アブスト:太陽・恒星分科会

口頭講演

講演TK-01: 太陽黒点におけるCaHのA-X電子遷移の帰属とTiOなどを含めたスペクトルの再現

講演者名: 宇佐美 昂成、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名: 小林かおり(富山大学), 前原裕之(国立天文台), 森脇喜紀(富山大学), 渡辺響平(富山大学)

一水素化カルシウム(CaH)は太陽黒点やM型矮星などの低温の恒星(Olmstead 1908, Reid et al. 1997)といった天体の可視光領域のスペクトルで観測されている。CaHは恒星のHR図上での位置(有効温度・絶対光度)を決定することに利用される(Barbuy et al 1993)ほか、近年では系外惑星大気の検出やその組成・量の推定のためにCaH等の分子を含む大気モデルの構築(Gharib et al. 2021)も行われている。このようにCaHは天文学的に重要な分子であり、実験室においても様々な電子遷移の高分解能分光が精力的に実施されている。
Kitt-Peakの太陽黒点観測(Wallace et al. 1999)などにCaHのA-X (0,0), (1, 1), (2,2)(数字は上と下の振動量子数である。)のスペクトル線が報告されているが、温度を考慮すると(3,3)等の観測の可能性も考えられる。そこでA(v =0-3)とX((v =0-4)の先行研究(Shayesteh et al. 2013)を用いたシミュレーションを行い、(3,3)の遷移を帰属し、スペクトルを再現することを目的として研究を実施している。太陽黒点での同定ができれば、実験室データより高い量子数のデータが得られ、両者を含む解析で分光定数を改善することができる。
(3,3)まで拡張したCaHのline listと、TiOなどを含むシミュレーションによる14000 cm^-1から15000 cm^-1における太陽黒点スペクトルの再現を試みた。その結果、CaH、TiOの分子のスペクトルにおいて一般的な太陽黒点の温度とされている温度(4400 K(理科年表))に比べ低温条件下(3500 K, 3750K)において観測スペクトルの再現性が高くなった。一方で原子のスペクトルは4400 K付近において再現性が高くなる。本講演ではその詳細と原子、分子における異なる温度領域に存在した可能性を示す。

講演TK-02: 恒星のフレア中の測光分光観測によるポストフレアループ検出の試み

講演者名: 梅澤 和真、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 京大フレアグループ

フレアとは太陽や恒星で発生する突発的な爆発・増光現象であり、大規模な磁気エネルギーの解放に伴って電波からガンマ線まで、幅広い波長で増光とすることが知られている。太陽で観測されるフレアの典型的なエネルギーは10^{29-32} ergであるが、恒星においては最大級の太陽フレアの10倍以上のエネルギーを解放するスーパ-フレアが観測されている。フレア後期において、数百万Kから一千万Kのフレアループが数千Kから一万Kの彩層温度まで冷却されることでポストフレアループが発生し、Hα線の輝線放射として彩層ラインで観測される。先行研究ではHα線の赤方偏移成分の中心成分に対する強度の増加から恒星フレアに伴うポストフレアループの可能性が示唆されている(Namizaki+2023)。しかし、恒星観測の空間分解されていないデータのみでは、ポストフレアループを判別することは非常に困難である。そこで我々は空間分解された太陽での観測例を活用し、恒星におけるポストフレアループの検出を試みた。
本研究では晩期型星を対象として、せいめい望遠鏡の広波長域面分光装置KOOLS-IFUを用いた分光観測(410-850 nm)とTESS衛星による可視測光観測(600-1,000 nm)の高時間分解能での同時観測を行った。その結果、M型星V388 Casにおいて2019年11月8日に1.89×10^33 ergのエネルギーをもつスーパーフレアを検出した。観測したフレアにおけるHα線のエネルギーを計算した結果、フレア全体のエネルギーと比較して3.8%となった。また、太陽フレアに伴うポストフレアループのHα線における時間発展(Otsu+ 2024)と本研究で観測したフレア中のHα線の変動の類似性より恒星フレアに伴うポストフレアループの発生が示唆された。本講演では上記イベントでの詳細を報告し、それぞれの比較について議論する。

講演TK-03: 高時間分解能の測光・分光同時観測で迫るM型星白色光フレアの短時間スケールでの時間発展

講演者名: 市原 晋之介、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名: 野上 大作(京都大学), 行方 宏介(京都大学), 前原 裕之(国立天文台), 野津 湧太(コロラド大), 本田 敏志(兵庫県立大), 幾田 佳(一橋大学), 大津天斗(京都大学), 柴田一成(同志社大学)

