
アブスト:星間現象/星・惑星形成分科会

口頭講演
講演HK-01: Mopra 南天銀河面 CO サーベイデータ を使用した銀河系円盤部における広速度幅分子ガス成分の探査
講演者名: 前田 龍也、所属: 慶應義塾大学、学年: M1
共著者名: 岡朋治、横塚弘樹、宇田川賢、柳澤一輝、有山諒(慶應義塾大学)
銀河系中心から半径200 pcの領域は銀河系中心分子層(CMZ)と呼ばれ、無数の恒星と高温ガスが集中する特異な領域である。ここでは、広い速度幅(ΔV ≧ 50 km/s)とコンパクトな空間サイズ(d ≦ 10 pc)を持つ高速度コンパクト雲(HVCCs)が多数発見されている。横塚らは銀河系円盤部でHVCCに類似した分子ガス成分の探査を行い、空間サイズd ≦ 10 pcかつ速度幅ΔV ≧ 5 km/sの分子ガス成分(BVF)を58個発見した。ほとんどのBVFは赤外線対応天体を伴い、原始星由来の双極分子流が起源と考えられるが、CO 16.134-0.553のみ対応天体を持たず、約3 pcとΔV〜40 km s^-1という特異な性質を示す。追加観測と既存データから、バリオン物質を伴う暗黒物質サブハローが銀河系円盤部を貫通し、HIホール、COシェル、HIフィラメントを順次形成したというシナリオが提案された。
本研究では、横塚らとは異なる範囲で銀河系円盤部のBVFを探索するため、Mopra望遠鏡のCOサーベイデータを用いて解析を行い、84個のBVFを発見した。そのうち65個は赤外線対応天体を持ち、19個は持たなかった。算出された物理量と既知の双極分子流源との相関から、際立って広い速度幅を持つCO 337.750+0.223を除き、原始星からの双極分子流に起因すると考えられる。特異な分子雲CO 337.750+0.223は、約1.2 pcの空間サイズとΔV〜44 km s^-1の速度幅を有し、他のBVFと比べて非常に大きいエネルギーを持っており、明らかに他のBVFとは異なる。CO 337.750+0.223は、赤外線と電波連続波において対応天体を持たず、既知の形成メカニズムでは説明が不可能である。この起源の解明によって銀河系における分子ガスの進化や星形成活動の理解がさらに進展するだろう。
講演HK-02: 電離領域の伝搬が駆動する分子雲破壊と星形成効率
講演者名: 小林 康大、所属: 名古屋大学、学年: M2
共著者名: 犬塚修一郎(名古屋大学)
大質量の恒星が形成するHII領域は、星周物質の構造に大きな影響を与え、分子雲破壊を引き起こすことでさらなる星形成活動を阻害する役割を持っていると考えられている (Inutsuka et al. 2015)。 先行研究 (Hosokawa & Inutsuka 2006) では球対称 1 次元における数値流体シミュレーションによりHII領域の膨張則の近似解が与えられた。一方、3 次元構造を考慮したHII領域の膨張過程に関する研究は十分に行われていない。HII領域の伝搬には周辺ガスの密度構造や複数の恒星からの輻射が大きな影響を与えるため、多次元的なガスおよび恒星の分布を考慮することが重要である。
本研究では、Athena++(Stone et al. 2020) を用いて大質量星形成によるフィードバックを考慮した3次元輻射流体シミュレーションを行った。その結果、大質量星が密集している領域においては、輻射フィードバックの効率が変化することが示唆された。さらに,高密度のガスについては輻射の影響が小さく,その中での星形成は止められないことが示唆されている。ここで得られた結果をもとに、現実的な環境下におけるHII領域の伝搬による分子雲破壊効率、および星形成効率の変化について議論を行う。
講演HK-03: 機械学習を用いたCygnus-X領域における大質量星に付随する分子雲の特性の調査
講演者名: 藤本 湧大、所属: 大阪公立大学、学年: M1
共著者名:
⼤質量星は強烈な紫外線放射や、超新星爆発による 重元素の放出などにより銀河進化に多⼤な影響を及ぼすと考えられている。したがって、⼤質量星の性質を理解することは銀河進化の解明を⽬指す上で必要不可⽋である。大質量星は紫外線放射や衝撃波を発生させ、周囲にバブル状の構造を形成する。このバブル構造は、スピッツァー宇宙望遠鏡などで観測された赤外線データに対し、市民科学者を動員した大規模調査や、深層学習を用いた物体検出を行うことによって多数検出されている。本研究では、赤外線バブルが見られる領域の分子雲が実際に大質量星からの影響を受け、一般的な分子雲とは異なる空間、速度分布の特性を持っているのかどうかをCygnus-X領域の分子雲データを使用し、統計的に調査することを目的とした。調査の際、膨大な三次元分子雲データの統計的解析を人間の手で行うことは非常に困難であるという問題があった。それを解決する方法として、本研究では機械学習の生成モデルの一つであるCAE(Convolutional Auto Encoder)を用いた。CAEの画像再構築の際に生じる、潜在変数と呼ばれる入力データの特徴量が圧縮された変数を用いて、Cygnus-X領域内のバブルに付随する分子雲と、ランダムな領域における分子雲の潜在変数の分布違いをそれぞれCygnus-X全領域の分子雲の潜在変数と比較した。結果、ランダムに選出した領域と比べ、バブル領域で分布が異なると判断された潜在変数は明らかに多いという結果となった。このことより、赤外線バブルが存在する領域の分子雲は、一般的な分子雲とは異なる空間、速度分布の特性を持っている可能性が高いことが明らかになった。
講演HK-04: 機械学習を用いた星形成過程における化学進化のエミュレーション
講演者名: 小野 壮洵、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
初代星とは、宇宙が始まって最初に形成された世代の星である。星の形成と超新星爆発による物質の拡散を繰り返すサイクルの中で宇宙は進化してきたが、その起点にある初代星の形成過程を理解することは、現代天文学における重要な課題の一つである。しかし、初代星の性質は周囲のガス環境に強く依存しており、その進化を正確に追跡するには、多数の化学反応を含む硬い常微分方程式(ODE)を高精度で解く必要がある。従来の手法では、計算コストや並列化効率に課題があったため、本研究では機械学習による代替手法を検討する。
本研究では、第一歩として金属や外部放射を含まない単純化された条件のもとで、水素関連の化学種 6 種と 18 種類の反応を含む熱・化学進化モデルを構築し、ニューラルネットワークの学習用データセットを作成した。次に、常微分方程式の解法に適した構造を持つ DeepONet を用いて、初期条件に応じた関数を近似する深層学習モデルを設計し、高速
かつ高精度に ODE の解を予測するエミュレータを構築した。また、ネットワークを繰り返し用いることによる誤差蓄積を抑えるため、補間的手法も導入した。
その結果、従来の数値積分と比べて計算精度を保ちながら平均で約 4 倍の高速化を実現した。また、補完的手法により刻み幅の小さい時間発展計算でも安定した予測が可能となった。
本講演では、この手法によるワンゾーンモデルの計算結果を紹介し、今後の大規模シミュレーションへの展開について議論する。
講演HK-05: ポリトロープガス雲における連星の種の成長過程
講演者名: 松永 拓巳、所属: 茨城大学、学年: M2
共著者名: 森井健翔, 釣部通(茨城大学)
連星の形成シナリオとして、分子雲コアが重力収縮し、中心に連星の種が形成され、残されたガスエンベロープが降着し、連星の種の質量が増加するものがある。周囲のガスの質量は、形成時の連星の種の質量よりも非常に大きいため、連星の種への降着の結果、最終的に形成される連星の質量比や連星間距離などが決まると考えられる。連星の形成過程を理解するためには、連星の種にガスが降着する過程を物理的に理解する必要がある。初期の分子雲コアが持つ角運動量の分布は様々であると期待される。また、降着におけるガス雲の熱的進化も等温状態以外の場合も考えられる。
本研究では、様々な角運動量分布における連星の成長過程を γ = 1.1 のポリトロープガス雲について3次元SPH法による数値計算を用いて調べた。初期角運動量分布 j∝M^δ を持つポリトロープガス雲において、重力、圧力、遠心力のスケーリングが一致するという条件を満たすδの値を γ の関数として導出した。特に、γ=1.1 の場合は、δ=8/7 となることが分かった。さらに δ=8/7 の場合について、ガス降着の数値流体計算を行った結果、連星質量 M と連星間距離 a がそれぞれ M∝t^0.7, a∝t^0.9 となり、時間のべき乗で増加することが分かった。これらは[1]の自己相似解と同じスケーリング則であった。また、連星の全角運動量は、質量に対して初期角運動量分布から見積もられる全角運動量 のη~0.88 倍となった。これらの値と、連星の軌道角運動量と連星の全角運動量連星の比f[2]を用いて連星間距離の近似式を a=(ηf)^2*M^(2δ-1) とすると、流体計算結果とよく一致することが分かった。発表では、流体計算の結果を報告するとともに、連星の自己相似的進化や連星成長の角運動量分布依存性について議論する。
[1]Yahil A., 1983, ApJ, 265, 1047.
