
アブスト:素粒子・重力・宇宙論分科会

口頭講演
講演SK-01: インフレーション期宇宙の格子シミュレーション
講演者名: 大日 蒼、所属: 立教大学、学年: M1
共著者名:
2015年にLIGOがブラックホール連星衝突由来の重力波を観測して以降、原始ブラックホール(PBH)に関する研究が活発に行われている。[1]PBHとは初期宇宙にある密度ゆらぎの高密度領域が崩壊することによって生成されるブラックホールである。この密度ゆらぎはインフレーションの際に作られる曲率ゆらぎに由来しており、十分な量が生成されるためにはこの曲率ゆらぎが小さいスケール(sub-horizonスケール)で増幅される必要があり、そのためにさまざまなインフレーションモデルが提案されている。このようなインフレーション中の小さいスケールでの力学を解くために、格子シミュレーションが用いられる。
本発表では、単純な単一場インフレーションモデルで格子シミュレーションを行い曲率ゆらぎのパワースペクトルなど既知の結果と比較する研究[2]をレビューし、動作原理を理解することを目標とする。また、今後の展望として、まだ小さいスケールでの格子シミュレーションがあまり行われていない、スカラーポテンシャルに山や上向きの段差が存在する特殊なインフレーションモデルについても紹介する。[3]
[1] O.Ozsoy, G.Tasinato, arXiv:2301.03600
[2] A.Caravano, E.Komatsu, K.D.Lozanov, J.Weller, arXiv:2102.06378
[3] R.Kawaguchi, T.Fujita, M.Sasaki arXiv:2305.18140
講演SK-02: DESI観測データによるαアトラクターインフレーションモデルの制約
講演者名: 川中 竣介、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
本発表では、[1]のレビューをし、DESI(Dark Energy Spectroscopic Instrument)のデータを用いて、インフレーション理論におけるαアトラクターモデルに対する制約について発表する。
αアトラクターモデルは、超重力理論や超弦理論から示唆される、インフレーションやその後の宇宙膨張を同時に記述できるスカラー場理論であり、3α=1,2,…,7というパラメーターで特徴づけられる。これに対して、[1]ではDESIのバリオン音響振動(BAO)データを利用し、その他の宇宙論的観測とも組み合わせ、ベイズモデル選択の手法を用いることで、αに対して制約(α ≃ 1.89 )を与え、αのみを通じて、w_0w_aCDMモデルの2つのEoSパラメーターを観測に矛盾しない形で導出した。
さらに、重力波との関連についても調べ、将来的なBモード偏光の重力波観測により、さらなる制限をかけることが期待されることを確認した。
以上に基づき、インフレーションを記述する理論を観測からどのように制限していくか、また、理論の制限に将来的な観測をどのように取り込んでいくかについて、可能な限り議論する。
参考文献
[1] G. Alestas et al., Phys. Rev. D 111, 083506 (2025)
講演SK-03: 初期宇宙における原始ブラックホール形成過程における非球対称性の影響
講演者名: 松谷 瑞己、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
本講演では、Albert Escrivà氏とChul-Moon Yoo氏による最新研究「Non-spherical effects on the mass function of Primordial Black Holes」(arXiv:2410.03451)を紹介し、初期宇宙における原始ブラックホール(PBH)形成過程における非球対称性の影響について考察します。 
PBHは、インフレーション期に生成された超地平スケールの曲率摂動が宇宙の地平線に再突入する際の重力崩壊によって形成されると考えられ、特に小質量領域(10^-15〜10^-10太陽質量)では暗黒物質候補として注目されています。
従来のPBH形成モデルでは、初期摂動が球対称であると仮定されてきましたが、本研究では非球対称性、特に楕円率の効果を3+1次元の数値シミュレーションを用いて詳細に解析しています。
シミュレーションの結果、初期摂動の振幅が臨界値付近にある場合、非球対称性がPBH形成を阻害する可能性が示されました。しかし、非球対称性の影響はPBH質量関数全体に対しては限定的であり、特に小質量領域におけるパワーロースケーリングの形状には大きな変化がないことが確認されました。
この研究は、PBH形成における非球対称性の影響を定量的に評価し、従来の球対称モデルの妥当性を再確認するものです。また、PBHが暗黒物質の候補である可能性を支持する結果であり、今後の観測的検証や理論モデルの発展に寄与するものと考えられます。
講演では、数値シミュレーションの手法やピーク理論の適用、臨界スケーリング則の非球対称系への拡張など、研究の技術的側面にも触れながら、初期宇宙におけるPBH形成の理解を深めることを目指します。
講演SK-04: 確率論的ウルトラスローロールインフレーションでの曲率揺らぎの非ガウス的尾部:原始ブラックホールとの関わり
講演者名: 服部 友希、所属: 弘前大学、学年: M1
共著者名:
本講演では[1]のレビューを行う。
近年、初期宇宙で形成されたとされる原始ブラックホール(Primordial Black Holes; PBH)がダークマター候補や重力波源として注目を集めている。PBHはインフレーション期に生成された初期揺らぎが再加熱後に重力崩壊することで形成されると考えられている。揺らぎの生成メカニズムの一つとして、スカラー場がポテンシャルの非常に平坦な部分を緩やかに転がる「ウルトラスローロール(USR)」過程を持つインフレーション模型が注目されている。USR過程ではインフラトンの運動が一時的に減速し、スカラー揺らぎが大きく増幅されることでPBH形成の起源となる可能性がある。
これまで、インフレーション中に生成されるスカラー揺らぎの統計的性質の研究では、確率論的な短波長モードが背景の長波長モードに与える影響は無視されることがほとんどだった。それを改善するため、[1]では、短波長モードが長波長モードに与える影響を考慮に入れる非マルコフ的な確率形式を用いている。その上でΔN形式に基づいて試行ごとに曲率揺らぎRを計算し、確率分布P(R)を非摂動的に計算した。この解析から、USR期を経て生成される曲率揺らぎには顕著な 非ガウス的尾部が生じることが分かった。そして、非ガウス的尾部の存在により、初期揺らぎからのPBHの生成量がガウス的揺らぎの場合と比べて大幅に([1]で用いられたパラメターでは10の5乗倍)増加する可能性が示された。
[1] D.G. Figueroa, S. Raatikainen, S. Räsänen and E. Tomberg, “Non-Gaussian Tail of the Curvature Curvature Perturbation in Stochastic Ultraslow-Roll Inflation: Implications for Primordial Black Hole Production”, Phys. Rev. Lett. 127, 101302 (2021)
講演SK-05: 素粒子標準模型を考慮した原始重力波スペクトルの理論的解析
講演者名: 牧野 泰紀、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
原始重力波は、宇宙の誕生直後の急激な加速膨張(インフレーション)によって引き伸ばされたテンソル型の初期ゆらぎであり、インフレーションの存在の直接的な証拠になるが、未だ観測されていない。もし観測されると、原始重力波のスペクトルから初期宇宙における高エネルギー現象について調べることができる。原始重力波のスペクトルは、宇宙の膨張だけが影響する場合、放射優勢期には平坦である。しかし、それ以外の要因が加わると、その形状が変わる。原始重力波のスペクトルが変化する要因は主に3つ挙げられる。1つ目は、状態方程式パラメータの変化による重力波のスペクトルの変動、2つ目は、相転移の前後で宇宙に存在する粒子の種類が異なることによる原始重力波の伝搬方程式の形の変化、3つ目は粒子の自由運動によってアインシュタイン方程式のエネルギー運動量テンソルに非等方成分が生じることで起こるスペクトルの減衰、である。これらの要因は、初期宇宙での素粒子物理的現象によるものである。そのため標準模型から原始重力波スペクトルを詳細に予測することは、標準模型の検証と高エネルギー下での新物理の探究に役立つと考えられる。こうした背景の下、論文 [1] では、最新の標準模型の研究の結果を用いて、前述の3つの要因から原始重力波が受ける影響をより詳細に調べている。本発表では、論文[1]のレビューを行う。まず、原始重力波の導入を行う。次に、原始重力波のスペクトルが伝搬の過程で受ける影響について説明する。最後に、上記の影響を受けた原始重力波のスペクトルを再現し、これを用いて将来観測可能な波数領域での素粒子標準模型から予想される現象の検証可能性について議論する。
参考文献
[1] Ken’ichi Saikawa & Satoshi Shirai, JCAP05(2018)035
講演SK-06: Dark Ageにおける21cm線シグナルを用いた原始非ガウス性の観測についての研究の現状
講演者名: 平山 彩美里、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
揺らぎの原始非ガウス性の観測はインフレーションのモデルの制限に用いられる。過去にはPlanck衛星によるCMB観測が原始非ガウス性のパラメータf_NLに大幅な制限をつけたものの、異なるモデルを区別する上で重要となるf_NL <1の領域には観測精度が到達していない。そこでより厳しい制限をつける手段としてDark Ageにおける21cm線シグナルのゆらぎの高次統計量、特にバイスペクトルを用いる方法が検討されているが、ゆらぎの非線形成長で生じる二次的なバイスペクトルや様々なforegroundの影響を取り除くことが課題となる。そこで[1]ではFisher解析を用いてゆらぎの非線形成長の影響を取り除くことで、30 ≦z≦100における0.1MHzの帯域幅、0.1arcminの角度分解能の21cm線観測により、f_NL~0.03-0.04の観測精度を達成できることを示している。一方この論文ではforegroundの影響を考慮していないほか、水素原子ガスがCDMと同じくスケール不変な成長をするなどの近似を用いている。本発表では[1]をレビューしたのち、そこで残された課題に関する最近の研究や進展について議論する。
[1]Julian B. Munoz, Yacine Ali-Haimoud, and Marc Kamionkowski, Phys. Rev. D 92, 083508 (2015)
講演SK-07: 中性水素21cm線を用いた標準宇宙論の検証
講演者名: 近藤 駿、所属: 山口大学、学年: M1
共著者名: 齊藤遼(山口大学)、山内大介(岡山理科大学)
宇宙の晴れ上がりから初代星形成までの時代は「暗黒時代」と呼ばれ、中性水素原子で満たされている。この時代を直接観測できる数少ない手段が、21cm線である。これは中性水素原子の陽子と電子のスピン相互作用に由来する波長21cmの超微細構造線であり、そのスピン状態はスピン温度によって特徴づけられる。近年の観測技術の進展により、この暗黒時代の観測が現実味を帯びつつあり、21cm線観測を通じて未知の宇宙物理に迫ることができると理論的に期待されている。特に、暗黒時代に放たれる等方的な21cm線の強度に注目することで、宇宙論の標準モデルであるΛCDMモデルの検証が可能になる。宇宙論パラメータを他の観測によって決定することで、ΛCDMモデルにおける21cm線強度の赤方偏移依存性は理論的に高い精度で予測できる。したがって、観測と理論予測に差異があれば、それは標準宇宙論を超える新たな物理の兆候となりうる。
本発表では、Katherine J. Mackらによる論文[1]のレビューを行う。この研究では、標準宇宙論には含まれない物理過程として、暗黒時代に存在しうる原始ブラックホール(Primordial Black Hole, PBH)のHawking放射が21cm線強度に及ぼす影響を示し、その原因について考察を行っている。PBHは宇宙初期に形成されたとされる仮説上の天体で、Hawking放射により粒子を熱的に放出するとされる。これらは理論的仮定に基づくものであるが、21cm線観測によってその痕跡が検出されれば、PBHやHawking放射の存在に対する間接的証拠となる可能性がある。本発表では、まずスピン温度に基づいて標準宇宙論による21cm線強度が予言されることを説明したのち、PBHのHawking放射がこの強度に与える影響を評価し、標準宇宙論の検証可能性について議論する。
[1] Katherine J Mack et al., arXiv:0805.1531, 2008
講演SK-08: 小スケール構造に基づく原始揺らぎパワースペクトルの制限とその理論的背景
講演者名: 佐久間 竜雅、所属: 京都産業大学、学年: M1
共著者名:
インフレーション仮説とは、宇宙が誕生直後に指数関数的な膨張を経たとする仮説であり、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測結果と整合的であることから、現在広く支持されている。この機構は、構造形成の種となる原始揺らぎを生み出し、それが後の重力不安定性によって現在の大規模構造へと成長したと考えられる。したがって、宇宙の構造を観測・解析することは、インフレーションの性質や揺らぎの統計的性質に迫るための有力な手段と考えられる。なかでも、インフレーションが予言する曲率揺らぎのパワースペクトルの形状や振幅を制限する試みが重要であり、原始ブラックホール、恒星ストリーム、CMBのスペクトル歪みといった観測対象が利用されている。CMB観測は比較的大スケールのパワースペクトルには制限を与えられるものの、小スケールに対しては制限できない。そこで、パワースペクトルが小スケールでバンプ(局所的な増幅)を持つような仮定を置き、そのような初期条件のもとで宇宙がどのように進化するかを数値シミュレーションで求める。この結果と先述したような観測とを組み合わせることで制限を課すのが有効である。本発表では、そうしたシミュレーションと観測結果の比較を通じて、CMBでは予言できないスケールにおけるパワースペクトルへの制限が可能であることを紹介するとともに、これらの手法の理論的背景と先行研究のレビューを行う。
講演SK-09: DESIによる高光度赤外線銀河とクエーサーの観測に基づく原始非ガウス性の制限
講演者名: 小川 翔大、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
本講演では、[1]のレビューを行う。
ΛCDM(標準的な宇宙模型)ではガウシアン揺らぎのインフレーションを考えるため、原始非ガウス性(PNG)は存在しない。そのため、PNGが観測で見つかれば、インフレーションモデルに修正の必要が生じる。現在得られている最も強いPNGの制限はPlanck衛星の観測したCMBの解析によるものである。一方で、PNGが存在するならば、3次元銀河クラスタリングのパワースペクトルにおいて極めて大スケールの振幅が大きくなる。CMBによる制限はコスミックバリアンスによる精度の限界があるため、より強い制限には3次元銀河クラスタリングを用いる手法が有望である。
DESIは、2021年度より広い領域にわたって高光度赤外線銀河(LRG)とクエーサー(QSO)の観測を行っている大規模分光装置である。特に、長波長スケールにおいて過去最大規模の銀河分光サーベイであるeBOSSを上回る統計精度が期待できるため、PNGの解析に適している。そこで研究[1]では、DESIの最初のデータリリース(DR1)から得られたLRG(約163万天体)とQSO(約119万天体)の大規模クラスタリングデータを用いてその長波長のパワースペクトルを解析し、原始非ガウス性を制限した。その結果、大規模構造を用いた解析で最も良い制限を与えることができ、標準宇宙論と無矛盾な結果であった。
[1]Chaussidon, E., et al. “Constraining primordial non-Gaussianity with DESI 2024 LRG and QSO samples.” arXiv preprint arXiv:2411.17623 (2024).