フレアは太陽および恒星表面で発生する爆発・増光現象であり、磁気リコネクションによる磁気エネルギーの解放によって発生する。太陽フレアの典型的なエネルギーは10^{29-32} ergであるが、若いM型星などでは10^{33} ergを超えるスーパーフレアが頻発している。また、恒星においては可視連続光全体が増光を示す「白色光フレア」が多数観測されている。一方で太陽における白色光フレアは、その発生頻度の少なさと背景光に対する増光量の小ささから(Fuhrmeister+ 2008)観測例は少なく、その放射機構は未だ解明されていない。先行研究では、可視域において恒星における白色光フレアはピーク時に10^4 K程度の黒体放射とよく合致すると報告されており(Hawkey & Fisher 1992)、放射エネルギーの推定はしばしば10^4 Kの黒体放射という仮定のもと行われてきた(Shibayama+ 2013)。一方で、恒星フレアの多色測光観測から黒体放射近似による放射温度変化の推定が行われ、温度変化が分スケールでの激しい減衰が起こることが示唆されている(Howard+ 2020)が、この激しい温度減衰を考慮した放射エネルギーの推定は未だ行われていない。
そこで我々は、京都大学せいめい望遠鏡の広波長域面分光装置KOOLS-IFU(410-850 nm)とTESS衛星(600-1000 nm)を用い、磁気活動が高いM型星EV Lac(年齢125-800 Myr)の1-2分の時間分解能で測光・分光同時観測を行った。その中で、2019年9月14日に白色光フレアを検出し、ピーク時のスペクトルは8000 K程度の黒体放射とよく一致することがわかった。またピーク後10分程度でピーク時のおよそ半分の放射温度になることが確認され、白色光フラックスの減衰よりも放射温度の減衰がおよそ1桁も速いことがわかった。この放射温度の時間変化を考慮した放射エネルギーは4.4×10^{32} ergであり、一方10^4 Kを仮定すると1.2×10^{33} ergであった。激しい温度減衰を仮定しても放射エネルギーが3倍程度しか変わらなかったのは、フレア面積の広がりによる影響だと考えられる。本講演では、これらの詳細を報告し、加えて彩層線の時間変化について議論する。

講演TK-04: K 型巨星 Cl Collinder 228 113 のX線フレア解析

講演者名: 石原 維子、所属: 中央大学、学年: M1
共著者名: 坪井陽子、米山友景(中央大学)、前田良知(宇宙科学研究所)、 濱口健二(NASA)、Eta Carinaeチーム

XRISM/Xtend Transient Search (XTS) は、X 線分光撮像衛星 XRISM に搭載された軟 X 線撮像装置 Xtend を利用した突発天体の検出・速報プロジェクトである。Cl Collinder 228 113は、2024年6月10日にフレアが XTS によって検出・速報された天体である (ATel #16652) 。
この天体の素性や構造はほとんどが明らかになっていない。天文学会年会2025年春季年会で、XRISM/Xtend の観測からフレアの光度が 4 × 1032 erg/s 程度であった。これは全天X線監視装置 MAXI で観測されるフレアと比較しても最大規模であったことを報告した。また、可視・赤外領域の観測結果からこの天体は距離1.2 kpcにあるK型巨星であることを特定した。
また、このフレアはXRISM観測時に強いヘリウム状鉄輝線を示し、熱プラズマ (APEC) モデルでフィッティングしたところ高いアバンダンスを示した。同天体のフレア活動は、Chandraによる過去の観測でも確認されており、今回、Chandra データの解析を行った。その結果、XRISM 観測時とは異なり、Chandraの観測時には高いアバンダンスが見られないことが分かった。これにより、同じ天体のフレアであってもアバンダンスが定常的に高いとは限らないことが分かった。本発表では、この天体の素性とともにX線衛星による観測結果を報告する。

講演TK-05: 双子連星を用いた星の年齢と自転の関係の検証

講演者名: 小川 涼、所属: 大阪大学、学年: M1
共著者名: 増田賢人(大阪大学), 佐藤文衛(東京科学大学), 田實晃人(国立天文台), 泉浦秀行(国立天文台), 大宮正士(アストロバイオロジーセンター)

年齢が既知の太陽より若い星団における自転の観測から、恒星の自転と年齢には、若い星ほど自転が速く、年老いた星ほど遅くなるという関係が示されている。この関係を用いると、恒星の自転からその年齢を推定することができるため、有用とされている。しかし、星団外の比較的老いた恒星において、これらの関係は十分に確立されていない。本研究では、双子連星を用いて、星団外の恒星で質量と年齢の関数として自転速度が一意に決まるかどうかを調査する。双子連星とは、ほぼ同じ質量を持ち、ほぼ同時期に形成されたと考えられる連星系である。Gaia衛星のデータから発見された双子連星と、せいめい望遠鏡の高分散分光スペクトルを用いて、連星の自転速度を比較し、定量的に評価する。自転速度はスペクトルの吸収線の幅を利用して測定を行う。これによって、年齢と自転の関係を用いた年齢推定の手法が、老いた恒星に対しても拡張可能かを調査する。