[2]Morii, K. & Tsuribe, T., 2025, in press
講演HK-06: 巨大衝突段階の惑星形成を予測する機械学習モデルの作成
講演者名: 石田 侑一郎、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 小久保英一郎
地球型惑星形成過程の最終段階では、原始惑星が軌道進化と衝突合体を繰り返すことによって成長する。この段階は巨大衝突段階と呼ばれている。巨大衝突段階はN体シミュレーションにより研究が行われてきた (e.g., Kokubo et al., 2006)。一方、近年巨大衝突段階のN体シミュレーションを機械学習で代替することで計算量を削減する研究がなされている。先行研究ではN体シミュレーションより4 桁短い時間で惑星系の最終状態を予測できる (Lammers et al. 2024) 。しかし、この研究では、機械学習の教師データとして原始惑星が 3 個の N 体シミュレーションを利用しているため、原始惑星 4 個以上の系の予測に全ての重力相互作用を考慮できず、惑星系の進化を正確に予測できない。そのため、機械学習モデルに組み込まれている、衝突する原始惑星の組を予測するモデルの正解率が現状60%程度に留まり、巨大衝突段階を経て形成する惑星系の性質を調べるには不十分である。本研究では、N体シミュレーションの結果から惑星の軌道進化や質量を予測する機械学習モデルを作成することを目標として、まず衝突する惑星を予測するニューラルネットワークを作成した。その結果、原始惑星を予測するモデルの正解率を85%まで改善するとともに、予測時間を短縮した。発表では機械学習モデルの予測結果や作成過程について詳しく議論する。
講演HK-07: 巨大ガス惑星によるギャップ形成と衝撃波加熱の一次元モデル
講演者名: 佐藤 祥太、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 田中秀和 (東北大学), 辻勇吹樹(東京大学)
本研究では、原始惑星系円盤においてガス降着を行う巨大惑星が円盤内に立てる密度波による円盤加熱の1次元モデルについて議論する。
巨大惑星により励起された密度波は衝撃波を立てて減衰し、円盤にトルクをかけるとともに加熱を行う。トルクがかかることにより円盤内に面密度の低下したギャップが形成され、惑星のガス降着率は減少する。同時に起きる円盤加熱は、始原隕石に記録されている太陽系起源物質の加熱機構として有力視されている。これらの密度波によるトルクと加熱率の間に関係があることが知られている(Goodman and Rafikov 2001)。
本研究ではこのトルクと加熱率の間の関係を用いて、1次元モデルで密度波による円盤ガス加熱率を算出した。金川ら(2015,2017)は幅広いパラメータ範囲で2次元流体計算(金川ら2016)を再現する1次元ギャップモデルを作成した。このギャップモデルに微修正を加えてトルク分布を求め、トルクと加熱率の関係式から加熱率分布を算出した。
本研究の加熱率分布はギャップの面密度が変化する領域において特に高い値となり、主要な加熱領域で小野ら(2024) の流体計算をよく再現する結果となった。小野ら(2024)では加熱率の惑星質量と円盤粘性に対する依存性が議論されているが、本研究の加熱率はギャップ内ではこれらの依存性を再現することに成功した。
また、本研究の加熱率をギャップのない場合の粘性円盤加熱率と比較すると、ギャップ内では惑星質量に依らず両者は同程度の大きさとなることが確かめられた。これは密度波による加熱は粘性円盤加熱率によって上限が決められていることを示している。面密度が低いギャップ内では光学的厚さも小さく保温効果も弱いため、本研究の結果は巨大惑星がつくる衝撃波が太陽系始原物質の加熱機構として十分ではないことを示唆している。
講演HK-08: 系外惑星の重力によるデブリ円盤の非対称空間分布
講演者名: 清水 颯人、所属: 名古屋大学、学年: M2
共著者名: 小林 浩(名古屋大学)
近年、直接撮像による系外惑星の検出が進展しており、その検出においても惑星周囲のダスト分布、すなわちデブリ円盤の存在を考慮することが重要になってくる。太陽系では、小惑星帯やカイパーベルトなどの微惑星帯で生成された衝突破片がダストを供給しており、これらのダストはポインティング・ロバートソン効果(P-R効果)により螺旋軌道で中心星へと落下する。系外惑星系でも、このような過程でダストが落下し、惑星の周囲にデブリ円盤が形成されることが考えられる。
本研究では、惑星が形成するデブリ円盤の特徴的な構造について調査を行った。中心星の輻射圧およびP-R効果を考慮し、中心星・惑星・ダストの3体からなる3次元軌道運動を数値積分により求めた。その結果をもとに、ダストが定常的に生成されていると仮定し、惑星周囲のダスト分布を求めた。そのために、計算領域を半径方向と方位角方向に分割し、各領域におけるダストの滞在時間を集計することで、円盤内のダストの数密度分布を得た。その結果、大きなダスト粒子ほど、惑星軌道付近で惑星との平均運動共鳴により特定の軌道に一定時間捕獲されやすいため、惑星周囲に非一様なダストの空間分布を形成する傾向があることが分かった。
次に、デブリ円盤の輻射フラックスの空間分布についても評価を行った。P-R効果によって主に落下してくるサイズのダストが、典型的なデブリ円盤のダストとなるため、ダストサイズを微惑星帯での衝突時間と落下時間から見積もった。その結果、明るいデブリ円盤では主に小さなダストが中心星へ落下するため、構造は滑らかで惑星検出に不利になるのに対し、暗いデブリ円盤では大きなダストが惑星周囲にまで落下して、特徴的な構造が形成され惑星検出をしやすくすることが分かった。これらのデブリ円盤のダスト分布の特徴を手がかりとした惑星検出についても議論する。
講演HK-09: 光度曲線・高空間分解画像の同時解析を用いた重力マイクロレンズ惑星イベントMOA-2011-BLG-322の質量推定
講演者名: 玉置 拓土、所属: 大阪大学、学年: M1
共著者名:
重力マイクロレンズ現象とは、惑星系(レンズ系)の背景を恒星(ソース天体)が通過し、視線上でほぼ一直線に重なった際に、レンズ系の重力の影響でソース天体の光が曲げられ、一時的に増光する現象である。通常、光度曲線解析で得られるのはレンズ系の主星惑星質量比に限られ、いくつかの高次効果を考慮することで惑星の質量を求めることができるが、それらの高次効果が明らかに見られるイベントは非常に稀である。
そのため、質量を決める別の方法として高空間分解能撮像を用いたレンズ系の明るさ及び、ソース天体とレンズ系の相対固有運動の測定を行う方法が有効である。これはレンズ系の明るさと相対固有運動がそれぞれレンズ系の質量距離の関係式で書き表せるからである。通常、この方法では増光から数年経過し、天球面上でソース天体とレンズ系が分離した頃に高空間分解能撮像による追観測を行う。
今回解析を行った重力マイクロレンズ惑星イベントMOA-2011-BLG-322は、光度曲線から高次効果の影響がほぼ見られず、レンズ系の質量に制限がつかなかったイベントである。そのため本研究ではまず、増光から10年後にKeck望遠鏡で追観測した高空間分解画像を解析し、レンズ系の明るさと相対固有運動の測定を試みた。しかし、レンズ天体を検出することはできず、画像からはレンズ系が暗いもしくは相対固有運動が小さいという情報しか得られなかった。
そこで本研究では、光度曲線と高空間分解画像という2種類のデータを用いて同時解析を行う手法を開発した。この方法は光度曲線と高空間分解画像それぞれの持つ情報が少ない場合でも、両方のデータからレンズの明るさと相対固有運動の上限と下限に制限を付けあうことができるため、レンズ天体の質量推定に非常に有用な方法である。この手法を用いた解析の結果、レンズ系の質量に制限をつけることができたため、本講演では、その手法の詳細と質量推定の結果、今後の展望について報告する。
講演HK-10: 隕石の惑星大気進入による気流・熱状態への影響のモデリング
講演者名: 御子 裕治、所属: 名古屋大学、学年: M2
共著者名: 小林 浩(名古屋大学)
若い地球型惑星には頻繁に隕石が衝突し、その大気の進化には衝突過程が大きな影響を及ぼす。隕石衝突前の惑星大気は、地表からの熱により、地表付近の対流圏と上層の成層圏が存在する。しかし、隕石衝突により高温・高圧領域が発生、膨張することで、大気の流れや熱状態が大きく乱される。この流れは非常に複雑であり、流体シミュレーションにより調べる必要がある。
本研究ではAthena++を用いて、大気に突入する隕石が及ぼす影響について3次元流体シミュレーションを行った。大きな隕石の場合、地表に衝突し、エネルギーを解放することで爆発現象のような膨張が発生する。一方、小さな隕石の場合、大気中で破壊され、上空でエネルギー解放が起こる。また、隕石の軌道上に生じる煙突状の希薄領域も重要である。そこで、エネルギー解放領域と煙突状の希薄領域に分けて隕石の影響のモデル化を行った。そして、背景大気の初期条件として、下層に対流圏、上層に成層圏が存在している大気を用意し、以上のモデリングのもとシミュレーションを行った。その結果、エネルギー解放による膨張波が希薄領域で早く伝わることで、爆発領域付近の下層大気がはるか上層にまで運ばれることを確認した。