講演SK-10: 宇宙論パラメータの推定を目的としたパワースペクトル解析による統計モデルの開発
講演者名: 新田 悠翔、所属: 京都産業大学、学年: M1
共著者名:
ダークエネルギーは宇宙のエネルギー成分の約70 %を占めているとされる,未知のエネルギーであり,その性質を理解することは宇宙論における重要な課題である.バリオン音響振動という宇宙初期にバリオン・光子混合流体が音波として広がった痕跡は銀河の分布に反映されており,パワースペクトルなどを用いて調べることで,ダークエネルギーの性質を知ることができる.パワースペクトルとは2点相関関数をフーリエ変換したものであり,バリオン音響振動の特徴的なスケールを反映する.また,赤方偏移空間変形効果やAlcock-Paczyński効果を反映したパワースペクトルの多重極モーメントを調べることで,宇宙論パラメータにより良い制限ができる.
本講演では,1つの宇宙論パラメータセットに対して観測とシミュレーション結果をパワースペクトルの多重極モーメントで比較し,観測との適合度を出す手法について紹介する.特にダークエネルギーの状態方程式パラメータに制限を課すために,さまざまな宇宙論パラメータに基づくシミュレーションデータと3D銀河分布の観測データをそれぞれのパワースペクトルを用いて比較することで,どのようなダークエネルギーモデルがより確からしいか議論する手法の開発を行った.観測データにはSDSS/BOSS データを用い,シミュレーションデータにはDark Quest Simulation のデータを用いた.さらに,適合度を機械学習モデルで学習させることで,シミュレーションをしていない宇宙論パラメータに対しても結果を得ることができるシミュレーションに基づく推論の導入を目指す.
講演SK-11: CMB lensingを用いたニュートリノ質量の制限
講演者名: 斎藤 光、所属: 千葉大学、学年: M1
共著者名:
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)と呼ばれる、宇宙全体に広がる微弱なマイクロ波放射があります。これはほぼ均一に広がっていますが、その温度や偏光には小さな揺らぎがあります。重力レンズ効果によってCMB光の進路が曲げられることでその揺らぎに影響が出る現象のことを、CMB lensingと呼びます。この観測データには重力相互作用の情報が入っているので、ダークマターの強い制限を与えることが期待されます。今回は揺らぎから計算される統計量であるパワースペクトルを用いて、ニュートリノ+CDMモデルにおける宇宙論パラメータとニュートリノ質量の制限を行いました。
Planck衛星のCMB温度・偏光異方性の観測データとAtacama Cosmology Telescope(ACT)の CMB lensingの観測データを組み合わせることで、ニュートリノ質量に関してPlanck衛星のデータのみで行ったものよりも強い制限が得られました。
講演SK-12: .実サンプルとモンテカルロシミュレーションを用いた前景銀河によるIa型超新星赤化検出の試み
講演者名: 松本 佳祐、所属: 早稲田大学、学年: M1
共著者名: 井上昭雄(早稲田大学)、鈴木尚孝(フロリダ州立大学)
. Ia型超新星は、ピーク時の絶対等級がほぼ一定のため標準光源として使用され、宇宙論パラメータの推定に用いられている。しかし、超新星の視線方向に存在する前景銀河などの塵による減光は、観測されるdistance modulus に系統誤差をもたらし、宇宙論パラメータの推定に影響を与える可能性がある。そこでその誤差を補正するために、赤化を検出し減光測を求める必要がある。しかし、前景銀河による赤化の効果は小さく、個々に異なるため検出には十分な統計量が必要である。
本研究では、前景銀河による赤化量を、前景銀河からのインパクトパラメータの関数として表現した赤化関数(Ménard et al. 2009)を用いてモデル化した。この赤化関数を使用し、ある距離r_th より近くに前景銀河があるサンプルと無いサンプル間の平均色差とその信号対雑音比(S/N)をモンテカルロシミュレーションを用いて見積もった。また、実際のSNe Ia データ(Pantheon+SH0ES、JLA、ZTF SN Ia DR2サンプル)のうち、すばるHSC 探査領域にある(約1200個) について、赤方偏移の範囲でbin分けした上で前景銀河の有無で分類し、赤化の検出を試みた。結果として、測光赤方偏移の不定性とサンプル不足から有意な赤化は検出されなかった。本講演では、実サンプルを用いた分析結果とモンテカルロシミュレーションの結果、将来的な観測データによる改善の可能性について議論する。
講演SK-13: 21cm線観測における電離層による位置変化の解析と観測への影響評価
講演者名: 大黒 詩織、所属: 熊本大学、学年: M1
共著者名: 吉浦伸太郎 (国立天文台)
「宇宙の夜明け期」とは、初代天体の発する光により宇宙が明るくなり始めた時期のことである。この時期では、それまで宇宙全体を満たしていた中性水素が、形成された天体からの放射によって電離され始める。この時期についてはまだ謎が残っており、この時期を直接的に探る手掛かりとなるのが 中性水素21cm 線の観測である。21cm 線とは、水素原子の超微細構造の準位間の遷移で放射される波長 21cm(周波数1420MHz) の電磁波のことで、赤方偏移した 21cm 線を観測することで宇宙を断層的に観測できる。特に超低周波 (75-100 MHz) の信号は初代星誕生時期の水素ガスからの信号に相当するため、当時の 21cm 線から得られるガスの分布や温度の情報から、初代星の誕生時期や質量などの性質が明らかにできると期待されている。Murchison Widefield Array (MWA) は、宇宙初期の中性水素ガスから放射される 21cm 線の検出を目的の1つとして観測を行っている。
しかしこの時期からの21cm 線の信号は微弱であり、検出には電波銀河や銀河系シンクロトロン放射などの前景放射の除去が必要になる。その際、地球の電離層が問題になる。電離層は地上 50~1000km の範囲に存在するプラズマであり、真空や中性な大気と屈折率が異なるため宇宙からの信号は地上での観測までに遅延が生じる。この遅延は観測される信号の位相の誤差として現れ、天体の見かけの位置をずらす作用をもつ。この影響は低周波ほど強くなり、装置の較正や電波天体の見かけの位置にずれが生じ、前景放射の除去精度に悪影響を及ぼすと考えられる。本研究では、MWAの超低周波電波データを用いて電波源の見かけの位置のずれの変化を調べることで、 電離層が21cm 線の検出にどれほど影響するかを定量的に明らかにする。
講演SK-14: 機械学習を用いた再結合時の物質密度場の復元
講演者名: 姫野 諒汰、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
現在の銀河の構造(約0.01Mpc)は、重力などの影響によって非線形成長を遂げている。そのため、現在観測されている宇宙の物質分布では、初期宇宙における物理現象の痕跡が一部見えなくなっている。現状、観測された現在の物質分布を用いて初期宇宙の物理現象について議論することは困難である。この課題を解決するため、現在の物質分布のマップから初期宇宙の物質分布を復元するアプローチが研究されている。従来の研究では、線形摂動理論に基づき、初期宇宙において発生した音波の痕跡であるバリオン音響振動を復元するアルゴリズムが開発された[2]。一方で線形摂動論による密度ゆらぎの復元は、重力崩壊した銀河などのスケールでは精度が落ちることが知られている。そこでShallue & Eisenstein (2023) は、線形摂動論に基づく従来手法に加え機械学習を活用し、ハローや銀河などの小スケールにおいてより精度の高い初期宇宙の物質分布の復元を実現した。具体的には、重力のダイナミクスをモデル化することなく、シミュレーションの初期状態と終状態を直接対応づける写像を学習させ、直接初期密度場へ復元することで精度を向上させた。その結果、初期のパワースペクトルと復元されたパワースペクトルにおける相関関数が95%以上一致するスケールを2倍復元させることができた。本発表では Shallue & Eisenstein (2023) の研究をレビューし、この成果が現在の銀河分布の解析にどのように応用可能かについて議論する。
[1]Shallue, Christopher J. & Eisenstein, Daniel J.(2023) Reconstructing cosmological initial conditions from late-time structure with convolutional neural networks,MNRAS
[2] Eisenstein et. al (2007) IMPROVING COSMOLOGICAL DISTANCE MEASUREMENTS BY RECONSTRUCTION OF THE BARYON ACOUSTIC PEAK,. The American Astronomical Society
講演SK-15: すばるHSCデータを用いた弱重力レンズ効果による近傍銀河団の質量推定
講演者名: 田中 芙由子、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
宇宙初期の密度揺らぎは、暗黒物質による重力相互作用と暗黒エネルギーによる加速膨張のせめぎ合いの中で成長し、銀河や銀河団などの天体が形成される。特に銀河団は、主に熱いガスと暗黒物質で構成される宇宙最大の自己重力系であり、その全質量は、背景銀河から来た光が手前の銀河団の重力によって曲げられる「弱重力レンズ効果」を用いて測定できる。銀河団の数密度を質量の関数として表したものを質量関数と呼び、質量関数は物質のエネルギー密度Ωmや物質の密度揺らぎの振幅σ8などの宇宙論パラメータに感度を持つ。一般に銀河団はX線光度やSunyaev-Zel’dovich信号、銀河の空間的集中度などを用いて検出される。質量関数とこれらの観測量を結びつけるためには質量-観測量関係の構築が必須である。本研究では、X線で検出されたX線高輝度近傍銀河団に着目し、精密な質量-X線光度関係を構築することを目指す。その第一歩としてすばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam(HSC)によって観測された、赤方偏移0.03<z<0.12におけるX線輝度が高い10個の銀河団(0.1~2.4[keV])に対して、弱重力レンズ効果を用いた質量推定を行った。この結果を報告する。
講演SK-16: 泡宇宙の衝突におけるCosmic wakesによるマルチバース観測
講演者名: 川村 翔吾、所属: 岡山理科大学、学年: M1
共著者名:
弦理論を含む宇宙の起源に関する理論は、多くの泡宇宙を含むマルチバースの存在を予言している。多くのインフレーション模型において、永久インフレーションが実現し、無数の泡宇宙を生成する。泡宇宙の衝突は弦理論の一般的な予言であり、その衝突が観測されれば我々の宇宙の理解を根本から変えるかもしれないと期待される。
本発表では論文[1]のレビューを行う。本論文では、泡宇宙間の衝突の際に発生するCosmic wakesと呼ばれる特殊な波に注目することで、モデルに依存しない方法で、マルチバースの存在可能性の検証を行うことができる。まず、Cosmic wakesが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度と偏光に与える特徴的な影響について考察する。後半では、温度と偏光を用いて、現在および将来のCMBミッションにおけるCosmic wakesの検出可能性を推定する。PlanckやCMB偏光ミッションなどによってCosmic wakesが検出されれば、我々の宇宙がマルチバースの一部であることを示すだけでなく、弦理論の証拠となるとともに宇宙の起源を明らかにしてくれると期待できる。
[1] Matthew Kleban, Thomas S. Levi, and Kris Sigurdson, Phys.Rev.D 87 (2013) 4, 041301
講演SK-17: 超新星ニュートリノによるマヨロンやZ’ボソンへの制限
講演者名: 北川 陽斗、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
標準模型(SM)は現代の素粒子物理学において極めて成功した理論である。しかし、ダークマターの存在や宇宙のバリオン非対称性の起源といった、未だ説明できない根本的な問題を多く抱えている。その一例が、ニュートリノの質量の起源である。SMにおいてニュートリノは質量を持たないとされているが、ニュートリノ振動の観測によって、わずかではあるが質量を持つことが明らかになっている。
ニュートリノの小さい質量を説明する有力な理論としてシーソー機構が知られている。シーソー機構では、ニュートリノにマヨラナ質量を導入するためにレプトン数を破る必要がある。マヨラナ質量を生成する方法として、レプトン数に対応するU(1)対称性を自発的に破る仕組みが考えられ、このときに現れるゴールドボソン粒子をマヨロンと呼ぶ。マヨロンはダークマター候補の一つとしても注目されている。
また、ミューオンのg-2、ハッブルテンションといった近年の実験結果の不一致を受けて、SMの対称性、例えばB-LやL_\mu-L_\tauに基づくゲージ理論が注目されており、それに伴い新たなゲージボソンZ’が提案されている。
マヨロンやZ’ボソンはニュートリノや他のSM粒子と結合する。このような相互作用は、超新星爆発という極端な高温高密度の宇宙環境において顕著になり、粒子生成やエネルギー散逸に影響を及ぼす可能性がある。
本講演では[1]をレビューする。SN1987Aと将来の銀河系内超新星爆発のニュートリノ観測への影響から、マヨロンやZ’ボソンの相互作用にどのような制限がつけられるか議論する。
[1] K. Akita, S. H. Im, M. Masud and S. Yun, “Limits on heavy neutral leptons, Z’ bosons and majorons from high-energy supernova neutrinos”, JHEP 07 (2024) 057 [2312.13627]
講演SK-18: Domain-wall quintessence
講演者名: 小林 信房、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
宇宙の加速膨張を駆動するダークエネルギーの起源を解明することは、現代宇宙論における中心的課題の一つであり、近年その探求が精力的に進められている。その候補の一つとして、スカラー場を用いたモデルであるクインテッセンスモデルが注目を集めている。加えて、宇宙論的スケールにおける非等方性の可能性を示唆する観測的証拠も蓄積されつつある[1]。こうした背景のもと、クインテッセンスと大規模な非等方性の両方を統一的に説明する理論的枠組みが必要である。先行研究[2]ではクインテッセンスモデルにハッブルスケールの位相欠陥、特にモノポールを導入し非等方宇宙を再現していた。本研究では先行研究の拡張として、位相欠陥にドメインウォールを考える。
