 京都大学、学年: M1
ガス惑星である木星や土星の周りには多数の衛星が存在するが,特に巨大なものとして,木星のガリレオ衛星4つ(イオ,エウロパ,ガニメデ,カリスト)や土星のタイタンがある.これらの巨大衛星は,惑星の周囲に形成された周惑星円盤(CPD)内で誕生したと考えられていて,より具体的な形成過程については,現在,大別して2つのシナリオが提唱されている.
その1つは,微衛星と呼ばれる,微惑星の衛星版のようなものが集積して衛星が形成されるというシナリオである.CPDは原始惑星系円盤(PPD)からの質量流入を受けている.そのflowによりダストがCPDに運ばれ微衛星にまで成長する.その微衛星たちが衝突成長することで衛星が形成されるが,ガスとの相互作用によりmigrationを起こし,惑星へと落下する.その間にもPPDからダストが供給され微衛星が形成,というように衛星形成と落下が繰り返される.最終的にPPDが散逸するとCPDも散逸し,そのときに残っていた衛星が今の衛星になっていると考えるのである[1, 2].
しかし,このシナリオには問題点がある.惑星形成について,ダストが微惑星になる前にペブルとなって中心星に落ちてしまう「ダスト落下問題」が存在するように,微衛星についても,現実的なパラメータの範囲では微衛星になる前に惑星へと落下してしまうことが分かったのである[3].
この問題を逆に利用しようとするのが第2のシナリオで,ペブル集積により衛星を作るというものである.PPD内で形成された微惑星がCPDに捕獲される.CPD内には微衛星になりきれずに惑星へと落下するペブルが存在するから,捕獲された微惑星がそれらを濾しとることで衛星になるというものである[4].
本発表では,ガス惑星のCPD内の衛星形成について,上の2つのシナリオを複数のモデルを取り上げてレビューする.
1. Canup & Ward, 2006, Nature, 441, 834
2. Sasaki et al., 2010, ApJ, 174, 1052
3. Shibaike et al., 2017, ApJ, 846, 81
4. Shibaike et al., 2019, ApJ, 885, 79
講演b-25: 原始惑星系円盤における磁気拡散とくに両極性拡散が磁気回転不安定性へ与える影響
講演者名: 熊田 遼太、所属: 東北大学、学年: M1
原始惑星系円盤(円盤)は惑星形成の素であるが、乱流の存在により惑星形成が抑制される。乱流生成源は磁気回転不安定性(MRI)と考えられているため、MRIの成長を理解することは惑星形成過程を理解する上で重要となる。一方、MRIの成長は、電磁流体の磁気拡散項:オーム散逸、ホール効果、両極性拡散によって抑制されると考えられている。したがって、これらの効果が円盤へ与える影響を理解することは重要となる。しかし、 磁気拡散項がどのくらいMRIを抑制するのかは、オーム散逸を除き十分に理解されていない。
本講演では、オーム散逸と両極性拡散を考慮したシミュレーションを行ったBai & Stone (2013)[1]をレビューする。2つの効果を取り入れたシミュレーションは本論文が初である。シミュレーションは3段階に分けて実施した:(1)オーム散逸のみ考慮、垂直磁場あり(2)オーム散逸と両極性拡散を考慮、垂直磁場なし(3)オーム散逸と両極性拡散を考慮、垂直磁場あり。
シミュレーションの結果、磁気拡散項とくに両極性拡散はMRIの効果を大きく抑制し、一方で磁気遠心力風を加速させることが分かった。これらの結果は、これまで考えられてきた円盤の描像を変えるものである。本公演ではまた、Bai & Stone(2013)の結果を踏まえ、円盤のMRIがどのように発達するのかも議論する。
1. Xue-Ning Bai and James M. Stone 2013 ApJ 769 76
講演b-26: 微惑星リングでの微惑星集積
講演者名: 神原 祐樹、所属: 東京大学、学年: D1
惑星形成の標準シナリオでは、微惑星は円盤全体で形成し、雪線以外では半径方向に滑らかに分布すると仮定している。一方で近年、微惑星形成がリング状の領域でのみ起こる可能性が原始惑星系円盤におけるダストとガスの進化のシミュレーションにより示唆されている。また、原始惑星を細いリング状に配置すると太陽系の性質を良く再現するというシミュレーション結果や、原始惑星系円盤におけるリング状の構造の観測など、惑星形成過程におけるリング状の構造の存在を支持する結果も数多く存在する。惑星形成過程の理解を深める上で、微惑星リングにおける微惑星の進化過程の解明は重要な要素である。しかし、リング状に分布した微惑星の進化は詳細には調べられていない。
本研究では、微惑星リングにおける微惑星の進化をN体シミュレーションによって調べる。さらに初期のリング幅、微惑星の総質量を変化させ、初期条件の違いが原始惑星に与える影響を調べる。どのシミュレーションにおいても、成長する原始惑星が効率よく微惑星を散乱し始める。その結果、リングの幅が徐々に拡大しながら原始惑星が寡占的成長をする。原始惑星の質量はリングの中心に近いほど大きく、リングの中心から遠ざかるほど小さいという分布が見られた。原始惑星の軌道間隔は、初期のリング幅、リングの総質量のどちらにも依らず、寡占的成長のモデルによる局所的な見積もりと整合的であった。リング幅の拡大はリング幅が狭いほど、リングの総質量が大きいほど速く、初期のリング幅が異なる場合でも最終的にリングの幅は同程度の値に収束する。
