
招待講演

太陽・恒星分科会
塩田 大幸(情報通信研究機構)
宇宙天気予報:最も身近な天体「太陽」の社会に影響する現象とその予測
7月28日 15:30–16:30 A会場
最も身近な天体「太陽」は、定常的な輻射により地球に大きな影響を及ぼしているがその影響以外に、定常的に流れ出す太陽風や、突発的な太陽の爆発現象(太陽フレア・コロナ質量放出(CME))、太陽高エネルギー粒子(SEP)などの現象によって、地球周辺の宇宙環境(宇宙天気)が大きく乱されることがある。これらの宇宙天気のじょう乱はしばしば、無線通信や衛星測位システムなど宇宙を利用する社会インフラや、人工衛星そのものなどに影響を及ぼすことがある。深刻な場合は、地上の送電網にも影響が及んだ例もある。情報通信研究機構(NICT)では、24時間365日体制で太陽を監視し、宇宙天気へ影響を予測する「宇宙天気予報」を毎日配信している。太陽と宇宙天気の関係について具体的な事例を挙げて解説するとともに宇宙天気予報の現状と課題について紹介する。
鷲ノ上 遥香(理化学研究所)
太陽からはじめる宇宙物理:コロナ加熱・フレアの物理とその応用
7月30日 10:00–11:00 A会場
小質量恒星の大気外層には高温・希薄なプラズマであるコロナ大気が存在し、しばしばフレアと呼ばれる爆発現象を伴って強いX線や紫外線を放射する。これらの活動現象は、周囲の惑星環境や星間物質に大きな影響を及ぼす。本講演では、太陽を基準としたコロナ加熱およびフレアの基本的な物理を概説し、数値シミュレーションや観測を通じた近年の研究の進展、さらには未解明課題について紹介する。また、太陽研究によって得られた知見を他の恒星へと応用する試みについても議論し、恒星活動の多様性や星・惑星形成環境における星放射の役割といった応用例を幅広く取り上げる。太陽物理の理解を出発点として宇宙に広がる多様な恒星現象の理解へとつなげ、宇宙において恒星が果たす根源的な役割を探る。
コンパクト天体分科会
岩切 渉(千葉大学)
マルチメッセンジャーネイティブ世代のみなさんへ
7月29日 11:15–12:15 A会場
現在我々は、重力波、高エネルギーニュートリノの検出アラートが日常的に飛び交う時代を生きている。このような時代が来るとは少なくとも私は学生の時代に想像できていなかったが、第55回天文・天体物理若手夏の学校の参加者のみなさんはこのような電磁波以外の宇宙からもたらされる情報が身近にある環境で育つ、マルチメッセンジャーネイティブ世代と呼んでも差し支えなかろう。今回主にX線観測とIceCubeによる高エネルギーニュートリノ観測でこれまでに得られた知見を紹介しながら、現在提示されている謎についてどのようにアプローチしていくべきか、マルチメッセンジャーネイティブ世代のみなさんと議論していきたい。
松本 達矢(東京大学)
コンパクト天体が駆動する突発天体現象
7月30日 11:15–12:15 A会場
突発天体現象の多くはコンパクト天体の周囲で重力エネルギーが解放されることにより駆動される。これら天体の爆発現象は様々な波長の光や粒子を放出し、我々に多くの知見を提供するだけでなく、人間の生きているタイムスケールで進行するためドラマティックでもある。この講演では突発天体現象の代表例として超新星爆発、ガンマ線バースト、潮汐破壊現象などについて概観を試みる。さらに、最近または今後本格的に稼働する観測によってどのような進展が期待されるかも考察する。
星間現象/星・惑星形成分科会
佐藤 寿紀(明治大学)- (変更前)
天体物理の交差点「超新星残骸」の観測研究の魅力
7月29日 13:30–14:30 A会場
超新星残骸は、星の最期に放出される膨大なエネルギーと物質が星間空間と相互作用する場であり、天体物理学の多彩なテーマが交差する「交差点」ともいえます。例えば、爆発に伴う衝撃波は星形成や宇宙線粒子加速に重要な役割を果たし、また、爆発で撒き散らされる物質には恒星の一生やコンパクト天体形成、爆発メカニズム、宇宙の元素供給史などを論じる上で欠かせない情報が刻まれています。本講演では、近年のX線・可視光・電波・γ線といった多波長観測結果(特にX線観測)を概観し、星間空間に多大な影響を与える超新星残骸の観測的魅力を共有します。
Herman Lee (京都大学)- (変更後)
The Many Faceted Physics and Diversity of Supernova Remnants
7月29日 13:30–14:30 A会場
The physics involved when we talk about the remnants of supernovae (SNRs) comes with many flavors, be it their collision-less shocks, particle acceleration, magnetic field amplification, particle-wave interaction, non-equilibrium ionization, and various non-thermal and thermal plasma and emission processes, just to name a few. Meanwhile, the rich morphological and spectroscopic diversity of SNRs revealed by decades of multi-wavelength observations has provoked intense interests in their origins, in particular the poorly understood association with their progenitor stars and explosion mechanisms, as well as activities during late-stage stellar evolution such as mass loss and mass transfer. In this talk, I will briefly cover the basics of our modern understanding of SNRs, with a special focus on their tantalizing diversity. I will also try to show how studying them can help us understand what their progenitor stars had gone through before, during and after the supernova explosions.