具体的には、ハッブルスケールの厚さを持つ平坦なドメインウォールが生み出すポテンシャルを用いて、現在観測されている宇宙の加速膨張を説明する新たな理論モデルを構築した。このモデルにおいて、ドメインウォール近傍の空間が近似的に一様非等方な構造を持つことが解析的に導かれ、この構造により宇宙の大域的な非等方性が誘起される。また、上記システムの時間発展がスカラー場の真空期待値 η のみに依存することを明らかにし、数値解析により η ≫ 0.25 mₚ の条件下で局所的な加速膨張が生じることを確認した。
さらに、構築した背景時空におけるヌル測地線に沿って光の挙動を解析し、そこから導出されるIa型超新星の距離指標を観測データと比較することで、我々の宇宙におけるドメインウォールの空間的位置についての制限を得た。その結果、我々がハッブルスケールのドメインウォールの近傍に位置している可能性が示唆され、そのような空間的関係のもとでは、局所的な加速膨張が自然に導かれることが確認された。
[1] PERIVOLAROPOULOS, Leandros. arXiv:1401.5044v1
[2] SANCHEZ, Juan C. Bueno; PERIVOLAROPOULOS, Leandros. arXiv:1110.2587v3
講演SK-19: 不安定ダイナミクスで探る量子重力とエンタングルメント
講演者名: 塩松 祐華、所属: お茶の水女子大学、学年: M1
共著者名: 藤田智弘(お茶の水女子大学)
重力と量子論の関係は、現代物理学における長年の未解決問題である。近年では、「量子もつれ(エンタングルメント)」という量子力学の特徴的な現象を利用して、重力が量子的なふるまいをするかどうかを調べる研究が注目されている。もし、重力を介して離れた量子系がもつれ合うとすれば、それは重力そのものが量子的な性質を持っていることを示唆する。しかし、重力は非常に弱い相互作用であり、その影響を実験的に検出するのは容易ではない。そこで本研究では、微弱な結合であっても顕著な変化が引き起こされるような力学系を設計することで、重力の効果をとらえやすくすることを考える。特定の条件下で振動が大きくなっていく「パラメトリック不安定性」を示すマシュー方程式という力学系に注目する。マシュー方程式に従う振動系を2つ用意し、それらを重力によって弱く結びつける。重力結合がない場合には系は安定に振る舞うが、そこに弱い結合が加わることで不安定性が現れるような条件にパラメーターを設定する。その結果、ごく小さな重力の影響であっても、系全体の運動に大きな変化が生じる。これにより、生成される量子もつれが増幅される可能性がある。量子光学や量子情報の知見も取り入れながら、実験との接続を見据えた実現可能な枠組みの構築を目指す。
講演SK-20: 中性子星からクォーク星への衝撃波を通した相転移
講演者名: 影山 郁洋、所属: 早稲田大学、学年: M1
共著者名:
パルサーは回転数が減少すると遠心力が弱まることで内部の物質が圧縮される.圧縮がハドロン物質(HM)と2-flavor クォーク物質(2QM)の自由エネルギーが等しくなるまで行われるとハドロン物質はより密度の高い2-flavor クォーク物質へと相転移し,外側の物質が落ち込むことで衝撃波が発生することが考えられる.Shock-induced conversionはこのような衝撃波により中性子星を構成するハドロン物質がクォーク物質(QM)へと変化する相転移である.このシナリオではハドロン物質が衝撃波により圧縮されて密度が上昇し,クォークがハドロン内に束縛されなくなり,物質は一時的に2QMとなる.その後,クォーク間での弱い相互作用によってストレンジクォークが発生し,より安定な3-flavorクォーク物質(3QM)へと変化する.このシナリオでは上記のようなクォーク物質が発生するまでの流れを,衝撃波で物質が圧縮・加熱されて燃焼する相転移として扱う.本研究では3QMの発生メカニズムとしてShock-induced conversionを取り上げ,原始中性子星内の3点(中心付近,中央,外側)でどのように物質の相転移が起こるのかを調べ,比較した.
シミュレーションにより,レプトンの割合が一定の場合,完全な3QMで構成されているクォーク星は中心から外側へ向かうにつれてストレンジクォークの割合が減少すると考えられる.また,中性子星内部にHMと3QMが共存している場合は中心から外側へ向かうにつれて3QMの割合が減少すると考えられる.
講演SK-21: 高解像度の宇宙論的シミュレーションデータを用いた地球近傍における暗黒物質密度と速度分布の評価
講演者名: 中條 初萌、所属: 岡山理科大学、学年: M1
共著者名: 長尾 桂子 (岡山理科大学),正木 彰伍 (中京大学),中林拓帆 (総合研究大学院大学)
暗黒物質は、宇宙の全エネルギー密度のうち27%を占めている未知の物質である。暗黒物質の正体を明らかにするため、地下の実験施設で暗黒物質を検出する試みが行われており、その評価をする上で、地球近傍の暗黒物質の量は必要不可欠なパラメーターである。銀河の回転曲線等の観測結果から示唆される地球近傍の暗黒物質密度は、0.3 – 0.6 GeV/cm³程度であることが知られている。しかし、暗黒物質は光らないため、直接観測することはできない。よって、地球近傍の暗黒物質密度を評価する上で、シミュレーションデータを用いるのは有用な手法の一つである。そこで本研究では、宇宙論的シミュレーションのひとつであるIllustrisTNGシミュレーションの公開データを用いて、地球近傍の暗黒物質密度と速度分布を評価した。講演では、シミュレーションデータから地球近傍と類似した環境を抽出するための条件の考察と、実際に得られた暗黒物質密度と速度分布等について議論する。
講演SK-22: アクシオンダークマター中のアクシオン・フォトン変換
講演者名: 小林 健斗、所属: 神戸大学、学年: M1
共著者名: 早田 次郎(神戸大学)
アクシオンは、強い相互作用におけるCP問題の解決策として導入された理論的粒子であり、特にこの粒子はQCDアクシオンと呼ばれる。QCDアクシオンは、質量 m_a と崩壊定数 f_aが反比例する関係にあり、軽く中性の擬スカラー粒子である。一方、標準模型を超えた理論からは、アクシオンに類似した粒子(アクシオンライク粒子, ALPs)が予言されており、これらはm_a と f_a の間に特定の関係を持たない。本研究では、QCDアクシオンとALPsを区別せず、総称して「アクシオン」と呼ぶ。
本発表では、プリマコフ効果と呼ばれる現象、すなわち光子が強磁場中でアクシオンへ変換される過程(およびその逆過程)を用いた、アクシオン・光子変換の理論的検討を行う。特に、背景にアクシオンダークマターが存在する状況を想定し、その効果として光子の偏光状態に変化が生じることを議論する。また、現在進行中のアクシオン探索実験における典型的なパラメータ設定を用いて、検出可能性についても考察を加える。
講演SK-23: アストロメトリによる超軽量ダークマター検出の可能性について
講演者名: 前岡 凜、所属: 岡山理科大学、学年: M1
共著者名:
スカラー場としてモデル化された超軽量ダークマターは、非常に小さな質量をもつ場として宇宙全体に広がり、波動的なふるまいを示すと考えられている。その時間的なゆらぎが時空の構造に小さな変化をもたらす可能性があり、これにより遠方の天体の見かけの位置がわずかに周期的に揺れるという予測が得られる。本発表では文献[1]をレビューする。文献[1]では、測地線方程式を用いてその効果を理論的に導出し、どの程度の精度であればアストロメトリ(天体の位置観測)によって検出できるかを見積もっている。本研究は、これまでとは異なる手法によるダークマターの間接的検出可能性を示しており、新たな観測的アプローチとして注目されている。本発表では、超軽量ダークマターによる時空の摂動が天体の見かけの位置に与える影響について、数式の導出過程を追いながら、なぜこのような揺れが起こるのか、そして重力波による天体位置の変化とどう違うのかについても整理し、今後の観測における展望も含めてレビューする。
[1] J. A. Dror and S. Verner, Phys.Rev.Lett. 134 (2025) 11, 111003
講演SK-24: 重力波を用いたブラックホール周囲のダークマター検出
講演者名: 中本 那央、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
宇宙の物質全体の8割以上を占めるダークマターは、銀河の形成や大規模構造の進化に不可欠な役割を果たしている。しかし、その正体や分布の詳細は依然として明らかになっておらず、現代物理学における最大の未解決問題のひとつである。
近年では、重力波観測によってダークマターの性質を間接的に探るアプローチが注目されている。次世代宇宙重力波望遠鏡LISAの重要な観測目標として、銀河中心に存在する大質量ブラックホール(BH)とその周辺環境の解明がある。銀河中心のBH周囲にはダークマターが集中しており、ダークマタースパイクと呼ばれる急峻な密度分布を形成する[1]。この構造がBHの周囲を公転する恒星質量天体の軌道進化に影響を与える可能性が理論的に指摘されてきた[2,3]。これにより、連星系から放出される重力波の波形に観測可能な位相のずれが生じることが予想されている。この位相のずれを実際に観測することで、ダークマターの振る舞いや粒子的性質に迫ることができる。
そこで本発表では、中心BHが10^3~10^5太陽質量で恒星質量天体が1太陽質量である中質量比連星系においてダークマター分布の時間発展を導入する形式[2]をレビューする。この方法により、従来の研究では無視されてきた伴星軌道とダークマタースパイクの共進化を追うことが可能になる。その結果、ダークマターとの相互作用によって生じる重力波位相の変化をより正確に評価することができた。これは従来の推定値よりは小さいが、LISAの観測精度によって検出できる可能性があることが分かった。これらの結果は、ダークマターの構造や性質を重力波から制限する新たな可能性を示唆している。
[1]Paolo Gondolo, Joseph Silk, arXiv:astro-ph/9906391
[2]Bradley J. Kavanagh, David A. Nichols, Gianfranco Bertone, Daniele Gaggero, arXiv:2002.12811
[3]Soumodeep Mitra, Nicholas Speeney, Sumanta Chakraborty, Emanuele Berti, arXiv:2505.04697
講演SK-25: Dark photonによるCMBのVモード偏光生成
講演者名: 松田 紗季、所属: お茶の水女子大学、学年: M1
共著者名: 藤田智弘(お茶の水女子大学)、小幡一平 (KEK)、平松尚志 (日本大学)
ビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の観測は、初期宇宙の理解を大幅に進展させてきた。今後もSimons ObservatoryやLiteBIRD衛星などの次世代観測が計画されており、CMBの偏光観測がさらに進むと期待されている。近年のCMB観測では、宇宙複屈折の発見に代表されるように、宇宙がパリティ対称性を破る兆候が報告されており、理論・観測の両面から注目を集めている。
本研究では、CMB偏光における円偏光成分である「Vモード」に着目する。従来のCMB観測では4つのストークスパラメータのうち、温度であるTモードおよび直線偏光であるEモード、Bモードはすでに観測されているが、Vモードは未だ観測されていない。標準宇宙論ではVモードの値はゼロとされているが、これはVモードを通じて標準宇宙論を超える物理が発見できる可能性もあると言える。
具体的には、dark photonのモデルを用いたVモード偏光生成のメカニズムを構築し、精密宇宙論に基づいて、将来のVモード観測と直接比較が可能な異方性スペクトラムを計算する。
講演SK-26: 超大質量ブラックホール連星合体による背景重力波の高次統計量
講演者名: 久松 姫南乃、所属: 千葉大学、学年: M1
共著者名: 久德 浩太郎 (千葉大学)
近年、パルサータイミングアレイ(PTA)による背景重力波の観測が進展している。背景重力波の最有力な波源とされているのは太陽質量の10^6~10^11倍ほどの質量を持つ超大質量ブラックホール連星である。Lamb&Taylor(2024)では、重力波源の質量、赤方偏移における数密度分布についてのモデル式を導入した。質量や赤方偏移に関する自由パラメータの組み合わせを複数設定し、それぞれに対して周波数、質量、赤方偏移の三次元空間をビン分けしてモンテカルロシミュレーションを行うことで、エネルギー密度スペクトルの平均と分散、歪度、尖度といった高次統計量を求めた[1]。
これにより各高次統計量が周波数の冪乗則に従うことを示したが、これらの量の値は赤方偏移のビンの切り方に依存しており、連続極限では発散しているはずである。また、観測データをモンテカルロシミュレーションと比較するだけでは、ブラックホールの質量や赤方偏移に関してどのような情報が得られるのか必ずしも明らかでないという課題もある。
本研究ではこれらの統計量を解析的に導出し理論モデルを用いてエネルギー密度スペクトルの各高次統計量を合体イベントの数密度、連星の質量と赤方偏移の重み付け平均で表現する手法を提案した。さらに分散以降の高次統計量が発散しないよう、赤方偏移の積分下限をパルサータイミングアレイの個別波源検出感度を踏まえて設定する方法を導入した。本手法によりエネルギー密度スペクトルの高次統計量の発散を回避し、連星超大質量ブラックホールの質量や赤方偏移に関する情報が抽出できる可能性を示した。
[1] William G. Lamb and Stephen R. Taylor. Spectral Variance in a Stochastic Gravitational wave Background from a Binary Population, ApJ, 971(1):L10, (2024)
講演SK-27: 重力波天文学の最近の進展
講演者名: 西木 友哉、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名:
重力波は初期宇宙を探るための強力な信号である。時空のゆがみである重力波は電波望遠鏡とは異なる情報を提供する。宇宙開闢から38万年は光子が直進できず、これ以前の宇宙を電波望遠鏡で直接観測することはできない。これに対し、宇宙誕生直後に生成された重力波を検出することができれば、この時代の宇宙の状態を直接観測することができる。