発表では、初期条件への依存性や物理的な解釈について詳しく議論する。
講演c-1: 星周物質の元素組成を用いた超新星残骸の親星推定法
講演者名: 成田 拓仁、所属: 京都大学、学年: D2
星周物質は星の進化の過程で外層から噴き出る星風が星の周りに形成する物質で、重力崩壊型超新星残骸においては、爆発の衝撃波によって掃き集められることで、X線で明るく光る。星周物質の元素組成は星の進化を反映しており、特に炭素、窒素、酸素といった元素は星内部の水素燃焼によって組成が変化するため、超新星残骸の親星の初期質量や初期回転速度を探る上で良い指標となる。またウォルフ・ライエ (WR)星のような非常に強い質量損失を経験した星は、水素やヘリウムが欠乏したIb/c型超新星を起こすと考えられており、このような親星から形成される星周物質にはヘリウム燃焼で生成された炭素や酸素などが多く含まれるため、他の重力崩壊型超新星残骸における星周物質とは違った組成になると考えられる。我々はこれまでに、点源において高いエネルギー分解能を持つXMM-Newton 衛星搭載の反射型回折分光器を、超新星残骸のコンパクトな構造に応用することで、超新星残骸RCW 103の星周物質由来の窒素輝線の検出に成功し、その窒素と酸素の組成比から親星の初期質量と初期回転速度を推定した(Narita et al. 2023)。今回我々は、これと同じ手法を使って、超新星残骸G292.0+1.8の帯状星周物質を形成した親星を制限するために、帯状構造のX線精密分光解析を行った。その結果、窒素のK殻輝線の検出に成功し、星周物質の窒素と酸素の比は太陽組成よりも低い (N/O=0.5±0.1(N/O)_{sun})ことがわかった。この組成比は、親星が酸素過剰な星風を吹いたWR 星であることを示しており、組成比を恒星進化モデルと比較することで、親星は単独星よりも連星系であった可能性が高いと推定した。本講演では、星周物質の元素組成を用いた超新星残骸の親星推定方法を紹介し、いくつかの超新星残骸の星周物質観測の結果を報告する。
講演c-2: 宇宙線による電離を考慮した星・原始惑星円盤形成・進化シミューレーション
講演者名: 西尾 恵里花、所属: 東北大学、学年: D1
原始惑星系円盤の進化を考える時、磁場による角運動量輸送が重要である。この効果はガスの電離度に依存している。低電離度では磁場とガスとの相互作用が弱まり、磁場が拡散し弱まることで円盤半径は大きくなる。従って原始惑星系円盤の構造や進化を考える上でガスの電離度を決めることは重要となる。
星形成領域のガスを電離するのは主に宇宙線である。これまでの研究から宇宙線による電離率を変えると形成される円盤に大きな影響があることが明らかになっている。宇宙線の電離率は磁場の構造やガスの密度分布に依存することが知られている。宇宙線の電離率分布と磁場の構造、ガスの密度分布は相互に影響を及ぼし合う為、より現実的な原始惑星系円盤の形成と進化を理解する為には非理想MHDと宇宙線の輸送方程式を同時に解く必要がある。
本研究では、磁気流体計算コードのAthena++に宇宙線輸送モジュールを追加し、現実的な宇宙線の効果を取り入れた星・円盤形成進化を計算するコードを開発し、開発したコードを用いて分子雲コアからファーストコア段階までの三次元非理想磁気流体シミュレーションを行い、星・円盤形成進化を調べている。今回、この計算によって得られた星形成初期の電離率分布や形成された原始惑星系円盤の性質について報告する。
講演c-3: アンモニア分子輝線から導出される分子雲高密度領域の物理量測定手法の評価とその応用
講演者名: 柴田 洋佑、所属: 鹿児島大学、学年: M2
分子雲の進化過程を探るうえで、温度や密度の情報は非常に重要である。アンモニア(NH3)分子輝線は、これらの物理量を正確に求めることが可能な分子輝線として知られている。NH3分子輝線の特徴は、超微細構造を持ち5本の輝線から構成される点にある。この特徴により、観測量である輝線強度比から温度や密度の情報を少ない仮定の下、解析的に導出することが可能である。これらの物理量の誤差については、強度比を取ることにより、それぞれの輝線に雑音が含まれる場合、その誤差分布は非線形なものとなり、線形分布からずれると考えられる。しかし、これまでの観測的研究における誤差評価は、線形近似され見積もられており、非線形効果による誤差が無視されてきた。我々は、モンテカルロシミュレーションを用いて、雑音によって生じる非線形誤差がどの程度なのか、見積もりを行った。結果としては、非線形効果を含めた誤差は、S/N>10で、おおむね1-2K程度に収まることが分かった。この結果から、NH3分子輝線による分子雲の温度調査より、分子雲進化段階を定量的に評価することを提案する。分子雲は15K程度のガスが広がっているが、星形成直前段階として認められる赤外線暗黒雲は10K程度に冷えている。その後、HⅡ領域が形成されると、そのフィードバックにより局所的に20K程度に加熱されることが分かっている。つまり、温度は分子雲の星形成状態を強く反映する。分子雲の温度は、主にダスト連続波によって調べられたが、視線方向に重なった複数の雲の分離ができないため、天の川銀河のようなedge-on銀河では、分子雲の重なりが取り除けない。そのため、NH3分子輝線を用いた分子雲温度調査は、このような領域での調査に適している。本ポスター講演では、誤差解析の手法や結果、天の川銀河面における分子雲の統計調査についての展望や初期解析の結果を報告する。