次に、本研究のシミュレーション結果を実際の隕石落下事例と比較した。2013年2月15日に小天体Chelyabinskが衝突したイベントは多くの観測がなされており、衝突体の大きさ、密度、進入角度など多くのデータがある。これらのデータと我々のモデルをもとに数値計算を行い、地表での圧力を求めた。本研究のシミュレーションの結果と実際の被害から推測される圧力分布を比較した結果、実際の被害分布を再現可能であり、モデルの妥当性が確かめられた。また、大気中での隕石の破壊に伴うエネルギー解放領域の形状に制限を与えることもできた。
講演HK-11: 衝突シミュレーションによる圧縮氷アグリゲイトの跳ね返り条件の解明とダスト成長シナリオへの示唆
講演者名: 大城 榛音、所属: 東京科学大学、学年: M2
共著者名: 辰馬未沙子(理化学研究所)、奥住聡(東京科学大学)、田中秀和(東北大学)
惑星形成の第一歩は原始惑星系円盤におけるダスト微粒子の衝突合体によるアグリゲイトの形成である。アグリゲイトは衝突を繰り返しながら成長し、キロメートルサイズの微惑星を形成する。そのため、アグリゲイトの衝突挙動を理解することは微惑星形成過程を明らかにするために必要不可欠である。
アグリゲイトの衝突挙動はその内部構造に大きく依存していることが知られている(e.g., Güttler et al. 2010)。近年のミリ波偏光観測は、アグリゲイトの充填率がオーダーで0.1程度であることを明らかにした(Tazaki et al. 2019)。このように高充填率に圧縮されたアグリゲイトは、跳ね返り衝突によって成長が抑制されることがある(e.g., Zsom et al. 2010, Dominik & Dullemond 2024)。しかし、これらの結果ははSiO2アグリゲイトを用いた室内実験で得られた跳ね返り条件を用いており、氷アグリゲイトの跳ね返り条件は明らかになっていなかった。
そこで我々は、圧縮氷アグリゲイトを用いた衝突シミュレーションを行い、アグリゲイトの跳ね返り条件を推定した。微粒子の接触相互作用モデルのもと、アグリゲイトを構成する粒子のN体シミュレーションを行った。
その結果、氷アグリゲイトでも室内実験と同様に、大きなアグリゲイトほど低速でも跳ね返るという、質量と衝突速度に依存する跳ね返り条件を得ることに成功した。また、跳ね返り条件は充填率に強く依存することが示された(Oshiro et al. 2025)。さらに、このようなダストアグリゲイトの跳ね返り衝突によってダストの成長が抑制されると仮定すると、ミリ波観測が示唆する最大ダストサイズおよび充填率と整合的であることがわかった。本研究は、氷アグリゲイトにおける衝突物理の理解を深め、ダスト成長シナリオの制約に新たな知見をもたらすものである。
講演HK-12: ツリー法を応用した多成分ダストの合体成長計算アルゴリズム
講演者名: 渡邊 太一、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名: 片岡 章雅 (国立天文台)
惑星形成では、ダスト集合体の空隙率や帯電など質量以外の特性(成分)が注目されている。しかし多成分ダストの合体成長の時間進化を追う数値計算は、直接的に計算するには計算量の大きさから非現実的であり、また近似的に計算した場合には空隙率について計算結果が観測と不整合である(Okuzumi et al. 2012; Kataoka et al. 2013; Zhang et al. 2023)。そこで、より精密な惑星形成理論モデルの構築のため、多成分ダストの合体成長を少ない近似で数値計算できる手法が必要である。
我々は、重力N体計算のツリー法を応用した、新しい多成分ダストの合体成長計算アルゴリズムを提案する。ダストの質量や空隙率の分布は、成分の数をd、軸毎のビン数をNとしてN^d個のビンで表される。直接的な計算ではこの全てのビン間の相互作用を考慮し、計算量はO(N^(2d))となる。一方ツリー法を応用した本手法では、質量比を距離とみなし、合体前の小さい側のビンについてまとめて計算することにより、計算量をO(dN^d log N)にまで削減する。
本手法の性能検証のため、1成分および2成分において直接法および解析解との比較を行い、誤差と計算時間の面から評価した。1成分では計算時間の面で直接法とツリー法はほぼ同等だったが、2成分ではツリー法の方が計算時間の面で良い結果を出した。精度についてはツリー法が劣る結果となったものの、パラメータの調整により一定の改善が可能であることも明らかとなった。
本研究で開発したツリー法ベースの合体成長アルゴリズムにより、多成分ダスト集合体の時間進化を少ない近似で数値計算することが可能となった。今後、原始惑星系円盤の物理量と衝突破壊などこれまで無視されてきた物理過程を実装し、円盤内のダスト集合体の時間進化を計算する。最終的には円盤観測との比較を通じて微惑星形成に迫りたい。
講演HK-13: 原始惑星系円盤におけるミリ波散乱偏光を想定した平行平板の輻射輸送数値解
講演者名: 北出 直也、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名: 片岡 章雅
惑星は原始惑星系円盤の中でダストが合体成長することによって生まれる。しかしダストがキロメートルサイズの微惑星へと成長する惑星形成の初期段階には惑星形成を阻害する問題が残されている。その問題とは、ガスとの摩擦によりダストが中心星へ落下する問題、ダスト同士が衝突時に付着せず跳ね返る問題などである。近年の理論から、これらの問題克服のための理論が提唱され、その駆動条件にはダストのサイズと空隙率(ダスト内部のすき間の割合)が重要であると指摘された。そこで円盤内ダストのサイズ・空隙率が主にミリ波観測によって制限がなされてきた。ダストのサイズ・空隙率はミリ波のSED解析によって求められてきたが、特に光学的に厚い場合は近似式 (Miyake & Nakagawa 1993, Birnstiel et al. 2018, Sierra et al 2019, Carrasco-González et al. 2019, Zhu et al. 2019) が用いられてきた。またミリ波偏光観測を用いたダストサイズ・空隙率制限も行われた。しかし偏光度の一般的な定式化はこれまでなされてこなかったため偏光観測の結果をSED解析に用いることはできなかった。そこで本研究では散乱を考慮した輻射輸送方程式を数値的に厳密に解くことで円盤から放射されるintensityの正確な値を計算しこれまでSED解析で用いられてきた近似式の正確性を検証した。結果としてどの散乱を考慮した近似式も数値計算結果から10%ほどずれていることがわかった。さらに偏光度については、数値計算によくフィットするアルベドと光学的厚みを変数とする関数でフィッティングすることで定式化した。これらにより、ミリ波連続波・偏光観測を用いた正しい円盤内のダストサイズ・空隙率が高速に行えるようになった。
講演HK-14: 可視近赤外偏光サーベイによる若い散開星団NGC 6910の磁場とダストの研究
講演者名: 丸田 哲温、所属: 広島大学、学年: M2
共著者名: 川端弘治, 堀友哉 (広島大学) / 土井靖生, 城壮一郎 (東京大学) / 松村 雅文 (香川大学) / 秋田谷洋 (千葉工業大学) / 笹田真人 (東京科学大学)
星形成の駆動源である星間物質(ISM)の進化/運動は星間磁場の影響を強く受ける。よって、星形成やISMの進化を理解するには、磁場構造の解明が必要となる。
星間磁場に関する様々な情報は可視・近赤外線域の偏光観測によって得られる。特に、星間雲による吸収を受けた多数の背景星の偏光方位角から、天球面に投影された磁場パターンを捉えることができる。近年、これにGaia衛星による恒星までの距離データを併用することで、前景偏光成分を差し引き、ある星間雲固有の磁場構造を推定することも可能になってきた。加えて、多バンドの偏光観測を行い、偏光度がピークとなる波長を求めることで、吸収に寄与するダストの平均サイズを推定することもできる。
大質量星を抱える星団中の磁場パターン及びダストサイズを捉え、磁場やダストに対する大質量星の影響を明らかにすることを目的とし、はくちょう座OB9アソシエーションに位置する若い散開星団NGC 6910に対して可視・近赤外7バンド(B, V, R, I, J, H, Ks)の偏光サーベイ観測を実施した。観測には、口径1.5mの広島大学かなた望遠鏡と可視赤外線同時観測装置HONIRを用いた。
結果として、星団の距離よりも近傍では磁場の向きが一様に揃っているものの、星団中では視野内の場所ごとに異なる、複雑な磁場構造を持つ可能性があることが判った。また偏光度の波長依存性を視線上の各星間雲について調べたところ、星団の手前に比べ、星団中ではダストサイズが小さくなることが示唆された。
現在観測領域の拡大を実施しており、星団中心領域との比較も行っている。
講演HK-15: 微惑星形成のためのダスト集積に対する磁場の影響
講演者名: 鍋田 春樹、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名:
標準的な惑星形成の過程ではμmサイズの固体微粒子(ダスト)が集積し、惑星の種であるkmサイズの小天体(微惑星)が作られると考えられている。この過程の実現には様々な障壁があるが、その一つが微惑星形成過程におけるダスト落下問題であり、ダストは円盤ガスからの抵抗力により角運動量を失って中心星に落下してしまい、十分集積して微惑星を形成できないという問題がある。
