アブスト:太陽・恒星分科会

講演a-1: TESSサーベイ・Gaiaカタログを用いた恒星-コンパクト天体探査

講演者名: 白石 祐太、所属: 東京大学、学年: D2

TESS衛星の光度曲線やGaia衛星の視線速度変動の情報をもとに、ブラックホールなどのコンパクト天体と恒星の連星の候補天体を選定し、西はりま天文台のなゆた望遠鏡・MALLS分光器を用いて視線速度追観測を行った。本研究のターゲットは、周期1-10日のX線で光らない(連星相互作用をしていない)恒星-コンパクト天体連星系で、
このような連星相互作用をしていないコンパクト天体の種族は、X線連星と比べてはるかに多い、コンパクト天体の典型的な種族である。そのため「典型的な」ブラックホールなどコンパクト天体の形成過程等を明らかにするには、本研究のターゲットはうってつけの天体である。周期の短い恒星-コンパクト天体連星系では、コンパクト天体の潮汐の効果などで恒星が軌道と同期した変光を示す。本研究ではTESS衛星の全天光度曲線サーベイの全10^7天体のデータを解析し、この変光を探索した。その中から、Gaia衛星の視線速度変動の情報を用いて恒星ーコンパクト天体連星の確度が高い順に優先順位をつけ、西はりま天文台のなゆた望遠鏡・MALLS分光器を用いて視線速度追観測を行った。その結果、これまでに1天体の恒星ーコンパクト天体連星を発見し、2つの候補天体の視線速度変動を検出した。今後も同様の探索を継続し、ブラックホールなどコンパクト天体の典型的なサンプルを大量に発見し、その性質を明らかにすることを目指していく。

 

講演a-2: 散開星団の中性子捕獲過程元素の存在度

講演者名: 杉村 風曉、所属: 兵庫県立大学、学年: M2

 鉄より原子番号の大きな元素は中性子捕獲過程によって生成される。中性子を捕獲する時間がβ崩壊より長いs過程は、漸近巨星分枝星(AGB星)で起きていることが分かっている。AGB星は普遍的に存在するため、AGB星から放出されるs過程元素は空間的に一様に分布していると考えられる。一方で、中性子を捕獲する時間がβ崩壊より短いr 過程は中性子星合体で起きると考えられ、数値シミュレーションでr過程元素の空間的な分布は不均一だと予測されている。
 そこで本研究では、Keck望遠鏡のエシェル分光器HIRESで撮られた可視光高分散スペクトルを用いて、プレアデス星団とヒアデス星団で11種類の中性子捕獲過程元素(Y,Zr,Ba,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy)の存在度を調べた。まず、スペクトルにある鉄の吸収線の等価幅からモデル大気計算プログラムTGVITを使って有効温度、表面重力、微小乱流速度を求めた。次に、これらのパラメータを用いた合成スペクトルを作成し、観測スペクトルとフィッティングすることで元素の存在度を求めた。その結果、プレアデス星団とヒアデス星団の比較ではs過程元素の存在度はおおむね一致していることが分かった。

 

