
アブスト:銀河・銀河団分科会

口頭講演
講演GK-01: COSMOS領域のz:0.5~1.0における大規模構造と銀河の関係について
講演者名: 團 遥希、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名: 鍛冶澤 賢(愛媛大学)
大規模構造は観測可能な宇宙において最大規模かつ普遍的な構造であり、銀河形成論的観点において銀河の質量集積過程や銀河を構成する星の材料となる冷えたガスの供給過程と密接に関係している可能性がある。しかしながら、大規模構造フィラメントまでの距離に対する銀河の性質は、近傍宇宙ではよく調べられているが、銀河がより若い昔の時代ではあまりよくわかっていない。
そこで本研究では、z=0.5-1.0の時代で銀河の星形成活動や星の平均年齢が大規模構造までの距離によってどのように振舞うのかを星質量別に調査した。具体的には、多波長カタログの COSMOS 2020を使ってSED fittingを行うことで推定された赤方偏移、星質量、比星形成率の情報を使用し、i<25(AB等級)の天体の中から赤方偏移𝑧=0.5~1.0、星質量𝑀𝑠≥10^9.5M_sunの条件でサンプルを選出した(30167 天体)。加えて同カタログの天体に関して,赤方偏移𝑧=0.5~1.0、星質量Ms≥10^9.5M_sunの範囲で周囲の銀河の数密度を計算して大規模構造のトレースに用いた。銀河の数密度は天球面上で半径3Mpcに入った天体を奥行方向に注目している銀河と同じΔz=0.01のスライスに入る確率を重みにカウントすることで求めた。大規模構造の軸を捉えるための数密度分布の峰の条件として空間二次微分を要素に持つヘッセ行列の最小固有値𝜆が負値でかつ絶対値が銀河数密度の0.05倍より大きいこと、数密度分布の峰に対して垂直に横切る方向の数密度勾配の絶対値が数密度自身の値の0.05倍以下であることを課した。 結果として、大質量銀河では構造の軸から大きく距離が離れるほど星形成が活発になる傾向が見られた。特にMs>10^11.0M_sunの銀河では、構造までの距離が1Mpcより小さい銀河のSSFRの中央値は1.0~3.0*10^-11yr^-1で推移しているが、距離が1Mpcを超えるとSSFRの中央値は増加し、5Mpcでは~10^-10yr^-1ほどになる結果となった。
この時代のMs>10^11M_sunを超える大質量銀河は星形成が不活発な銀河が多いが、それは大規模構造に近い距離にあることが要因かもしれない。
講演GK-02: JWSTとALMAで探る、高赤方偏移銀河MACS1149-JD1の星間媒質
講演者名: 照井 禅、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 橋本 拓也(筑波大学)、井上昭雄(早稲田大学)、田村陽一(名古屋大学)、吉田直紀(東京大学)、松尾宏(国立天文台)、札本佳伸(千葉大学)、萩本将都(名古屋大学)、菅原悠馬(早稲田大学)、馬渡健(早稲田大学)、橋ケ谷武史(京都大学)、仲里佑利奈(東京大学)、大曽根渉(筑波大学)、長井悠(筑波大学)、髙岸優希(筑波大学)、濱田朝晃(筑波大学)
銀河の形成と進化を理解するためには、遠方銀河の観測を通じて星間媒質の物理的性質を調査することが重要である。特に近年、James Webb Space Telescope (JWST) と Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) により、遠方銀河の詳細な観測が可能となった。MACS1149-JD1 は赤方偏移 z = 9.11 に位置し、JWST と ALMAによる高分解能観測が行われてきている銀河である。これまでの研究から、この銀河内部には複数の異なる成分が存在し (Bradac et al. 2024, Alvarez-Marquez et al. 2024)、また、南北で異なる速度構造が確認されている (Tokuoka et al. 2022, Marconcini et al. 2024)。
本研究では、JWST NIRSpec IFU と ALMA による高分解能の面分光観測を組み合わせ、MACS1149-JD1 の星間媒質の物理性質を多波長で解析した。その結果、JWST による [O III] λ5008 と ALMA による [O III] λ88 μm の輝線比から推定された電子密度は、[O II] λ3727/λ3730 の輝線比から推定された電子密度と1σの誤差を考慮しても一致しないことが示された。また、JWSTのIFUデータの解析により南北に約100 km/sの速度勾配が検出され、この速度勾配により[O II] λ3727とλ3730輝線の分離が困難となり、電子密度推定に影響を及ぼす可能性が示唆された。本公演では、これらの解析結果に基づいて議論を行う。
講演GK-03: JWST IFUデータで探る異常なバルマー輝線比を示す高赤方偏移銀河RXC J2248-ID3の性質
講演者名: 濱田 朝晃、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 橋本拓也(筑波大学)、井上昭雄(早稲田大学)、田村陽一(名古屋大学)、吉田直紀(東京大学)、松尾宏(国立天文台)、札本佳伸(千葉大学)、萩本将都(名古屋大学)、菅原悠馬(早稲田大学)、馬渡健(早稲田大学)、橋ケ谷武史(京都大学)、仲里佑利奈(東京大学)、大曽根渉(筑波大学)、長井悠(筑波大学)、照井禅(筑波大学)、髙岸優希(筑波大学)
近年のJWST観測により、遠方銀河の性質が詳細に明らかになるとともに、新たな研究課題も浮上している。その代表例が、バルマー輝線比がダスト減光だけでは説明できない異常な値を示す天体(Anomalous Balmer Emitters; ABEs)の存在である。バルマー輝線比はダストによる減光補正を通じて銀河の物理量測定に影響するため、ABEsの物理的起源の解明は重要課題である。しかし、これまでJWSTによって報告されたABEsは全てスリット分光観測によるものであり、面分光による観測例は報告されていない。スリット観測はスリットから漏れた光の人為的補正により不定性を伴う。ABEsのような未知の性質を持つ天体を理解するためには、銀河の全領域からの放射を捉え、銀河を空間分解して調べられる面分光観測による解析が不可欠である。
本研究では、JWSTのスリット分光でABEsの兆候が示されていたz ≈ 6.1の銀河RXC-J2248-ID3に対し、NIRSpec 面分光データを用いた詳細な解析を行った。得られたバルマー輝線比には、これまで報告されてきたような異常値は確認されず、本天体がABEsに分類されない可能性が示された。一方で、Hα/Hβから推定される減光量と、Hγ/HβおよびHδ/Hβから得られる減光量との間に不一致が見られた。この不一致は、Hαにのみ寄与するブロード成分の影響による可能性が高いと考えられる。
速度マップおよび速度分散マップの解析から、本天体には明瞭な速度勾配が存在することが確認された。また、許容線Hαに加え禁制線[OIII]λ5008 ÅにおいてFWHM ≈ 330 km/sのブロード成分が検出され、AGN起源の可能性は低いと示唆された。
本講演では、これらの結果に加え、輝線比マップや物理量マップを用いた解析を通じて、面分光観測によるABEs研究の展望について議論を深める。
講演GK-04: 可視光+遠赤外観測による電離酸素輝線を用いた銀河の星間媒質の多波長解析
講演者名: 髙岸 優希、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 橋本 拓也(筑波大学)、井上 昭雄(早稲田大学)、田村 陽一(名古屋大学)、吉田 直紀(東京大学)、松尾 宏(国立天文台)、札本 佳伸(千葉大学)、萩本 将都(名古屋大学)、菅原 悠馬(早稲田大学)、馬渡 健(早稲田大学)、橋ケ谷 武史(京都大学)、仲里 佑利奈(東京大学)、大曽根 渉(筑波大学)、長井 悠(筑波大学)、照井 禅(筑波大学)、濱田 朝晃(筑波大学)
銀河がどのように形成され進化してきたのかを明らかにするためには、銀河の昔の姿、すなわち遠方にある銀河の詳細な調査が不可欠である。本研究では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の面分光データ、及びアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)の観測データを活用し、z = 6.3 に位置するライマンブレイク銀河 SDF-LBG-ID34 に対して静止系可視光+遠赤外線にある輝線を組みあわせた多波長解析を行った。具体的には、本天体を4つの領域に分割し、それぞれの輝線フラックスを用いて、銀河の場所ごとの星間媒質の性質を調査した。
BPT diagram による AGN 診断の結果、銀河全体では星形成銀河であることを支持する一方で、領域ごとに分割すると AGN を持つ可能性が示唆された。
次に銀河の進化過程を示す重要な指標である金属量を調査した。JWST から得られた[O III] λ5008 Å輝線と ALMA から得られた[O III] λ88 μm輝線のフラックスを組み合わせて電子温度を推定し金属量を導出した。その結果、本天体は同じ時代にある典型的な銀河に比べて高金属量な環境( 〜0.56 Z_Sun)であることが明らかになった。これは初期宇宙において活発な星形成活動や効率的な重元素合成が進んでいた可能性を示唆している。
本講演では、JWSTおよびALMAを用いた遠方銀河の研究成果に加え、せいめい望遠鏡とハーシェル宇宙望遠鏡による遠方銀河に似た特徴を持つ近傍矮小銀河の多波長研究の展望についても述べる。
講演GK-05: 近傍矮小銀河を用いた球対称Jeans解析によるdark matter modelの評価
講演者名: 宮﨑 凜、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 千葉柾司、林航平
ΛCDM理論は宇宙マイクロ波背景放射や銀河の大規模構造のような大スケールでの宇宙論的・天体物理学的観測と整合する。しかし、銀河あるいはそれ以下のスケールでは観測とシミュレーションに不一致があることが知られており、未だ解決していない。その問題を解決するために、あらゆる質量スケールのdark matter候補が考え出されてきた。そのうちの1つであるFuzzy dark matter(FDM) modelは質量が~10^{-22}eV(ド・ブロイ波長にして~1kpc)の超軽量粒子で構成されている。FDMは小スケールでは量子力学的な効果により波のように振る舞うが,大スケールではCDMのように振る舞う。このFDMの波のような振る舞いは、小スケールでの構造形成を抑制したり、銀河ハローの内部における特徴的なコア(soliton core)を形成したりする。したがってFDMは小スケールの様々な未解決問題を解決しうるdark matter候補として注目を集めている。
一般に矮小銀河はdark matter dominantな無衝突系であることが知られている。特に近傍の矮小銀河は距離が近く星を分離できるため、dark matterの性質を調べるのに格好の天体である。そこで本研究では、銀河系内の矮小銀河を解析に用いた。観測から得られた矮小銀河内の視線速度分散のプロファイルを、CDMまたはFDMを仮定した上で球対称Jeans方程式から導出した視線速度分散のプロファイルと比較し、各モデルのパラメータに制限をかけた。観測との比較にはマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた。
本講演では、上記で得られた結果から、CDMとFDMのどちらがより観測と整合するかを総合的に議論する。
講演GK-06: Tracing the fading phase of active galactic nuclei in z < 0.4 using eROSITA, WISE, and SDSS
講演者名: Gauchan Samip、所属: 早稲田大学、学年: M1
共著者名: 市川幸平(早稲田大学)
Active galactic nuclei (AGN) are vital for exploring the episodic nature of supermassive black hole (SMBH) growth. A distinct AGN population, termed “fading AGN”, shows strong past activity on kiloparsec (∼1 kpc) scales traced by narrow-line region (NLR) emission, but exhibits much weaker activity on small scales (< 10 pc) traced by either X-ray or mid-infrared (MIR) dust emission, suggesting a decline in AGN luminosity for the last 10^3−10^4 yr. In this study, using eROSITA X-ray data, we search for sources that show decrease in luminosity across the NLR, torus, and X-ray corona. Among ∼2000 sources, we identify several candidates, with bolometric luminosities derived from WISE MIR data and eROSITA X-ray data, at least an order of magnitude lower than those inferred from [OIII] NLR emission. These candidates show Eddington ratios of L_bol,[OIII]/L_Edd ∼ 1 in the NLR while L_bol,X/L_Edd ∼ 0.01 in the X-ray, reflecting a continuous fading of accretion power. Our selection method chooses different population where the luminosity decline is seen in a long-term AGN variability of 10^3−10^4 yr but also for a relatively shorter-term AGN variability with <10 yr timescale. The AGN luminosity decline within a timescale of 10^3−10^4 yr, is consistent with the viscous timescale of the accretion disk, while the flux change of ∼10 yr timescale, notably for changing-look (CL) AGNs, has a different physical origin.