これまではダストが落下する前に赤道面へ沈殿したダストの層が濃集し、重力不安定で微惑星を作ることが提案されていたが、ダストの沈殿は原始惑星系円盤内の乱流により妨げられ、重力不安定を引き起こすには不十分だと指摘されている。
この乱流の起源のひとつは、原始惑星系円盤内の磁場によって駆動される磁気回転不安定性であると考えられており、磁場は乱流を強化しダストの濃集を妨げる要因とされてきた。しかし近年の研究(Xu & Bai, 2022)では、ダストの運動と磁場を同時に解いた数値計算により、磁場由来の圧力構造によりダストが濃集され、ダスト集積を促進する可能性が示されている。このように、磁場がダストの集積に与える影響については依然として明確な結論が得られていない。
本研究では、降着流によって作られた磁場構造を想定した初期条件でダストを含む磁気流体計算を行い、磁場とダストの空間分布の関係を調べた。その結果磁場がリコネクションを起こしてループ構造を作り、それにダストが閉じ込められて濃集する様子が確認された。本講演ではこの現象のメカニズムについてと、3次元的な構造や磁場の拡散を考慮した場合について議論する。
講演HK-16: Spitzer・JWSTデータに基づくT Tauri型星円盤の中間赤外線変光解析
講演者名: 鮫島 直人、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 宮田隆志(東京大学)、上塚貴史(東京大学)、相川祐理(東京大学)、本田充彦(岡山理科大学)
T Tauri型星は惑星形成中の前主系列星であり、可視光・赤外で数年スケールの変光が観測されている。また、これらの星の周囲には非晶質および結晶質シリケイトダストを含む原始惑星系円盤が存在し、中間赤外線スペクトルに見られるダストフィーチャーから、ダストの分布や結晶化過程に関する情報を得ることができる。こうした中間赤外線のスペクトル変光については、主にSpitzer Space Telescope(SST)の観測データを用いた研究が行われてきた。本研究では、T Tauri型星Sz 96とIP Tauを対象に、SSTおよびJames Webb Space Telescope(JWST)で得られた中間赤外線スペクトルの変光を解析した。両天体に対して、温度構造とダスト組成を含む簡易モデルを用い、SSTのIRS分光器およびJWST MIRI/MRS分光器の観測データにフィッティングを行い、約20年の変化を定量的に評価した。JWSTのデータは、ALMAによるDECO計画の後継として実施されたiDECOプログラム(PI: Ilse Cleeves)の一環で取得された。その結果、両天体の変光は、円盤内縁部の大きさの変化が中心星から円盤への輻射エネルギーに影響を与えることで生じていることが示唆された。また、両天体の変光の違いは、円盤タイプの違いによる可能性も指摘された。さらにダスト組成の解析では、結晶質シリケイトが非晶質シリケイトよりも低温で検出された。この結果は、結晶質シリケイトが円盤外側の低温領域に存在することを示しており、「中心星からのアニーリングで結晶化が起こり、結晶質シリケイトは円盤内側の高温領域に存在する」という従来の描像と矛盾する。このことは、ダストの円盤外部への輸送や、内縁部での再アモルファス化及び低温領域での結晶化プロセスが円盤内ダストの分布に影響している可能性を示唆する。
講演HK-17: ALMAによる超新星残骸W44超高速度成分Bulletの観測的研究
講演者名: 蒔田 桃子、所属: 慶應義塾大学、学年: M1
共著者名: 岡朋治、辻本志保(慶應義塾大学)
超新星残骸W44は、太陽系から約3 kpcの距離にあるII型超新星爆発の残骸であり、質量約3×10^5 M_sunの巨大分子雲と相互作用している。我々は、ミリ波サブミリ波帯分子スペクトル線観測に基づきこのW44分子雲の研究を行ってきた。その過程において、空間的に局在した極めて速度幅の広い超高速度成分(Bullet)を発見した。このBullet は0.5 pc×0.8 pc程度の大きさで、120 km s^−1 程度の極めて広い速度幅を有する。このBulletが持つY字状の空間-速度構造から、高密度分子層への点状重力源の高速突入過程が起源として提案された(Yamada et al. 2017)。そして想定される位置に対応天体が検出されていないことから、この点状重力源の候補として30 M_sun程度の孤立ブラックホールが有力視されている。
今回我々は、ALMA Cycle 4で取得されたBulletのCO J=3–2回転遷移スペクトル線データを再解析し、その詳細な空間速度構造を精査した。入念な像合成を行った結果、合成ビームサイズ1.55″×1.22″(0.0225 pc×0.0178 pc)のイメージを得た。このデータから、Y字構造の根元に南北方向に伸びる二本の細長いフィラメント状構造を発見した。これらのフィラメント構造は30 km s^−1 程度の速度幅を持ち、超新星衝撃波によって生じた高密度層と解釈される。これらとY字構造は滑らかに連結しており、上記突入シナリオの妥当性が確認される。一方で、Bullet周辺には、さらにコンパクトなV 字状空間速度構造(Petit-Bullets)が8つ発見された。これらは同様の過程で形成された可能性あり、突入天体が単一の点状重力源ではないことが示唆される。本講演では、新たに明らかになった事実を踏まえてBullet の起源を議論する。
講演HK-18: XRISMを用いた超新星残骸G349.7+0.2の精密X線分光観測
講演者名: 内田 敦也、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
8太陽質量を超える質量の星は恒星進化の最後に超新星爆発を起こし、合成した重元素を宇宙空間に放出する。超新星のあと数万年残る星雲状の天体を超新星残骸と呼ぶ。X線で超新星残骸を観測することでその組成や運動状態を調べることでき、爆発機構、衝撃波物理、プラズマ物理に迫ることができる。超新星残骸G349.7+0.2は地球から11–12 kpc離れた系内に位置しており(Yasumi et al. 2014)、約2800歳と比較的若く、非対称シェルを持つことが知られている(Slane et al. 2002)。X線帯域ではこれまでにASCA, Chandra, Suzakuなどの衛星で観測が行われてきた。これらの観測からMg, Si, S, Ar, Ca, Fe, Niといった偶数番元素の強い輝線が確認されている。また、奇数番元素は存在量が少なく通常は輝線の検出は困難だが、この天体ではAlの輝線も確認されている。これらの元素組成比から重力崩壊型超新星残骸と考えられているが、特に高いNi/Fe比(太陽組成の8倍, Yasumi et al. 2014)を持つことも報告されており、このことから標準的な重力崩壊型とは異なる爆発機構であった可能性もある。今回我々はG349.7+0.2を2023年9月に打ち上がった最新のX線天文衛星XRISMで観測した。XRISMの高いエネルギー分解能により、既に我々の解析ではSi, S, Ar, Ca, Feといった元素の輝線を微細構造に分解することに初成功している。これは以前から確認されていたHe様イオンの共鳴線に加えて禁制線や電離度の低い輝線などが見えている可能性を示唆している。これらの輝線からプラズマの運動状態や電離状態などをより正確に測定し、それらを元素間で比較することで爆発の非対称性などを含む三次元構造について考察する。加えて、Al以外の奇数番元素の輝線の兆候も確認しており、実際に観測できていれば数少ない実例となる。本発表ではこれらの解析結果を報告し議論する。
講演HK-19: Mg-rich 超新星残骸J0550-6823 と大マゼラン星雲におけるShell merger への示唆
講演者名: 久保池 結、所属: 明治大学、学年: M1
共著者名:
大質量星の最終進化段階において、殻燃焼とそれに伴う内部混合過程は、重力崩壊型超新
星爆発の条件を決定づける主要な因子の一つである。特に爆発数日から数時間で起こる内
部の核燃焼と混合の過程「Shell merger」は、爆発の成否に重大な影響を及ぼす可能性が
あるが、その内部で発生する劇的な核燃焼過程を超新星残骸の観測から確定させることは
困難であった。しかし近年、爆発後に残される超新星残骸の組成、特にMg-rich 超新星残
骸の観測がshell merger の存在を示唆する手がかりとなる可能性が指摘されている。本
研究では、Mg-rich超新星残骸の新たな候補天体である J0550–6823 に対し、X線観測お
よびスペクトル解析を行った。その結果、Mg/Ne の質量比が≈1 と高く、本天体がMg-
rich超新星残骸であることが確認された。 また観測結果と超新星爆発前のモデルの比較か
ら、J0550-6823 の親星は爆発前にShell merger を起こした可能性が高いことが示唆さ
れた。加えて、本天体を含め大マゼラン星雲内には少なくとも2〜3 個の Mg-rich 超新星
残骸が存在することから、大マゼラン星雲における大質量星の約 6〜28%が爆発前に
Shell merger を経た可能性がある。Shell merger は、Odd-Z 元素(K、Sc、Cl、P
等)の生成に寄与することが理論的に示されており、この過程は超新星爆発の物理的理解
に加え、銀河の化学進化の観点からも極めて重要である。実際、もし大質量星の約50%が