講演TK-06: 観測ロケット実験FOXSI-3によるGiant Arcadeにおける超高温成分の発見

講演者名: 廣瀬 維士、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名: 成影典之(国立天文台),FOXSI-3 Team

Focusing Optics X-ray Solar Imager 3 (FOXSI-3)は2018年9月7日に打ち上げられた太陽X線集光撮像分光観測ロケット実験であり,およそ5分間にわたって太陽全面を観測した.FOXSI-3は軟X線での集光撮像観測を世界で初めて実現し,時間・空間分解されたX線のスペクトルの取得に成功した.FOXSI-3の観測では,2keV以上のX線を放出している領域として,活動領域やX線輝点の他に,長さ約200Mmの巨大なアーケード構造(Giant Arcade)が見られた.この構造は,6時間ほど前のフィラメント噴出に伴って形成されたと考えられる.
Giant Arcadeは,フィラメント噴出後にしばしば軟X線で見ることができる巨大な構造であり,1990年代から2000年代にかけてYohkoh/SXTを用いた観測が盛んに行われていた(McAllister et al. 1996 など).Yohkoh/SXTで観測された17個のGiant Arcadeについて統計的に解析したYamamoto et al. 2002では,ピーク時の温度が静穏コロナよりも高い1.8-4.4 MKであり,密度は静穏コロナとほぼ同じであるという報告がなされている.
我々は,FOXSI-3のX線のスペクトルデータを用いてGiant Arcadeの温度・密度解析を行った.その結果,Yamamoto et al. 2002 で報告されていた数百万度の高温成分に加えて,超高温(>5MK)かつ低密度(静穏コロナの1/10)の成分を検出した.この成分は,Yohkoh/SXTと同様の広帯域X線フィルターを用いた観測装置であるHinode/XRT では検出されておらず,FOXSIによって初めて検出された温度成分と言える.超高温成分の空間分布を確認したところ,アーケード構造の頂上部分は,足元に比べて温度が高いことがわかった.超高温成分の温度・密度と,空間分布から,超高温成分は継続的な磁気リコネクションに伴って発生するアウトフローによって加熱されたと考えられる.本講演では,これらの結果について報告する.

講演TK-07: XRISMによる太陽フレアの地球大気反射X線の観測

講演者名: 倉嶋 順、所属: 宮崎大学、学年: M1
共著者名: 鈴木寛大, 森浩二(宮崎大), 勝田哲(埼玉大), 井上峻(京都大), 伊師大貴(ISAS/JAXA), Eugene M. Churazov, Rashid A. Sunyaev(MPA\&IKI), Ildar Khabibullin(MPA\&IKI\&LMU Mnich), 水野恒史(広島大), Caroline Kilbourne(NASA/GSFC), 江副祐一郎(東京都立大), 中嶋大(関東学院大), 佐藤浩介(QUP/KEK), Eric Miller(MIT), 松下恭子(東京理科大)

現在、太陽活動が極大期を迎え、大規模なフレアが多数発生している。2024年には、合計54回のXクラスのフレアが発生した。これは、GOES による1997年以降の観測史上最多となる発生回数であった。太陽コロナでは、通常、第一イオン化ポテンシャル(FIP)が低い元素が、光球の元素組成に比べて卓越するFIP効果が見られる(Meyer et al. 1985)。一方で、太陽フレアにより放出されたガスの組成パターンは、高FIP元素が低FIP元素に比べて卓越する逆FIP効果を示す(Doschek et al. 2015)。これは、彩層蒸発によって汲み上げられた高FIP元素が多いプラズマの元素組成を反映していると考えられるが、その物理プロセスは未解明な部分が多く、光球からコロナにかけての温度と元素組成比の変化を明らかにすることが重要である。
2023年9月に打ち上げられたX線天文衛星 XRISM は地球低軌道のため、衛星の視野が地球に遮蔽される時間帯が数割含まれる。本来天体観測を目的とするXRISMにとって、このような地球観測データは無視される。しかし、昼地球(地球の太陽に照らされた面)を観測している間に強い太陽フレアX線が到達すると、地球大気に反射された太陽X線(高階電離した Mg, Si, S, Ca, Fe 等の輝線と熱制動放射由来の連続成分)および大気からの蛍光X線(中性N, O, Ar 輝線)が、極めて強く検出される。そこで、我々はXRISMに搭載されているX線CCDカメラ(Xtend)を用いて、2023年10月から2024年12月に観測された太陽フレアの地球大気反射X線データに着目し、X線天文衛星「すざく」で行われた先行研究(Katsuda et al. 2020)の解析手法をもとにMクラス、Xクラスフレアの元素組成比を測定した。本講演では、フレアごとの組成パターンと、フレア中の元素組成比の時間変化を議論・解釈する。