講演GK-07: 銀河衝突シミュレーションによる初期宇宙の銀河と超巨大ブラックホールの研究
講演者名: 山口 快星、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名: 長尾 透(愛媛大学), 油谷 直道(神戸大学), 和田 桂一 (鹿児島大学)
2022年に運用が開始されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope; JWST)による高精度な観測により、従来は知られていなかった特徴を持つ活動銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)候補天体が多数報告されている。このような高赤方偏移のAGN候補天体の物理的性質を解明することは、宇宙の水素再電離期における輻射源の特定や、シードブラックホールの形成・成長過程の理解に直結する重要な課題である。しかし、観測には空間分解能や感度の限界があるため、特に低光度かつコンパクトなAGN候補天体に対しては、数値シミュレーションを用いた理論的アプローチが不可欠となる。本研究では、銀河衝突が中心ブラックホールへのガス降着を誘発するというシナリオ(Hopkins et al. 2008)に基づき、高密度領域(nH > 10³/cc)における星形成活動とAGNフィードバックを考慮したN-body/SPH法による銀河形成シミュレーションコードASURA(Saitoh et al. 2008, 2013)を用いて、銀河衝突のシミュレーションを実施している。構築した銀河モデルでは、超巨大ブラックホール(Supermassive Black Hole; SMBH)・星円盤・ガス円盤・ダークマターハローから成る銀河中心領域を対象として、初期宇宙に特徴的な高いガス分率と低金属量を持つ条件を設定し、星円盤質量を変化させることでガス分率を制御した複数のモデルを作成した。これは、現在の宇宙に見られるようなガス分率の比較的低い銀河との比較も視野に入れたものである。現在までの解析では、SMBHへの質量降着の発生が確認されており、本発表では、こうしたモデル構築の概要と、ガス分率の違いが降着過程に与える影響についての初期的な結果を報告する。
講演GK-08: AGNポーラーダストからの反射X線スペクトルの計算および近傍AGNへの適用
講演者名: 藤原 寛太、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名: 上田佳宏(京都大学)、小川翔司(ISAS/JAXA)、植松亮祐(京都大学)、中谷友哉(京都大学)
活動銀河核(Active Galactic Nuclei; AGN)は超大質量ブラックホールと母銀河との共進化の謎を解明する鍵である。従来からAGNはダストを多く含むトーラスを持つことが示唆されてきたが、近年では、中間赤外線を用いた観測により、トーラスの垂直方向に、ガスと大量のダストを含むポーラーダストと呼ばれる構造の存在が明らかになった。ポーラーダストは赤外線やX線のスペクトルに影響を及ぼすことから、従来のトーラスのみを考慮したモデル(e.g. CLUMPY, XCLUMPY)のアップデートが必要となっている。ダストのみの分布を反映する赤外線スペクトルモデルのアップデートは行われた(Ogawa et al. in prep.)が、ガスとダストを含む全物質の分布を反映するX線スペクトルモデルのアップデートは発展途上である。
そこで我々は、モンテカルロ輻射輸送計算コードSKIRTを用いて、クランプ状トーラスにポーラーダストを加えた構造からの反射X線を計算し、モデル化を行った。作成したモデルを最も近傍にある2型セイファート銀河の一つで、ポーラーダストの存在も確認されているNGC 4388に適用した。その結果、従来のクランピートーラスのみを考慮したXCLUMPYモデルと比べて、トーラスパラメータは大きく変化しないということが分かった。本講演ではモデル作成の詳細を紹介し、NGC 4388への適用から示唆される結果について議論する。またXRISMのデータの解析結果も紹介する。
講演GK-09: 超高光度赤外線銀河IRASF05189-2524の広帯域X線スペクトル解析 XRISM時代へ向けて〜ポーラーダストモデルの適用〜
講演者名: 相宗 勇輝、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 上田佳宏(京都大学)、野田博文(東北大学)、山田智史(東北大学)、中谷友哉(京都大学)、藤原寛太(京都大学)
銀河と超大質量ブラックホール(Super-Massive Black Hole; SMBH)は、空間
的スケールに約10桁の差があるにもかかわらず、その質量には強い相関関係が
認められており、両者が互いに影響を及ぼし合って「共進化」してきたことが
示唆されている。共進化を説明する有力なプロセスが、銀河合体である
(Hopkins et al. 2008)。よって合体銀河中に含まれる成長中のSMBH、すな
わち活動銀河核(AGN)の研究は、共進化メカニズムの解明に向けた重要な手
がかりを与える。
本研究では、合体銀河の一例として、超高光度赤外線銀河 IRASF 05189-2524
に着目した。従来、AGNからのX線スペクトルの研究には、SMBH、降着円盤、そ
れらを取り囲むトーラス構造から成る古典的統一モデルが仮定されてきた。し
かし近年、赤外線干渉計による空間分解能の高い撮像観測の進展により、極方
向に伸びる「ポーラーダスト構造」の存在が報告されており、X 線スペクトル
にも吸収体・散乱体として影響を与える可能性がある。そこで我々は、ポーラー
ダストとトーラスを考慮した新しいX 線スペクトルモデル(XIMPACT;
Fujiwara et al. submitted)を、ChandraとNuSTARによって得られたIRASF
05189-2524 の広域X 線スペクトルに適用した。その結果、ポーラーダストが
トーラスパラメータの推定に与える影響は小さいことを確認した。さらに、
XRISMで観測された精密分光データを用い、トーラス由来と考えられる狭い鉄K
輝線に着目した解析を行ない、その構造に強い制限を得た。本講演では、これ
らの結果を報告し、合体銀河中のAGNの構造について議論する。
講演GK-10: 多波長SED解析によるAGNを含むサブミリ波銀河のパラメータ推定
講演者名: 下田 慶都、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 上田 佳宏 (京都大学), 植松 亮祐 (京都大学)
銀河のバルジ質量とその中心にある超巨大ブラックホール (Supermassive Black Hole; SMBH) の質量には強い相関があることが観測的に示されている。これは両者が密接に関係しながら進化してきたことを示唆しており (銀河-ブラックホール共進化) 、共進化の解明には、両者の成長が最も激しい時期であるz=1-3のcosmic noon期における銀河の調査が不可欠である。中でも、サブミリ波銀河は星形成が活発であり、銀河が成長する現場であるため、共進化解明の鍵を握る種族である。
そこで、本研究ではアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (ALMA) で最も深いサーベイが行われているHubble Ultra Deep Field (HUDF) 内にあるサブミリ波銀河に着目した。HUDFはHSTやALMAだけでなく、Chandra、JWSTなど様々な波長帯で最も深いサーベイが行われているため、高精度なスペクトルエネルギー分布 (Spectral Energy Distribution; SED) を構築することができる。今回は、HUDF内のサブミリ波銀河のうち、Chandraで検出された天体に対して過去最高精度の多波長SEDを構築し、多波長SED解析コードCIGALE (Boquien et al. 2019) を用いて解析を行った。その際、X線の情報を用いることで、SED中の活動銀河核 (Active Galactic Nuclei; AGN) 由来の放射成分の強度を精度良く制限した。
本講演では、銀河の星質量、星形成率、AGN光度の相関を調査した結果を報告し、共進化の示唆について議論する。
講演GK-11: z=2の原始銀河団に見られる低質量スターバースト銀河の物理的起源
講演者名: 萩原 颯、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 兒玉忠恭(東北大学), 大工原一貴(ISAS)
宇宙の星形成密度はz~2に最盛期を迎え、銀河の形成・進化についての理解を深める上で極めて重要な時代である。また、近傍銀河団の祖先である原始銀河団は、銀河への環境効果の検証に最適な対象となっている。この時代の原始銀河団において、銀河の星質量-星形成率関係を逸脱するような活発な星形成活動(スターバースト)を示す低質量銀河(< 10^9 Msun)が一般フィールドと比較して多く存在することが近年の観測により分かっている(Daikuhara+2024)。銀河の星形成活動を活発化させる原因としては、主に銀河同士の衝突合体と、大規模構造のフィラメントに沿った冷たいガスの降着の2つのシナリオが考えられるが、それらのスターバーストへの寄与はいまだ不明確である。
本研究ではこれらのスターバーストの起源を探るため、公開シミュレーションのIllustrisTNG (Nelson+2019)を用いた。これは宇宙論的銀河形成流体シミュレーションの1つであり、現実の観測結果をよく再現するものである。また、銀河の性質として重要な環境の密度を、観測手法に則して銀河の数密度で定義し、z=2の宇宙で異なる環境下での銀河特性の比較を行った。その結果、銀河の星形成活動が環境に強く依存し、特に低質量のスターバースト銀河が存在する割合が、銀河団のような高密度環境において増加していることが分かった。さらにその物理的な理由を探るため、それらの銀河の質量や星形成率の時間進化を調べると、多くの銀河が直近に銀河同士の衝突合体を起こしており、それによって星形成活動が活発化されていることが示唆された。本講演ではこれらの結果に加え、星形成活動が不活発なグリーンバレー銀河との関連についてより詳しく議論する。
講演GK-12: MHDシミュレーションから迫る銀河ー銀河団ガス(ICM)相互作用による銀河団構造
講演者名: 中村 勇太、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
近年、HitomiをはじめとするX線観測により、重力的に束縛された宇宙最大規模の天体である銀河団構造の形成や進化が明らかになりつつある。本研究では特に、銀河団内の銀河と銀河団ガス(intracluster medium, 以下ICM)との相互作用が銀河団の構造形成に及ぼす影響を、数値シミュレーションを用いて調査する。
これまで、放射冷却により銀河団中心部でICMが集積し冷却流(cooling flow, 以下CF)を形成するというモデルが提唱されてきたが、ASCAなどによる観測によって中心部が従来の予測よりも高温であることが明らかとなり、このCFモデルは否定された。その後、ICMの加熱機構として活動銀河核ジェット、熱伝導、音波などのメカニズムが提案されてきたが、Hitomiがペルセウス銀河団中心で観測した亜音速かつ均一な乱流構造を十分に説明できていない。
一方、銀河が磁気流体力学的作用や重力作用を通じてICMを引きずり、宇宙論的時間スケールにわたってその運動エネルギーをICMに伝達するというモデルは、赤方偏移 z~1から z~0 にかけて観測される銀河の銀河団中心方向への落下運動と整合的である。さらに、その伝達されたエネルギーが乱流としてICM中で散逸するというシナリオは、Hitomiが観測したICM乱流構造を合理的に説明できる可能性がある。
本研究では、この銀河-ICM相互作用モデルが実際の観測結果をどの程度再現できるかを数値シミュレーションにより検証する。講演では、このモデルの妥当性についての議論と、発表時点におけるシミュレーションの進捗状況について報告する予定である。
講演GK-13: RX J1347.5-1145における摂動の状態方程式と非熱的電子の起源への制限
講演者名: 関口 颯樹、所属: 東邦大学、学年: M2
共著者名: 大工原 一貴(ISAS/JAXA)、北山 哲(東邦大学)、他ALMA-SZ-Collaboration
銀河団は宇宙最大の天体であり、宇宙の構造形成と強く関係する。特に銀河団からの電波放射は、スニヤエフ・ゼルドビッチ効果(SZ効果)とシンクロトロン放射にわけることができ、両者は異なる放射源が異なる過程を経ているため、両者の成分をうまく分離できれば銀河団の情報を多く得ることができる。SZ効果は広い電波領域で観測されており、X線観測と組み合わせることで、熱的電子の密度や温度などの分布が得られる。従来の研究では、熱的電子の分布が滑らかであると仮定していたが、近年、分布に摂動が存在することが発見された[1,2]。この摂動は銀河団の力学的進化を反映するため、摂動の状態方程式から進化の様子を知ることができる。 一方シンクロトロン放射は、主に低周波の電波領域(現状5 GHz以下)で観測されており、放射源は非熱的電子であるが、その起源の詳細はまだ不明な点が多い。