講演a-3: 「ひので」極域データベースを用いた太陽極域磁場の緯度依存性の検証

講演者名: 藤森 愛梨沙、所属: 東京大学、学年: M2

太陽の黒点数は約11年周期で増減を繰り返し、極域磁場の極性も11年周期で反転する。赤道から極へ向かう子午面還流により、極域の極性と逆の磁束が運ばれることで極性反転が起こると考えられている。太陽の極域磁場の高精度観測は、子午面還流が高緯度でどう変化するかを理解する手がかりにもなる。極域の平均磁束密度は5 G程度で活動領域より小さく、射影の効果で磁場構造が潰れて見えるため、構造を空間的に分解することが難しい。しかし、「ひので」衛星に搭載されたSOT/SPのベクトル磁場観測では、0.3 秒角の高空間分解能で極域の小さな磁場構造を捉えられる。Petrie(2017)は、「ひので」衛星を用いて緯度80度以上の領域で、高緯度ほど平均磁束密度が減少することを示した。本研究では、平均磁束密度の減少が本当に緯度に依存するのかを、名古屋大学ISEEで公開されている「ひので」衛星の極域磁場観測(HOP206)データベースを用いて検証した。HOP206は極域が見える時期に限定して、約20データを取得することで全経度をカバーしている。極性反転が完了した後の2016年から2021年の北極域のデータを用いて、緯度70度以上の領域で平均磁束密度の緯度依存性を調べ、過去の研究と同様に緯度80度付近から減少する結果を得た。次に、同じデータに対してリムからの距離依存性を調べると、リムから40 秒角付近から平均磁束密度の減少が見られた。同じ緯度でもリムに近付くにつれて、平均磁束密度が減少する傾向が見られた。この結果は、極域での平均磁束密度の減少が緯度ではなくリムからの距離に依存することを示唆する。観測から直接導出されるのは視線方向に対する磁場の傾き角であり、平均磁束密度の導出に必要な太陽表面に対する磁場の傾き角は、磁場方位角の180度不定性を解いて導出する。180度不定性の選択により、太陽表面に対する磁場の傾きが異なることを利用して、方位角と傾き角を選択している。リムに近付くと、磁場の極性は逆になるが傾き角自体は差が小さくなり、使っている手法では傾き角の選択が難しくなることが平均磁束密度の過小評価の原因となる可能性について議論する。

 

講演a-4: 太陽X線集光撮像分光観測ロケット実験FOXSI-3を用いたフィラメント消失領域の詳細温度解析

講演者名: 廣瀬 維士、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1

 フィラメントは約100万Kの太陽コロナ中に存在する約1万Kの雲のような構造である. FOXSI-3は2018年9月7日に打ち上げられた太陽X線観測ロケット実験である.太陽観測衛星ひのでに搭載されているX線望遠鏡などの既存のX線撮像装置と異なり,X線での集光撮像分光観測を世界で初めて実現した.そのため,空間分解されたスペクトル情報から各構造における詳細な温度診断を行うことができる.
 FOXSI-3の観測時間の数時間ほど前に,GONGのHα線(1万K程度のプラズマに感度がある)の画像やSDO/AIA304Å(10万K程度に感度)の画像からフィラメントが消失していた.一方でSDO/AIA193Å(150万K程度に感度)の観測では,AIA304Åで消失した時間とほぼ同じ時刻に付近の領域でわずかに増光していることが確認できた.その領域をFOXSI-3でスペクトル観測すると,周囲の静穏領域だけでなく離れた場所に存在した活動領域よりも温度が高いということがわかった.
 Hα線でフィラメントが消失した後,X線で付近の領域が明るく光ったという報告は過去にも存在する(Singh et al. 2001).1974年のSkylab/ATMでの観測では,フィラメント消失領域の温度は6MK以上まで上昇し,その後何日か継続してループのような構造を形成していることが報告されている(Sheeley et al. 1975).しかし,これらの報告は20年以上も前のものであり,X線スペクトル情報を用いたフィラメント噴出領域の精密温度診断を行った例はない.
 そこで本講演では,FOXSI-3やSDO/AIAのデータを用いて詳細な温度診断を行い,その領域の温度構造ならびに加熱機構について議論する.

 