講演TK-08: X線分光撮像衛星 XRISM 搭載 Xtend を用いた 2024年8月磁気嵐時における太陽風電荷交換X線イベントの解析

講演者名: 管野 大二郎、所属: 東京都立大学、学年: M1
共著者名: 伊師大貴 (ISAS/JAXA), 江副祐一郎, 石川久美, 沼澤正樹 (都立大), XRISM/SWCX Target Team

太陽風電荷交換反応 (SWCX: Solar Wind Charge eXchange) は、太陽風に含まれる高電離重イオンが地球磁気圏に侵入し、地球周辺に薄く広がる中性大気と電荷を交換する過程で、一時的に励起状態となったイオンが基底状態へ遷移する際にX線を放出する現象である (Cravens 1997)。すざく衛星などにより、本放射はX線観測における前景放射の一つとして知られている一方で(Ishi et al. 2023, Ezoe et al. 2010, Ishikawa et al. 2011 など)、磁気圏構造の可視化にも有用であり (江副 天文月報 2018 など)、地球をはじめとする系内外の太陽・恒星風に影響を受ける惑星磁気圏を調べる手段になり得る。しかし、従来のX線観測衛星では視野が狭く、また強い太陽風到来時を狙う必要があるため、磁気嵐時における本放射の空間分布や強度は未解明な点が多い。
2023年9月に打ち上げられたX線撮像分光衛星 XRISM に搭載されている CCD カメラ Xtend は、すざく衛星に比べて4倍の視野を持ち(38×38 分角)、バックグラウンドも低いため、SWCX のような視野内に広がった放射に対して世界最高の感度を持つ。既に Commissioning および PV 期において、数十例の明るい発光イベントが報告されている (Ishi et al. in prep., Kobayashi et al. in prep.)。本研究では、2024年8月の大規模な磁気嵐時 (Dst 指数 約 -200 nT) における発光イベント (観測天体 IRAS F05189-2524, 観測期間 2024年8月9日-13日, 露光時間 約150 ks) の時間変動および増光スペクトルの詳細解析を行った。まず、点源カタログをもとに、視野内からX線天体を除去し、背景領域のX線ライトカーブを抽出した。観測の後半で、軟X線 (0.3-3 keV) が有意に増光し、ACE 衛星による太陽風密度・速度データと良い相関が見られた。次に、X 線増光前後でスペクトルを抽出し、増光成分を複数ガウシアンモデルでフィットした結果、強度約30 LU のOⅦ や NⅥ を含む太陽風イオンからの電荷交換輝線の重ね合わせで再現できた。また、1.0-2.0 keVのエネルギー範囲で、すざく衛星では明瞭に検出されなかった強い輝線が複数検出された(Ishi et al. 2023, Asakura et al. 2021 など)。本講演では、これらの解析手法とその結果について報告する。

講演TK-09: 中間高度の磁束管形状が太陽風速度に与える影響

講演者名: 戸頃 響吾、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 庄田 宗人(東京大学), 今田 晋亮(東京大学)

太陽風速度は宇宙天気およびその予測における主要な要素の一つである。その予報においては、計算コストを軽減するために経験則が広く用いられている。なかでも有名な経験則の一つにWang-Sheeleyモデル(Wang & Sheeley 1990; Arge & Pizzo 2000)がある。このモデルでは、コロナの基底部から十分遠方にかけて磁力線がどの程度断面積を拡大させるかを表すexpansion factorを特徴量として用いている。しかしこの経験則はスードストリーマーという一部の太陽風の速度を過大評価する可能性が指摘されている(Riley et al. 2015; Tokumaru et al. 2024)。これはスードストリーマーでは磁力線が非単調に拡大し、拡大率が途中でピークを持つことが一因である可能性がある。また拡大率の値よりも、拡大が生じる高さが重要であることも観測研究から示唆されている(Dakeyo et al. 2024)。これらの知見は、コロナ基底部から収束するまでの中間領域における磁力線の形状が太陽風速度において重要である可能性を示唆している。
本研究では、コロナ基底部からソース面にかけての磁力線形状の変化が太陽風速度に与える影響について、物理モデルに基づいて包括的に評価した。またモデル計算に用いることのできる観測可能なパラメータについても検討を行った。その結果、中間領域における磁力線形状の違いにより、太陽風速度が最大で300 km s^-1低下する可能性があることがわかった。さらに太陽風速度との相関に関しては、コロナベース磁場強度を拡大率で割った値を積分したものが最も強い相関を示した。

講演TK-10: 太陽黒点およびフィラメントにおける振動現象の分光-偏光観測

講演者名: 福地 勇介、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 浅井 歩(京都大学), 上野 悟(京都大学)

太陽大気ではさまざまな振動現象が観測されている.
中でも磁気流体波動(MHD波動)は, 未解明である彩層やコロナの加熱に寄与していると考えられており, それらの詳細な調査は太陽物理学における重要な課題となっている.