本研究は、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array(ALMA)のデータから(1)銀河団電子の摂動の状態方程式を求める、(2)銀河団非熱的電子の起源に制限を課すことを目的とする。ALMAは高い角度分解能をもち、特にBand1(35 GHz~50 GHz)は拡がった構造を捉えることができる。これにより目的(1)を調べることができ、また、Band1という比較的低周波なので電波ハロー(RH)も観測できる可能性がある。対象天体RX J1347.5-1145は、もっとも明るくSZ効果を放射し[3]、加えてRHの存在が示唆されているため[4,5]、目的(2)も同時に調べることが可能である。解析は空間方向と周波数方向を併せることでSZ効果とRHを分離する。また、どちらも拡がった構造であるため、フーリエ空間上にて解析を行う。
この方法は将来的に、ALMAに限らず干渉計で拡がった天体を観測する場合の一般に適用できる方法を目指した。本発表では、解析の結果の報告とそれに基づいた議論を行う。
[1] Schuecker, P., et al. 2004, A&A, 426, 387
[2] Kawahara, H., et al. 2008, ApJ, 687, 936
[3] Kitayama, T., et al. 2016, PASJ, 68, 88
[4] Gitti, M., et al. 2007, A&A, 470, L25
[5] Ferrari, C., et al., 2011, A&A, 534, L12
講演GK-14: eROSITA X線とすばるHSC SSP可視光サーベイで明らかにするX 線で明るいz>4クェーサー探査
講演者名: 石川 裕太、所属: 早稲田大学、学年: M1
共著者名: 市川 幸平(早稲田大学),Bovornpratch Vijarnwannaluk (ASIAA),長尾 透(愛媛大学)
明るいAGN種族であるクェーサー(L_bol > 10⁴⁵ erg s^-1)の中でもz>4の遠方にあるものは、宇宙初期での超大質量ブラックホールの成長の様子を知ることができる重要な天体である。クェーサーの数密度はz>4で急激に減少するため、その探査には広域かつ高感度の観測が比較的容易である可視光のサーベイが大きく貢献してきた。一方で、クェーサーの中にはダストに覆われたものが多く存在しており、可視光サーベイではこれらが見逃される可能性が以前から指摘されていた。このような天体は吸収に強いX線による探査で発見できると期待されるが、X線では可視光のように広域かつ高感度な観測が今まで難しく、過去のX線サーベイではz>4の天体はX線検出由来では数天体しか発見されてこなかった。
2024年1月、eROSITA望遠鏡によるX線全天サーベイの最初のデータリリースが行われた(eROSITA All-Sky Survey (eRASS) Data Release 1; eRASS1)。このサーベイは、最も感度が良い軟X線帯のバンド(0.2-2.3 keV)で ~ 1e-14 erg s^-1 cm^-2 のフラックス限界を達成しており、2025年現在、最も良い感度をもつX線全天サーベイとなった。我々はeRASS1カタログをすばるHSC-SSP可視光カタログとクロスマッチさせ、可視光のドロップアウト法を用いることで、およそ600 deg^2の観測領域から、z ~ 4, 5, 6のX線クェーサー候補天体をそれぞれ48個、9個、2個選出した。z~4の候補天体のうち7天体はSDSSによる分光データが存在し、これらは全て3.5 < z < 4.6にあるクェーサーであると同定された。このうち3天体については、先行研究である可視光のサーベイの選出法では見逃されるクェーサーであった。さらに、過去の研究では未発見であった天体群を2種類発見し、二色図を占める領域から、これらはダストで覆われたクェーサー群、およびLyα輝線の明るいクェーサー群の可能性が高いことを確認した。これらの結果から、X線と可視光を組み合わせたサーベイが、以前の探査で見逃されていたz>4クェーサーを発見するための強力な手段であることが示された。
講演GK-15: Little Red Dotsの正体としてのQuasi-Starモデルの検証
講演者名: 林田 学、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名:
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測により、高赤方偏移でlittle red dots(LRDs)と呼ばれるコンパクトで赤い天体が発見された。LRDsは幅の広い輝線を持つという特徴から活動銀河核であると考えられてきたが、X線や電波で検出されない点を踏まえると依然その正体は結論付けられていない。そこで、これまでの研究[1]ではLRDsはブラックホール(BH)が静水圧平衡を保っているガスの外層に包まれている「quasi-star」であることが提案されている。そして、BHの質量に比べて軽量なガスの外層をもつquasi-starによってLRDsの観測的特徴を説明することに成功している。しかし、内外の境界条件の取り扱いにおいては中心BHとガス外層との接続や外層への質量降着が定式化されておらず、これまでに得られた天体構造が実現できるかどうかは不明である。
本研究では、これらの課題を解決しLRDsの観測を説明する解を見つけることを目的とし、より厳密な内外の境界条件を与えたquasi-starの構造計算を行った。まず、内側の境界条件を考慮したものとして、外層が対流によって効率よくエネルギーが運ばれているモデル[2]をポリトロープ的に計算した。その結果、10^4 M_sun程度のBHとその100倍重い外層をもつquasi-starの解がLRDsの観測的特徴と合致することが分かった。しかし、BH質量に対しBHへの降着率が高くすぐにより重いBHへ成長するため、この解が数多くのLRDsを説明する可能性は低いと考えられる。そこで、外層への降着を外側の境界条件に組み込んだ、より現実的な構造を数値的に計算した。本講演では、これらの計算や観測結果との整合性を踏まえ、LRDsの正体としてのquasi‑starモデルの有効性について議論する。
[1]Kido D., Ioka K., Hotokezaka K., Inayoshi K., Irwin C.~M., 2025, arXiv, arXiv:2505.06965. doi:10.48550/arXiv.2505.06965
[2]Coughlin E. R., Begelman M. C., 2024, ApJ, 970, 158
講演GK-16: 中心核ブラックホール質量-バルジ質量関係の赤方偏移依存性とその不確実性の検討
講演者名: 淵本 晃輝、所属: 慶應義塾大学、学年: M2
共著者名: 宇田川賢, 岡朋治(慶應義塾大学)
銀河中心の超巨大ブラックホールの質量(M_BH) と銀河バルジの質量(M_bul) の間には良い相関(Magorrian 関係)があることが知られている。近傍銀河においては、M_BH/M_bul=10^(−3)–10^(−2) の比例関係が観測から見出されており、中心核ブラックホールの形成・進化にその母銀河が関連しているとする「共進化仮説」の強い論拠となっている。最近の観測的研究の進展により遠方銀河のM_BH-M_bul 関係が調べられるようになったが、これまでに報告された複数の結果の間には大きな不整合が見られる。具体的には、いずれの結果においても赤方偏移の近いサンプル毎にM_BH-M_bul 間の弱い相関関係は確認できるものの、M_BH/M_bul の値とその赤方偏移依存性に関して相反する結果が得られている。特に赤方偏移依存性に関しては、ブラックホール質量と膨張宇宙解を関連付ける理論が提案されるなど、今も活発な議論が続けられている。今回私たちは、M_BH-M_bul 関係に関する複数の先行研究を精査し、結果が相反する原因の究明を試みた。一般に遠方銀河においては、必然的に明るい天体を選択してしまうことによるバイアスの影響や、バルジと円盤成分の分離が容易ではないという理由により、M_BH とM_bul 双方の評価に不定性が大きい。加えて、質量の算出方法や銀河サンプルの選択方法等、様々なバイアス要因がある。これらのバイアス要因に注意しつつ先行研究の解析を再確認した結果、銀河サンプルにおける形態選択が結果の不整合に大きく影響していることが分かった。この影響を最小限にすべく、赤方偏移が3 以下にある楕円銀河のみを抽出して再解析を行ったところ、M_BH/M_bul 比は赤方偏移に依存するという結果を得た。本講演では、結果の妥当性とともにその原因について議論する。
講演GK-17: JWST NIRSpec IFUの解析によるz≈7-9の銀河の多次元電子密度の算出
講演者名: 松浦 義実、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
宇宙初期(z≥4)の星形成銀河における電離ガスの電子密度は、星形成活動の物理条件や銀河構造の進化を反映する重要な指標である。特に、ΛCDM宇宙論に基づく銀河のサイズ進化r_{e}∝(1+z)^{-1}との整合性の観点から、電子密度の赤方偏移依存性の検証は、銀河形成過程の理解において鍵となる。しかし、従来の高観測では主にスリット分光(NIRSpec Micro-Shutter Array (MSA))に依存しており、電子密度の測定値が銀河の空間的構造やスリット配置の影響を受ける可能性について、十分な検討がなされていない。
Isobe, Y., et al. (2023) [1] は、JWST/NIRSpec MSA観測によってz≈4-9の12個の銀河に対し [O II] λλ 3726, 3729 の二重項比からn_{e}を導出し、経験的関係n_{e}∝(1+z)^{1-2}を提示した。この結果は、ΛCDM的な銀河サイズ進化と整合する初の観測的証拠と推測される。一方で、個別銀河におけるn_{e}の空間的不均一性や、スリット位置・銀河傾きによるフラックス損失の影響については評価がなされておらず、n_{e}測定の系統誤差を定量化する手法の確立が今後の課題となっている。加えて、同研究では観測対象の Sérsic 指数がn≈1であることを根拠に、銀河が円盤型構造を有し、サイズ進化に伴い面積密度としてn_{e}が増加するという仮定を置いている。この構造仮定は電子密度進化の解釈に本質的であり、空間情報を有するIFU観測によってその妥当性を検証する余地がある。
本研究では、JWST/NIRSpecのIFUモードで観測されたz≈7-9の銀河を対象に、[O II]二重項比に基づくn_{e}の空間分布を解析し、銀河内部の多次元的な密度構造を明らかにする。空間分解されたn_{e}マップの作成を通して、従来のスリット分光法(MSA)における代表値測定の限界や不確かさについて、将来的な検証の基礎を築くことを目的とする。現在、天体 EGSY8P7 , MACS1149-JD1, COS2987030247を対象に解析を行っている。EGSY8p7については、SN比5以上の領域のみを抽出してn_{e}マップを作成し、SN比の特に高い領域について、[O II]二重項比からn_{e}=885 cm^{-3}と算出された。
参考文献
[1] Isobe, Y., et al. 2023, ApJ, 946, 13
講演GK-18: JWST近赤外線分光観測で探る宇宙最初期のダスト放射の起源
講演者名: 武知 可夏、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 大内正己 (東京大学/国立天文台), 中島王彦 (金沢大学), 柳澤 広登, 中根 美七海 (東京大学), DREAMSチーム
本研究では、ALMAでダスト連続光が検出[1]されている中で最遠方(z = 8.312 [1,2])にあるMACS J0416_Y1(本天体)のダスト放射の起源を、JWSTのデータを用いて調べた。具体的には、DREAMSプロジェクトで得られた深近赤外線分光データと、CANUCSプロジェクト[3]の近赤外線面分光アーカイブデータを解析した。
先行研究では、本天体は星形成銀河であると考えられ、ブラックホールの存在は報告されていなかった。しかし、本研究の深い分光データの解析により、Hβ輝線に速度幅が半値全幅~2600 km/sの広輝線成分が存在することが分かった。これは、超大質量ブラックホールの存在を示唆しており、Hβ広輝線光度から求めたブラックホール質量は、~8×10^6太陽質量であることが明らかになった。この超大質量ブラックホールの存在は、ALMAで観測されているダスト放射と関係している可能性がある。本講演では、ブラックホールの存在、金属量の空間分布も含め、この天体のダスト放射の起源を議論する。
[1] Tamura, Y. et al. 2019, APJ, 952, 9.
[2] Bakx, Tom J. L. C. et al. 2020, MNRAS, 493, 3.
[3] Willott, Chris J. et al. 2022, PASP, 134, 1032.