本発表では[1], [2]に基づいて、重力波天文学の最近の進展と、関連した宇宙論の話題を概説する。宇宙論的な確率的重力波背景(Stochastic gravitational wave backgrounds, SGWBs)は、宇宙の歴史でかなりの重力波を放出したイベント(first-order phase transitionなど)から発生する。初期宇宙のphase transitionやインフレーション、Cosmic stringsなどの過程の痕跡としてのSGWBsを探ることで、標準模型を超える物理の手がかりを得ることができると考えられている。
[1] V. Domcke, arXiv:2409.08956, 2024
[2]C. Caprini, D. G. Figueroa, arXiv:1801.04268, 2018
講演SK-28: Bayesian Search for Gravitational-Wave Memory in Binary Black Hole Mergers up to the GWTC-3
講演者名: Wimmer Leonardo、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
第3回観測期(O3)までに、LIGOおよびVirgo観測所は連星ブラックホール合体と一致する83個の事象を検出しており、これらは合体時に重力波メモリを生成すると予測されています。重力波メモリは一般相対性理論により予言される非線形効果であり、通過後も残る、ゆっくりと増加する非振動成分として特徴づけられます。この効果は、他の重力波により発生する重力波に起因します。メモリは2.5ポスト・ニュートニアン(PN)次数の多重極モードの相互作用によって生成されますが、支配的な振動信号と同じ主導次数(0PN、四重極)で波形に寄与します。本研究では、スピン整列した連星ブラックホールに対してIMRPhenomD「振動的」波形モデルを用いてパラメータ推定を行います。得られた事後分布サンプルは、高次モードを含む代替モデルNRHybSur3dq8、およびGWMemoryパッケージを通じてメモリ効果を付加したNRHybSur3dq8を用いて再重み付けされます。純粋な振動波形とメモリを含む波形の間でベイズ因子を計算することにより、GWTC-1からGWTC-3までのすべての連星ブラックホール合体にわたって、メモリ仮説と非メモリ仮説の比較を行います。
講演SK-29: 電磁波と重力波における放射抑制の比較解析
講演者名: 松原 大空、所属: 大阪公立大学、学年: M1
共著者名:
加速度運動する荷電粒子は電磁波を放射することが知られているが、複数の粒子系や対称的な構成を考慮すると、その放射特性は大きく変化する。本発表では、まず1つの荷電粒子が円運動する場合に電磁波が放射されることを確認し、次に、対称的に配置した2粒子系に拡張し、さらに無限個の点電荷が円運動する定常電流系へと一般化する。そこでLienard-Wiechertポテンシャルを用いて電磁場を導出し、Poyntingベクトルの時間平均から遠方での放射成分が距離減衰し、最終的には消失することを理論的に導出する。ここでは近似的に回転速度が非常に遅く、観測点が無限遠方にあるという条件を考える。この結果から、無限個の点電荷による定常電流系では電磁波が放射されないことが示される。
さらに、電磁波と重力波の類似性に着目し、重力波放射に関する同様の解析を試みる。具体的には、等質量粒子が等間隔に配置され、Schwarzschildブラックホールの周囲を円軌道で回転するモデル[1]をレビューし、その対称性が重力波放射の有無に与える影響を評価する。
[1] T. Nakamura, K. Oohara, Phys. Lett. 98A (1983), 403
講演SK-30: パルサータイミングアレイを用いた連星ブラックホールの背景重力波研究の展望
講演者名: 菅原 玲央、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
本講演では[1]をレビューする。
銀河の中心には10^6 – 10^10M_sunの超巨大ブラックホール (supermassive black hole;
SMBH) が存在し、銀河合体の際にこれらのSMBHも合体すると考えられている。そのときに放出される重力波は背景重力波として観測が期待されてきた。
近年、NANOGravがパルサータイミングアレイ(Pulsar Timing Array; PTA)という手法により、背景重力波の証拠が得られたと報告した。PTAは多数のミリ秒パルサーを監視し、背景重力波によるパルス到達時刻のズレを観測することで間接的に背景重力波を検出する手法である。NANOGravによって検出が報告された背景重力波は連星SMBH起源と考えられているが、どのような質量、質量比、赤方偏移の源が寄与しているかはわかっていなかった。
本研究では、拡張Press‒Schechter理論を用いて銀河ハロー質量関数を構築し、ハロー質量とBH質量の経験則を介して連星SMBHの合体率p_BHと質量・赤方偏移分布を導出した。また、PTAで測定したスペクトルの振幅を用いると、BHの質量に依らずp_BH ≈ 0.17が得られ、この仮定の下で連星は赤方偏移z ≈ 1、質量比≳10をもつことがわかった。さらに、10^3-10^6M_sunの中間質量ブラックホール(Intermediate-mass black hole; IMBH)でもp_BH ≈ 0.17が成り立つと仮定すると、LISAなどの将来の重力波検出器でより軽い連星BHの背景重力波が観測可能であることがわかった。
LISAなどによりIMBHとそれらの合体を観測できれば、SMBHの形成史や成長過程のメカニズムを解明する手掛かりを得られると期待される。本講演ではこれについても議論する予定である。
[1] Ellis, J., Fairbairn, M., Hütsi, G., et al. 2023, A&A, 676,A38
講演SK-31: 時間変動するダークエネルギーの理論モデルについて
講演者名: 槇木 直人、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名:
宇宙の加速膨張を説明するにはダークエネルギーと呼ばれる未知のエネルギー成分が必要である。DESI(Dark Energy Spectroscopic Instrument)によるバリオン音響振動(BAO)の観測の最新の結果[1]によれば、ダークエネルギーの状態方程式p=wρにおけるwの値が標準的なΛCDMモデルの値(w=-1)よりも大きいことと、wの値が時間変化している兆候が2シグマ以上で報告された。
このような時間変動するダークエネルギーのモデルとして、クインテッセンスと呼ばれる、未発見の素粒子であるスカラー場のモデルがある。DESIの結果によれば、wの値が増加している傾向が示唆されている。このようなwの振る舞いは、例えば、丘型のポテンシャルの頂上付近でほとんど静止していたスカラー場が動き始めたことで説明できる。このようなモデルは「Thawing(解凍)」モデルと呼ばれ、例えば超弦理論由来のアクシオン場によって実現されうる。
本発表では、最新のDESIの結果[1]を踏まえつつ、[2]についてレビューを行い、時間変動するダークエネルギーの理論について議論する。
[1]DESI Collaboration et al. (2025), DESI DR2 Results II: Measurements of Baryon Acoustic Oscillations and Cosmological Constraints,arXiv:2503.14738 [astro-ph.CO]
[2]Rayff de Souza, Gabriel Rodrigues, Jailson Alcaniz,arXiv:2504.16337[astro-ph.CO]
講演SK-32: コンパクト天体への重力崩壊による粒子生成
講演者名: 山村 勇斗、所属: 大阪公立大学、学年: M1
共著者名:
ブラックホールは光さえもその外部に脱出できない時空領域である。近年の観測により、多くのブラックホール候補天体が発見され、ブラックホールは宇宙物理学において非常に重要なテーマとなっている。ところが、ブラックホールはその定義により、外部からは観測不可能である。我々が観測できるのは、永遠に重力崩壊しつづける天体か、途中で重力崩壊が停止したコンパクト天体のいずれかである。したがって、古典論の範囲においては、事象の地平面をもたない非常にコンパクトな天体とブラックホールとを区別することは困難である。
一方、量子論を考慮すると、ブラックホールは熱的スペクトルをもつ放射(Hawking放射)を発することが知られている。このHawking放射は、ブラックホールであることを示す証拠の一つとなりうる。しかし、複数の先行研究により、重力崩壊によってブラックホールではなくコンパクト天体が形成される場合においても、Hawking放射と似た放射が発せられることが示唆されている。よって、ブラックホールとコンパクト天体とを区別するためには、コンパクト天体におけるHawking放射と同様の現象について調べることは重要である。
[1]は、球殻の重力崩壊がある段階で減速して最終的に停止し、コンパクト天体が形成されると仮定した。その結果、Hawking放射と同じ熱的スペクトルを持つ放射が一時的に放出された後に、さらに強い2回の「バースト」と呼ばれる急激な放射が起こることを示した[1] 。本講演では、文献[1]についてのレビューを行う。
[1] T. Harada, V. Cardoso and D. Miyata, Phys. Rev. D 99, 044039 (2019) [arXiv:1811.05179v3].
講演SK-33: IDECAMBによる相互作用するダークエネルギーモデルの統一的解析
講演者名: 石川 陽、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
現在の標準宇宙論では、ダークエネルギーの正体は宇宙定数Λであると考えられている。しかし、最新の大規模銀河サーベイであるDESI DR2の結果は、標準モデルからのズレを示唆している[1]。
このような標準モデルと観測結果とのズレを説明しうるモデルの一つとして、「ダークマターと相互作用するダークエネルギー(interacting dark energy, IDE)モデル」が挙げられる。IDEは、宇宙の進化において異なる役割を担うとされるダークエネルギーとダークマターの間に相互作用があると仮定することで、宇宙論上のさまざまな課題の解決が期待されているモデルである。実際にDESIの観測結果をIDEモデルで説明する試みとして、[2]や[3] などが報告されている。
IDEモデルはこれまでに多くのモデルが提案されてきたが、観測データと比較するには各モデルに応じたCAMBパッケージ(CMBの異方性を計算するためのコード)の個別修正が必要であった。この課題の解決のために、近年、モデルを系統的にパラメトライズすることで、多くのIDEモデルへの適用を可能にした修正版CAMBパッケージ「IDECAMB」が開発・公開された[4]。これにより、カップルクインテッセンスモデルや、大規模不安定性などの課題を抱えていたカップル流体モデルに対して、より容易かつ効率的な解析を行うことが可能となった。今後、IDEモデル研究のさらなる進展が期待されている。
本講演では、文献[4]のレビューを通じて、IDEモデル研究の現状と今後の展望について、最新の観測結果を交えながら包括的に議論する。
[1] DESI Collaboration(2025), arXiv:2503.14738
[2] A. Chakraborty et al., arXiv:2503.10806
[3] W. Giarè et al., Phys. Rev. Lett, 133, 251003, 2024
[4] Yun-He Li and Xin Zhang, JCAP09(2023)046
講演SK-34: 球対称定常時空における二つのレンズ方程式間の対応 ~Correspondence between two gravitational lens equations in a static and spherically symmetric spacetime~
講演者名: 佐藤 晴、所属: 弘前大学、学年: M1
共著者名:
重力レンズは、ブラックホールや銀河などの周りにおいて重力場の影響で時空が曲がっているために光の軌道が歪む現象である。現在、レンズ方程式と呼ばれる重力レンズ現象を記述する方程式として、VE (Virbhadra and Ellis) 方程式と、OB (Ohanian and Bozza) 方程式がある。重力レンズは、レンズ天体によって曲げられた屈折光を観測することでレンズ天体について知ることができ、それによって物質分布のマッピング、宇宙モデルや宇宙の大きさの推定、レンズ効果による増光を利用して暗い天体の観測といった応用に繋げられる。
本発表では、球対称定常時空において次の二つの点について文献[1]を基にして紹介する。一つ目は、VE方程式には非物理的な枝が存在するが、これを排除して方程式を改良することが出来るということである。二つ目は、屈折角を適切に変換する事でVE方程式とOB方程式の二つのレンズ方程式は等価である事が証明できるという事である。以上の事に加えて今後、レンズ方程式の適応範囲を拡張していく事についても紹介していく。
[1]Kudo and Asada, Phys.Rev. D 111, 044014
講演SK-35: Kerr時空における光子の球面軌道について
講演者名: 細川 睦、所属: 慶應義塾大学、学年: M1
共著者名:
Carterの研究[1]により、Kerr時空におけるHamilton-Jacobi方程式は変数分離可能なことが示され、それにより測地線方程式は積分可能であることが示された。以降、Carterの研究に基づいた測地線分析はさまざまな研究がなされてきたが、今回の発表ではTeoの研究[2]を中心に光子の球面軌道について紹介する。
光子がSchwartzshildブラックホールの周りを一定の半径で周回することはよく知られている。Schwartzshildブラックホールの場合は、時空の球対称性から半径一定の軌道は平面上の円軌道となるが、Kerrブラックホールの場合はそうとは限らない。同一平面上にない半径一定軌道は球面上を動くような軌道となり、そのような軌道が存在することはWilkinsの研究[3]によって示されている。[2]はその後続研究であり、[3]で研究されたさまざまな束縛軌道のうち、光子の球面軌道に対象を絞ってさまざまな性質を調べたものである。この研究では粒子の角運動量とカーター定数が軌道に与える影響を議論し、これらのパラメータの特徴から軌道を分類する。この分類方法はさまざまな分野の研究に応用されることが期待されている。
[1]Carter, B. (1968). Phys. Rev. 174, 1559–1571.
[2]Teo, E. (2003). General Relativity and Gravitation, 35, 1909-1926.
[3]Wilkins, D. C. (1972). Phys. Rev. D 5, 814–822.