講演a-5: FOXSI-4, Hi-Cフレアキャンペーンの紹介とフレア規模予測に向けた取り組み

講演者名: 佐藤 慶暉、所属: 総合研究大学院大学、学年: D1

2024年4月、日米共同観測ロケット実験FOXSI-4(Focusing Optics X-Ray Solar Imager)はHi-C (High Resolution Coronal Imager Flare Mission)と共に、太陽フレアをロケット実験で観測する世界初の試み(フレアキャンペーン)を実施した。
科学的観点から両ロケット実験ともに大規模なフレア観測を目指していたが、ロケット観測の時間は5分に限られることに加え、太陽フレアの正確な発生予測が現状不可能なことから、この試みは極めてチャレンジングであった。そこで米国チームは、打ち上げ可能状態でロケットをスタンバイさせ、太陽からのX線フラックスをリアルタイムでモニタし、閾値を超えるフレアの発生とともに打ち上げを行う枠組みを構築した。
一方我々日本チームは、この枠組みに、κスキーム(Kusano et al. 2020)に基づくフレア規模予測を加えることで、ロケット実験における大規模フレア観測確度の向上を目指した。κスキームでは、太陽光球磁場データから各活動領域が蓄えている磁気的フリーエネルギーと磁気的不安定度を算出することで、フレアの規模を予測する。
キャンペーンの期間は4/5〜4/19の2週間設けられ、各日、射場での南中時刻を挟んだ4時間(アラスカ標準時で12時〜16時の間)、打ち上げを待機した。期間中のκスキーム解析結果は、規模予測としてだけでなく、観測ターゲットリストの作成や共同観測を行う領域の選定、フレア検出の閾値設定などに活用された。スタンバイ中にフレアが発生しない状況が続いたが、キャンペーン最終日前日、M1.1クラスフレアが発生した。この領域は、当日朝のκスキーム解析から、Mクラスフレアの発生確率が高いと判断した領域の一つであった。フレアの検出後、FOXSI-4とHi-Cは直ちに打ち上げられ、両ロケットともに大規模フレアを観測することに成功した。

 

講演a-6: SOLAR-C衛星搭載の超高精度太陽センサUFSSの性能評価

講演者名: 近藤 勇仁、所属: 東京大学、学年: M2

SOLAR-C は高時空間分解の紫外線分光観測を行う次世代太陽観測衛星である。高時空間分解能でのスリット分光観測を実現するため、望遠鏡内にtip-tilt鏡制御による像安定化機能を持たせる他、衛星バス部の制御により望遠鏡を太陽面上の観測目標に1 arcsec オーダーの精度で指向させる。そのために、超高精度太陽センサ (Ultra Fine Sun Sensor, UFSS) を搭載し十分な精度で太陽指向角度を検出する必要がある。UFSS は直交する二つの一次元 CCD センサから成り、各センサはレチクルで生み出される太陽光の明暗 模様と UFSS 内の基準信号と比較することで太陽光の角度をリアルタイムに導出する。UFSSは1.0 × 1.0 deg の視野に渡って、特徴付けされた系統誤差 (リニアリティ誤差) < 2 arcsec (p-p) が要求されており、これを地上試験にて十分な精度で検証する必要がある。 本研究では、リニアリティ誤差測定のため二軸ジンバルと精密太陽シミュレータ光源、そしてレーザー干渉計からなる測定系を組み、10分間に一度キャリブレーションを行うことで1 arcsec の精度で測定可能なことを確認した。また、UFSS 試作品を用いてリニアリティ誤差の評価を行なったところ、指向方向の停留時間に依存してその値が大きく変動することがわかった。本発表ではリニアリティ誤差を決定する要因について考察を行う。  