講演GK-19: JWST+ALMA+Subaruで探るz=6.6のHimiko, CR7の性質と銀河合体への示唆
講演者名: 清田 朋和、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名: Masami Ouchi (The University of Tokyo/NAOJ), Yi Xu, Yurina Nakazato (The University of Tokyo), Kenta Soga, Hidenobu Yajima (University of Tsukuba), Seiji Fujimoto (University of Toronto), Yuichi Harikane (The University of Tokyo), Kimihiko Nakajima (Kanazawa University), Yoshiaki Ono, Dongsheng Sun, Haruka Kusakabe (The University of Tokyo), Daniel Ceverino (Universidad Autonoma de Madrid), Bunyo Hatsukade, Daisuke Iono (NAOJ), Kotaro Kohno (The University of Tokyo), Koichiro Nakanishi (NAOJ)
HimikoとCR7はそれぞれすばる望遠鏡狭帯域フィルターで見つかったz=6.6のLyαが空間的に広がった(~20kpc) Lyα放射体である (Ouchi et al. 2009, Sobral et al. 2015)。これまでこの2天体は、ともに3つのクランプからなること、静止系UVで非常に明るいこと(m_UV∼25)などが報告されたが、なぜこのような性質を持つのか物理機構は解明されていない。我々は、JWST/NIRSpec IFUの公開済み3次元面分光データ(PID:1215, 1217)、NIRCam撮像データ (PID:1727, 1837)、ALMA Band6 (Cycle 0, 1, 3) [CII]158µmとダスト連続光データ、すばる望遠鏡NB921フィルターLyα輝線データを用いこれら天体の性質に迫った。我々はIFUデータから、Himikoが5つのクランプからなること、クランプの1つは幅の広いHα輝線 (FWHM>1000 km/s)を持ち、AGNの可能性があることを見つけた。HimikoのALMAデータから、[CII]輝線は∼5σで検出され、UVやHα輝線の空間位置と、[CII]やLyαのピーク位置との間にずれ (0.’′3) を見つけた。これは星形成領域とは別に中性水素ガスの多く存在する領域がある可能性を新たに示唆する。一方CR7は、少なくとも4つのクランプを確認したが、AGNの兆候 (幅の広いHα輝線) は見られなかった。CR7の[CII]空間分布はUVやHα輝線の空間分布と一致している。このように、同じ巨大Lyα放射体にも様々な特徴があることが示唆される。また、HimikoとCR7共に、多くのクランプからなる合体系であること、ALMAのダスト連続光未検出 (<30 µJy/beam)であることから、ダストの少ない銀河合体(blue merger)と広がったLyαの関連も考えられる。本講演では、これら性質に加え、理論モデルとの比較・解釈についても議論する。
講演GK-20: ALMAを用いたダストに隠された高赤方偏移銀河の探索とその性質の理解
講演者名: 野澤 大河、所属: 広島大学、学年: M1
共著者名: Hiddo Algera (ASIAA),稲見華恵(広島大学),REBELSチーム
ALMAによる高赤方偏移銀河からのダスト放射の観測により、初期宇宙の星形成率密度においてダストに隠された銀河の寄与を無視できないことが徐々に明らかになっている[1-3]。しかし、ALMAは広視野にわたる連続的な深いサーベイを得意としないため、ダストに隠された宇宙の星形成率密度は十分な精度では求まっていない。そのため、ダストを大量に持つ星形成銀河のより大きなサンプルが必要だが、ダストを大量に持つ銀河は可視光線や近赤外線による観測では検出が困難である。そこで、本研究ではダストに隠された銀河を直接検出するために、ALMAの大型観測プログラムの一つであるREBELS[4]の1.2mm連続光のデータを用いて、プログラムターゲットではない銀河のダスト放射を事前選択なしに探索した。その結果、REBELSが取得した全49の観測視野のうち,28の観測視野から40個のダスト放射がみられる銀河を検出することに成功した。そのうち34天体は既存の紫外線・可視光線・赤外線観測によるカタログにおいて対応天体が同定され、4天体は今回新たに発見した完全にダストに隠された天体であることが分かった。残りの2天体は現在画像データやカタログを収集している途中である。今回検出した40個の銀河の性質を調べるためにSEDフィッティングを行った。10天体は測光赤方偏移がz > 2であり、そのうち新たに発見した4天体についてはz > 3である可能性を持つことが分かった。また、31天体が10^11 L_Sun以上の赤外線光度を持つ高光度赤外線銀河であった。今後はこれらの結果を用いて今回検出した銀河からダストに隠された星形成率密度を求め、宇宙初期における星形成活動がどのくらいダストに隠されているのかを考察する予定である。
[1] Gruppioni et al. (2020) A&A, 643, A8
[2] Fudamoto et al. (2021) Nature, 597, 489
[3] Algera et al. (2023) MNRAS, 518, 6142
[4] Bouwens et al. (2022) ApJ, 931, 160
講演GK-21: 種族 II 星団の形成と合体による初代銀河の形成とそのIMF依存性
講演者名: 石田 怜士、所属: 筑波大学、学年: D1
共著者名: 安倍 牧人(呉高専), 矢島 秀伸(筑波大学), 大向 一行(東北大学)
初代銀河は標準宇宙論では z~10-20 の間に形成されると考えられており、近年の James Webb Space Telescope(JWST) の進展によって z>10 の初代銀河が観測され始めている。一方で、JWSTで観測された銀河は非常にコンパクトでクランピーな内部構造を持つこと、また標準的な理論予想よりも紫外線で明るい銀河が多いことが報告されており、この観測を説明可能な銀河形成理論の構築が求められている。 本研究では分子雲ガスを温度 T = 5000K、数密度 nH = 10^5cm^−3 まで分解した高解像度の宇宙論的流体シミュレーションを行い、初代銀河の形成過程におけるガスのダイナミクスと星形成の物理を調べた。その結果 Lyman-Werner 輻射によって中心にコンパクトなガスクランプ (Σgas ~ 3 × 10^3 Msun/pc^2) が形成され、さらに金属冷却によってバースト的な星形成が起こることが確認された。形成された星団の質量は ∼ 10^6 Msun であるが、高い面密度 (Σ∗ ~ 10^4 Msun/pc^2) をもち、平均金属量は -2.5 < log Z/Zsun < -2 と観測されている球状星団と同程度の金属量であった。さらに ∼ 5 × 10^7Msun の星質量を持つ初代銀河はこのようなコンパクト星団が合体することで形成されることがわかった。また本研究ではこのようなバースト的な星形成が起こる場合における種族 II 星の IMF の変化が初代銀河の星形成に与える影響を調べた。その結果について星の平均寿命とスターバーストのタイミングという観点から議論を行う。
また、高分解能のシミュレーションが間に合えばガスクランプ内部の力学構造の議論も行う。
講演GK-22: 二相乱流構造における宇宙線加速
講演者名: 稲元 燎平、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 霜田 治郎(東京大学)、浅野 勝晃(東京大学)
銀河円盤上空のハロー領域には希薄なガスと宇宙線が存在している。銀河ハローのガスは、円盤の星形成活動に起因する銀河風によって供給されており、銀河進化を反映する重要な要素と言える。 この銀河ハローにおいて注目されているのが、2010 年に銀河円盤上空に観測された巨大なガンマ線放射構造、「Fermiバブル」である(Su+2010)。さらに、2020年には、Fermiバブルを覆うような熱的 X 線放射構造、「eROSITA バブル」が発見された(Predehl+2020)。本研究の目的は、この二つのバブルをガスと宇宙線の相互作用により無矛盾に説明することである。まず、ガスが宇宙線に加熱され、銀河風として高温を保ったままハロー上空に運ばれる。この高温を維持したガスがX線を放ち、eROSITAバブルを形成すると期待される。また、バブル領域は、一部の濃いガスが冷却することに伴う降着流が混在する乱流領域となる。このような乱流領域では宇宙線を再加速し、宇宙線起源のガンマ線が Fermi バブルとして観測されると考えられる。しかし先行研究では、上記の宇宙線とガスの相互作用が整合的に取り扱われていない。そこで発表者は、宇宙線と流体の相互作用、宇宙線のエネルギー分布を解く数値計算コードを開発し、Fermi バブルとeROSITAバブルを同時に説明することを目指した数値流体シミュレーションを行う。本講演では、そのコード開発の現状と、テスト計算の結果について報告する。
講演GK-23: z=5-14のLyα輝線観測で探る宇宙再電離史
講演者名: 影浦 優太、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 大内正己(東京大学/国立天文台)、中根美七海、梅田滉也、播金優一(東京大学)、吉浦伸太郎、Tran Thi Thai (国立天文台)、中島王彦(金沢大学)、矢島秀伸(筑波大学)
ビッグバンの後、宇宙の晴れ上がりによって宇宙は中性水素で満たされたが、その後天体からの紫外線によって中性水素は電離され、現在の宇宙は電離水素で満ちている 。この過程を宇宙再電離と呼び、その進行ペース(再電離史)や再電離を引き起こした天体(再電離源)は未解明の問題である。そこで、本研究(Kageura et al. 2025, arXiv: 2501.05834)ではジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により分光観測されたz=5-14の銀河586個のLyα輝線強度を測定した。Lyα輝線は中性水素に吸収されるため、遠方銀河のLyα輝線観測によって宇宙再電離史を調べることができる。我々は再電離の影響でLyα輝線は高赤方偏移にいくほど減少することを確かめ、宇宙論シミュレーションとの比較から、宇宙の中性水素割合をz=6, 7, 8-9, 10-14においてそれぞれ<40%、63±23%、79±17%、88±12%と推定した。これらの結果はz~15からゆっくりと再電離が進む標準的な理論モデルとは異なり、再電離がz~7ごろに急速に進む「遅い再電離」を示す。このような「遅い再電離」はz~7付近で非常に高い電離光子脱出率を仮定しない限り説明が困難であり、再電離モデルの見直しを迫るものである。本講演では、これらの結果から示唆される再電離源についても議論する。
講演GK-24: z~6.2におけるnarrow bandデータによるpoplll galaxyの探索
講演者名: 榎森 遼、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 柏川伸成 (東京大学)
Populationlll(poplll)星とは、大質量で短命な金属量がゼロに近い初代星のことであり、シミュレーションなどから少なくともz=30~6に存在すると考えられている。poplll星やpoplll星形成銀河を発見する試みは数多く行われてきたが、未だに候補天体がいくつかあるのみでその確固たる存在が直接確かめられたものはない。poplll天体の発見は、初期宇宙における銀河の星形成進化を解き明かす手掛かりとなるという点で、天文学における最も重要な目標の一つとなっている。poplll星は水素とヘリウムからできており、Lyα輝線やHα輝線、Hell輝線が強い。そこで本研究では、ナローバンドフィルターでの画像を用いた新たな手法で、宇宙再電離期のz~6.2におけるpoplll天体候補と思われる銀河の探索を行った。具体的には、CEERS領域のJWST / NIRCam F470Nの画像と、同領域のSubaru / HSC (Hyper Supureme Camera) NB872の画像で検出された天体をマッチングさせ、Hα輝線とLyα輝線の強い天体を2色図を作成して探した。今回の発表では、この手法を用いたことによる、今後のpopⅢ研究のための暫定的な成果を議論する。
講演GK-25: 3次元輻射輸送計算によるダスト赤外放射の理論予測
講演者名: 伊藤 茉那、所属: 筑波大学、学年: D1
共著者名: 矢島 秀伸 (筑波大学), 曽我 健太 (筑波大学)
初代銀河は宇宙の再電離や重元素の供給に寄与し、その後の宇宙の進化に大きな影響を及ぼす重要な天体である。そのため、初代銀河の形成・進化過程を解明することが、宇宙の成り立ちを紐解く鍵を握る。近年、ALMAをはじめとするサブミリ波観測の進展により、高赤方偏移銀河におけるダストに隠された星形成活動の実態が明らかになりつつあり、これまで紫外線・光学観測では捉えられなかった銀河母集団の存在が報告されている。しかしながら、高赤方偏移銀河をダスト連続波で見たときの数密度や光度関数は理論的にあまり調べられていない。
そこで本研究では、最新の銀河形成モデルに基づいたシミュレーションデータセット ”FORmation and EVolution of galaxies in Extremely overdense Regions (FOREVER22; Yajima et al. 2022)” を用いて、サブミリ波帯のダスト連続光放射について輻射輸送計算を実施し、光度関数の理論的なモデル化を行った。銀河内部での輻射輸送計算には、Lyα線や多波長連続光の寄与を考慮した3次元のモンテカルロ輻射輸送コード ”All-wavelength Radiative Transfer with Adaptive Refinement Tree (ART2; Yajima et al. 2012, Li et al. 2008)” を使用した。
本研究では、赤方偏移 z = 6–14 における赤外線光度関数とダスト温度の統計的性質を理論的に予測し、初期宇宙における銀河の光度進化やダスト形成の描像に迫る。これらの予測は、将来の遠方銀河観測に対する理論的指針を与えるものである。本講演では、得られた赤外線光度関数およびダスト温度の予測結果について紹介し、理論モデルと観測との整合性について議論する。
ポスター講演
講演GP-01: mini-BALクェーサーHS1603+3820にみられるCIV吸収線の時間変動調査
講演者名: 魚村 直人、所属: 信州大学、学年: M1
共著者名: 三澤透、高橋歩美