ポスター講演
講演SP-01: Horndeski理論の拡張に向けたHorndeski理論の理解
講演者名: 片山 友貴、所属: 総合研究大学院大学、学年: D3
共著者名:
スカラーテンソル理論はスカラー場とテンソル場で記述される理論で、インフレーションやダークエネルギーの古典的ダイナミクスの記述によく用いられるモデルであるとともに、一般相対論を超える重力理論の最も単純な候補である。特にスカラー場とテンソル場をそれぞれ1つずつ含む場合にはHorndeski理論と呼ばれる一般的な理論が知られている。しかしながら現在ではbeyond horndeskiと呼ばれるHorndeski理論を超える理論が見つかっている。そこで系統的なbeyond Horndeskiの構成のために、今一度Horndeski理論を理解し直すことを目標にする。今回の発表では現在の講演者の研究をもとにHorndeski理論の構成を行い、それをもとにHorndeski理論を超える理論を議論する。
講演SP-02: 重力レンズ効果の再現
講演者名: 西原 翼、所属: 甲南大学、学年: M2
共著者名:
アインシュタインの一般相対性理論によれば、天体の重力場によって光は湾曲する。この効果により、観測者と光源の間にある天体がレンズのような働きをし、これを重力レンズ効果と呼ぶ。光の曲率は理論的に導出されており、観測によってその整合性も確認されている。重力レンズによって生じる像の歪みは視覚的に魅力があり、宇宙物理に興味を持つきっかけとしても有効である。しかし、こうした宇宙現象は直感的に理解するのが難しく、現状では主にシミュレーション映像などが用いられている。実体のある教具があれば、より多くの人に対して視覚的・感覚的な理解を促すことが期待される。
本発表では、弱い重力場下における質点の重力レンズ効果と、光学レンズによる光の屈折を比較し、重力レンズと同様の光の湾曲を再現する光学レンズの設計手法を、横尾ら(1998)の理論をもとに議論する。さらに、3Dプリンターを用いてレンズおよび光学系を製作し、光学レンズによって形成されるアインシュタイン半径を測定して、再現性および理論との整合性を評価する。
講演SP-03: Could Gravitational Waves Unlock the Inflaton Sector?
講演者名: 辻 天太、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名:
The scale of the inflaton sector can be as high as 10^15 GeV, comparable to physics beyond the Standard Model such as supersymmetry and grand unification, and may offer clues to outstanding cosmological puzzles—like the matter–antimatter asymmetry and the nature of dark matter. In other words, the inflaton sector lies at the nexus of beyond the Standard Model(BSM) physics and unresolved questions in cosmology, yet its detailed structure remains unknown. Gravitational waves produced during inflaton decay may be the key to unlocking this structure, probing both the inflaton potential and its interactions. In this talk, I will discuss recent progress in probing the inflaton sector through High-Frequency Gravitational Waves.
References
[1]Detecting High-Frequency Gravitational Waves with Microwave Cavities, arXiv:2112.11465
[2]Stochastic Gravitational Waves from Particle Origin, arXiv:1810.04975
[3]Scalar field couplings to quadratic curvature and decay into gravitons, arXiv:2112.12774
[4]High-frequency Graviton from Inflaton Oscillation, arXiv:2006.09972
講演SP-04: 3次元重力崩壊型超新星モデルに基づく重力波解析
講演者名: 久賀 紳ノ介、所属: 福岡大学、学年: M2
共著者名:
ブラックホールや中性子星といったコンパクト連星からの重力波検出イベントは,検出感度の上昇にともないこれからも増加していくと考えられる.一方で,未だ実現されていない重力波観測の対象として重力崩壊型超新星が挙げられる.重力崩壊型超新星からの重力波を観測することにより,その爆発機構や原始中性子星・ブラックホールの形成過程に関する手がかりを得られると期待されている.
球対称な運動からは重力波が発生しない.そのため,ポイントは超新星のダイナミクスにおける球対称性からのずれであり,これが重力波の振幅や波形の特徴を決めることになる.また非球対称性な運動は爆発を駆動する決定的な役割を担うと考えられており,爆発メカニズムの鍵となる停滞衝撃波の復活につながるプロセスの候補としてニュートリノ加熱機構や磁気回転駆動機構が注目されているが,未だに完全には理解されておらずこれからの研究による解明が期待されているテーマである.将来の重力波観測から超新星コアの物理に迫るために,中心で発生する非球対称な流体運動と重力波信号の対応を理解しておくことは極めて重要である.
本研究では24太陽質量の親星モデルに対し3D重力崩壊型超新星シミュレーションを実行して得られて流体データに基づき重力波信号を解析した.得られた結果から重力波振幅やスペクトル特性を抽出し,その結果について議論する.
講演SP-05: 正規直交化した準固有振動モードを用いたフラックホールリングダウン重力波データ解析に対する準解析的なアプローチ
講演者名: 鈴木 幹基、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 森崎宗一郎(東京大学宇宙線研究所),本橋隼人(東京都立大学),度會大貴(東京大学RESCEU)
2015年の重力波の初検出以来,現在までに約300個の重力波イベントが観測されている.その放出源は全てコンパクト連星合体と呼ばれる,ブラックホールや中性子星の連星合体であると考えられている.このコンパクト連星合体後に生じるブラックホールは重力波を放出しながら減衰振動し,定常状態に落ち着く.この過程をリングダウンと呼ぶ.リングダウン重力波は,準固有振動モードと呼ばれる減衰振動モードの重ね合わせで記述される.一般相対論では,この振動の固有振動数はブラックホールの質量とスピンによって一意に定まる.そのため,リングダウンは強重力場における一般相対論の検証手段として近年注目されている.
一般相対論の検証を精密に行うためには,より多くの準固有振動モードを観測する必要があるが,従来の手法では各モード間の相関がパラメータ推定の精度向上を妨げていた.また,計算コストの増大によって実用的な解析が困難となっていた.そこで,我々は準固有振動モードを直交化することによって,パラメータ推定の精度を向上させ,かつ計算を高速化させる準解析的な解析手法を構築した.本発表では,この解析手法の説明と,実際の重力波信号に対してこの解析手法を適用した結果を紹介する.
講演SP-06: ランダム磁場中を伝搬する重力波-電磁波系の解析について
講演者名: 千葉 航、所属: 神戸大学、学年: M2
共著者名: 神野 隆介 (神戸大学) , 野村 皇太 (京都大学)
本研究は、パワースペクトルで記述される磁場(ランダム磁場)の存在下に誘起される重力波から光子への転換現象(Gertsenshtein効果)を解析する。非自明なヘリシティを持ちうるガウス分布の磁場と、非偏光の重力波を初期状態と仮定し、有限距離を伝搬した後の重力波の強度および線偏光・円偏光の表式を導出する。これらの観測量に対し、期待値と分散を計算し、磁場の相関長・伝搬距離・プラズマ中の光子質量に対する非自明な依存性を明らかにする。
解析の結果、強度に対しては分散が抑制され、観測に適した周波数帯域が現れることを見出した。また、磁場にヘリシティがある場合には、円偏光の期待値にピーク構造が生じることを見出した。さらに、重力波の強度と円偏光との間にパワースペクトルによらない表式(consistency relation)が成り立つことを示した。
講演SP-07: N体シミュレーションにおける重力ポテンシャルに基づいたサブハロー同定手法の検討
講演者名: 中西 稜、所属: 京都産業大学、学年: M1
共著者名:
本研究では、宇宙論的N体シミュレーションにおけるサブハローの同定手法として、重力ポテンシャルに基づくアプローチの最適化と検証を行った。宇宙の大規模構造形成において、ダークマターハロー内のサブ構造(サブハロー)は、銀河形成や進化の理解に不可欠である。従来の同定手法は、位置空間や速度空間の情報に依存するものが多く、特に高密度領域やホストハロー近傍におけるサブハローの検出精度などに課題が残されていた。そこで本研究では、シミュレーション粒子が持つ重力ポテンシャルの極小構造を手がかりとしてサブハローを同定する手法を提案した。本手法は、重なり合う構造の中から物理的に意味のあるサブハローを検出することを目的としている。実際に、既存のN体シミュレーションデータに適用し、従来手法との比較を通じて、特に中心付近のサブハローに対して高い識別能力を示すことを確認した。今後は、質量関数や回転速度といった物理量との整合性を確かめると共に、高分解能シミュレーションや観測データとの比較解析へ応用していく予定である。
講演SP-08: 非リーマン重力理論におけるパリティ対称性の破れの探求
講演者名: 山中 大和、所属: 岡山理科大学、学年: M1
共著者名:
一般相対性理論は時空の歪みである曲率をもとに重力を表している。しかし、重力を表すことができる物理量は曲率しかない訳ではない。一般相対性理論を提唱したアインシュタインは理論の前提となる条件の1つとして計量性条件を要請したが、“計量を共変微分したときに値を持つ”という条件に変えたとしてもいくつかの変換を経ることで矛盾しない理論を作ることができる。このような接続の対称性を認め、曲率が0である重力理論をSymmetric Teleparalell Gravity (STG)という。
本講演では、STG下におけるパリティ対称性の破れについて検討する。リーマン幾何学でパリティ対称性の破れを持つ重力モデルを考えると、負の運動項であるゴーストが現れるため、従来のリーマン幾何学では考えることが困難である。そのため、リーマン幾何学の枠を超えた修正重力であるSTGでパリティ対称性の破れを考察する。
本発表では文献[1]をレビューする。文献[1]では、STG下におけるパリティ対称性の破れについて線形摂動論を用いて考察している。本公演では、特にパリティ対称性の破れに深く関わるベクトル摂動に焦点を当て、どのようにゴーストを回避するかを議論する。
1. M. Li et al.,, Physical Review D 105 (2022) 10, 104002
講演SP-09: U(1)ゲージ不変スカラー・ベクトル・テンソル理論における帯電・帯磁したブラックホール解の安定性解析
講演者名: 西村 俊太、所属: 東京理科大学、学年: M2
共著者名: 谷口喜太郎(東京理科大学),西村俊太(東京理科大学),塚本直樹(東京理科大学),加瀬竜太郎(東京理科大学)
一般相対論(GR)の枠組みにおいては解決困難な問題に対処するために提案されている,拡張重力理論の多くは,観測との整合性を確保するため,弱重力場においてはGRと同様の振る舞いを示す構造を備えている.一方で,ブラックホール(BH)近傍のような強重力場においては,理論間に顕著な差異が生じる場合があり,BHは重力理論の選別において極めて興味深い物理系とされる.
重力場と,スカラー場やベクトル場といった追加の場との結合を含む拡張重力理論では,GRのBH解に対して,追加の自由度「ヘアー」が生じるヘアリーBH解が現れる.さらに,重力場はGRと同様でも,スカラー場と電磁場の結合により間接的にヘアリーBH解が生じることも報告されている.
近年,重力場,単一の電磁場,スカラー場を含む理論において新たな漸近的平坦な静的球対称ヘアリーBH解が発見された[1].この解で記述されるBHは電荷および磁荷を持ち,さらにスカラー場と電磁場の微分結合から生じる新たなヘアーを有する.
本研究[2]では,[1]で議論された理論を含む,U(1)ゲージ対称なスカラー・ベクトル・テンソル理論のサブクラスに注目し,線型摂動解析を通じてより広範なBH解の安定性を評価した.一般に,BH解の安定性解析は,背景時空に静的球対称性を課し,その上での摂動をodd-parity成分とeven-parity成分に分けて個別に解析する.しかし,本研究対象のように磁荷を有する場合,摂動を記述する作用においてこれらの成分が混合し,mixture成分が現れるため,解析はより複雑なものとなる.
本発表では,BH摂動論に基づく本研究の安定性解析手法を概説し,得られた結果についての詳細な議論と今後の展望を述べる.
[1] K. Taniguchi, S. Takagishi, and R. Kase, Phys. Rev. D 110, 044006 (2024)[arXiv:2403.17484 [gr-qc]].
[2] K. Taniguchi, S. Nishimura, N. Tsukamoto and R. Kase,[arXiv:2504.21279 [gr-qc]].
講演SP-10: Quasinormal Mode観測による電荷BHと磁荷BHの識別は可能か?
講演者名: 山本 忠彦、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名:
2015年のLIGOによる重力波の初の直接観測以来、マルチメッセンジャー天文学における重力波の研究はその重要性を増している。その重力波の観測には、重力波観測装置の開発に加えて、理論による重力波の予測が必要である。2つのブラックホール(BH)の合体後に1つのBHとして安定するまでの過程で放出される重力波はリングダウン重力波と呼ばれ、そのBHの質量などに依存した減衰振動である準固有振動モード(Quasinormal Mode, QNM)の波の重ね合わせである。そして、このQNMは観測装置で観測し検証することが出来る。このとき、一般相対論においては電荷BHと磁荷BHはいずれもReissner-Nordstrom計量を持つため、背景時空での光的測地線では識別できない。そこで今回は、電荷BHと磁荷BHをQNMの観測によって識別する可能性を研究した論文[1]のレビューを行う。まず、Einstein-Maxwell理論に基づき静的球対称時空での摂動を連成微分方程式で表し、そこからQNMを複数の手法により導出する手段を議論する。
[1] Antonio De Felice and Shinji Tsujikawa, Phys. Rev. D 109, 084022, 2024 [arXiv:2312.03191 [gr-qc]].
講演SP-11: U(1)ゲージ不変scalar-vector-tensor理論におけるBH解
講演者名: 北川 真生、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名:
一般相対論(GR)に対して,追加の自由度を重力項と非最小結合させGRを修正した理論を修正重力理論と呼ぶ.この追加の自由度がスカラー場である場合,運動方程式が2階微分までに保たれる最も一般的な理論としてHorndeski理論[1]が存在する.一方,追加自由度が有質量ベクトル場である場合,同様の特徴を持つ一般的な理論として一般化Proca理論[2]がある.更に,これらの2つの理論を統合したものがスカラー・ベクトル・テンソル理論(SVT理論)[3]である.
ベクトル場にU(1)ゲージ不変性を課したSVT理論に基づき,文献[4]において新規なブラックホール(BH)解が導かれている.GRと電磁気学に基づくと「定常軸対称かつ無限遠方で平坦という仮定のもと,BH解はその性質が電荷,質量,スピンの3つのパラメータにのみ依存する」という無毛定理[5]が成り立つが,文献[4]で得られたBH時空の解には非自明なスカラー場が存在し,この無毛定理からの逸脱を表すhairと呼ばれる特徴を持った解であった.本発表では先行研究[4]のレビューとして,SVT理論におけるスカラー場-ベクトル場間の3次相互作用項がどのようにして非自明なスカラー場を発現させるのかを明らかにする.また,このスカラー場の無限遠方での振る舞いから,スカラー場によって生じるhairがBHの質量や電荷に依存する2次的なものであり,所謂secondary hair[6]であることを示す.