shell merger を経ると仮定すれば、銀河化学進化モデルにおいて観測されるOdd-Z 元素
の存在量を再現できる可能性がある。
講演HK-20: Tychonの超新星残骸における核燃焼層の反転とその形成過程
講演者名: 坪川 龍生、所属: 明治大学、学年: M1
共著者名:
Ia型超新星は、比較的軽量な恒星(約8 太陽質量未満)の進化の最終段階である白色矮星が起こす熱核暴走爆発であり、宇宙における中間質量元素や鉄族元素の主要な供給源として知られている。また、その明るさの均一性から、宇宙の距離測定に用いられる「標準光源」としても重要である。しかしながら、Ia型超新星の爆発メカニズムや元素合成過程には未解明な点が多く残されている。典型的なIa型超新星の残骸として知られるTychoの超新星残骸(SN 1572)においては、東縁部にFeを顕著に含み、他の中間質量元素は少ない特異な領域 「Fe knot」 が存在しており、爆発メカニズムへの関連性が議論されてきたが、その起源は未解決である。 そこで本研究では、高い角度分解能を誇るChandra衛星を用いて、詳細に構造分離したスペクトル解析を行い、このFe knotの形成過程を明らかにすることを目的とする。具体的には、Ia型超新星においてFeが合成されるSi燃焼領域の特性に着目し、Feが優勢な領域、FeとSiが混在する領域、Siが優勢な領域の3つに分け、それぞれに対してスペクトル解析を行なった。その結果、通常の超新星爆発ではSi完全燃焼領域がSi不完全燃焼領域より外側に存在する層構造の空間反転が生じていることが明らかになった。一方で、残骸の西側にはこのような反転構造は見られなかったことから、爆発時にFeに富む放出物がSi層を局所的に突き破った可能性が示唆される。本発表では、これらの詳細な解析内容と核燃焼層の逆転現象の起源に関して議論する。
ポスター講演
講演HP-01: 高速HIガス衝突によるYMC形成に対する恒星放射フィードバックの影響
講演者名: 坂元 いずみ、所属: 甲南大学、学年: M1
共著者名:
若い大質量星団(YMC)は若い星の密集した集合体であり、球状星団の前駆物質である可能性がしばしば推測されている。しかし、YMCに先立つ大質量でコンパクトなガス塊の形成メカニズムは不明のままである。本講演では、最近の観測で示唆されている高速HIガス衝突(∼100 km/s)によるそのような大質量星団の形成と、その後のYMCへの進化について、Maeda et al.によって行われた三次元磁気流体力学シミュレーション研究をレビューする。また、結果として生じる大質量星団がこの電離フィードバックを生き延びてYMCに進化できるかどうかを議論する。シミュレーションにより、かなりの質量(∼10^5 M_⊙)だけでなく、十分なコンパクトさ(∼5 pc)も備えたガス塊の出現が明らかになった。特に、これらの塊はHII領域の音速と比較して大幅に高い脱出速度を示しており、フィードバック誘起蒸発に対してガスが効果的に重力で保持されていることを示している。その結果、これらの条件により、巨大なガス塊内で効率的な星形成が促進され、最終的にYMCへの進化につながる。また、銀河のスーパーバブルによって引き起こされる典型的な衝撃速度である約15 km/sの低速ガス衝突を含むシミュレーションも実行された。高速衝突とは対照的に、1 cm^−3のガス衝突の場合には分子雲の形成は発生しないのに対し、10 cm^−3のより高密度のガスの存在下ではYMCの形成が観測されることが分かった。しかし、これらのケースでは、YMCの形成には10 Myrを超える圧縮期間が必要であり、YMCの形成には銀河のスーパーバブルではなく、銀河間相互作用によって引き起こされるガスの衝突が優先される可能性があることを示唆している。
講演HP-02: 遠方DLAにおけるDIB探査
講演者名: 稲井 天、所属: 信州大学、学年: M1
共著者名: 三澤透(信州大学)
星間空間には稀薄なガスや塵が存在しており、これらを透過した星のスペクトルには多数の吸収線が現れる。これを観測することで、星間物質の組成や物理状態に関する情報を得ることができる。中でも、分子雲を通過した光には「拡散星間帯」(Diffuse Interstellar Bands; DIBs)と呼ばれる広く浅い吸収線が検出されることが知られている。DIBsは1922年に初めて発見されて以来、現在までに約600種類が報告されているが、その多くは起源物質が未解明であり、天文学に残された長年の課題の一つとなっている。ただし、波長9577Åおよび9632Åに現れるDIBsについてはC_60フラーレンによるものと判明している。DIBを生じさせる物質は「DIBキャリア」と呼ばれ、有機分子や炭素系高分子が候補とされている。DIBsは銀河系に加えて近傍銀河でもいくつかの検出例があるが、遠方銀河 (z > 0.1) における報告は非常に限られている。
そこで本研究では、遠方銀河におけるDIBsの探索を通して、有機分子の形成過程や存在環境を解明することを目的とした。DIBsの存在が報告されているのは高密度ガス領域であることから、解析対象には同様の環境が必要となる。そこで遠方銀河の高密度環境に対応する「減衰ライマンアルファ」(Damped Lyman Alpha) 吸収線系におけるDIBsの探査を試みた。通常、DLAはLya吸収線を通して検出されるが、z < 2 では可視スペクトルでは検出できないため、代わりに強いMgII吸収線をDLA対応天体として扱った (Turnshek et al. 2005)。VLT/UVES で取得されたクェーサー15天体の可視高分散スペクトルを用いて、DLAに対応するDIBsの検出を試みたものの、明らかにDIBsと呼べるような吸収線は見られなかった。この結果は、遠方銀河におけるDIBキャリアの存在量が低い可能性を示唆するものの、一方で、解析波長領域 (6,000〜10,000Å)が大気吸収線の影響の影響を強く受けているという技術的な問題が原因かもしれない。今後は、詳細な大気補正を行うとともに、追観測なども実施して統計的に有意な研究に発展させる予定である。
講演HP-03: 銀河中心アーク構造解明に向けて:シンクロトロン冷却不安定性による縞状化
講演者名: 玉木 悠暉、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
天の川銀河中心付近に存在する直線的な電波構造である電波アークが, 実際には複数のフィラメント状構造から構成されていることが, VLAによる観測で初めて示された(Yusef-Zadeh et al. 1984)。さらに近年, MeerKATによる高解像度観測により, 銀河中心領域にフィラメント状構造の集団(フィラメント群)が非常に多数存在することが明らかになっている(Heywood et al. 2022)。
これらの銀河中心アーク構造は, 銀河面に対して垂直に見えるものが多く, 非熱的な電波放射を示すこと, またアークに沿った磁場が存在することが示唆されており, 銀河中心付近の磁場構造を探る上で極めて重要な天体である。しかし, その起源や形成過程を含め, 多くの点が依然として未解明である。
このフィラメント群の形成シナリオとしては, 一本のフィラメントが分裂して複数のフィラメントへと変化する縞状化(filamentation)が提案されている。その起源としては, フィラメントとコンパクト電波源などとの相互作用, あるいはシンクロトロン冷却不安定性が提案されている。
本講演では, 数値シミュレーションによってシンクロトロン冷却不安定性による縞状化についての研究結果を発表し, 観測により決定された典型的なフィラメント縞状構造の間隔(Yusef-Zadeh et al. 2022)との比較を行う予定である。
講演HP-04: 可視分光観測による高銀緯分子雲における星形成探査
講演者名: 高山 颯太、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名: 大朝 由美子(埼玉大学)
星は分子雲で形成される。分子雲内のガス・ダスト密度の大きい分子雲コアが収縮し、原始星、前主系列星に進化し、やがて主系列星となる。前主系列星の中には、Hα輝線、Li吸収線、紫外/赤外超過、X線放射、変光などを特徴にもつT Tauri型星(TTS)が存在する。TTSは主にガス・ダスト密度の高い分子雲で多く観測されている。一方、ガス・ダスト密度が小さい高銀緯(|b|>30°)の分子雲ではTTSの観測例が少なく、星形成がどのように起きているのか、わかっていないことが多い。
高銀緯分子雲での星形成について探ることを目的として、先行研究(平塚 2018、佐々木 2021など)で、ハワイ大学2.2m望遠鏡と広視野グリズム分光撮像装置(WFGS2)を用いたスリットレス可視分光観測から、高銀緯分子雲MBM01〜03、16、24、53〜55 においてHα輝線の有無を手がかりに約60天体のTTS候補天体が同定された。HR図で求めたTTS候補天体の質量と年齢から、高銀緯分子雲では、軽い天体が形成されやすく、銀河面付近の分子雲と比べて星形成が進んでいることが示唆された。