クェーサー HS1603+3820 (z_em~2.542)は、幅広い赤方偏移(1.965 < z_abs < 2.554)において多数のCIV吸収線を持つ。複数回の可視分光観測を行なったところ、これらの吸収線のなかには激しい時間変動を示す”アウトフロー起源”の吸収線 (mini-BAL; z_abs~2.43) が含まれることが確認された (Misawa etal. 2003, 2005, 2007)。しかし先行研究では、観測継続期間がΔt_obs~4.2yr と短く、2006年の6月以降の追観測が行われていないため、その後の変動傾向は確認できていない。 そこで、前回の観測からほぼ20年を経過した2025年3月にSeimei/KOOLS-IFUを用いてHS1603+3820の追観測を行ない、この吸収線の変動傾向を探った。また、Subaru/MOIRCSを用いて、HS1603+3820 の近赤外分光観測も行い、低電離状態にあるMgII吸収線の検出も試みた。解析の結果、MgII 吸収線は検出されなかったことから、アウトフローの電離状態は相当高いことが示唆される。一方で、アウトフローとは無関係な別のCIV吸収線に対応する強いMgII吸収線が検出されたため、この吸収体の物理的・化学的性質の解明も試みた。今回得られた分光データは、いずれも波長分解能が R~1500 であるが、より詳細な調査を行なうために、今後は高分散分光観測 (R > 30,000) を行なう予定である。
講演GP-02: クェーサーの接線方向に対する近接効果の多視線観測
講演者名: 佐藤 良、所属: 信州大学、学年: M2
共著者名: 三澤 透, 前田 祐輔, 登口 暁(信州大学)
クェーサーから放射される強力な紫外線は、クェーサーの周囲数 Mpc に存在する銀河間物質 (intergalactic medium; IGM) 中の中性水素を過剰に電離する現象「近接効果」を引き起こす。近接効果は、クェーサーのスペクトル中に現れる Lyα 吸収線の深さから、輻射を受けた中性水素の電離度を評価することで調査できる。Prochaska et al. (2013) では、クェーサーの降着円盤を face-on 方向から見ている典型的な Type1 (non-BAL) クェーサーの接線方向にある中性水素の量が、視線方向の量に比べて多いことが確認された。そのため、クェーサーの近接効果には方向による偏り(異方性)があることが示唆されている。この異方性は、ダストトーラスによって紫外線輻射が遮られることにより生じるというシナリオが、現在、最も可能性が高いと考えられている。実際、降着円盤を edge-on 方向から見ている BAL クェーサーでは異方性に逆の傾向がみられ、このシナリオを支持している(Misawa et al. 2022)。ただし、投影“ペア”クェーサーを用いた先行研究では、BAL / non-BAL クェーサーの接線方向を背景クェーサーに対する1視線でしか調査できておらず、視線方向と接線方向の異方性の確認に留まっていた。
本研究では、離角数分(数 Mpc)以内に複数個の背景クェーサーをもつクェーサーを研究対象とし、クェーサー接線方向の近接効果の異方性を初めて直接的かつ統計的に調査した。この手法により、BAL / non-BAL クェーサーの接線方向を複数視線に対して解析し、近接効果の異方性を調査した。その結果、接線方向の電離度に異方性が見られるクェーサーと、異方性が見られないクェーサーは BAL / non-BAL クェーサーいずれにも存在することが分かった。また、最も有力とされているダストトーラスによる遮蔽シナリオと矛盾しないことが示唆された。
1. Misawa, T., Ishimoto, R., et al. 2022, ApJ, 933, 239
2. Prochaska, J. X., Hennawi, J. F., et al. 2013, ApJ, 776, 136
講演GP-03: 宇宙再電離期のクエーサー近接領域の調査
講演者名: 岡﨑 真也、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名: 松岡 良樹
クエーサーは強力な電離放射を放出しており、その周囲には中性水素が強く電離された領域(proximity zone)が形成される。この領域の大きさを測定することで、IGM(銀河間物質)の電離状態や、クエーサーの放射履歴、さらには宇宙再電離の進行状況を探ることができる。
本研究では、低光度(MUV < –24)、高赤方偏移(z > 5.7)のクエーサーを対象としたSHELLQs(Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars)によって発見された117個のクエーサーのサンプルと高光度クエーサーのサンプルを先行研究で解析されている31天体を用い、低光度クエーサーと高光度クエーサーを合わせた148天体をクエーサーサンプルとした。主成分分析(PCA)を用いて、観測スペクトルからクエーサー本来の連続光を再構成し、IGMによる吸収前のスペクトルを推定することで、proximity zoneの大きさを測定した。
その結果、proximity zoneの大きさには光度依存性があること、さらに光度補正後のproximity zoneの大きさには浅い赤方偏移依存性があることを確認した(M = –24に正規化)。また、光度補正後のproximity zoneの大きさとブラックホール質量、エディントン比との間にも相関が見られた。さらに、proximity zoneが極端に小さいクエーサーについては、その年齢(life time)を調査した。
本発表では、これらの解析結果をもとに、宇宙再電離の進行や初期宇宙におけるクエーサーの進化について考察する。
講演GP-04: クエーサーの増光に伴うスペクトル変化の考察 ~hot spotの発見~
講演者名: 妹尾 隆貴、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 岩室 史英(京都大学)、呼子 優人(京都大学)
天文学における課題の一つが超巨大ブラックホール(SMBH)の形成過程である。クエーサーはSMBHが質量を獲得する様子が見られる天体であり、その構造や成長過程を調べることでSMBHの形成過程に関する知見を得ることができる。クエーサーについて、近年注目されている現象の一つが、短期間で広輝線強度が大きく変化する「Changing Look(CL)現象」である。CL現象を起こすクエーサー(CLQ)はすでに1000天体ほど発見されているが、その発生時期や機構についての詳細は未だ解明されていない。我々はCL現象の機構を解明するため、せいめい望遠鏡を用いたCLQの分光モニター観測を行っている。その中に降着円盤上に局所的に明るく輝く領域 (hot spot) が出現した天体SDSSJ2256を発見した。過去にhot spotの出現が報告された例は1例のみ[1]であり、SDSSJ2256にhot spotが出現したということであれば今回が2例目の発見となる。スペクトル解析では相対論的な円形降着円盤モデル[2](を広輝線領域に流用した物)にhot spot成分を加える形でHβ広輝線のfittingを行い、hot spotの出現位置や存在していた期間を推定した。さらにhot spotを生み出した原因として潮汐破壊現象(TDE)の可能性を検討しているが、現段階ではTDEが原因であると断定することはできない状況である。今後は発生要因に関する分析を進め、また、hot spotの出現がCLQに発生しやすい現象なのかということをせいめい望遠鏡で分光モニター観測を続けている複数のCLQの分析を通し、統計的に調査する予定である。
[1] Fries, L.B. et al., 2023, ApJ, 948, 5
[2] Eracleous, M. et al., 1995, ApJ, 438, 610
講演GP-05: z~2 におけるクェーサー密集領域のシミュレーションによる再現とその希少性の評価
講演者名: 桑山 裕斗、所属: 大阪大学、学年: M1
共著者名: Yongming Liang(東京大学), 長峯健太郎(大阪大学),奥裕理(Zheijiang University), 福島啓太(Seoul National University)
クェーサーとは遠方で観測されている特に明るい活動銀河核である.特に z ~ 2 の時代は特に天体活動が活発な時期であり,クェーサーの数密度も高い.本研究はその時代のクェーサーの高密度領域 (16.9 sigma) (Liang et al. 2025) に着目し,クェーサーのクラスタリングについて調べたものである.また,それらのクラスタリングに類似する領域を CROCODILE シミュレーション (Oku & Nagamine 2024) から探し出し,その領域のクラスタリングについても評価を行った.発見したクラスタリング類似領域は,5.4 sigma_cosmic 程度の活動的ブラックホールの密度超過を持つ領域に存在していることがわかった.
観測で発見されたクェーサー高密度領域では,Ly alpha 銀河分布や HI の分布に不明点が残っている.そのため,見つけたクラスタリングが近い領域に対して輻射輸送計算を行うことで,これらの分布の不明点を解消することが,今後の課題である.
講演GP-06: 降着円盤からの放射が与える近中間赤外域SEDへの影響
講演者名: 山岸 百香、所属: 鹿児島大学、学年: M1
共著者名:
活動銀河核 (Active Galactic Nucleus : AGN) の中心には超大質量ブラックホール(Supermassive Black Hole : SMBH) が存在し、SMBH の周囲に降着円盤が形成される。
一般にAGN はSMBH と広輝線領域を取り囲むように高密度のガス、ダストから成るトーラス状の吸収体が存在すると考えられている。
降着円盤からの放射がトーラスに吸収され、再放射される際の近中間赤外域SED の変化を調べることは降着円盤からの放射を直接観測できない場合に重要となる。
今回の研究ではシンプルな一様密度トーラスモデルについて降着円盤からのSED をλ^αに比例すると仮定し、輻射輸送シミュレーションコードSKIRT を用いて視線角度、SED のべき乗に依るSED の変化を調べた。
結果、等方放射の場合には赤外域での変化は見られず、赤外域はダストからの放射に依ること、トーラスを通して観測するとシリケート吸収 (9.7μm) が顕著であることがわかった。
放射源が円盤形状の場合やエディントン降着率を超える場合には、放射の異方性が重要となり、その効果についても調べる予定である。
講演GP-07: ALMA高空間分解観測により示された赤外線銀河ESO173-G015の星間塵に覆われた中心核の加熱源
講演者名: 奥村 珠希、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 西村 優里(筑波大学)、河野 孝太郎(東京大学)
赤外線銀河(U/LIRG)では、活発な星形成活動やブラックホールの急激な進化が見られ、銀河進化における重要な段階を担っている。U/LIRGには、多量のガスやダストに覆われたコンパクトな中心核(Compact Obscured Nuclei; CON)を持つものがあり、その埋もれた加熱源は AGN あるいは starburst が考えられてる。ダストによる減光の影響を受けにくいサブミリ波の観測はその加熱源の診断手法になりうる。近傍 (z=0.01) の LIRGであるESO 173-G015 は、ALMA を用いた CON のサーベイプログラム CON-quest においてHCN-vib(v2=1,J=3-2) が検出され、中心核に埋もれた加熱源が存在することが示唆された。本研究では中心核へ流出入するガスの運動(feeding, feedback)に着目し、その加熱源が何であるかを調べた。
解析にはALMA の 1.2 mm帯の0.3” (50 pc) 分解能のデータを用いた。我々は中心核から東に 1.6kpc 離れた位置にある空間的に離れた構造 (tail SE) を複数の分子種の輝線と連続光で、またtail SEと中心核を繋ぐ構造(bridge)や北西に離れた構造(tail NW)を HCO+(J=3-2) と HCN(J=3-2) 輝線で新たに検出した。これらの広がった構造は銀河kpcスケールの回転構造から逸脱しており、shock tracerであるSOが相対的に強く検出されるためアウトフローであると考えられる。その分子アウトフローのmass loading rateから、駆動源としてAGNの存在が示唆された。加熱源の近傍に局在するHCN-vibがどういった力学構造をしているかについては未だ検出例が少ないが、本天体では回転構造を検出した。その回転軸がkpcスケールとは異なるということもAGNの特徴と整合している。
講演GP-08: ULIRG/HyLIRGにおける、AGNアウトフローが銀河にもたらすフィードバックの調査
講演者名: 佐々木 悠宇、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 秋山 正幸(東北大学), Xiaoyang Chen(NAOJ)
活動銀河核(AGN)による強力なアウトフローは、銀河の星形成を制御する主要な要因の一つと考えられている。また、超高光度赤外線銀河(ULIRGs/HyLIRGs)は、活発な星形成期から静的な段階へと移行する過渡的な段階にあると位置づけられている。
X. Chen et al.(2025)は、強い星形成とAGNアウトフローの兆候を示すHyLIRG J1126を対象に、Gemini/GMOS IFUおよびALMAを用いた観測を行い、電離ガスおよび分子ガスのアウトフローと、それがホスト銀河に与えるフィードバックを詳細に調査した。その結果、[OIII]輝線でトレースされる高速電離ガスのアウトフローが数kpcに及ぶこと、分子ガスには中速アウトフローと共に非常に大きな質量の流出が伴うことが明らかとなった。さらに、これらのアウトフローは星間物質に高い運動エネルギーを与えるだけでなく、衝撃波による電離や分子ガスの励起・解離を引き起こすことが示唆された。
アウトフローによる高運動エネルギーとガスの電離・励起は、星形成に不可欠な冷たいガスの加熱・除去を通じて、ホスト銀河の長期的な成長抑制につながる可能性がある。
このように、ULIRG/HyLIRGはAGNアウトフローによるフィードバックを理解する上で極めて有用な対象であり、ブラックホールとバルジの質量関係の起源解明の足がかりとなり得る。本研究では、J1126と同様の特徴を持つ7つの銀河に対して、同研究で使用されたSEDフィッティング手法を用いた解析を行い、AGNアウトフローの統計的性質と星形成への影響をより広範に評価することを目的とした。
講演GP-09: Gaia DR3を用いた天の川銀河における恒星の動力学的性質の分類とその解釈
講演者名: 大津 美穂、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名:
銀河系の形成・進化の過程を追跡するためには、銀河を構成する恒星の運動や空間分布、化学的性質などに基づいて過去の情報を読み解く手法が重要となる。中でも、恒星の寿命や金属量、その運動の違いは、それぞれが形成された時代や環境を反映していると考えられ、過去の構造や動的履歴を推測するための手がかりとなる。
例えば、thick diskに属する星は、thin diskに属する星と比べて金属量に大きな差はないが、α元素量[α/Fe]に富む傾向がある。これは、thick diskにおいて短い時間スケールでの星形成が起きていたことを示唆する。一方、haloに属する星は、金属量が著しく低く、離心率の高い軌道を高速度で運動している。これらの星は主に寿命の長い低質量星で構成されており、その運動特性と化学組成から、銀河の形成初期に急速に星形成が行われていたと考えられている。
近年、宇宙位置天文衛星 Gaiaによる高精度な観測データに基づき恒星の運動や金属量を用いて銀河系の力学的進化や星形成史を調べる研究が盛んに行われている。本研究では、Gaiaの第3期データリリースを用いて、天の川銀河内の星をスペクトル型ごとに分類し、その運動特性、空間分布と金属量の関係を調べた。