高棹 真介(武蔵野美術大学)
星表面から迫る星・惑星形成の新展開
7月29日 14:45–15:45 A会場
原始星や前主系列星は、降着円盤から質量・角運動量・熱・磁場などを受け取りながら成長していく。一方で、中心星も輻射や物質、磁場の放出を通じて円盤や周囲の環境に影響を与える。このように、中心星と円盤が接続する中間領域は、星・惑星形成における内外の境界条件が交わる場であり、その理解は形成領域全体の進化を解明する上で極めて重要である。この領域は1au未満の微細なスケールにあり、現在の観測では構造を直接とらえることが難しい。しかしその重要性から、近年はこの円盤最内縁部の理解に向けた理論・観測の研究が急速に進展している。このような背景の中、私たちは理論や数値シミュレーション、太陽・恒星物理の知見を統合しながら、この未開の領域の解明に取り組んでいる。本講演ではそのアプローチと近年の研究動向を紹介する。
素粒子・重力・宇宙論分科会
神野 隆介(神戸大学)
宇宙論的一次相転移と重力波生成
7月29日 10:00–11:00 A会場
2015 年のLIGO-Virgo コラボレーションによる重力波初観測は、重力波天文学を確立すると同時に、重力波による高エネルギー初期宇宙の検証可能性を切り開いた。実際、今後10-20年の間に、LISAやDECIGOを始めとした観測衛星の打ち上げを契機として重力波宇宙論が全盛期を迎えることが期待され、高エネルギー初期宇宙で起きたダイナミクス、ひいては素粒子論・宇宙論の未解決の謎に迫るまたとない好機が訪れる。本講演では、高エネルギー下での自発的対称性の破れに伴う一次相転移の可能性に着目し、重力波による検証可能性がどこまで進んだか、観測開始までにどのような理論整備が必要かなどについて講演する。特に、標準模型を超えたヒッグスの物理がもたらす一次相転移とそこから生じる重力波の観測可能性、及び加速器実験とのシナジーについても議論を深める。
真貝 寿明(大阪工業大学)
一般相対性理論110年の概観
7月29日 16:00–17:00 A会場
今年は,量子力学が誕生してから100年であるが,一般相対性理論が提出されて110年,重力波の初観測から10年となる節目の年でもある.ブラックホール,膨張宇宙,重力波の3つのテーマの発展を追い,現在の研究課題の位置付けを考えたい.若手の研究者にとって,モデルパラメータを変える程度の論文は,すぐに着手できて魅力的かもしれないが,今後は,自分で研究分野を創造していく気概を持ってもらいたいと思う.