本研究では、先行研究で同定されたTTS候補天体に対して、兵庫県立大学西はりま天文台なゆた望遠鏡と可視光中低分散分光器(MALLS)を用いてロングスリット分光観測を行なった。観測された46天体のうち21天体の解析を行い、17天体でHα輝線が同定された。これらのスペクトル型は全てM型であり、Hα輝線等価幅は、先行研究と本研究ともに10Åよりも小さく、そのうち13天体のスペクトル型が誤差の範囲で一致した。また、この 17のTTS候補天体について、スペクトル型から求められた有効温度と、測光値から求められた輻射光度から、HR図上で低質量星の理論進化モデルと比較した。結果、これらの質量が0.5 M⊙ 以下で、年齢が1.5〜30Myrであることから、未同定のTTSであり、上述の高銀緯分子雲で星形成が起きていることが確認された。これらの高銀緯分子雲での星形成について議論する。
講演HP-05: VAEを用いたMWA可視化データの特徴抽出とクラスタリング解析
講演者名: 森本 鉄平、所属: 熊本大学、学年: M1
共著者名:
本研究では、MWA(Murchison Widefield Array)による21cm線観測データ(visibility)に対し、変分オートエンコーダ(VAE)を用いた特徴量抽出を試みる。VAEは生成モデルの一種であり、非線形かつ柔軟な次元圧縮が可能である点で、従来のPCAなど線形手法とは異なる潜在的構造を捉える可能性を持つ。まず、MWAから取得した生データを、電離層のゆらぎや望遠鏡の装置的な応答(ゲイン)の影響を補正するために、ハイパードライブを用いてキャリブレーションを行う。その後、得られたキャリブレーション後のvisibilityデータをVAEに入力し、潜在空間上の変数を抽出する。抽出された潜在変数のうち、従来の統計量(平均値や分散など)では説明が困難な軸に注目し、その分布構造をk-means法などのクラスタリング手法により解析する。また、各クラスタごとにパワースペクトルを計算し、潜在変数が物理的特徴(例:前景成分、観測系ノイズ、宇宙論的信号)とどのような関係を持つかを探る。これにより、VAEによる非線形特徴抽出がEoR信号の解析に有効であるかどうかを検証し、将来的なデータ駆動型前処理・分類手法としての応用可能性を評価する。
講演HP-06: 分子輝線を用いた近傍低質量分子雲の星形成
講演者名: 奈良﨑 裕汰、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
星は、分子雲内の高密度コアから形成される。星形成の標準的な方法は、高密度コアが分裂を起こすことによって生成されると考えられている。また、分子雲のコアの形成方法は、理論的には重力による分裂が重要な役割を果たすと考えられているが、観測データに基づいて確かめられているわけではない。近年のアルマ望遠鏡の観測では、高質量の星団形成が熱的なジーンズ分裂と同等のスーケルで起きているようにも見えてはいるが、乱流の役割を真剣に取り扱っているものは限定的である。分子雲内でのコア形成機構を理解するには、観測データに基づいた検証が必須である。例えば、へびつかい座などの近傍低質量分子雲では、高密度コアが重力的に束縛されておらず、外圧によって閉じ込められていることが判明している。そのようなコアは重力分裂からはできにくい。そのため、このプロセスの物理的なメカニズムについては、観測的な観点からは十分に解明されていない。
本講演では、Ishihara &Nakamura et all(2025)を中心にレビューし、近傍分子雲内のコア形成について議論する。
講演HP-07: 降着円盤からの磁気流体的流れと電波ジェットの生成
講演者名: 槻木 勇大、所属: 九州大学、学年: M1
共著者名:
星形成領域においては、原始惑星系円盤からのジェットやアウトフローが観測されており、その構造解明は現在も精力的に進められている。近年では、ALMAによる高感度・高分解能の分子輝線観測に加え、JWSTやすばる望遠鏡による赤外・近赤外観測により、円盤の微細構造やその近傍のガス流を捉えることが可能になってきた。一方、理論的研究では、Ideal MHDに基づく数値シミュレーションや線形安定性解析などが盛んに行われており、円盤-ジェット系の物理的理解が深化しつつある。
本講演では、ジェット形成機構の理論的基盤を築いた古典的研究(Blandford & Payne 1982)[1]をレビューする。同論文では、ケプラー運動に従う降着円盤から磁力線を介して運動エネルギーおよび角運動量が外部に輸送される機構について、軸対称・自己相似な冷たい磁気流体流を仮定し、Ideal MHD方程式の解析を通じて定量的に検討している。その結果、磁力線が円盤面に対して60°未満の角度をなす場合、遠心力による物質のアウトフローが可能であることが示された。
さらに、円盤から十分離れた領域では、トロイダル磁場成分が卓越し、流れをコリメートすることで、円盤面に垂直な反平行の双極ジェット構造が自然に形成される。一方、円盤近傍では、高温かつ磁気的に支配されたコロナにおけるガス圧が、物質流出の駆動要因であることも示唆されている。また、このモデルでは、ジェットの大部分が中心星付近に集中する一方で、角運動量および磁束の多くはジェットを通じて輸送されるという特性を持つことが明らかにされており、これは活動銀河核や系外銀河における電波ジェット形成機構の理解にも重要な示唆を与えている。
本レビューを通じて、ジェット・アウトフローのスケール依存性や、理論モデルにおけるパラメータ制御の問題に対する考察を深めることを目的とする。
[1]Blandford, R. D. & Payne, D. G., 1982, MNRAS, 199, 883-903
講演HP-08: 高速度分子雲と銀河系円盤の相互作用の理論的研究
講演者名: 猪又 香菜穂、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
我々の天の川銀河の円盤では,約100億年にわたって恒常的に星形成が行われてきたことが観測的に示されており,その星形成率は年間およそ3太陽質量程度と推定されている.しかし,円盤内に存在するガスの総量は太陽質量の十億倍程度しかない.そのため、円盤内のガスだけでは,これほど長期間にわたる星形成を維持することは困難であり,外部からのガス供給が必要である.
そのようなガスの供給源の候補となるのが,円盤方向へ向かう大きな視線速度成分を持つガスとして観測されている高速度雲(High Velocity Clouds; HVC)である.これらのHVCは銀河ハローに起源を持つと推定され,円盤へガスを供給する役割を果たしている可能性がある.特に,低温・高密度な中性水素(HI)ガスからなるHVCが銀河面に到達すれば,それらは星形成の材料となり得る.
そこで我々は,高速で落下するHVCが銀河面に衝突・合流した際に,円盤内のガスとどのように相互作用するかを研究し,それが星形成史に与える影響を明らかにすることを目指すことにした.解析にあたっては,ガスの加熱・冷却過程に加え,磁場や宇宙線の影響も考慮に入れた包括的な考察を行う.
講演HP-09: 分子雲コアにおける有機高分子形成過程の化学反応シミュレーション
講演者名: 伊藤 大佑、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名:
長年の研究により隕石中から様々なアミノ酸が検出されており、このことは有機高分子が星間空間で形成されうることを強く示唆している。生命の起源となった有機分子も、こうした化学反応によって生成され、隕石として原始地球にもたらされた可能性が高い。しかしながら、これら有機分子の具体的な反応経路と各反応の相対的な重要性はいまだ明らかになっていないため、化学反応シミュレーションによってこれを推定するアプローチがとられている。本発表ではその先行研究としてSuzuki et al. (2018)[1]をレビューする。この研究では、星間分子雲コアのウォームアップ段階における気相およびダスト上の化学反応を数値的に解析し、グリシンの主要な反応経路の解明を試みている。その結果として、気相におけるグリシン形成反応や高運動エネルギーをもつ水素原子H*を介した反応が重要であることが示唆されているが、グリシンの脱離エネルギーやH*の物理的特性については不確かな点が多く、今後の課題として残されている。本発表では、これら先行研究における課題について議論するとともに、我々が行っているキラルを持つアミノ酸アラニンの形成シミュレーションについても紹介する。
[1] Suzuki et al. 2018, ApJ, 863, 51
講演HP-10: 新しい輻射流体計算手法の開発と木星質量連星形成過程の理論的研究
講演者名: 内海 秀介、所属: 名古屋大学、学年: M2
共著者名: 犬塚 修一郎
近年,ジェイムス=ウェッブ宇宙望遠鏡によってトラペジウム星団内で木星質量連星(JuMBO)が多数発見された.その大きな頻度は既存の星形成・惑星形成理論では予想されていなかった.このため,JuMBOsの形成過程の解明は,近年の理論天文学における挑戦的な課題となっている.本年,Nature誌でJuMBOsの新しい形成メカニズムが提案され,隣接する星~~間~~周円盤間の潮汐相互作用によって形成されたフィラメント状ガス構造の重力崩壊がJuMBOの形成につながることが示唆された.しかし,彼らの流体力学シミュレーションは等温性を仮定しており,分裂スケールを決定する上で不可欠の圧縮加熱と放射冷却を組み込んでいなかった.そこで本発表では,Godunov Smoothed Particle Hydrodynamics法に精密な輻射輸送モジュールを組み込んだ新しい数値計算法を紹介し,JuMBOsの形成メカニズムについて報告する.