特に、恒星の寿命や進化段階の違いに着目し、若い星と古い星について、上記のことがらを比較した。銀河円盤内での長い時間スケールの運動によって、恒星は重力摂動を受け、銀河面垂直方向の速度分散が増大したり、軌道が拡散・加熱されることが知られている。力学的進化の痕跡が恒星の運動から読み取れるかどうかに注目し、調査した。
さらに、フェイズ空間内で特定の運動的特徴を示す星の集団に対して、位置・年齢・化学組成の観点から追加的な検討を行い、その成り立ちを考察した。
本発表では、これらの解析を通じて得られた知見をもとに、観測データから過去の銀河構造形成過程を間接的に探るためのアプローチの妥当性と今後の展望について議論する。
講演GP-10: X線と赤外線の強度相関を使う新手法で解き明かすAGNトーラス構造
講演者名: 坂本 雄哉、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 野田博文、山田智史(東北大学)、川室太希(大阪大学)、小久保充(国立天文台)、峰崎岳夫(東京大学)
銀河の中心には超巨大ブラックホール(SMBH)が存在し、SMBHと銀河は互いに影響しながら進化してきたと考えられている。SMBHに大量の物質が降着するとAGNになるが、SMBHまでどう質量が供給されるかはよくわかっていない。質量の降着過程で形成される、中心部を囲む「ダストトーラス」が鍵となる。AGNは、内側の幅広い輝線を放射する広輝線領域が見える1型と見えない2型とに大別され、同じ構造のダストトーラスを異なる視線方向で見ることでこの違いが生じると考えられる。しかし、空間分解が困難であり、トーラス内縁部の構造の違いが同一であるかを確認した例はない。そこで、異なる視線方向からのAGNにおけるトーラス内縁部の構造に着目した。
本研究では、降着円盤からの可視光とそれがトーラス内縁部で吸収され再放射されて生じる近赤外線の時間差を測定するダスト反響マッピングを用いた。近赤外線の時間差は円盤からトーラスまでの光の伝播時間に相当するため、トーラス内縁半径を制限できる。しかし、この手法は可視光がトーラスにより強い吸収を受ける2型には適用できない。そこで、可視光と強度変動が同期する中心部のコロナからのX線と、トーラス内縁部からの近赤外線の組み合わせを用いた。X線全天観測装置Swift/BAT、MAXIと赤外線全天観測装置WISEのデータを用い、X線で明るい20天体を対象に相互相関解析を行った結果、11天体で時間差の測定に成功した。例えば、NGC4151(1型)で~70日、NGC2110(2型)で~160日、NGC4388(2型)で〜100日の赤外線の時間遅延が見られた。さらに、1型における赤外線の時間遅延を系統的に調べた Lyu et al. (2019) とも比較した結果、1型と2型で赤外線の時間遅延に差がないことを確認した。この結果からトーラス内縁部の構造を議論する。
講演GP-11: Changing-look AGN 1ES 1927+654の多波長キャンペーン観測から探るX線コロナの再形成とAGNジェットの起源
講演者名: 戸田 周佑、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名:
活動銀河核(AGN)は、電波からガンマ線に至るまで多波長にわたって明るく観測される天体であり、中心の超大質量ブラックホール(SMBH)への降着によって駆動される。AGNは母銀河の進化や周囲の環境にも強い影響を与えるが、その中心エンジン(降着円盤+コロナ+ジェット)の詳細な物理と構造は未解明となっている。中でも、降着流における角運動量輸送の仕組みや、降着モードとジェット生成の関係は依然として大きな課題である。AGNのうち、数ヶ月から数年の範囲で急激なフラックスやスペクトルの変化を起こすものをChanging-look AGN(CL-AGN)という。このような天体はAGNの中心領域における上記の課題を理解するプローブになる。
本講演は、CL-AGN 1ES 1927+654に対する多波長キャンペーン観測についての論文(Laha et al. 2022; Laha et al. 2025) のレビュー講演となっている。同天体のCL現象は2017年12月から2021年3月にわたっており、中でも2018年8月にX線コロナが完全に消失したのち2018年11月には再形成されている。もともと1ES 1927+654はtype 2のAGNであったが、CL現象中の~300日間で幅の広い輝線が見られている。CL現象の主要因として潮汐破壊現象による質量降着の変化や降着円盤の極端な磁場の変化が挙げられる。CL段階の終了後、準周期的振動 (QPO)が検出され、電波フレアに伴いジェットが出現している。本論文では磁場構造の再形成がX線コロナの性質の変化、さらにポロイダルフラックスが内側の降着円盤から事象の地平面に移流されたことでBlandford-Znajek機構によるジェットが形成されると示唆している。CL-AGNは観測技術の向上によりサンプルが増加している。今後の観測で同様な現象がより観測され、AGN中心領域における物理過程の本質的理解が深まることを期待する。
講演GP-12: 銀河の衝突がAGNの活動および星形成活動に与える影響について
講演者名: 丸山 満ちる、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: John Silverman(Kavli IPMU, 東京大学)
銀河同士の相互作用は、ガスの流入を引き起こして星形成を活発化させるとともに、特に銀河が同質量の場合においてはAGN(活動銀河核)の出現率を増加させることが知られている。一方で、AGNの活動は星形成の抑制と関連することも研究されている。銀河の衝突がAGNの活動および星形成に与える影響を理解するためには、相互作用している銀河を多く観測することが必要である。本研究では、すばる望遠鏡に新たに搭載された分光装置「Prime Focus Spectrograph(PFS)」を用いて、銀河衝突による物理的性質への影響を明らかにする。PFSの初めての観測は2025年3月に実施され、赤方偏移z~1.5のELAIS-N1領域に位置する約100個のAGNを対象とした。Greene et al.(2022)によると、PFS Galaxy Evolution Surveyでは、z~0.7から7にかけて約35万個の銀河を観測する予定である。銀河がAGNを持つ割合を10%、銀河がペアになっている割合を5%と仮定すると、約1100個のAGNがペアを持つと推定される。この大規模なサンプルは、VLT/VIMOSによるzCOSMOS観測の約20倍に相当する12deg^2という大きな観測領域および、約4倍に相当する2394本の高密度なファイバーによる多天体分光によって実現される。さらに、[O III]輝線の強度やDn4000指数といった観測指標を分析することで、星形成活動の活発度合いを評価することができる。これらのデータセットにより、銀河衝突とAGNの活動、さらには星形成活動との関係を探ることが可能となる。また、high zにおけるProto-clusterなどの環境が銀河に与える影響についても考察を行う予定である。
講演GP-13: 空間分解した銀河における星間物質と星形成率の関係
講演者名: 小柴 啓太、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 竹内 努(名古屋大学)、大前 陸人(名古屋大学)、内田 舜也(名古屋大学)
銀河は時間とともに形状や元素組成などの物理的性質を移り変えながら進化する。この進化を解明するためには、星形成率を理解することが欠かせない。星形成率とは銀河の主要な構成要素である星が1年あたりにどれだけ誕生しているか表す物理量である。恒星は星間物質(ガスなど)から形成される。そのため、ガスと星形成率の関係を調べることは銀河進化を考える上での基本的なアプローチである。
Schmidt (1959)は、銀河円盤スケールにおいて、星形成率がガスの体積密度のn乗に比例すると提唱した。現在ではより詳細な理解のために銀河を空間分解して、面密度を用いることが主流となり研究が進められている。近年、分子ガスの大規模なマッピング観測によって、統計的な研究が行われ始めた。しかし、様々な研究においてnは幅広い値として報告されているのが現状である。その原因として、サンプル数の不足による統計的不確かさが挙げられる。代業的な研究であるBigiel et al. (2008)では、水素原子が卓越した11の銀河と、水素分子が卓越した7つの銀河がサンプルとなっている。また、ノイズの影響が大きい観測データを扱う際の解析手法の多様性も原因として考えられる。
本研究では、COMING : CO Multi-line Imaging of Nearby Galaxiesプロジェクト(Sorai et al. 2019)における大規模な一酸化炭素のデータセットを活用した。COMINGデータは一酸化炭素分子輝線のマッピング観測では世界最大の天体数(147天体)を誇っている。多波長観測データと統合することで、約100個の近傍銀河からなる大規模サンプルを構築した。さらに解析手法としてガウス混合モデル(GMM)を採用した。その結果、ノイズを効果的に分離し、空間的に分解した銀河の高精度な解析を実現した。この解析により、個々の銀河を超えた一般的なパターンを特定する。以上を踏まえて、本講演では、空間分解した星形成率のガス面密度への依存性及びそこから導かれる結論について報告する。
講演GP-14: z~2におけるQuiescent Galaxyのブラックホール質量と速度分散の関係
講演者名: 柴沼 優葵、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 伊藤慧 (Cosmic Dawn Center) , 田中匠(東京大学), 嶋作一大(東京大学) , 安藤誠(NAOJ) , 松井思引(東京大学), Francesco Valentino(Cosmic Dawn Center)
近傍宇宙で見られるブラックホール質量と母銀河のバルジ質量の間の強い相関(M_BH–M_bulge関係)は、ブラックホールの成長と銀河の進化が密接に関係していること(共進化)を示唆する。共進化の過程を明らかにするには遠方宇宙での観測が必要だが、遠方宇宙ではM_bulgeの測定が困難なため、代わりに母銀河全体の星質量(M_*)を用いた M_BH–M_* 関係が用いられているのが現状である。一方、M_BH–M_bulge関係と同等に強い相関として、ブラックホール質量と銀河中心部の速度分散(σ)との関係(M_BH–σ関係)も知られている。しかし、遠方においてM_BHとσの両方を同時に測定できる天体は非常に少なく、これまでに観測されたのはわずか2天体にとどまっていた。遠方では、M_BHはAGNを持つ銀河でのみ推定可能であり、σはQuiescent Galaxy(QG)でしか測定できない。そこで本研究では、z~2 に位置するAGNを持つQGに注目し、そのような天体の探索と解析を行った。具体的には、同定した複数個の天体に対して、JWSTの近赤外分光器(NIRSpec)を用いて得られたスペクトルに見られるブロードなHα輝線の幅(FWHM)からブラックホール質量を推定し、これと速度分散σとの関係を近傍宇宙のM_BH–σ関係と比較した。
講演GP-15: JWST面分光観測データで探る超巨大ブラックホールの形成
講演者名: 武田 唯、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名: 大内正己 (国立天文台/東京大学), Yi Xu (東京大学), 清田朋和 (総研大/国立天文台)
銀河中心には質量10^6 M_Sun以上の超巨大ブラックホール (SMBH)が存在しており、質量の小さいBHを種として、降着によって成長したと考えられているが、その詳細については未解明である。特に、従来のシナリオでは説明できない、宇宙誕生から数億年後の時点で質量10^9-10 M_Sunまで成長したSMBHが観測されており[1]、これらの天体に対しては、直接崩壊型BH (DCBH)などより重い種BHの存在や銀河合体といった降着以外の成長過程を考慮する必要がある。そこで、より遠方のSMBHのM_BH測定や、銀河衝突の痕跡を探ることがSMBH形成における謎の解明の手掛かりとなる。
本発表では、赤方偏移z=8.7の天体EGSY8p7の、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の面分光装置NIRSpec Integral Field Unit (IFU)による観測データの解析結果を報告する。この天体は3つのクランプによって構成され[2]、type 1 AGNに特徴的な広輝線成分の検出が報告されていた[3]が、S/Nの低さから検出の信頼性に関して議論が続いていた。今回解析に使用したIFUデータから空間および波長の3次元データを取得し、EGSY8p7の広輝線成分を5 σ以上の精度で検出することに成功した他、広輝線成分が見られる領域とクランプ構造を対応づけることができた。また、以上の結果から、SMBHの形成における重い種BHの可能性や銀河合体による成長のシナリオについて、先行研究[4]と比較しながら考察する。
1. Bañados et al. 2018, Nature, 553, 473
2. Whitler et al. 2024, MNRAS, 529, 855-872
3. Larson et al. 2023, ApJL, 953, L29
4. Übler et al. 2024, MNRAS, 531, 355-365
講演GP-16: 乱流磁場が与えるファラデー深度やファラデー分散関数(FDF)への影響
講演者名: 菊池 翔太、所属: 熊本大学、学年: M1
共著者名:
乱流磁場が与えるファラデー深度やファラデー分散関数(FDF)への影響
菊池 翔太(熊本大学 修士1年)
磁場は宇宙のさまざまな天体に存在しているため、そこで起こる様々な現象に関わっている。そのため宇宙磁場の観測は、宇宙の歴史を理解するのに大いに役立つと考えられている。
宇宙磁場の観測において、シンクロトロン放射とファラデー回転という2つの現象が我々に様々な情報を
与えてくれる。シンクロトロン放射は視線方向に対して垂直な磁場成分に関する情報を、ファラデー回転は視線方向に対して平行な磁場成分に関する情報を与えてくれる。しかしこれらによって磁場成分を視線方向に積分した量はわかるが、これらが3次元的にどのように分布しているのかまではわからなかった。そこでこれらの分布を理解するために生まれたのがファラデートモグラフィーである。これによって得られるファラデー分散関数(FDF)はファラデー深度を変数にもつ関数であり、三次元的な物理的情報を含んでいる。
本研究では乱流磁場を対象にしている。乱流磁場とは宇宙の様々な場所でランダムな大きさと向きを持つ磁場のことである。乱流磁場が存在している時の波数空間におけるパワースペクトルを仮定し、ファラデー深度やファラデー分散関数の分散や自己相関関数、自己相関係数を図示することで乱流磁場がファラデー深度やファラデー分散関数(FDF)に与える影響を調べる。
1, Keitaro Takahashi , Introduction to Faraday tomography and its future prospects,2023 2.1
2, Yohei Mishiro, The power spectrum analysis in the simple face-on galactic models,2024 2.6
講演GP-17: 赤方偏移1.6前後の星形成銀河を対象としたFMOS-COSMOSサーベイの科学的成果とすばるPFSへの展望