特に, 彩層ラインにおける太陽黒点ではumbral flashesと呼ばれる振動現象が知られており, 放射強度や視線方向(LOS)速度, 磁場のいずれにおいても周期的な変動が観測される[1].
しかし, umbral flashesにおける詳細な磁場変動の様子やそのシナリオには未だにさまざまな言説が存在する.
さらには, これまで一般的に考えられてきた, 増光が上昇流と同機するという定説に対し, 近年では増光が下降流と同機するという説が提唱されており, 新たな議論が生じている[2].

また, コロナ中に浮かぶ彩層温度プラズマであるプロミネンスにおいては, その本体を横切って伝播する持続的なMHD波動があることが報告されている[3].
伝播する波は速度振幅が大きいものと小さいものの2種類に大別されるが, 小振幅の振動に関しては観測事例が少なく, 発生メカニズムもよく分かっていない[3].

本研究では, 京都大学飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡垂直分光器において, 彩層ラインの中でも波長プロファイルが比較的扱いやすいHe 10830 Å で, 補償光学(AO)を用いて黒点およびフィラメント(disk上でのプロミネンスの呼称)の分光-偏光観測を行った.
本講演では, 観測で得られたStokesパラメータやLOS速度, パワースペクトルなどを基に, 黒点およびフィラメントにおける振動現象の物理的な解釈やそのメカニズムについて議論を行う.

1. Houston et al., ApJ, 860, 28, 2018
2. Felipe et al., A\&A, 693, A165, 2025
3. Ichimoto et al., ApJ, 971, 102, 2024

ポスター講演

講演TP-01: 太陽近くの太陽風中の温度異方性を考慮したパラメトリック崩壊不安定の動径方向発展

講演者名: 佐口 隼斗、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 佐口 隼斗(東北大学), 川面 洋平(宇都宮大学), 庄田宗人(東京大学), 加藤雄人(東北大学)

パラメトリック崩壊不安定性(PDI)で駆動するアルヴェン乱流モデルの MHD シミュレーションはコロナ加熱や太陽風加速をよく再現できている[1, 2]。さらにPDI は温度異方性(Tperp>Tpara)によって増強されることが知られているが[3]、PDIと温度異方性の関係を調べた研究は少ない。本研究は最もPDIが顕著な太陽近傍の領域で分散関係式を用いてPDIと温度異方性の関係を調べた。
解析では、等方 MHD 方程式から導出した分散関係[4, 5]と、CGL方程式から導出した 分散関係[3]を用い、最大成長率を1.14太陽半径から30太陽半径程度までの領域でそれぞれ異なる5つの膨張シナリオの下で計算した。
計算の結果、断熱仮定で単純な球対称膨張では等方モデルが半径とともに成長率を増加させるのに対し、異方モデルはむしろ減少し、遠方の太陽風で PDI が起きにくくなることが分かった。一方、断熱仮定かつParker Solar Probeの観測に合わせた磁場・密度スケーリングを用いると、等方・異方の両モデルで成長率が単調に増加し、低ベータ域よりも外側でPDIが活発になる傾向が得られた。平行方向等温・垂直方向断熱といった複合条件では、低ベータ域で両モデルが増加する一方、高ベータ域では異方モデルのみ成長率が減少した。温度プロファイルにMeng et al. (2015)を用いたシナリオでは、設定した異方性が10太陽半径以降でも有限に保たれるため、異方モデルの成長率はほぼ一定値を取るような特徴を示した。
これらの結果から、膨張に伴う温度異方性の変化がPDIを抑制する場合があり、PDI駆動AW乱流モデルには温度異方性を組み込む必要があることが示唆された。
Reference
[1] Shoda et al., 2018
[2] Shoda et al., 2019
[3] Tenerani et al., 2017
[4] Goldstein 1978
[5] Derby 1978

講演TP-02: 観測による太陽風フラックスの評価

講演者名: 藤原 晨司、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 清水敏文 (宇宙科学研究所)