講演a-7: GREGOR/GRIS による近赤外面偏光分光観測: 黒点暗部の光球・彩層を伝播 するMHD波の多波長解析

講演者名: 内藤 由浩、所属: 総合研究大学院大学、学年: D1

太陽表面(光球)の対流運動によって形成されるMHD波は、磁力線に沿って外層大気のコロナまでし、これを加熱するための仕組みとして有力視されている。活動領域は太陽大気の中でも強い磁場が集まり、周囲よりも高温の数百万度まで加熱されるため、活動領域の足元の磁力線を伝播するMHD波の伝播過程を明らかにすることはMHD波によるコロナ加熱の仕組みを明らかにするための重要な要素である。活動領域の足元で特に強い磁場が集まる黒点暗部は、光球とコロナの間にある彩層と呼ばれる領域や光球において動径方向に磁力線が伸びているため、形成高度の異なる複数の吸収線による同時偏光分光観測を用いることで、コロナより低層の大気におけるMHD波の伝播を磁場の情報に基づいて明らかにすることができる。
本研究では、スペイン・テネリフェに存在する口径1.5mの地上望遠鏡GREGORに搭載されている近赤外面偏光分光装置GRISを用い、昨年4月14日に活動領域NOAA 13275の黒点暗部の観測を行った。He I(彩層)・Na I・Ca I・Si I(光球)の形成高度の異なる複数の吸収線について、Stokes Vの弱磁場近似・Stokes Iの波長シフト・輝線強度から、視線方向磁場・ドップラーシフト・密度の摂動を求めた。そしてこれら物理量の時間変動から、光球、彩層にて卓越した5分振動、3分振動をそれぞれ検出した。本講演では、これらの光球から彩層にかけた多高度の物理量の時間変動から光球から彩層にかけたMHD波の性質についてまとめ、HAZEL inversion(Assentio Ramos et al. 2008)を用いた今後の研究の展望について議論する。

 

講演a-8: RS CVn 型星 UX Ari の可視連続光長期間モニター

講演者名: 長島 汀、所属: 中央大学、学年: M1

 RS CVn 型連星は、太陽の最も大きいフレア (10^32 erg) に比べ、エネルギーにして 4-7 桁も大きい X線フレアを起こすことが知られてきた (Tsuboi et al. 2016; Kawai et al. 2022)。しかし、空間分解することができないため、空間スケールや発生箇所は、太陽ほど研究されていない。
 我々は、フレアが起こる位置とX線フレアの空間スケールを解明するため、測光観測用望遠鏡 CAT (Chuo-university Astronomical Telescope) で RS CVn 型連星 UX Ari のモニター観測を行っている。CATは、中央大学後楽園キャンパスの屋上に設置された自動観測が可能である口径 260 mm の望遠鏡で、主に B, V, R, I, Ha バンドでの撮像を行っている。このモニターにより、巨大黒点、または黒点群が観測者に見えているとき、それが減光として捉えられる。
 2021 – 2023 年度の、データが揃っている B, V, R 帯域において、その期間の強度を6.4
日の公転周期で畳み込むと、どの帯域においても、フェーズ 0.5 が最も谷となった減光が確認された。フェーズ 0.5 を中心とした幅 0.5 のフェーズを黒点フェーズとすると、全天X線監視装置MAXIで捉えたフレア 8発のフレアのうち 7発が黒点フェーズで検出されていた。黒点が観測者と反対側にある際に、フレアが検出されにくいという事実は、X 線フレアの高さが星のサイズに比べて小さいことを示している。本講演では、上記の詳細について報告する。

 

講演a-9: RS CVn型連星IM PegにおけるFe XXV Heα輝線の高速青方偏移

講演者名: 井上 峻、所属: 京都大学、学年: D1

太陽/恒星フレアは星の表面において磁場に蓄えられたエネルギー が突発的に解放される爆発現象である。恒星では、最大級の太陽フレアの10 倍以上のエネルギー (>10^33 erg) を放射するフレアが発生し、それらはスーパーフレアと呼ばれる。特に、RS CVn型連星は極めて活動性が高く、10^35 erg 以上のエネルギーを放射する大規模な スーパーフレアを起こす。
磁気エネルギーの解放は、フレアによる放射だけではなく、プロミネンス噴出やコロナ質量放出 (CME) などのプラズマの噴出現象でも行われる。近年、恒星においてバルマー線の青方偏移という形でのプロミネンス噴出の検出例が増加している (e.g., Inoue+23, 24)。一方で、X 線の輝線における青方偏移は未だ観測数が非常に少なく、10 MK 以下の低温な輝線でしか観測されていない上に、その速度も 100 km/s 程度と小さい。X 線の輝線での青方偏移は、バルマー線に比べ て、噴出のより後期の段階を反映すると考えられる。
全天X線監視装置MAXIは2023年7月23日にRS CVn型連星IM Peg (K2III+dG, 公転周期約 25 日) において、5 × 10^37 erg を X 線で解放するスーパーフレアを発見した (Iwakiri+23)。本研究では、X 線望遠鏡 NICERによりMAXIでの発見から約 6 時間後にフォローアップ観測を開始し、フレアの減衰期の観測に成功した。NICER のX線スペクトルにはFe XXV Heα輝線とFe XXVI Lyα輝線が確認され、50 MK を越す高温プラズマの存在が示唆された。さらに、Fe XXV Heα輝線は青方偏移しており、そのドップラー速度が最大で 2000 km/s 程度に達していることもわかった。本発表では、上記 のイベントについてその詳細を報告し、青方偏移の起源について、彩層蒸発とCMEの2 通りの解釈を議論する。