講演HP-11: 原始惑星系円盤進化を考慮した巨大惑星形成の理論的研究
講演者名: 淺井 朗人、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 小林浩(名古屋大学)
星の形成と共に形成される原始惑星系円盤は、惑星が形成される⺟体となる。円
盤の構造や進化は惑星の形成や最終的な惑星質量や軌道に⼤きな影響を与える。
特に、円盤ガス⾯密度分布は、惑星の成⻑過程、移動、最終軌道の配置などを左
右する重要な要素となる。
本研究では、原始惑星系円盤のガス⾯密度進化が惑星形成に与える影響を評価す
るために、まずは乱流粘性による拡散や光蒸発や磁気円盤⾵による散逸を考慮し
た円盤ガス密度進化の数値計算を行う。最初に、乱流粘性による⾓運動量輸送を
考慮した数値計算を行った。この問題は解析解があるが、数値解によりそれを再
現することに成功した。次に、円盤外縁部における紫外線やX線による光蒸発モ
デルに基づき、光蒸発による散逸項を追加したモデルの検討と数値計算への導入
を進めている。さらに、円盤進化の結果をもとに、円盤内で形成された固体核へ
のガス降着とII型惑星移動を考慮した巨大ガス惑星の質量と軌道の関係について
も議論したい。
講演HP-12: 地球のH–C–N–S起源に対する月形成衝突体の寄与:Grewal et al. (2024) の紹介
講演者名: 花沢 泰光、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
地球のマントル・地殻・大気圏(BSE)に存在する,生命に不可欠の揮発性元素(水素・炭素・窒素・硫黄:H–C–N–S)の起源は未解明である.本公演で紹介するGrewal et al.(2024)では,地球のH–C–N–Sがいつ・どのように取り込まれたかという問題に対して,月形成衝突体(Moon-forming impactor: MFI)の寄与を明らかにすることを目的に,これら元素のコア・マグマオーシャン(MO)・大気間における化学平衡分配をモデル化している.
計算の結果,MFI内部のH–C–N–Sは主にコアとMOから脱ガスされた大気に分配されると示された.一方で,MFIの大気は衝突以前に失われていた可能性が高いことが,本研究とは独立した惑星形成モデルや大気散逸シミュレーションから示唆されている.したがって,BSEに供給された揮発性元素は衝突後に地球のMOと再平衡したMFIコアの一部に由来すると推定される.BSEの観測量を説明するには,MFI全体が炭素質コンドライトの持つ50%程度の揮発性成分を含んでいる必要がある.しかしMFIは分化・熱変成を経た微惑星から形成されたと考えられており,これらの過程ではH–C–N–Sが失われやすいことが隕石記録や加熱実験から示されている.すなわち,MFIがそのような高濃度の揮発性成分を保持していた可能性は低い.
このため,BSEの揮発性元素の多く(特にHとC)は,月形成以前の地球に取り込まれBSEで保持されていた可能性が高いと結論づけている.
講演HP-13: 岩石の吹き飛ばしを考慮した彗星から小惑星への進化モデル
講演者名: 田中 麻里菜、所属: 名古屋市立大学、学年: M1
共著者名: 三浦均(名古屋市立大学)
太陽系に存在する小天体である彗星と小惑星は、前者は主に氷からなり、後者は主に岩石からなるとして、古典的には明確に区別されてきた。また、彗星は太陽に近づいて氷が昇華することで長大な尾が生じるなどの活動性(彗星活動)を示す一方で、小惑星はこのような活動を示さない。しかしながら近年では、小惑星的な軌道をもちながら彗星活動を示す活動的小惑星などが発見されたことにより、両者の境界が曖昧になりつつある。その原因の一つとして、彗星が小惑星へと進化する過程の存在が挙げられる[1]。
彗星の核が太陽光で加熱されると、内部の氷が昇華し、宇宙空間へと流出する。氷が完全に昇華した後には、氷のなかに埋もれていたわずかな岩石が残される。従来の進化モデル[2,3]では、水氷と岩石の欠片が一様に分布した多孔質な球状の彗星核から水氷が失われ、残された岩石が彗星核の重力により集積して彗星核全体が収縮し、最終的に岩石のみからなる小惑星へと至る過程が調べられた。しかし、従来の進化モデルは、流出する水蒸気によって岩石が吹き飛ばされる過程を考慮していなかった。水蒸気流が岩石に及ぼす抗力が彗星核の重力よりも強い場合、その岩石は彗星核から吹き飛ばされる。これは、彗星核の長期進化に大きな影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、水蒸気流に巻き込まれた岩石の彗星核内部における移動、および、彗星核表面からの放出をモデル化し、彗星核の長期進化の数値計算を実施した。計算の結果、小さい岩石は水蒸気流に巻き込まれて吹き飛ばされてしまい、大きい岩石のみが彗星核表面に集積することが明らかとなった。この結果は、彗星核から進化した小惑星の表面は、そうでない小惑星と比べ、より大きな粒子で覆われていることを示唆している。
[1] 脇田茂, 瀧哲朗, 伊藤孝士. (2019). 日本惑星学会誌 遊・星・人, Vol 28, No.2, pp.124-139.
[2] Miura, H. et al. (2022), ApJ. 925, L15.
[3] Yasuda, T. and Miura, H. (2025), PASJ, in press.
講演HP-15: 時間進化する原始惑星系円盤ガスのもとでの軌道移動を考慮した地球型惑星形成に関するN体計算
講演者名: 西村 一明、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
近年の観測により、系外惑星系では数地球質量程度のスーパーアースが0.1〜1 auの近距離に多様に分布することがわかっている。この多様な分布を説明する理論の一つとして、1 au付近の微惑星リングで形成された原始惑星が、原始惑星系円盤内での軌道移動であるType I migrationにより内側に移動し、最終的に観測されるような系外惑星系を形成するというシナリオがある。本発表ではこの理論に注目する。
一方で、このような形成過程は太陽系には必ずしも当てはまらない。太陽系の地球型惑星は、主に1 au付近に質量が集中しており、水星(〜0.3 au)より内側には惑星が存在しないため、内側への強い軌道移動があったとは考えにくい。Type I migrationはガス円盤の面密度勾配、温度勾配によって向きと速度が変化するため、この異なる性質の惑星系を形成する一つの方法は異なる円盤モデルを用いることである。
Ogihara et al.(2024)は、円盤風や光蒸発を含む円盤モデルを用い、1〜1.5 auにリング状に配置された微惑星からの惑星形成と軌道移動をN体計算により検証した。その結果、円盤進化に伴って1 au付近にガス密度のピークが形成された。Type I migrationの結果、微惑星総質量が2地球質量程度の系では惑星は1au付近に収束して太陽系を再現し、20地球質量程度のスーパーアース系では惑星は内側にゆっくりと移動し、観測結果と一致する結果が得られた。
Ogihara et al.(2024)では初期微惑星を大型のエンブリオとしているが、初期の微惑星質量が変わると合体成長のタイムスケールが変わり、 結果に質的な影響を与える可能性がある。本発表では、Ogihara et al.(2024)の研究内容をレビューした上で、先行研究と同じガス円盤モデルを用いながら、初期条件として微惑星の初期質量を小さく設定したN体計算の結果を紹介する。
講演HP-16: 固体天体の衝突シミュレーションを用いた惑星形成段階における微惑星の衝突特性の理論的研究
講演者名: 塩谷 大成、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
惑星は、微惑星が衝突・合体を繰り返すことで形成される。衝突の結果、合体できるのかは惑星形成において非常に重要である。微惑星の衝突特性を知るために、微惑星の生き残りの可能性のある小惑星に注目すると、小惑星は多様な形状を持つことが観測されている。衝突の結果どのような形状の小惑星ができるかは衝突速度に依存しており、一部の形状の小惑星は惑星形成段階の低速衝突でしか形成できないことが指摘されている。したがって、固体天体の衝突をシミュレーションし小惑星と比較することで、惑星形成に重要となる微惑星の衝突特性に迫ることが可能になる。まずは、固体天体の衝突を調査するために、弾性体力学に基づき、岩石の破壊、損傷を表すモデルを導入したSPH法を開発したSugiura et al. (2018)を紹介する。さまざまな衝突初期条件の衝突シミュレーションにより、この論文ではさまざまな形状の小惑星が再現できることを示した。このような形状は、弾性体力学に加えて、破片間の摩擦が考慮されることで再現されている。本研究では、この論文での衝突シミュレーションの再現を目指し、SPHコードの開発を行った。そのコードにより、衝撃波菅問題をシミュレーションし、解析解を再現した。さらにSugiura et al. (2018)のコードを用いてシミュレーションを行い、衝突モデルの再構築を目指す。
講演HP-17: 地球接近小惑星の広視野動画観測と近紫外線観測で迫る地球の水の起源