太陽風は地球の磁気圏と相互作用しており、そのフラックスの変化によって地球にもたらされる影響の度合いも異なってくるため、この挙動を把握することは宇宙天気の観点から重要であると言える。また、太陽の活動やその進化の過程で、太陽風による質量損失が重要な役割を果たしている可能性があり、過去から現在、そして未来に至るまでこの質量損失率の値とその変動を見積もることが求められる。これまでの太陽風に関する研究で、例えばコロナホールなどの領域では、磁場が開いており粒子が磁力線に沿って宇宙空間へ流出しやすいため、太陽風の速度は大きくなることなどが知られている。太陽風の具体的なフラックスを知るには、このような速度や密度などといった情報が必要になるが、太陽の全領域においてそれらを正確に見積もることは困難である。本研究では、太陽風のフラックスの理解を目指し、Ulysses衛星による太陽全緯度での太陽風の観測結果の解析や、SOHO衛星のEUV画像などを用いた太陽全球の磁場構造の確認などを行った。これによって、太陽活動の極小期においては、赤道付近のみで太陽風速度が小さく密度が大きくなるが、極大期ではそのような傾向が見られなくなることがわかった。また、こうした速度や密度の変化は磁場構造やコロナホールの位置・大きさの変化に関連していることなどが認められた。一方で、太陽風の速度と密度にはおおむね負の相関が見られ、太陽風フラックスの緯度や時期による変動は想定よりも小さく、これらが質量損失率に与える影響も小さいことが示唆された。

講演TP-03: 多波長紫外線分光観測による太陽活動領域の形成過程の解明

講演者名: 西岡 政寛、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名:

太陽における形成途中の活動領域には, 3000 G に達する磁場を有する黒点が光球上に出現する. そして光球を通じて浮上する磁束は, 磁気エネルギを熱エネルギや運動エネルギに変換する磁気リコネクションを誘発する. 現在開発中の太陽観測衛星であるMulti-slit Solar Explorer (MUSE) やSOLAR-Cによる極端紫外線での太陽観測により, 活動領域の形成過程や磁気リコネクションの発生メカニズムに関する新たな知見が得られることが期待されている. 近年のInterface Region Imaging Spectrograph (IRIS) による1331.7 – 1407.0 Å の遠紫外線観測および2782.7 – 2835.1 Å の近紫外線での分光観測により, 太陽表面のすぐ上部にある表面温度約 6000 K の冷たい光球には一時的に約 100,000 K まで加熱される高温プラズマが存在することが明らかとなった. このプラズマは磁気リコネクションが生じる領域に存在しており, これはHα線の両翼に一過的な増光として現れるEllerman bombs (EBs) と共通する特性である. しかし, HαスペクトルとIRISの同時観測データが存在しないため, 現状はEBsと判断することはできない. このプラズマの電離に要するエネルギは, EBsの推定値を1桁以上超過しており, 太陽最大の爆発現象であるフレアに要するエネルギの 0.1 %から 1 %に達する. このようなIRIS衛星を用いた観測的研究は, 光球の構造やその振る舞いに関するこれまでの理解を修正する必要があることを明らかにした.
本発表では, 論文 [1] のレビューを行い, 将来的なMUSE衛星やSOLAR-Cの観測的研究に向けた, 活動領域の形成過程における課題について議論する.

講演TP-04: 静穏太陽の高速磁化流の観測的研究とSUNRISE-3への展望

講演者名: 蔡 淑珺、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:

太陽光球の静穏領域には、磁束密度の高いネットワーク構造と、それに囲まれたインターネットワーク領域が存在する。インターネットワーク領域には、時間とともに形成・消失を繰り返す小スケールの動的な磁場構造が現れ、それらは太陽大気中のエネルギー輸送や局所的加熱に関与していると考えられ、いつも注目を集めている。
このような微細な磁場構造を明らかにする上で、Stokes V プロファイルの解析は極めて重要である。特に、速度や磁場に視線⽅向に沿った勾配が存在する場合、Stokes V の形状は⾮対称となり、ときに単⼀ローブのプロファイルとして現れる。理論的研究によれば、これらの単⼀ローブ構造は急峻な速度勾配や磁場勾配によって形成されると示唆されており、静穏領域における磁場構造の指標となる。
このような背景のもと、太陽観測衛星「ひので」に搭載された偏光分光装置によって取得された太陽面中⼼の静穏領域データを⽤いた観測研究が⾏われている。Quintero Noda et al. (2014) では、強い⻘⽅偏移あるいは⾚⽅偏移を伴う単⼀ローブのStokes V プロファイルが多数検出されている。これらはしばしば対になって出現し、両端が反対極性の磁場を持ち、直線偏光の信号で結ばれていた。
これらのプロファイルをもとに、インバージョンコード(SIR)によ反転解析を⾏った結果、検出された構造はΩ型磁束ループに対応し、その内部には⾜元間の圧⼒差によって駆動されるサイフォン流が存在する可能性が⽰唆された。このような磁場構造の存在は、静穏領域における⼩さなスケールの磁場進化やエネルギー輸送の理解に⼤きく貢献するものである。[1]
本講演では、この Quintero Noda et al. (2014) による研究の観測・解析⼿法と主要な結果をレビューし、その物理的背景について考察を加える。さらに、気球実験SUNRISE-3 に搭載された⾚外線偏光分光装置(SCIP)によって得られた⾼空間分解能の近⾚外データ[2]を⽤いて、静穏領域における類似な現象の検出や解釈に向けた展望について議論する。