[1] G. W. Horndeski, Int. J. Theor. Phys.10 (1974), 363-384; C. Deffayet, X. Gao, D. A. Steer and G. Zahariade, Phys. Rev. D 84 (2011), 064039, [arXiv:1103.3260 [hep-th]]; T. Kobayashi, M. Yamaguchi and J. Yokoyama, Prog. Theor. Phys. 126 (2011), 511-529, [arXiv:1105.5723 [hep-th]].
[2] L. Heisenberg, JCAP 05 (2014), 015, [arXiv:1402.7026 [hep-th]].
[3] L. Heisenberg, JCAP 10 (2018), 054,[arXiv:1801.01523 [gr-qc]].
[4] L. Heisenberg and S. Tsujikawa, Phys. Lett. B 780 (2018), 638-646, [arXiv:1802.07035 [gr-qc]].
[5] W. Israel, Phys. Rev. 164 (1967), 1776-1779; B. Carter, Phys. Rev. Lett. 26(1971), 331-333; R. Ruffini and J. A. Wheeler, Phys. Today 24 (1971) no.1, 30; S. W. Hawking, Commun. Math. Phys. 25 (1972), 152-166.
[6] C. A. R. Herdeiro and E. Radu, Int. J. Mod. Phys. D 24 (2015) no.09, 1542014, [arXiv:1504.08209 [gr-qc]].
講演SP-12: 確率的背景重力波を組み込んだspectral siren method による宇宙論パラメータ推定
講演者名: 今井 健人、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
この研究は、コンパクト連星合体(CBC)からの重力波(GW)を用いて宇宙の膨張、特にハッブル定数(H₀)を推定する「スペクトルサイレン法」を拡張し、未解決のCBCからなる重力波の確率的背景(SGWB)を組み込むことで、宇宙論パラメータの制約精度を向上させることを目的としている。
解析では、O5設計感度の5検出器ネットワークを仮定し、SGWBの情報を加えることで、低いH₀や物質密度パラメータ(Ωₘ)をより厳密に排除できることが示された。また、CBCの赤方偏移分布のピーク位置の特定精度も向上する。ただし、H₀の精度向上には、主に個別に解決されたスペクトルサイレンが寄与することが確認された。
さらに、第三観測運転期間(O3)で検出された59の連星ブラックホールイベントとSGWBを組み合わせた解析では、現行の感度ではSGWBの追加が宇宙論や母集団パラメータの推定に大きな影響を与えないことが示された。この結果は、将来的な検出器の感度向上により、SGWBの情報が宇宙論研究においてより重要な役割を果たす可能性を示唆している。
講演SP-13: Primordial Black Hole as Dark Matter and Gravitational Wave from Double Inflation
講演者名: Wang Xinpeng、所属: 東京大学、学年: D1
共著者名: Misao Sasaki (Kavli IPMU), Ying-li Zhang (Tongji Univ.)
Primordial Black Holes (PBHs) are compelling candidates for cold dark matter and a potential source of Gravitational Waves (GW), making them powerful probes of the early universe. In this work, we investigate PBH and GW formation within the framework of double inflation models, which could also explain the Cosmic Microwave Background (CMB) observations. Beyond conventional scenarios, we also propose a novel mechanism in which two distinct populations of PBHs can emerge at nearly identical comoving scales but during separate epochs. This unique feature arises in the two-stage inflation models featuring a non-inflationary phase sandwiched between two inflationary stages. We further discuss the gravitational wave signatures of the scenario and their potential detectability with next-generation GW observatories.
講演SP-14: DESI DR2を用いたバリオン音響振動の観測に基づく宇宙論の制限
講演者名: 名倉 幸祐、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
本講演では[1]のレビューを行う。
Ia型超新星の観測が示した宇宙の加速膨張は、負の圧力を持つ成分・ダークエネルギーの存在を示唆している。特に、現在の標準宇宙模型(ΛCDM)では、ダークエネルギーのエネルギー密度は時間に依存しないもの(=宇宙定数)と見做されており、これが時間変化する場合、新物理が必要となる。再結合以前の初期宇宙では、トムソン散乱によってバリオン-光子流体が形成されており、空間的な密度揺らぎが音波として伝播している(バリオン音響振動、BAO)。この典型的なスケールは現在の宇宙の大規模構造にも刻まれており、クラスタリングの解析によってそのスケールを調べることができる。これにより宇宙の膨張史がわかり、ダークエネルギーの性質を制限できる。さらに、クラスタリング解析を宇宙マイクロ波背景放射(CMB)やIa型超新星(SNe)のデータと組み合わせることで、ダークエネルギーの性質に関してより強い制限が得られる。ダークエネルギー分光観測装置(DESI)はこれまでにない性能と効率でBAOの分光観測を行うことを目的として設計された装置である。そこで本研究では、DESIの2回目のデータリリース(DR2)を利用し、約1400万天体に及ぶ銀河とクエーサーのクラスタリングを測定することでBAO解析を行なった。
その結果、ΛCDMに基づく測定では、DESI DR2のBAO観測が示す宇宙論パラメータはCMB観測との間に2.3σのずれが見られた。一方で、時間進化するダークエネルギーを考慮に入れたwCDMに基づく測定では、両者により良い整合が見られた。また、BAOとCMBのデータを合わせると、3.1σでΛCDMが棄却され時間進化するダークエネルギーが支持される。このことは、ΛCDMモデルからの逸脱を示唆しており、時間進化するダークエネルギーが有力となりうる。
[1]M. Abdul Karim et al. (2025). DESI DR2 Results II: Measurements of Baryon Acoustic Oscillations and Cosmological Constraints. arXiv preprint arXiv:2503.14738.
講演SP-15: Axion–photon mixing in quantum field theory
講演者名: 池田 大樹、所属: 九州大学、学年: M1
共著者名: 菅野優美(九州大学)、早田次郎(神戸大学)
アクシオンは、強い相互作用におけるCP問題を解決するために最初に提案され、現時点においても未発見の仮想粒子ですが、暗黒物質の候補として非常に注目されています。従来は、このアクシオンという粒子は、量子力学的な枠組みで扱われてきたのが一般的でした。そんな中で今回取り上げる論文では、QFTを用いた混合状態による記述をスタートとしたうえで、アクシオンと光子が磁場中で相互に変換し合う「アクシオン–光子混合」現象をより根本的な部分から探っています。そして具体的に、「アクシオン–光子混合」系に対する新たな振動公式を提示し、混合粒子の真空における凝縮構造によって誘導されるQFT的な真空偏極の存在や状態方程式 w = -1という宇宙定数に似た性質を持つエネルギーが生じることを示すとともに、曲がった時空における「アクシオン–光子混合」を解析する流れへと繋げていっています。
その一方で、今回取り上げる論文では、一部の議論において一貫した内容になっていないと思われる部分が存在していると私は考えています。そのため、私が現在取り組んでいる内容が発表できるくらいにまである程度まとまったものになれば、それへの指摘も含めながら話す予定です。
講演SP-16: クェーサー吸収線を使用した z = 0.89 における宇宙マイクロ波背景放射温度の計測
講演者名: 小谷 竜也、所属: 慶應義塾大学、学年: D1
共著者名: 岡 朋治, 柳原一輝, 金子美由起, 有山諒 (慶應義塾大学), 榎谷玲依 (国立天文台)
膨張宇宙論によれば、宇宙マイクロ波背景放射(CMBR)の温度は宇宙年齢と共に変化し、標準宇宙モデルでは現在値T0=2.73 Kを用いて TCMBR(z)=T0(1 + z) と表される。このことは、遠方銀河での TCMBR測定によって宇宙モデルが検証できることを示している。PKS1830–211 は、前景にある z = 0.89 の渦巻銀河により、そのスペクトル中に吸収線群を呈する。我々は、ALMA で観測された PKS1830–211のミリ波帯データから HCN J=2←1、 J=3←2、J=4←3、J=5←4 回転遷移の吸収スペクトルを取得した。HCN 回転遷移の臨界密度は 10^(6−7) cm−3 と 非常に高いため、回転準位の励起温度は CMBR 温度に等しいと考えられる。これから、吸収雲による遮蔽率 fc を仮定すれば、TCMBR (z = 0.89) を見積もることができる。 fc の値は吸収スペクトルだけからは一意に定まらず、未だ広く公認された値が存在しない。先行研究では 0.91–1.00 の値 が採用されているが、この値は光学的厚みの評価に影響し、それが励起温度に不定性を生じる主要因となっている。そこで我々は、CMBR 温度を精密に評価するため、様々なfcを仮定してHCN 吸収スペクトルから励起温度の速度プロファイルを計算し、その不定性の影響を調査した。その結果、Vrad = -18.3 ~ +12.5 km s−1 において励起温度の不確かさが極めて低い事が分かった。 このことから、当該速度チャネルでの値は、CMBR 温度を正しく反映する励起温度として信頼性が高いことを示唆している。このことにより、TCMBR (z = 0.89) = 5.13 ± 0.03 K と決定した。本講演では、この値が宇宙モデルに与える制限についても議論する。
講演SP-17: 角度方向の系統誤差の影響を抑えた銀河パワースペクトルの解析法の開発
講演者名: 中野 新太朗、所属: 東京大学、学年: D1
共著者名: 高田昌広(Kavli IPMU)、栗田智貴(MPA)
銀河パワースペクトルは、分光銀河サーベイから得られる宇宙論的情報を豊富に持つ統計量であり、特に原始非ガウス性の探査において強力な手法になる。局所原始非ガウス性は、線形領域の長波長スケールにおいてもk−2に比例するスケール依存性を持つ線形銀河バイアスを生じさせるため、線形スケールの銀河パワースペクトルの解析から探ることができる。最も単純な単一場インフレーションモデルは検出可能な局所的原始非ガウス性を予言しないため、観測データから検出されれば、単一場インフレーションのシナリオを棄却することに繋がり、そ
のインパクトは大きい。
しかし実際の観測データは、天の川銀河内の星の銀河サンプルへの紛れ込みやダスト減光など、正確なモデル化が難しい系統誤差によって、天球面上での銀河分布が歪められているという問題がある。
本研究では、天の川銀河起源の系統誤差の影響など、天球面上の銀河分布の歪みの影響を抑えることで、線形領域の銀河パワースペクトルを測定するための手法を開発している。本講演では、この手法の概要と模擬銀河カタログを用いた有効性の評価について報告する。
講演SP-18: MWA観測を用いた月反射RFIの解析と21cm線観測への影響
講演者名: 長倉 大知、所属: 熊本大学、学年: M1
共著者名: 吉浦 伸太郎(国立天文台)
宇宙の夜明け期は、ビッグバンから約2億年後の最初の星や銀河が形成され始め
たとされる時代であり、銀河の初期形成や宇宙の再電離の進行、その時間スケール
やエネルギー源など未解明な点が多く残っている。中性水素原子の超微細構造の遷
移によって放射される波長21cmの電波(21cm線)の観測は、当時の中性水素の分
布を三次元的に捉えることが可能であり、天体形成の進行状況や構造形成の空間的
特徴を明らかにする手がかりとして注目されている。宇宙の夜明け期からの21cm
線は現在では100MHz前後の低周波電波として地上で観測される。しかしこの周波
数帯はFMラジオ放送(約90MHz)などの強力な地球由来の強力な人工電波
(RFI:Radio Frequency Interference)と重なることが深刻な障害になりうる。さ
らに過去の観測により、これらのRFIが月面で反射され、強い電波源(月反射RFI)
として地上で観測されることが明らかになっている。この月反射RFIは強度が高い
上、周波数構造も複雑であるため、極めて微弱な21cm信号の検出において無視で
きない系統誤差を引き起こす可能性がある。
本研究では、MWA(Murchison Widefield Array)の観測データを用いて月反
射RFIの強度を明らかにし、さらにその影響をモデル化することで将来的な宇宙の
夜明け期からの21cm観測における影響を示していく。
講演SP-19: ブラックホールへの非赤道面プラズマ流と衝撃波形成
講演者名: 髙木 大知、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 高橋 真聡(愛知教育大学), 野田 宗佑(都城工業高等専門学校)
ブラックホール磁気圏内に定常軸対称に降着する磁気流体が非赤道面に形成する定在衝撃波について研究する。衝撃波作る降着流はいくつかの磁気音速点を通過する必要があり、降着流のパラメータに制限が付く。衝撃波の下流のプラズマは、パラメータに依存して圧縮や磁化、加熱されるが、今回は熱エネルギーがすべて放射エネルギーに変換されるとする。特に、Kerrブラックホール周りのファスト衝撃波が非赤道面に形成される条件やパラメータの範囲を調査する。非赤道面の衝撃波は可能であり、事象の地平面付近に衝撃波が形成された。特に、ブラックホールの回転速度が磁力線の回転速度と比べて遅い場合は軸近くまで形成された。非赤道面の衝撃波が可能であるという結果は、AGNから観測されるX線をを説明できたり、衝撃波からの輻射を観測することでブラックホールの周囲の時空の情報を知ることができる可能性を示している。
講演SP-20: 重力波データを用いて解析する連星ブラックホールのスピン分布
講演者名: 小林 和弥、所属: 東京大学、学年: D1
共著者名: 小林和弥(東京大学宇宙線研究所), 岩谷昌樹(東京大学宇宙線研究所), 森﨑宗一郎(東京大学宇宙線研究所), 衣川智弥(信州大学), 仏坂健太(東京大学RESCEU)
本研究は、重力波観測によって検出された連星ブラックホール(Binary Black Hole, BBH)のデータを用いて、 それらのスピン分布の統計的性質を明らかにすることを目的とする。BBH の形成過程には、孤立連星進化シナリオと力学的形成シナリオの 2 つの主要な候補があり、それぞれに特徴的なパラメータ分布が予想される。重力波信号から推定された BBH の有効スピンは、これらの形成過程を識別する重要な観測量である。しかし、これまでの研究では、有効スピンに関する事前分布のバイアスが推定結果に影響する可能性がある。そこで本研究では、その影響がなくなるような事前分布である、有効スピンなどが一様になる新たな事前分布を LIGO-Virgo-KAGRA(LVK)グループが開発した重力波のパラメータ推定のための Python パッケージである Bilby に実装する。そして最新の重力波データを用いて解析を行い、パラメータ分布推定を行う。本研究で得られた知見は、形成過程に関する物理的理解を深めるだけでなく、今後の観測でイベント数が増加することで生じ得る無視できない統計的誤差が少なくなる手法を提供する。