講演者名: 美濃 宏太、所属: 広島大学、学年: M1
共著者名:
本講演では、すばるPFS-SSPの本格始動に際し、その前駆サーベイであるFMOS-COSMOSが明らかにしたz∼1.6の宇宙における星形成銀河の物理・化学的性質について、特にKashino et al. (2013 ApJL, 777, L8; 2017b ApJ, 835, 88; 2019 ApJS, 241, 10 )およびZahid et al. (2014b ApJ, 792, 75 )の一連の研究成果を中心にレビューする。FMOS-COSMOSサーベイは、Hα輝線に基づきz∼1.6の星形成銀河の星形成率やダスト減光を系統的に調査した (Kashino et al. 2013) 。これにより、同時代の銀河の星間物質(ISM)の物理状態と化学組成に関する詳細な研究が可能となった。Zahid et al. (2014b)では、質量-金属量関係(MZR)がz∼1.6で近傍宇宙とは異なる傾きを持つことが発見されたが、大質量側では近傍宇宙と同程度の金属量に達していることが示された 。さらにKashino et al. (2017b)は、輝線比診断図(BPT図)における高赤方偏移銀河のオフセットが、より高い電離パラメータやガス密度に起因することを示唆し たことに加え、MZR・質量-金属量-SFR関係(FMR)の再検証を行った 。最終的なFMOS-COSMOSカタログ (Kashino et al. 2019) は、これらの成果を統計的に確固たるものとした。本講演ではこれらの論文の主要な成果をまとめ、観測的課題やPFS-SSPへの展望についても議論する。
講演GP-18: 次元削減手法を用いた銀河多様体の解析
講演者名: 田口 湧大、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 竹内努(名古屋大学)
銀河は星とガス、ダスト、暗黒物質からなる巨大な天体であり、多くの複雑なプロセスを経て進化している。天文学では、多波長観測によって物理的性質を得ることで研究されてきた。これらの性質の多くは相互に明確な相関を示し、多くの経験的関係、いわゆるスケーリング則として議論されてきた。スケーリング則の一つに、色-等級関係というものがある。これは、銀河が色-等級図上で、レッドシークエンスと呼ばれる赤い銀河のタイトな系列と、ブルークラウドと呼ばれる青い銀河のより広がった系列の2つに分類できる(Blanton, 2006)というものである 。レッドシークエンスの銀河は星形成が乏しく、一方ブルークラウドの銀河は星形成が盛んであることがわかっている。このように、色-等級関係は、銀河を物理的性質によって分類することができるということを示唆する重要な関係である。しかし、従来の色-等級図では近紫外から可視光による観測のみが考慮されているという点で課題があった。紫外や赤外においても銀河の観測が進む現在では、より多くの波長帯域からの観測データを得ることができる。したがって、多波長における光度空間上において、データ駆動的に、より統括的な銀河の性質決定が求められる。
本研究では、近赤外から紫外までの11個の波長帯域の観測カタログが統合されたRCSED(Chilingarian et al., 2017)を用いて解析を行った。RCSEDに対して、次元削減手法の1つであるPaCMAP (Yingfan Wang et al., 2021)を適用し、2次元へ次元削減を行った。PaCMAPとは、与えられた高次元データに対して情報の損失が少ないように低次元データを再構築する次元削減手法である。PaCMAPで再構成された平面上で、2種類の銀河の系列がどう表れるかを解析した。また、星形成率や星質量などの物理量の分布も解析した。以上の解析から、多波長観測に次元削減を適用することの有用性を示し、z < 0.1程度における普遍的な銀河の進化と物理量の関係を報告する。
講演GP-19: 非負値行列因子分解(NMF)によるNGC253の星形成由来の構造・輝線の抽出
講演者名: 岸川 涼、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 原田ななせ (国立天文台), 斉藤俊貴 (静岡大学), Susanne Aalto (Chalmers University of Technology), Laura Colzi (Centro de Astrobiología), Mark Gorski (Northwestern University), Christien Henkel (Max-Planck-Institut für Radioastronomie / Xinjiang Astronomical Observatory), Jeffrey G. Mangum (NRAO), Sergio Martín (ESO / JAO), Sebastian Muller (Chalmers University of Technology), 西村優里 (東京大学), Víctor M. Rivilla (Centro de Astrobiología) , 坂本和 (ASIAA), Paul van der Werf (Leiden Observatory), and Serena Viti (University College London)
100億年前の宇宙の銀河では、星形成が現在の100倍ほど活発に行われていたと考えられている。現在の宇宙においても、通常の銀河に比べて非常に大量の星を形成しているスターバースト銀河が存在しており、「大量に星形成を行っている」という100億年前の銀河との共通点から、銀河進化の鍵を握っていると考えられている。銀河内部で起きている星形成の物理的・化学的プロセスを詳しく調べることは、銀河進化の解明において極めて重要である。NGC 253は、中心部に活発な星形成領域を持つ近傍スターバースト銀河として広く知られており、銀河中心に存在する分子ガスの運動や化学的性質を通じて、スターバースト現象を理解するための重要な観測対象である。
本研究では、アタカマ大型ミリ波・サブミリ波干渉計(ALMA)によって空間分解能16 pcで取得された44種・148本の分子輝線の積分強度図、およびBand 3と7の連続波の画像データを使用し、非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization: NMF)という次元削減手法を用いて、星形成に関連する分子や物理成分を分離・抽出した。
NMFにより抽出された5つの成分のうち4つの成分は、それぞれ①銀河中心に広がる低密度ガス、②分子雲同士の衝突領域、③中励起の衝突領域、④若い星形成領域、⑤スターバースト領域に対応していると考えた。また、抽出された5つの成分のうち②、③、④成分は、励起エネルギーに強く依存しており、それぞれ分子輝線の低・中・高励起状態を示すと解釈することができた。
さらに、同じデータセットに適用された別の次元削減手法の一つである主成分分析(Principal Component Analysis: PCA)と比較したところ、NMFは一つの成分が一つの物理現象に対応しやすく、特にアウトフローのような強度の弱い成分の抽出に優れていることが分かった。これらの結果から、NMFは今後計画されているALMAのアップグレードにおける分子輝線のデータ解析においての有力な手法として期待される。
講演GP-20: 近傍棒渦巻銀河NGC2903におけるGMC進化
講演者名: 山本 美咲、所属: 大阪公立大学、学年: M1
共著者名:
宇宙の最も基礎的な構成要素である銀河の進化について理解することは天⽂学における
重要な課題の⼀つである。銀河進化に影響を与える天体の1つに太陽の8倍以上の質量を
持つ⼤質量星がある。⼤質量星は星の⺟体となる分⼦雲のなかでも質量が 10^4 太陽質量以
上の分⼦雲である巨⼤分⼦雲(Giant Molecular Cloud: GMC)の内部で星団の⼀部として形
成される。よって GMC 進化過程を理解することは⼤質量星形成、さらには銀河進化の解
明につながる。
GMC の進化を研究する上で⽤いられる⼿法に GMC をその星形成段階に応じて3つの
Type に分類する GMC の Type 分類がある。具体的にはGMC に付随する HII 領域の Hα輝線光度のみを⽤いて分類する方法(Type Ⅰ:HII 領域の付随なし、Type Ⅱ:L(Hα)<10^37.5 erg s-1 の HII 領域が付随、Type Ⅲ:L(Hα)≥10^37.5 erg s-1 の特に明るい HII 領域が付随)である。こちらの方法はすでにKonishi et al., 2024、Demachi et al., 2024にてM33、M74に適用され、その結果が報告されている。
本研究では、このHα光度に基づく GMC の Type 分類を棒渦巻銀河に適⽤し、⼤質量星形成の活発さに応じた GMC の物理的性質について解析を⾏った。今回、研究に⽤いた天体は NGC2903と呼ばれる近傍棒渦巻銀河である。ALMA 12m array + ACA を⽤いて観測された 12CO (J=2-1)データから 1108 個の GMC を同定し、この結果と Hα輝線データを⽤いて GMC の Type 分類を⾏い、各 Type の GMC の物理量(質量・半径・速度分散)の⽐較を⾏った。その結果、Type が進むにつれて、すなわち GMC が進化するにつれて GMCの質量・半径が⼤きくなるが、速度分散ではあまり⼤きな違いがないことがわかった。さらに棒構造や渦巻腕など異なる銀河環境ごとの GMC の物理的性質の違いについても調べると、質量・半径は⼤まかに中⼼領域>Bar 領域>Arm 領域>inter-arm の順に⼩さくなっているのに対し、速度分散は中⼼領域>Bar 領域>inter-arm>Arm 領域の順に⼩さくなっていることがわかった。また、各 Type の GMC の物理量の変化も銀河環境によって⼤きく異なっていることがわかった。
講演GP-21: 近傍金属欠乏銀河が示す近赤外時間変動放射の系統的探索
講演者名: 波多野 駿、所属: 総合研究大学院大学、学年: D2
共著者名: 千葉遼太郎(総合研究大学院大学)
本研究では、過去に報告された金属欠乏銀河約100天体を対象に、WISE/NEOWISEミッションが取得した3.4 μm(W1)および4.6 μm(W2)バンドの16エポックにわたる近赤外線時系列データを用いて変動の有無を系統的に調べた。まず、既知の変動例であるSBS 0335–052EおよびJ1205を再度検出した。その上で、新たに1天体の変動候補を同定した。この天体は、過去のデータから、SBS 0335-052EやJ1205と同様に、赤外線帯で熱いダストからの放射があることを確認した。AGNを考慮したSED fittingをCIGALEコードを用いて実施し、赤外線帯のSEDの形が、AGN torusの放射により説明できることを示した。変動の物理起源については、活動銀河核(AGN)と解釈するとブラックホール質量10^5 M⊙の中間質量ブラックホール存在を示唆するとともに、超新星と解釈すると従来知られていない新しい種類の超新星の可能性を示唆する。今回、ライトカーブから熱いダスト大きさと形状について議論する。
講演GP-22: 低金属量の高赤方偏移銀河における水分子の放射機構とPop III超新星由来の水分子形成過程
講演者名: 佐藤 愛奈、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 田村 陽一(名古屋大学)
宇宙における生命の起源を探る上で、「水」は最も基本的で重要な物質である。水は生命活動に不可欠であると同時に、生命が存在しうる環境を示す重要な指標として、第二の地球への探査などに利用されている。しかし水分子は、低金属量の高赤方偏移銀河のトレーサーとしては知られておらず、観測的研究は行われていなかった。だが近年では、広い金属量の範囲で比較的安定に存在すると予測されており、初代銀河の発見に有用な手法である可能性が示唆されている。なお、初代銀河は高赤方偏移の時代に形成されたと考えられており、高赤方偏移銀河の観測はその性質を探る上で極めて重要である。
本講演では、水分子の放射機構について紹介と、ビッグバンから1–2億年後における水の生成過程をシミュレーションした論文”Abundant Water from Early Supernovae at Cosmic Dawn”(D. J. Whalen, M. A. Latif, C. Jessop, arXiv:2501.02051v2) の結果をレビューする。
水分子は、分子ガス中や固体微粒子の表面などの環境で、それぞれ異なる化学反応を経て形成される。高赤方偏移銀河においては、宇宙背景放射(CMB)と温度の高いダストが放射する遠赤外線(FIR)によって水分子が励起される「CMB-pumping」と「FIR-pumping」が重要な励起機構となる。これらの水分子線を検出することができれば、初代銀河に含まれているとされる少量のダストの存在を捉える手がかりとなる可能性がある。
この論文では、Pop III星が重力崩壊型または対不安定型の超新星として爆発する場合を仮定し、数値シミュレーションを実施している。結果として、ハロー内で星の元となるクランプが形成される過程で水が生成されることが明らかになった。さらにハロー同士の合体によって銀河が成長する過程で、水を含んだガスやダストも取り込まれた可能性が示されている。つまり、水が最初期の銀河のガスに含まれていた可能性がある。現在、水分子線が検出されている最も遠方の銀河は z = 6.9 であり、今後のALMA などによる高赤方偏移銀河の観測に大きな期待が寄せられている。
講演GP-23: 高次元統計解析による銀河分子ガスの物理的特徴抽出
講演者名: 大金 有羽、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名:
天文学では、次元が d、標本数が n であるデータにおいて、n ≪ d となる場 合がよく見られる。従来、このような状況は不適切とみなされ、d < n となるよ うにデータの次元の情報を大幅に削減する必要があった。このような n ≪ d の データは、「高次元小標本」と呼ばれる。近年では、このような高次元データの解 析において、高次元統計解析と呼ばれる手法が発展してきた。その代表的な手法 としては、高次元 PCA であるノイズ掃き出し主成分分析(NRPCA)や自動ス パース主成分分析(A-SPCA)が挙げられる。
アタカマ大型ミリ波/サブミリ波干渉計(ALMA)による銀河の分光マップ は、典型的な高次元小標本データである。論文 [1] は、ALMA が観測した近傍の スターバースト銀河 NGC 253 の分光マップに高次元 PCA を適用した。これに より、特定の物理モデルを仮定せずに、分光マップを特徴づける主要な物理量が 銀河の回転成分であることを示した。さらに、ドップラー効果を補正したデータ に適用することで、主成分がスターバーストに起因するアウトフローや速度場の 異常を反映していることを示した。
本研究では、ALMA Comprehensive High-resolution Extragalactic Molecular Inventory(ALCHEMI)プロジェクトで得られた、より高い信号対雑音比を有す るデータ [2] に高次元 PCA を適用する。これらの手法のより精度の高いデータへ の有効性を検証するとともに、分析の結果得られた主成分の物理的解釈を行う。
参考文献
[1] 竹内 努 ほか, “ 高次元統計解析で探る銀河の分子ガスの物理状態と天文学への展望 ”, 統計数理, 第 72 巻 第 2 号, 273–303 (2024).