[1] C. Q. Noda et al., “High speed magnetized flows in the quiet sun,” 2014.
[2] Y. Katsukawa et al., “Sunrise chromospheric infrared SpectroPolarimeter (SCIP) for sunrise III: System design and capability,” in Ground-based and Airborne Instrumentation for Astronomy VIII, C. J. Evans, J. J. Bryant, and K. Motohara, Eds., Online Only, United States: SPIE, Dec. 2020, p. 159. doi: 10.1117/12.2561223.

講演TP-05: 複数の彩層ラインで観測されたフレアループとフレアリボンのスペクトルの特徴

講演者名: 夏目 純也、所属: 京都大学、学年: D2
共著者名: 浅井歩、上野悟、大津天斗(京都大学)、一本潔(立命館大学、京都大学)

太陽・恒星フレアは磁気エネルギーが磁気リコネクションにより爆発的に解放される現象である。太陽フレアと異なり恒星フレアは、空間分解して観測することができないため、恒星フレアを理解するために、空間分解能をもつ太陽のデータをあえて空間積分し恒星データを模して調べるSun-as-a-star解析が近年行われてきている。フレアリボンは、磁気リコネクションにより発生した非熱的粒子や熱流が彩層に衝突し加熱され明るくなる構造である。フレアループはその加熱により彩層蒸発されたプラズマが上空の磁気ループに沿って見える構造であり、彩層蒸発直後の温度は~10^7 Kであるが放射冷却により~10^4 Kになると彩層ラインで検出できる。彩層ラインでのフレアループのSun-as-a-star解析は主にHα線で行われており、複数の彩層ラインで行ったものはほとんどない。
そこで、本研究では京都大学飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡を用いて、2023年8月5日に発生したX1.6クラスフレアを、フレアピーク(22:21 UT)の4分後から約3時間にわたり、Hα線とCa II K線(CaK)、Ca II 8542Å、He I 10830Åの4つの彩層ラインで同時撮像分光観測した。フレアリボンからの増光が4つ全てのラインで観測されたほか、フレアピークから約10分後には4つ全てのラインの線中心でほぼ同時にフレアループからの増光が観測された。フレアピークから約20分後にはHeのフレアループの増光が消えた。翼部ではCaK線でフレアループの増光が、それ以外のラインでフレアループの減光が観測された。フレアループの領域にSun-as-a-star解析を行うと、フレアループの増減光に対応するシグナルが確認された。フレアリボンの領域に対して行うと、時間がたつにつれ減少する増光のシグナルが確認できた。これらの現象を含む全体の領域を積分すると、フレアリボンの増光に加えフレアループの領域での解析で確認できたシグナルが確認できた。本講演ではこの結果の詳細と恒星観測に対する示唆について説明する。

講演TP-06: 磁気活動性の高いK型星PW AndのHα線と近赤外CaⅡ三重輝線での分光観測

講演者名: 永田 晴飛、所属: 兵庫県立大学、学年: M2
共著者名: 本田敏志(兵庫県立大学), 山下真依(島根大学)

本研究では、西はりま天文台のなゆた望遠鏡と可視光分光装置MALLSを用いて高い活動性を示すK型星「PW And」について、複数の彩層輝線(Hα線、近赤外CaⅡ三重輝線:CaⅡIRT)を含む波長域で観測を行い、自転による黒点の見え隠れと同期した強度変化が各輝線で見られるかどうかを調べた。また、CaⅡIRT輝線がHα線と同様に活動性を反映するかを調べた。その結果、2022年のHα線ではTESS衛星のデータから得られた自転周期に伴う等価幅の変動が見られ、黒点と同期することを確認した。しかしながら、2024年の観測では黒点の見え隠れと同期した変動はHα線、CaⅡIRT共にほとんど見られなかった。TESS衛星から得た光度曲線からは2022年より2024年のほうが黒点サイズが大きくなっており、Hα線、CaⅡIRT共に輝線強度もやや強くなっている。この結果はK型のこの星では黒点と輝線領域の分布が類似していることを示している。
また、2022年の観測期間中にHα線でフレアと思われる増光が見られた。この時にHα線で青方偏移した超過成分が見られ、青方偏移速度は85 km/s程度であることが分かった。これはフレアに伴うプロミネンス噴出によるものと考えられる。活動領域の詳細な変動を明らかにするためには、さらなる分光モニター観測が必要であるが、なゆた/MALLSにイメージスライサー(0.8″×3)が搭載され、今後このような観測の効率向上が期待できる。