 

講演a-10: せいめい望遠鏡とTESSの同時測光分光観測で迫るM型星フレアの可視連続光時間発展と温度変化

講演者名: 市原 晋之介、所属: 京都大学、学年: M1

太陽や恒星のフレアは恒星表面で発生する爆発・増光現象であり、磁気リコネクションにより磁気エネルギーが解放されることで発生する。太陽フレアのエネルギーは10^{29-32} erg程度だが、低温M型星などでは10^{33} ergを超える「スーパーフレア」が頻繁に発生する。恒星フレアに伴う紫外線は周囲の系外惑星の化学進化に影響を与えるため、その放射量の観測的評価が期待されている。さらに、紫外線から可視光に至る連続光放射は放射エネルギーの大部分を解放すると考えられており、恒星フレアのエネルギー収支の観点でも重要だが、その放射機構は未解明である。先行研究では、恒星フレアの多色測光観測から、黒体放射近似による放射温度の推定が行われてきた(Hawley & Fisher 1992)。特に、近年の高時間分解能の多色測光により、分スケールでの放射温度変化が示され、温度変化は極めて激しいことが示唆されている(Howard et al. 2020)。しかし、多色測光では連続光と強い輝線の分解ができないため、連続光の見かけの放射温度に過ぎず、放射機構の解明には至らない。短時間で変化する連続光の放射機構に迫るためには、高い時間分解能で連続光と輝線を分離する「分光」観測が必要であるが、数例の報告例しかない(Kowalski et al. 2013, Fuhrmeister et al. 2008)。
そこで我々は、京大せいめい望遠鏡の広波長域面分光装置(410-850 nm)とTESS衛星(600-1,000 nm)を用い、磁気活動が高いM型星EV Lac(年齢3×10^8 yr、自転周期4.3日)を対象に1-2分の時間分解能で同時測光・分光観測を行った。その結果、2019年9月14日に10^{33} erg級のスーパーフレアを検出することに成功した。スペクトル解析の結果、フレアピーク時の連続光スペクトルは約10,000 Kの黒体放射でうまくフィットできることが分かった。この結果は、ピーク時には光学的に厚い高温プラズマが形成されていたことを示唆する。本講演では、これらの時間変化に加え、その物理的解釈を議論し、更に今後の展望を述べる。

 