講演者名: 長澤 春香、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 酒向重行、和田空大、瀧田怜(東京大学)、紅山仁(Observatoire de la Côte d’Azur)
地球には大量の水が存在するが、地球はスノーラインの内側で誕生したため水はほとんどなかったと考えられている。
地球の水の起源は解明されていないが、水を含む小惑星が地球に衝突したことで地球に水が運ばれてきたとする説がある。
多くの小惑星は火星と木星の間のに分布しており、メインベルト小惑星と呼ばれている。これらの小惑星は太陽系が形成時の姿が残されていると考えられている。その中にはスノーラインの外側の軌道をもつ小惑星(C型)があり、水や有機物が検出されている。
メインベルト小惑星が軌道を変えることで地球に近づくと考えられ、地球の軌道に近づく(近日点距離が1.3 a.u.以下)小惑星は、地球接近小惑星(NEA)と呼ばれる。
東京大学木曽観測所の105 cmシュミット望遠鏡のTom-e Gozenカメラでは地球接近小惑星の観測や新規発見が行われている。また現在、近紫外線(uバンド)の波長帯で観測計画が行われており、本発表ではこれらの観測の概要や結果などについて話す予定である。
講演HP-18: PeVatron探査の現状とCTAOによる展望
講演者名: 森田 開、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
銀河系内において宇宙線をPeV帯域まで加速させることが出来る天体をPeVatronと呼ぶ。その正体は未だ明らかになっておらず、PeVatron探査の手法の一つとしてガンマ線観測による研究が行われている。このPeVatronの候補として代表的な天体が、超新星残骸である。超新星残骸の衝撃波は、宇宙線を効率よく加速することが示唆されており、磁場の増幅によりPeV帯域まで加速できる可能性が指摘されている。しかしながら、超新星残骸のガンマ線観測から推定される宇宙線のエネルギーはPeVに届いておらず、超新星残骸がPeVatronであることの直接的な証拠は見つかっていない。また、ガンマ線観測でPeVatronを特定するには、ガンマ線がハドロン起源によるものか、あるいは電子(レプトン)起源によるものか識別する必要がある。この課題の解決のために、ガンマ線放射のエネルギースペクトルと空間分布の詳細な解析が求められる。そこで、次世代ガンマ線天文台として解像型大気チェレンコフ望遠鏡のCherenkov Telescope Array Observatory(CTAO)が現在建設中である。CTAOは20 GeVから300 TeVまでのエネルギー帯域をカバーし、高感度・高精度・高統計での観測が可能であるため、PeVatron特定への貢献が期待される。本講演では、PeVatron探査の成果と課題を整理し、特に超新星残骸に焦点を当てたCTAOによる展望を発表する。
講演HP-19: XRISM衛星Resolveを用いたKepler’s SNRまでの距離推定
講演者名: 秋田 桜佑、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名:
タイトル:XRISM 衛星 Resolve を用いた Kepler’s SNR までの距離推定 発表者: 秋田桜佑 Ia 型超新星爆発は、白色矮星の核暴走によって引き起こされる現象であり、標準光源として距離測定に使用 されることから、宇宙論的に非常に重要な天文現象である。しかし、親星の正体や爆発時の親星の質量や燃焼 波の伝わり方など爆発メカニズムの詳細にはいまだ不明な点が多く残されている。爆発メカニズムの違いは爆 発時の絶対光度に影響を及ぼすと考えられている。そこで、詳細観測が可能な銀河系内の Ia 型超新星残骸に おいては個々の超新星の絶対光度を推定することが爆発メカニズムを解明する手段の一つになる。そして絶対 光度の推定には天体までの距離を正確に知ることが必要である。 本研究では、Ia 型超新星として知られる Kepler 超新星残骸の北部領域のプラズマの膨張速度を X 線観測に よって測定し、天体までの距離を推定した。観測には従来の X 線 CCD カメラよりも 20 倍優れたエネルギー 分解能を有する X 線マイクロカロリーメーターを搭載した XRISM/Resolve を用いた。解析には 1.8–6.0 keV の帯域において非平衡電離衝突プラズマに輝線の速度分散をを考慮した bvvpshock モデルを使用した。また、 シェルの膨張を考慮するため RedShift と BlueShift の 2 成分を仮定して fitting を行った。データ解析の結 果、北部領域のドップラー速度の RedShift 成分は 680+250 −260 km/s、BlueShift 成分が 2200 ± 260 km/s と得た。 爆発噴出物が球対称的に膨張すると仮定し、また今回のスペクトル解析領域が残骸の最外縁に位置することを 考慮に入れ、爆発噴出物シェルの膨張速度を見積もると、2400+420 −440 km/s となる。これと Chandra 衛星によ る北部領域の proper motion の観測結果 0.073”(Coffine et al.2022) を組み合わせることで、天体までの距離 を 5.6 ± 1.0 kpc と推定した
講演HP-20: 超高速3次元流体シミュレーションを用いたIa型超新星残骸における多様性の起源の調査
講演者名: 藤丸 祐生、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名: Shiu-Hang Lee, Gilles Ferrand, Shigehiro Nagataki, Rüdiger Pakmor, Daniel Patnaude, Friedrich K. Röpke
超新星残骸とは、爆発放出物が星間物質との間に衝撃波を形成し、ガスが加熱されることで光る天体である。超新星残骸は3次元的構造を持つ天体であり、その構造の非対称性の由来を探ることは、観測されている細部にわたる構造を再現・理解するうえで重要である。非対称性の由来については、爆発時に備わっていた爆発放出物由来なのか、それとも爆発放出物より外部の環境によるものなのかがよく分かっていなかった。しかし、近年、3次元流体シミュレーションに基づき、爆発放出物自体の3次元モデル由来の非対称性が見えることが分かってきた。Ferrand et al. (2019) では、代表的なIa型超新星残骸Tychoに見られる3次元的構造を爆発放出物由来で再現している。また、Ferrand et al. (2021) では、4つの異なるIa型超新星の爆発モデルの違いが超新星残骸の構造にも残されることを示した。
また、超新星残骸が放射するX線スペクトルは元素組成や速度情報を含んでおり、親星の特徴を理解する上で重要である。XRISM衛星の登場により、高分解能X線スペクトルが観測され、超新星残骸における3次元構造のスペクトルへの効果が十分に観測できるようになっている。そのため、3次元効果を含むX線スペクトルのシミュレーションの重要度が増している。
そこで、我々は3次元流体シミュレーションを用いて一様密度環境下における6つのIa型超新星残骸の進化を計算した。そして、3次元効果を含んだIa超新星残骸のX線スペクトルを生成した。また、これらの流体計算やX線スペクトルの解析も行っている。
本公演では、3次元流体シミュレーションとX線スペクトル生成の結果を紹介し、その解析結果について議論する。また、Ia型超新星残骸の親星制限の可能性を示し、今後の展望についても議論する。
講演HP-21: 微惑星リングにおける原始惑星の寡占的成長
講演者名: 神原 祐樹、所属: 東京大学、学年: D2
共著者名: 小久保英一郎(国立天文台)
惑星形成の標準シナリオでは、惑星のビルディングブロックである微惑星は円盤全体で形成し、雪線を除いてなめらかに分布していると仮定されている。微惑星の成長過程についても、この仮定の下で理論が構築されてきた。一方で近年、原始惑星系円盤におけるダストとガスの進化のモデル計算により、微惑星形成がリング状の領域でのみ起こる可能性が示唆されている。また、原始惑星を細いリング状に配置すると太陽系の性質を良く再現するというシミュレーション結果や、原始惑星系円盤におけるリング状の構造の観測など、惑星形成過程におけるリング状の構造の存在を支持する結果も数多く存在する。惑星形成過程の理解を深める上で、微惑星リングにおける微惑星の進化過程の解明は重要な要素であるが、その進化については詳細に調べられていない。本研究では、微惑星がリング状に分布している場合の進化をN体シミュレーションで調べた。
シミュレーションの結果、微惑星の拡散によってリングが拡散しながら原始惑星が寡占的成長をすること、最終的なリング幅や原始惑星分布は初期幅にほとんど依存しないことが明らかになった。さらに、拡散する微惑星リングにおいても、原始惑星質量や軌道間隔などの性質は、拡散後の微惑星面密度と寡占的成長モデルを使って予言できることが明らかになった。微惑星の拡散過程において、原始惑星の形成まではリングの拡大速度は比較的遅く、原始惑星の形成後は効率よくリングが拡大した。これは、原始惑星による微惑星の散乱は微惑星どうしの散乱より効率よく微惑星の軌道を変化させるためである。