講演TP-07: 東京大学木曽シュミット望遠鏡Tomo-e Gozenによる前主系列星フレア探査の現状と展望

講演者名: 根津 正大、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 小林尚人,新納悠,他Tomo-e Gozen チームメンバー

低質量の前主系列星であるTタウリ型星は、さまざまなメカニズムによって可視光での変動を示すことが知られている。中でもフレアは、放射される硬X線が原始惑星系円盤のイオン化を促し、質量降着率の変化や化学組成に大きな影響を及ぼす現象であり、円盤進化や惑星形成の過程を理解する上で極めて重要である。こうした背景を踏まえ、X線観測では前主系列星におけるフレアの統計的理解が進んでいるものの、放射エネルギーの大きい大規模なフレアしか捉えられていない。そこで、広視野・高速撮像が可能な東京大学木曽観測所の可視光観測装置 “Tomo-e Gozen” を用い、無バイアスに選定した多数のTタウリ型星を対象にモニター観測を行うことで、これまで十分に捉えられてこなかった短時間・小エネルギーのフレアを多数検出し、その統計的性質を明らかにすることを目的として研究を進めている。
これまでの観測では、約30個のTタウリ型星の光度曲線から明瞭なフレアを2件検出しており、その発生頻度は、数個のTタウリ型星のみを対象とした先行研究と矛盾しない結果が得られているが、統計的に有意な結論を導くためには、さらに多くの観測と解析が求められる。本講演では、今後の観測計画にも触れながら、解析の進捗状況を報告する。

講演TP-08: 散開星団候補天体の分光観測によるポストTタウリ星の探査

講演者名: 水本 拓走、所属: 兵庫県立大学、学年: M2
共著者名: 伊藤洋一(兵庫県立大学)

太陽質量程度の星は、分子雲から誕生した後、原始星、Tタウリ型星、ポストTタウリ型星という進化段階を経て、主系列星に至る。このうちポストTタウリ型星は、数千万年という比較的若い年齢であるにもかかわらず、若い星に典型的な特徴が弱いため、年齢から予想される数に対して発見数が少ないことが知られている。
これまでポストTタウリ型星は、散開星団や星形成領域の近傍といった若い星の集団の中から発見されてきた。一方、現在の散開星団の年齢分布に関する研究によると、約10^8.2年の付近にピークが存在する。これは、既知の星形成領域や散開星団から独立した領域にも、ポストTタウリ型星が存在する可能性を示唆している。
本研究の目的は、そのような未知の領域においてポストTタウリ型星を探査することである。Y Itoh(2024)は、Gaia衛星のデータを用い、座標と固有運動の情報から大質量星の周囲に存在する散開星団のメンバー候補天体を抽出した。散開星団は同時期に形成された星の集団であり、寿命の短い大質量星とともに散開星団に属する星々は、いずれも若いと考えられる。
本研究では、西はりま天文台のなゆた望遠鏡と中低分散分光器MALLSを用いて、Itoh(2024)により同定されたメンバー候補天体の分光観測を実施した。若い星の特徴であるリチウム吸収線の有無を調べることで、真の星団メンバー候補天体を選定した。

講演TP-09: 中央大学 36 cm 可視光望遠鏡を用いた恒星フレア自動分光観測システムの開発

講演者名: 長島 汀、所属: 中央大学、学年: M2
共著者名: 米山 友景(中央大学),坪井 陽子(中央大学)

我々は、全天X線観測装置MAXIにて検出した突発現象を、中央大学後楽園キャンパスにある望遠鏡 (SCAT: Spectroscopic Chuo-university Astronomical Telescope) で可視光分光観測で追観測を行っている。加えて、MAXIによる観測であらかじめ大きなフレアを起こすとわかった天体に対して、モニター観測も行なっている。SCATの立ち上げについては、天文学会年会2018年春季年会V241a(河合広樹 他)で報告されている。
我々は現在、完全自動観測に必要な機能の検討・実装を進めている。具体的には、天候の確認、観測プランの読み込み、カメラの起動および終了、校正用フレームの撮影、ドームスリットの開閉、座標補正とピントの調整、目的星の撮像のプログラムが必要となる。特に重要となるのは、目的星をスリットの中心に導入することである。スリットの中心に導入するために、視野の異なる2種類のカメラを使用した2段階のプロセスを検討している。本講演では、これらの概観および各種プログラムの実装について発表する。