講演a-11: 磁気活動性の高いK型星PW AndのHα線と近赤外CaⅡ三重輝線での分光観測

講演者名: 永田 晴飛、所属: 兵庫県立大学、学年: M1

太陽フレアのような突発的な増光(恒星フレア)は太陽のみならず太陽に似た恒星においても度々観測されている。そして、これらの現象の原因や構造を詳しく理解するために、太陽を含めた様々な恒星で活動性の指標となる彩層輝線の観が行われてきた。Namekata et al .2023 は、太陽型星スーパーフレアに伴うHα線の吸収成分から、プラズマ噴出を伴っていたことを明らかにした。この先行研究ではHα線を用いたが、他の彩層ラインも含む多波長同時観測により、より多くの物理情報を得られ恒星活動現象の理解が一層深まると期待される。そこで本研究では、恒星の磁気活動の理解を進めるため、西はりま天文台のなゆた望遠鏡を用いて若いK型星「PW And」での現象について複数の彩層ライン(Hα線、近赤外CaⅡ三重輝線)の振る舞いを調べた。具体的には活動性が高いK型星「PW And」を分光観測し、①活動領域を反映する輝線に注目することで、自転による黒点の見え隠れと同期した強度変化が見られるか調べる、②近紫外CaⅡ線よりも観測しやすい近赤外CaⅡ三重輝線(8498,8542,8662 Å)がHα線と同様に活動性を反映するかを調べることを目的とした。また、同時に自転周期や白色光での変化を確認するためにTESS衛星によるPW Andの測光データ得て光度曲線を作成した。その結果、Hα線ではTESS衛星のデータから得られた自転周期に伴う等価幅の変動が見られ、黒点の見え隠れと同期することを確認した。また、Hα線の等価幅が特に大きく増化を示したとき、近赤外CaⅡ三重輝線でもわずかに増加が見られたものの位相に対しては強い相関は見られなかった。このことは活動性を示す彩層輝線として、近赤外CaⅡ三重輝線も有用であるが感度はHα線と比べて高くないことを意味する。また、2022年10月5日に見られたスペクトルの変化についても議論する。

 

講演b-1: 恒星の高分散分光観測によるrプロセス元素組成の調査

講演者名: 古塚 来未、所属: 兵庫県立大学、学年: D1

鉄より重い金などの元素は中性子捕獲過程で合成されるが、このうち、中性子捕獲の速度が速いrプロセスの起源は未だ明らかになっていない。rプロセスの具体的な起源の候補のうち、中性子星合体は2017年に重力波によって観測され[1]、続いて電磁波の観測も行われ、有力な候補となっている[2][3]。一方、大気中の化学組成に宇宙初期の元素合成の結果を反映していると考えられる金属欠乏星の観測ではアクチノイド元素のトリウム、ウランが他のrプロセス元素に比べて極端に多いアクチノイドブースト星が見つかってきた[4]。このような星の起源は不明だが、rプロセス起源の多様性を示唆する。アクチノイドブースト星やr プロセスの起源を調べるためには、特に観測の少ない、[Fe/H] ∼ -1 の恒星でトリウムの組成を見積もることが重要である。我々は、なゆた望遠鏡/MALLS の観測とSMOKAより取り寄せたすばる望遠鏡/HDS のアーカイブデータにより-2 ≲ [Fe/H] ≲ +0.4 の天体でトリウム組成を得た。太陽より高い金属量の星では、太陽より高いトリウム組成を示し、トリウム/ユーロピウム組成比も高い値を示すものが見られた。一方、太陽より金属量の低い星については、トリウム/ユーロピウム組成比は金属量に依らずほぼ一定であり、これらの星のトリウム、ユーロピウムは一種類のイベントで合成されたとしても説明できる。

1. Abbott et al., PhRvL, 119, 16, 2017
2. Tanaka et al., PASJ, 69, 6, 2017
3. Watson et al., Nature, 574, 7779, 497-500, 2019
4. Holmbeck et al., ApJ, 859, 2, 2018

 

講演b-2: 磁気リコネクションにおけるプラズモイド不安定性の効果

講演者名: 広瀬 暖菜、所属: 東京大学、学年: M2

磁気リコネクションとは、磁力線の繋ぎかえによって磁場のエネルギーをプラズマのエネルギーに変換する物理現象である。
太陽コロナで起こる爆発現象である太陽フレアも磁気リコネクションをその駆動源とすると考えられているが、そのプロセスは未だ完全には解明されていない。
理論的には、局所的な抵抗を与えるとペチェック型リコネクションに、 抵抗を空間一様に与えるとプラズモイド不安定型の磁気リコネクションが生じることが明らかになっている。
しかし、プラズモイド不安定のような構造が見られた紫外線撮像観測は現状ほとんど存在せず、十分な観測研究が行われているとは言えない状況である。
今回は、そのうちの2010 年8月18 日に起きたフレアについて画像解析を行い、実際にプラズモイド不安定型のリコネクションが起きていたかについて速度場の視点から検証した。