講演SP-21: Entanglement harvestingとPartner formula
講演者名: 吉本 吏貢、所属: 名古屋大学、学年: M2
共著者名: 大澤 悠生(名古屋大学),南部保貞(名古屋大学)
場の量子論において真空は何も存在しない状態ではなくその内部で豊かなエンタングルメント構造を持っている。これを複数のUnruh-Dewitt(UDW) detectorで回収する方法はEntanglement harvestingと呼ばれており、初めはもつれていなかったdetector同士が場との相互作用を通して最終的にはもつれた状態になることがある。これが可能であるかどうかは背景時空やUDW detectorの性質による部分が大きい。ここではdetector modeを純粋化するpartner modeを用いてEntanglement harvastingが可能であるための条件について述べる。また、この条件から特定の場合においてはEntanglement harvestingが禁止されることについても議論する。
講演SP-22: 連星ブラックホールの角度分布を用いた宇宙論
講演者名: 中馬 史博、所属: 千葉大学、学年: D1
共著者名: 大栗真宗(千葉大学)
2015年9月15日の重力波の初観測から10年弱が経過し、観測数は順調に増加している。これに伴い、重力波の宇宙論への応用について、理論・観測の両面から大きな期待が寄せられている。宇宙論では、様々な天体や手法を用いて光度距離と赤方偏移の関係と標準宇宙論からのずれを調べ、宇宙進化、大規模構造、ダークマター分布などの宇宙論的情報を引き出している。重力波はその波形から光度距離を直接測定できるため、強力な宇宙論探査ツールとして有望である。しかし、LIGO-KAGRA-Virgo検出器の観測や理論研究から明らかなように、観測される重力波源の大半は電磁波対応天体を伴わず、赤方偏移の直接測定が難しい。このような重力波源は「Dark Siren」と呼ばれ、これらを用いて赤方偏移を推定する手法、あるいは赤方偏移情報なしに宇宙論を行う手法の研究が活発化している。特に連星ブラックホール分布の自己相関や銀河分布との相互相関は、個別の天体の観測誤差やモデル不定性に対してロバストな統計量として注目されている。我々は本研究において、この統計量を用いて、小スケールのダークマター分布の情報を含むレンズ収束場の分散(lensing dispersion)を制限することに成功した。本研究会では、この手法の理論的枠組みの提案と得られた制限について報告する。また、現在進行中の、この手法を用いたハッブル定数の制限に関する研究についても併せて紹介する。
講演SP-23: 高密度核物理の解明にむけた重力波による連星中性子星パラメータ推定の精度向上
講演者名: 宮園 隼人、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名: 久徳 浩太郎(千葉大学),Kent Yagi(University of Virginia)
原子核やクォークを支配する量子色力学(QCD)の解明は、物理学の根本的課題である。それには高密度な天体である中性子星内の圧力と密度を結ぶ状態方程式の制限が大きく貢献する。このさい連星中性子星からの重力波の観測による、星が潮汐力で変形される度合い(潮汐変形率)の推定が特に有用である。
重力波観測では質量や潮汐変形率などのパラメータ数が増えるとパラメータの推定精度が落ちる。この問題は「個々のパラメータが状態方程式に依存しても、パラメータ同士の関数は状態方程式に依存しない」という近似関数により改善された。今後、高精度の第3世代検出器で八重極や十六重極といった星の高次変形が新しく観測でき、より真の値に近いパラメータが推定できうる。新たなパラメータ増加による推定精度の低下を、「高次変形を他のパラメータの関数とする新しい近似関数」により改善することが必要となる。
本研究では[A]高次多重極同士の近似関数を初めて構築する。加えて[B]十六重極まで含む連星中性子星からの重力波波形を初めて計算する。この近似関数と波形を用いて[C]パラメータ推定精度 の向上の程度を計算する。これにより、中性子星の状態方程式がより強く制限され、QCDの理解が進むと期待される 。
講演SP-24: A review of cosmic topology: the shape of the universe
講演者名: He Yingqiu、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名:
Is space infinite or finite? What is the shape of our universe? What is the outside of cosmological horizon? These questions introduce cosmic topology — the study of the universe’s global geometry, which goes beyond the local curvature described by General Relativity. Since the 1990s, it gained notice through the work of scientiests like Luminet, Starkman, and others, who explored how a multi-connected universe (such as a 3-torus) could be constrained by the Cosmic Microwave Background (CMB) and the distribution of cosmic objects like galaxies, clusters, quasars. While observational and computational challenges remain, future may reveal these questions that waiting for us to answer.
講演SP-25: Superspinarの境界条件問題
講演者名: 林 知哉、所属: 大阪公立大学、学年: M2
共著者名:
Superspinarとは、超弦理論に基づいてGimonとHořavaによって提案された、高速回転するコンパクト天体であり、その外側の時空は over-spinning Kerr 解 によって記述される [1]。このような天体の存在が観測的に確認されれば、超弦理論の傍証となる可能性がある。
Superspinarの物理的性質には未解明な点が多く、特に“表面”においてどのような境界条件を課すべきかは明らかになっていない。Paniらは、完全反射条件や完全吸収条件といった特定の境界条件を仮定したうえで、重力場摂動に対する安定性を解析し、この系が Ergo 領域不安定性 により不安定になることを示した [2]。
一方で、Nakaoらは、Paniらが仮定した境界条件はSuperspinarに本質的に要求されるものではなく、実際にはSuperspinarが安定に存在し得るような境界条件が無数に存在する可能性を示した [3]。
本講演では、以上の研究のレビューを行い、Superspinarの境界条件と安定性について議論する。
[1] E. G. Gimon and P. Hořava, Phys. Lett. B672, 299 (2009), 0706.2873.
[2] P. Pani, E. Barausse, E. Berti and V. Cardoso, Phys. Rev. D 82 (2010), 044009.
[3] K. Nakao, P. S. Joshi , J. Guo, P. Kocherlakota, H. Tagoshi, T. Harada, M. Patil and A. Królak, Phys. Lett. B780 (2018), 410-413.
講演SP-26: スーパーカミオカンデにおける機械学習を用いた p \to \nu K^+ 陽子崩壊事象の探索
講演者名: 冨谷 卓矢、所属: 東京大学、学年: D3
共著者名: 冨谷卓矢,他Super-Kamiokande Collaboration
素粒子の大統一理論では、バリオン数が保存されない陽子崩壊が予言されている。世界最大の水チェレンコフ検出器であるスーパーカミオカンデ(SK)では、p \to e^+ pi^0過程をはじめとする様々な崩壊過程について探索が進められてきた。本研究では、超対称性大統一理論(SUSY-GUT)で主要な崩壊過程とされるp\to nu K^+の探索をおこなう。陽子崩壊後の終状態のK^+は、SKでは直接観測できないため、水中で静止した後、K^+の崩壊2次粒子であるmu^+ nu_mu(分岐比64%)やpi^+pi^0(分岐比21%)を検出して探索をおこなう。従来の手法では信号の検出効率が約10-30%であった。本研究ではこの課題に対処するため、事象選別に機械学習手法を導入し、事象選別精度の向上を図る。ポスターセッションでは、陽子崩壊信号と背景事象の違いをモンテカルロシミュレーションに基づいて比較検証し、機械学習による新たな事象選択手法の効果と今後の方針について議論する。
講演SP-27: 長さの最小値を持つ(2+1)次元レギュラーブラックホール時空と測地線の構造
講演者名: 井上 拓人、所属: 東京学芸大学、学年: M1
共著者名: 長岡賢(開智所沢小学校),小林晋平(東京学芸大学)
ブラックホールは高密度で非常に重力が強い天体であり、中心には物質の密度や、時空の曲がり具合を表す曲率が無限大に発散してしまう特異点があると考えられている。この点では物理法則が破綻してしまうため、この問題を回避するべく一般相対性理論の枠組みの中で特異点を回避したブラックホールが研究されている。これらを総称してレギュラーブラックホールという。ブラックホールは光すら脱出することができないホライゾンと呼ばれる境界を持つため、ブラックホールの内部構造を直接観測することは出来ない。そこで、その物理的特性を見るためにホライゾンの外側を運動する光や星などの軌跡を解析するという手法が用いられる。一般的に、自由粒子の軌跡は測地線と呼ばれ、測地線方程式で記述される。測地線方程式は非線形の複雑な偏微分方程式であるため、数値計算で解くことが多い。しかし解析解を求めることが出来れば、関数の性質から軌跡の詳細な議論が出来るという利点がある。
本研究では(2+1)次元時空でのブラックホールを対象とした。(2+1)次元の重力理論は(3+1)次元と同様の性質を持ち、また自由度が低いため計算が単純になることが多い。つまり、比較的簡単な計算から大域的な重力の本質を知ることができるモデルとなる。この時空は自由度が低いため局所的な引力が存在しないが、Banadosらによって負の宇宙項があればブラックホール解(以下、BTZブラックホール)が存在することがわかった(Banados et al. 1992)。
この流れの中で、本研究では、ある種の(2+1)次元レギュラーブラックホール時空における光の測地線について考察した。その結果、我々は測地線方程式の解析解を求めることに成功し、その構造を分類することにも成功した。
講演SP-28: Schwarzschild時空における測地線方程式の可積分性を保持した差分化
講演者名: 真崎 琉維、所属: 東京学芸大学、学年: M1
共著者名: 小林晋平
初期宇宙やブラックホールの内部など高エネルギーな領
域では、量子力学と相対性理論を合わせた量子重力理論を
考え、時空を量子化する必要がある。量子重力理論の候補
として、弦理論やループ重力理論、因果的動的単体分割な
ど数多くの理論が提案されているが、現在のところ、決定
的なものは存在していない。時空を量子化すると、量
子力学におけるエネルギー準位などと同様に、時空自体
が離散的になる可能性があるが、その離散化の方法につ
いてはまだ分かっていない。本研究では、こうした時空量
子化の足掛かりとして静的球対称なブラックホールであ
るSchwarzschild ブラックホールの周りで、自由粒子の運
動の軌跡を表す測地線方程式を離散化した。離散化の方法
はいくつも存在するが、今回は、可積分性という対称性を
保った差分化を行うことによって方程式を離散化し、連続
極限で元の微分方程式に一致するようにした。
講演SP-29: 強重力場下における量子波動関数の振る舞い
講演者名: 井関 日奈子、所属: 北里大学、学年: M2
共著者名: 佐々木 伸(北里大学), 塩沢 健太(北里大学)
一般相対性理論と量子力学を統一的に扱う枠組みはいまだ確立されておらず、特にブラックホールのような強重力場における量子現象の理解には、曲がった時空上での量子力学の定式化が不可欠である。B. S. DeWitt による古典-量子対応の枠組みでは、曲がった時空における量子ハミルトニアンの構成とシュレディンガー方程式の定式化が提示されており[1]、本研究ではこれを出発点として具体的な解析を行った。
背景時空としては、静的かつ球対称なシュヴァルツシルト計量を採用し、その空間部分から構成されるリーマン空間上において、DeWitt の定式化に基づく量子ハミルトニアンを導入した。このハミルトニアンには、空間の曲率スカラーに由来する幾何学的補正項が含まれる。
得られたシュレディンガー方程式を解析するにあたり、最も基本的なモデルとして三次元自由粒子を仮定し、Mathematicaを用いて数値的に波動関数を求めた。特に、事象の地平面近傍における波動関数の振る舞いを検討し、ブラックホール時空における量子系の振る舞いの一端を明らかにすることを試みた。
[1] Bryce S. DeWitt, “Dynamical Theory in Curved Spaces. I. A Review of the Classical and Quantum Action Principles,” Rev. Mod. Phys. 29 (1957), 377-397.
講演SP-30: 偏光による光線軌道の変化
講演者名: 竹内 智貴、所属: 立教大学、学年: M2
共著者名:
コンパクト連星合体による重力波の検出やブラックホールの候補天体の撮像により、強重力場における物理現象への関心が益々高まっている。こうした系の物理現象を理解するには、ブラックホールの周囲を伝播する電磁波や重力波のふるまいの解析が求められている。そうした中、偏光は波動の位相や方向に関する情報を保持しており、従来の観測では得にくい時空の幾何構造や物質分布といった情報を得る手段として有望である。また、理論的にも時空の回転により起こる偏光面の回転(重力ファラデー効果)やヘリシティーの違いによる伝播経路の差異(重力スピンホール効果)が示されており、偏光観測は、BH時空の性質を反映する重要な手がかりとして注目されている。
本研究では、光が漸近平坦な無限遠方にまで伝搬する際、その偏光の位相の変化による伝搬経路への影響を議論する。
講演SP-31: 観測領域形状の影響を受けない銀河・銀河レンズの統計量推定と銀河-物質相関の測定法
講演者名: 手良脇 大誠、所属: 東京大学、学年: D1
共著者名: 高田昌広(東京大学)
観測者から見て遠方にある銀河像の形状は、近傍にある銀河分布の周りに位置する物質の弱重力レンズ効果の影響を受けて歪められている。この銀河像の形状と銀河分布の相関は「銀河・銀河レンズ(galaxy-galaxy lensing)」と呼ばれ、現行の弱重力レンズ宇宙論の根幹を成している。また現在、銀河・銀河レンズを用いた解析は実空間での扱いが主流である。そこで本研究では、未だ十分に開拓されていないフーリエ空間での解析に着目する。しかし、実データに単純なフーリエ解析を行うと、明るい星の影響でデータが無い領域(マスク領域)や、観測領域の形状自体の複雑さの影響が畳み込まれ、得られるパワースペクトル(二点相関のフーリエ成分)の理論的解釈が困難になってしまう。
本研究では、CMBや銀河クラスタリングの解析で知られている手法[1]を利用し、こうした観測効果の影響を受けない銀河・銀河レンズパワースペクトルの推定法を開発した。また、銀河・銀河レンズが近傍銀河周りの物質分布の情報を保持していることに着目し、近傍銀河分布とその周囲の物質分布との相互相関パワースペクトルの復元を、上述の推定法を駆使することによって初めて試みる。
[1]Oliver.H.E.Philcox Phys. Rev. D 103, 103504,2021.