観測機器分科会
玉川 徹(理化学研究所)
超小型衛星で天文学ができた:NinjaSat が切り拓いた道
7月28日 16:45–17:45 A会場
キューブサットに代表される超小型衛星は、民間による宇宙利用の広がりとともに、研究者にも現実的な観測手段となりつつあります。こうした状況を背景に、理化学研究所は2020年、X線天文ミッションの実現を目指し、NinjaSatプロジェクトを立ち上げました。NinjaSat は 6U サイズ(30×20×10 cm3) 8 kgの衛星で、2023年11月に打ち上げられました。これまで1年半の科学運用で30個のX線天体を観測し、すでに論文執筆・出版も進んでいます。プロジェクト開始当初は、「超小型衛星で天文観測は可能なのか?」という懐疑的な声もありました。しかし実際には、衛星の機動性や柔軟性、若手メンバーによる積極的なアイデア出しにより、複数の優れた科学観測が実施できました。本講演では、NinjaSat の軌跡を振り返るとともに、今後の宇宙科学における超小型衛星の可能性について展望します。
関谷 洋之(東京大学)
超新星ニュートリノ観測の推進:スーパーカミオカンデのハードウェア改修と今後の役割
7月28日 18:00–19:00 A会場
スーパーカミオカンデ検出器は、ガドリニウムの導入(SK-Gd)に成功し、逆ベータ崩壊事象の識別能力を大幅に向上させ、超新星ニュートリノに対する感度を飛躍的に高めるアップグレードを遂げた。特に、過去の超新星爆発に由来するニュートリノ、すなわち超新星背景ニュートリノ(DSNB)の世界初観測が現実的な目標となりつつある。本講演では、SK-Gdプロジェクトを実現した一連のハードウェア開発について紹介する。これには、SKタンクの補修、高純度ガドリニウム硫酸塩の開発、ならびに全く新しい水循環システムの構築が含まれる。また、光電子増倍管(PMT)の性能を一時的に低下させていた地磁気補償コイルの修復作業についても報告する。さらに、マルチメッセンジャー天文学の観点から、スーパーカミオカンデが担う超新星ニュートリノ観測の枠組みについて概説し、各種観測装置との連携によるアラート発出の仕組みを説明する。最後に、ハイパーカミオカンデ建設が進展する中で、スーパーカミオカンデが今後果たすべき役割について展望を述べる。
銀河・銀河団分科会
赤堀 卓也(国立天文台)
次世代望遠鏡の非熱的側面の探求から紐解く宇宙の生態系
7月30日 13:30–14:30 A会場
銀河と銀河団、そして活動銀河核は、影響を相互に及ぼし合って宇宙の「生態系」を形成している。相互作用においては様々な天体現象が起こり、そして物理状態が励起されることが知られるが、中でも乱流・磁場・宇宙線といった非熱的側面は、まだまだ理論的にも観測的にも未開拓領域である。近年、センチ波メートル波帯の長波長電波観測の劇的な性能向上によって、その非熱的側面の探求が大きく進捗している。中には起源不明の天体や、既知の物理では単純に理解できない現象も見つかってきた。これらの新発見は、宇宙の生態系の全容把握にとって、一体どのような意味をもつのだろうか? そこで本講演では、乱流・磁場・宇宙線の物理の概説を挟みながら、長波長電波観測の最新結果を紹介する。多波長とのシナジーにも注目しながら、将来計画を含めた研究の展望を議論する。
上田 周太朗(金沢大学)
XRISM のX線精密分光観測で見えてきた銀河団ガスの運動学
7月30日 14:45–15:45 A会場
2016 年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」は、そのわずかな観測期間の中でペルセウス銀河団の中心領域を観測し、銀河団高温プラズマガス(intracluster medium; 以下、銀河団ガス) の乱流速度が 100- 200 km/s であることを明らかにした。銀河団ガスの音速に比べて乱流は非常に小さく、その非熱的圧力は熱的圧力に対し4%ほどしかない極めて静かな状態にあることを意味する。しかしこの結果は、たまたまペルセウス銀河団の銀河団ガスが静かなのか、銀河団ガスが一般的に静かなのか切り分けができず、銀河団ガスの物理を解き明かす上で重要な未解決問題となっていた。2023 年に打ち上げられた「ひとみ」の後継機となるXRISMは、約2年間の運用により複数の銀河団の様々な領域を観測し、銀河団ガスの乱流の非熱的圧力はやはり熱的圧力に対し数%しかないケースが大半であることを明らかにした。この講演ではXRISM の最新の観測を紹介しつつ、銀河団ガスの運動学について詳述する。