 

講演b-3: 太陽型星の光度曲線から復元した黒点領域の性質

講演者名: 徳野 鷹人、所属: 東京大学、学年: D2

光度曲線からは恒星表面を黒点がどの程度覆っているかをある程度復元できることがわかっており、この手法により恒星の黒点領域の時間変化を模擬的に調べることができる(Maehara+2017)。先行研究(e.g. Reinhold+2020)では復元された黒点領域の平均値を用いて議論することがほとんどだが、これは本来含まれている情報を落としている可能性がある。それを踏まえ、当研究では復元された黒点領域の時間平均だけでなく時間分散も用いた上で太陽型星の復元された黒点領域について調査を行った。

我々はまず太陽の模擬光度曲線を調べることで、復元された黒点領域の時間平均だけでなく時間分散も用いることで活動期と非活動期を判別可能である可能性を指摘した。これは活動期/非活動期において時間平均と時間分散の比が大きく変化することによって示唆される。これを踏まえ、太陽型星にも同様の解析を適用した。結果として、自転周期が判明している太陽型星は有意に総じて活動的な時期にいることが示唆された。これは自転周期の測定に黒点を用いていることに伴い生じる観測バイアスとして理解される。この結果は太陽型星を太陽を比較する上で自転周期を用いた際の解析に警鐘を鳴らすものである。

 

講演b-4: 4つの彩層ラインを用いたポストフレアループ等のスペクトルの比較

講演者名: 夏目 純也、所属: 京都大学、学年: D1

太陽・恒星フレアは磁気エネルギーを爆発的に解放させる活動現象であるが、前者は空間分解して観測可能であるが、後者はそれが困難である。フレアモデルによれば解放されたエネルギーにより彩層が加熱され、蒸発、冷却等の過程を経るが、恒星フレアの彩層ラインでの放射機構にはわかっていないことが太陽より多い。例えば、恒星フレアでは、蒸発した彩層プラズマが磁気ループに沿って冷却されるポストフレアループ(以下「ループ」と表記)と考えられる増光現象が観測されているが(例:Namizaki et al. 2023)、彩層凝縮などの他の現象との区別はHα線単独ラインではまだ十分ではない。彩層ラインごとに増光・吸収を生み出す物理条件が異なるため、同時観測から現象のより詳細な情報が得られる可能性がある。例えば、Ca II K線では増光の減衰が遅れる観測例が報告されている(例:Kowalski et al. 2013)。He I 10830ÅではコロナからのEUV・X線放射により吸収感度を持つことがわかっている。太陽での彩層ライン観測の知見を用いて恒星現象を理解する研究は噴出現象(例:Namekata et al. 2022)になされているが、上述したラインを用いた太陽のループの同時分光観測は少なく、太陽の知見を用いた恒星のループの理解には太陽のループで彩層ラインごとの相違点を比較することが求められる。
2023年8月6日に発生したX1.6クラスフレアのフレアリボンとループを、Hα線、Ca II K線、Ca II 8542Å、He I線の4つのラインで同時撮像分光観測を約3時間行った。X線フレアピークの約10分後にこれら4つのループがほぼ同時に出現した。ループ出現時のループ上部のHe I線中心で増光、翼部で減光が確認され、その後線中心と翼部の両方で減光した。Hα線ではライン中心付近で増光し、翼部で減光した。Ca II K線では、線中心と翼部のいずれも増光した。ポストフレアループの領域の等価幅変化では、Hα線とHe I線では翼部の減光によりループ発生前より小さくなったが、Ca II K線では増大が継続していた。本公演では、これらの観測結果の詳細を報告し、物理的解釈を議論する。