講演SP-32: 宇宙初期において空間非可換性が時空とインフラトンに及ぼす影響
講演者名: 波多野 広修、所属: 東京学芸大学、学年: M1
共著者名: 小林 晋平(東京学芸大学)
現在の宇宙は観測により膨張していることがわかっている。
これは、過去に遡れば宇宙は小さくなっていくことを意味する。
宇宙の大きさが10^-35 m程度であるプランクスケールと呼ばれるほどになると、時空自体を量子力学的に考える必要があるため、初期宇宙の現象は古典的な物理学で説明出来ない可能性が高い。
その代わりに、一般相対性理論に量子効果を取り入れた量子重力理論が必要になると考えられているものの、弦理論やループ重力理論など、その候補は多く提唱されているが、それぞれが困難を抱えており、未完成である。
これに対し、量子効果を近似的に取り入れる方法として時空に非可換性を取り入れるものがある。
そこで本研究では、非可換性を取り入れた時空において、宇宙初期に発生したインフレーションについて考察した。
インフレーションとは、ビッグバン以前にあったと考えられる極めて短い時間に起こった、宇宙の指数関数的な膨張のことである。
インフレーションはインフラトンと呼ばれるスカラー場により引き起こされたと考えられている。
我々は、空間非可換性により量子効果を取り入れた(2+1)次元宇宙を考え、そこでの時空とインフラトンの配位への影響を調べた。
特に、非可換性が十分大きな極限において、インフラトンと時空の配位それぞれについて、非自明な解を見つけることができた。
講演SP-33: ワームホールを運動する粒子と時間的閉曲線の実現可能性
講演者名: 水野 湧真、所属: 慶應義塾大学、学年: M2
共著者名:
アインシュタイン方程式の解の一つとして、通過可能なワームホールが理論的に存在しうることが知られている。中でも、MorrisとThorneによって提案された静的かつ球対称なワームホール解は、実際に人間が通過することが可能かという観点から詳細に検討された[1]。ワームホールの形状を決める関数として形状関数というものがあり、この関数を具体的に定め、また粒子のエネルギーや角運動量の値を変えることで、それぞれに応じた粒子の運動が決定される。
また、関数の選び方や粒子のエネルギーおよび角運動量によっては、ワームホール内に時間的閉曲線(CTC)が形成されうることが知られており[2]、それは理論的に過去への時間移動の可能性を意味する。このようなCTCの存在は因果律の破れに直結する重大な問題であり、一般相対論の枠組み内での時間の性質を考える上でも重要な意義を持つ。
本発表ではDuttaの論文[3]に基づき、粒子の運動の変化をワームホールの埋め込み図に描く手法を紹介し、運動の振る舞いを直感的に理解するための視覚的アプローチについても概観する。その後、ワームホール内にCTCが存在する場合と存在しない場合を比較し、それぞれの測地線の特徴について紹介する。
参考文献
[1] M.S. Morris and K.S. Thorne, Am. J. Phys. 56, 395 (1988)
[2] T. Müller, Phys. Rev. D 77, 044043 (2008)
[3] A. Dutta, D. Roy, S. Chakraborty, New Astron. 111, 102236 (2024)
講演SP-34: 宇宙論における対称テンソル場
講演者名: 阿部 瑞樹、所属: 弘前大学、学年: M2
共著者名: 仙洞田 雄一 (弘前大学)
かつて宇宙はビッグバンにより始まったものだと考えられていたが、地平線問題や平坦性問題の解決のために空間が指数関数的に膨張したとするインフレーション理論が1980年代に提唱された。標準的なインフレーション理論ではインフラトンと呼ばれるスカラー場を加速度的な宇宙膨張の源とし、インフラトンを量子化することで非常に富んだ情報を得ることができる。例えば、その摂動から曲率ゆらぎが導かれ、そのスペクトルが大規模構造やCMBの観測データをよく説明するため、スカラー場によるインフレーションのモデルは一定の成功を収めていると言える。
しかし、長年の実験的、理論的な探求の努力にも関わらずインフラトンとなるスカラー場の正体は明らかになっていない。そのため近年ではベクトル場や反対称テンソル場のような異なる性質の場によってインフレーションを実現するモデルの研究も行なわれている。
我々は宇宙論研究の文脈で計量以外の対称テンソル場が存在する場合についての探究がし尽くされていないことに着目している。本研究では、対称テンソル場が宇宙膨張を実現させることができるのか、また、他の場によって実現されている宇宙膨張に対してどのような影響を与え得るかについて議論する。
講演SP-35: 重力波観測によるハッブル・ルメートル定数の測定誤差推定
講演者名: 大富 有步子、所属: 広島大学、学年: M1
共著者名:
本研究の目的は、重力波観測によるハッブル・ルメートル定数H_0の測定に、連星合体が起きた母銀河の固有速度の誤差がどれくらいの影響を及ぼすのかを知ることである。現在、宇宙論的観測と近傍宇宙の観測から求めたH_0は一致しないという問題があり、重力波観測を用いたH_0の新たな測定方法が注目されている。2017年に発生した重力波イベントGW170817において、重力波の観測から光度距離が、銀河のスペクトルの観測から赤方偏移がそれぞれ測定され、H_0の観測値が得られた。H_0の決定精度を改善するためには、それぞれの誤差を小さくする必要があり、光度距離の誤差は重力波検出器の雑音の影響を受け、赤方偏移は固有速度の影響を受ける。そこで本研究では、GW170817 の光度距離と固有速度の誤差をガウス分布を仮定してH_0の分布を求め、そこからH_0を決定し、LIGO-Virgo コラボレーション他による先行研究の結果を再現した。この先新たに近傍宇宙で重力波イベントが発生した際、固有速度がどの程度 H_0 の決定 に影響を及ぼすのか、を知りたいので、疑似カタログを用いて固有速度や光度距離の 誤差の推定分布を作成し、この誤差が H_0 にどの程度影響するのかを議論する。
講演SP-36: 非摂動的な手法を用いたエンタングルメント・ハーベスティングの解析
講演者名: 上永 裕大、所属: 九州大学、学年: M2
共著者名: ギャロック芳村 建佑(東京大学), 平良 敬乃 (九州大学)
場の量子論において、異なる領域の真空状態には、たとえ時空的に分離していても、エンタングルメント(量子もつれ)が存在することが知られている。この発見は、ブラックホールの情報損失問題などの未解決問題の理解に重要な役割を果たしてきた。
量子場に内在するエンタングルメントを利用した有名な現象として「エンタングルメント・ハーベスティング」[1]が知られている。これは、2つの量子系をプローブとして用いて、それぞれ有限時間だけ量子場と相互作用させ、量子場に内在するエンタングルメントをプローブ間へ移す現象である。これまでにMinkowski時空を始め、BTZブラックホール時空などの様々な背景時空において解析がなされてきた。
一方で、エンタングルメント・ハーベスティングを解析する上では量子系の時間発展を追う必要があるが、従来の研究は摂動近似の下での解析をなされており厳密な解析には至っていないことが示唆される[2,3]。本研究ではまず、量子場と相互作用する量子系の時間発展を非摂動的に扱う手法として量子ランジュバン方程式を相対論的枠組みに拡張し、さらにこれを用いてエンタングルメント・ハーベスティングにおける非摂動的効果を解明することを目指す。
[1] A. Valentini, Phys. Lett. A 153, 321 (1991)
[2] T. Kolioni et al., PRA 102, 062207 (2020)
[3] E. Martín-Martínez et al., PRA 88, 052310 (2013)
講演SP-37: S-matrix bootstrapによる重力理論の解析
講演者名: 田中 真、所属: 早稲田大学、学年: B4
共著者名:
S-matrix bootstrapは、S-matrixにローレンツ不変性、ユニタリ性、解析性、交差対称性といった自己整合性条件を課して、S-matrixの自己整合性を基盤に理論を構築する考え方である。従来の理論構築方法では、対称性などの系の性質から作用の形を決定するが、この作用から運動方程式の解や散乱断面積といった物理的予言物を導出することは一般に困難である。例えば、一般相対性理論において、アインシュタインヒルベルト作用を書き出すことはできても、一般の場合でアインシュタイン方程式を手で解くことは難しい。これに対し、S-matrix bootstrapでは予言物である散乱断面積に直接着目し、逆に理論を構築できる点が特徴である。この方法により、弦理論に代表される量子重力理論が満たすべき基本的性質を明らかにし、理論モデルに一定の制限を与えることができる。本発表では、S-matrix bootstrapが具体的にどのようにして重力理論を制限しているかを外観する。
講演SP-38: 宇宙ひもによるKerrブラックホールからのエネルギー取り出し
講演者名: 田中 孝輔、所属: 大阪公立大学、学年: M2
共著者名:
宇宙初期の相転移において、自発的対称性の破れから「位相欠陥(topological defect)」という特異な構造が現れることが予言されている。位相欠陥は、対称性が破れた周囲に対してその上では局所的に対称性が破られず、そして周囲の真空のトポロジーにより安定である。位相欠陥にはモノポール、宇宙ひも(cosmic string)、ドメインウォールなどの種類があり、特にその曲率半径が太さよりもはるかに大きい宇宙ひもは、1次元の物体である南部-後藤ストリングとみなすことができる。
[1]は、定常剛体回転する南部-後藤ストリングにより、super-radianceやペンローズ過程、Blandford-Znajek過程と同様に、Kerrブラックホールからエネルギーを取り出せることを示した。
また、[2]はKerr時空における剛体回転する南部-後藤ストリングの運動を解析し、ストリングがブラックホールのエネルギーを取り出すために地平面に正則的に”貼り付き”うることを示した。
本発表では、位相欠陥および南部-後藤ストリングの概要を説明した後、文献[1]および[2]のレビューを行う。
参考文献
[1] S. Kinoshita, T. Igata, and K. Tanabe, Phys. Rev. D94, 124039 (2016), arXiv:1610.08006[gr-qc]
[2] T. Igata, H. Ishihara, M. Tsuchiya, C. Yoo, Phys. Rev. D98, 064021 (2018), arXiv:1806.09837[gr-qc]
講演SP-39: オプトメカ系を用いた重力量子もつれの生成の検証
講演者名: 福澄 諒太郎、所属: 九州大学、学年: M2
共著者名: 三木大輔(Caltech),畠山広聖(九州大学),山本一博(九州大学)
ミクロな物理現象を記述する量子力学と重力を記述する一般相対性理論は、どちらも現代物理学における基礎的な理論である。
しかし現在、重力が量子力学に従うのかどうかについての検証は未だ達成されていない。
これに対して2017年にBoseらが模型を提案し、位置の重ね合わせ状態にある二つの質量体が重力相互作用を介すことで量子もつれを生成すると予測した[1,2]。
量子もつれは量子的な相関であり古典的相互作用では生成できないため、重力による量子もつれ生成の検証は、重力場の量子性の証拠となる。
これについて近年、オプトメカ系(光学機械振動子系)が注目されている。
オプトメカ系は懸架鏡とその間の光共振器で構成されており、光子と鏡の相互作用により鏡の量子状態を実現する模型である。
本研究では重力による量子もつれについてオプトメカ系を用いて検証する。
先行研究[3]ではある特定の状況におけるもつれについてのみ解析されている。
そこで本研究では一般の場合について、より強くもつれる領域の探索とそのメカニズムの解明について研究を進めている。
本発表ではその研究経過を発表する。
[1] S. Bose et al., PRL 119, 240401 (2017)
[2] C. Marletto & V. Vedral, PRL 119, 240402 (2017)
[3] D.Miki et al., PRD 110.2, 024057 (2024)
講演SP-40: シュワルツシルト時空における光線追跡と降着構造の観測的像の解析
講演者名: 阿部 麟太郎、所属: 福岡大学、学年: M1
共著者名:
ブラックホール近傍では、時空の強い歪みにより光線の軌道が曲げられ、観測者に届く像が重力レンズ効果によって大きく歪む。この現象はブラックホールシャドウの形成や、その周囲に存在する降着構造の観測において重要な役割を果たす。特に、降着円盤が回転している場合、ドップラー効果や重力赤方偏移が観測される放射の強度やスペクトルに影響を及ぼし、ブラックホールの物理量(質量・スピン等)や周囲環境の理解に直結する。
近年、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によるブラックホールシャドウの直接観測をきっかけに、数値的手法を用いた理論的シャドウ再構成の研究が広く進められている。多くの研究はKerr時空における光線追跡と降着構造を扱っているが、非回転ブラックホール(シュワルツシルト時空)を対象とし、観測者が放った光線が降着円盤と交差する点の決定や、そこからの放射がどのように観測されるかを精密に解析することも基礎的理解にとって有意義である。
本研究では、シュワルツシルトブラックホールの周囲に光源と降着円盤が存在する系を仮定し、観測者が放った光線のうち、ブラックホールによって曲げられたものがどのように降着円盤と交差するかを数値的に計算した。その後、交点から放射された光が観測者に届く経路を逆に辿り、重力赤方偏移およびドップラー効果を考慮して観測されるフラックスと温度分布を評価する。時空の歪みが観測像に与える影響を可視化し、ブラックホールシャドウの数値的再構成を目指す。現在は主にコード構築と初期条件設定の段階にあり、今後、再構成されたシャドウ像と物理パラメータとの関係についての議論を行う予定である。