[2] S. Mart´ın et al., “ ALCHEMI: an ALMA Comprehensive High-resolution Extragalactic Molecular Inventory ”, Astronomy Astrophysics, (2021).
講演GP-24: 超新星フィードバックの効率:星間乱流・電離輻射の影響
講演者名: 知久 真斗、所属: 北海道大学、学年: M1
共著者名: 杉村 和幸(北海道大学)
超新星(Supernova, SN)によるフィードバックは、星形成の抑制や銀河進化において重要な役割を果たす。本研究では、初期銀河におけるSNフィードバックの理解を深めることを目的とし、分子雲の自己重力崩壊から超新星残骸(SNR)の進化に至る過程を、輻射流体力学シミュレーション RAMSES-RT を用いて解析した。シミュレーションでは、乱流をもつ分子雲を初期条件として設定し、星団形成後に電離放射が発生し、3Myr後に1つのSNが起こる構成とした。電離放射の有無による影響を比較した結果、電離放射がある場合には、あらかじめ形成された電離バブルに沿ってSNRが特定方向に広がる様子が観測され、バブルの膨張が方向依存的に強化されることが確認された。一方、電離放射がない場合には膨張が抑制される傾向が見られた。これにより、事前の低密度環境の形成がSNRの進展に与える影響の重要性が示唆された。現在はさらに、ガス雲のサイズ、質量、SNの回数、金属量、乱流強度など初期条件を変化させたシミュレーションを行い、それらがフィードバック効果に与える影響についても調査を進めている。
講演GP-25: 弱い重力レンズ効果を用いた銀河中心部のダークマター密度分布解析
講演者名: 藤川 百花、所属: 千葉大学、学年: M1
共著者名: 大栗真宗(千葉大学)
これまで、理論と観測データの双方からのアプローチにより、宇宙を記述する標準宇宙モデルが構築されてきた。この標準宇宙モデルは、大きなスケールの観測は非常に良く説明するが、銀河やハローといった小さいスケールの観測とは矛盾するところがある(小スケール問題)。この問題について、従来は速度分散や強い重力レンズ効果を用いて銀河中心部のダークマター密度分布を調べることで解決を試みる研究が行われてきたが、未だ完全な解決には至っていない。一方で、近年、観測技術の発展により、弱い重力レンズ効果でも銀河中心部の密度分布が測定可能になった。そこで本研究では、この弱い重力レンズ効果を用いて銀河中心部のダークマター密度分布を解析する。
解析にはすばる望遠鏡のHyper Suprime-Cam (HSC)による観測データを用いた。銀河形状サンプルにはpublic three-year shape galaxy catalog (Li et al. 2022)を、レンズ銀河にはCAMIRAクラスタ検出アルゴリズム(Oguri et al. 2014)によって得られたphotometric Luminous Red Galaxy (LRG)を使用する。観測されたレンズ効果のプロファイルに星成分とダークマター成分の2成分モデルを適用し、銀河中心近傍のダークマター分布に対する制限を得た。本講演では、得られた制限と、それが示唆する銀河形成の過程やダークマターの特性について議論を行う。
講演GP-26: 衝突銀河団 Abell 3667 の北西外縁部の ICM と電波レリック
講演者名: 伊藤 大将、所属: 名古屋大学、学年: D1
共著者名: 中澤知洋 (名古屋大学), 大宮悠希 (名古屋大学), 藏原昂平 (名古屋大学), 赤堀卓也 (国立天文台), 西脇公祐 (INAF Istituto di Radioastronomia), 浅野勝晃 (東大宇宙線研), 坂井晃生 (名古屋大学)
銀河団同士の衝突で解放されたエネルギーは、衝撃波による銀河団ガス(ICM)の加熱だけでなく、乱流や磁場といった非熱的成分に分配され、粒子加速を引き起こす。特に衝突銀河団外縁では、「電波レリック」と呼ばれる数 Mpc 規模の巨大なシンクロトロン電波構造が観測され、これは衝撃波とそれによる粒子加速を示唆する。しかし、レリックがどのように形成されたか、また被加速粒子の起源は未解明である。これらを明らかにするには個々の衝突銀河団外縁部のICMをX線で詳細解析し、電波観測と組み合わせることで非熱的成分を定量化することが重要である。
そこで我々は近傍でICMが明るく、最大の電波レリックを有する衝突銀河団Abell 3667に着目した。この天体は北西と南東に1対の電波レリックを持つ。北西電波レリック (NWR)周辺の過去のX線解析では、衝撃波の詳細な位置の同定はできておらず、そのすぐ南東の「マッシュルーム」と呼ばれる X 線高輝度領域は北西レリックと相互作用が示唆されるがその詳細は明らかでない。
我々は XMM-Newtonの観測データを用いてAbell 3667のNWR 周辺のICMを詳細に解析した。イメージ解析では、視野内の点源を徹底的に除去し、X 線輝度プロファイルを作成した。その結果、1st BCGから北西1.5 Mpcのマッシュルームでの X線輝度ジャンプに加え、新たに北西1.9 MpcのNWRでX 線輝度の不連続面を捉えた。また分光解析では、北西1.9 MpcのNWR でマッハ2の温度ジャンプを捉えた。しかし、これらの衝撃波候補は電波観測で示唆される衝撃波位置とは一致しない。本講演では、Abell 3667北西外縁部のICMの物理的特性について詳細なX線分光・イメージ解析の結果を報告し、電波とX線での衝撃波位置の矛盾と電波レリックの起源をつなぐ種電子の衝撃波再加速との関係性について述べる。
講演GP-27: MAXIによる全天の銀河団観測
講演者名: 滝 優輝、所属: 総合研究大学院大学、学年: M1
共著者名: 三原建弘(RIKEN)
全天X線監視装置MAXIが観測した銀河団249個のスペクトルを解析し、重元素組成比、温度、光度を得た。太陽組成に対する重元素組成比を決定できたのは33個の銀河団で、重み付き平均を計算すると0.28±0.09(太陽組成比)となった。温度の決定できた246個について温度と光度の関係を調査した結果、温度Tと光度Lにはべき乗の相関が見られた。温度に銀河団の個性を反映した分布上のばらつきがあると仮定すると、べき指数は 3.0±0.5 となり、先行研究の結果であるべき指数3程度と一致した。重元素組成比の平均値は先行研究と一致した。それぞれの銀河団の温度を他の観測機器を用いた先行研究と比較すると概ね一致した。
温度と光度からX線温度関数(XTF)を求め、先行研究と比較すると概ね一致した。
講演GP-28: XRISM衛星による静穏な銀河団Abell2029の速度観測
講演者名: 斉藤 結菜、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名: 内田悠介(東京理科大学)、太田直美(奈良女子大学)、Eric. Miller(MIT)、他XRISM/A2029解析チーム
銀河団は数百〜数千の銀河が数Mpc規模に重力的に集まった構造体で、宇宙年齢にわたり進化してきた宇宙最大の自己重力天体である。その形成・進化は宇宙全体の構造形成と密接に関係する。緩和の進んだ銀河団では一見大きなガス運動は見られないが、中心ではスロッシングやAGNフィードバックに起因する乱流の存在が明らかとなっている。現在、銀河団質量の推定には銀河団ガスが熱的圧力のみで重力と釣り合うとする静水圧平衡の仮定が広く使われているが、実際には中心で数%、外縁で数十%の非熱的圧力が存在し、質量の過小評価が懸念される。
ガスが重力ポテンシャル中心の周囲で振動するスロッシングは代表的な非熱的運動である。Chandra衛星のX線画像から、A2029(z = 0.077)中心から約400 kpcにわたり渦巻き状に広がるスロッシング構造が確認されている[1]。高エネルギー分解能を有するXRISM衛星により、その運動速度が直接測定可能となった。XRISM/Resolveの初期観測では、近傍宇宙で最も緩和が進んだ銀河団の一つであるA2029中心において乱流速度169 ± 10 km/s、非熱的圧力の寄与2.6 ± 0.3 %が報告されている[2]。
本研究ではスロッシングにより領域ごとに異なる速度構造が生じると考え、ResolveによるA2029中心領域の観測データを中心4ピクセルと北東・北西・南東・南西の計5領域に分割して解析した。これにより視線方向のバルク運動および乱流運動の空間分布を求めた。その結果、ガスが北側では近づき、南側では遠ざかる立体的な速度構造と、中心および北側で非熱的圧力の寄与が大きい分布が示された。ただし実際の三次元的な運動構造の理解には今後、数値シミュレーションとの比較を含む詳細な解析が必要である。
本講演では、A2029中心領域におけるResolve観測の解析結果を報告し、スロッシングに起因するガス運動について議論する。
[1] R. Paterno-Mahler et al 2013 ApJ 773 114
[2] XRISM Collaboration et al 2025 ApJL 982 L5
講演GP-29: A Review of Large-Scale Models in Astronomical Data Analysis
講演者名: Guo Xingyi、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
The exponential growth of astronomical datasets presents unprecedented challenges and opportunities for efficient and accurate data processing. Traditional methods often struggle to scale, prompting the rise of large-scale models—including pretrained convolutional neural networks, transformer-based foundation models, and vision-language multimodal models (VLMs)—which are reshaping the landscape of astronomical data analysis.
A key area of progress lies in unsupervised galaxy morphology classification. Recent work leveraging ConvNeXt-based large convolutional models integrates image denoising via convolutional autoencoders, robust feature extraction using pretrained CNN encoders, and ensemble classification with bagging. This approach significantly reduces clustering complexity—cutting down the number of required groups by a factor of five—and improves classification efficiency while maintaining consistency with known galaxy evolution models. This demonstrates that large convolutional models, combined with dimensionality reduction techniques, are effective for scalable, label-free galaxy image analysis.
Parallel to this, the development of foundation transformer models tailored for astronomy, such as AstroPT, shows promise for general-purpose large-scale image understanding. Trained on millions of galaxy postage stamps, these autoregressive transformers exhibit scaling laws similar to those found in natural language processing: larger models lead to better downstream task performance up to a saturation point. Open-source release of models and datasets encourages community-driven development toward a shared “Large Observation Model” for astronomical data.
Another exciting frontier is the application of vision-language multimodal models (VLMs) for zero-shot classification. Models like GPT-4o and LLaVA-NeXT use natural language prompts to classify low surface brightness galaxies, morphological types, and artifacts without task-specific training, achieving accuracy rates above 80%. This highlights the potential of large language and vision models to perform semantic reasoning and transfer knowledge, enabling flexible, interactive analysis pipelines in astronomy with minimal human labeling effort.
Supporting these modeling advances, an efficient GPU-accelerated image pre-processing framework addresses a critical bottleneck in time-domain astronomy. By enabling real-time feedback (Eager mode) and large-scale batch processing (Pipeline mode), this framework accelerates image alignment, stacking, background subtraction, and photometric calibration—key steps for preparing data for downstream AI tasks. The framework achieves significant speedups over CPU-based approaches while maintaining accuracy, facilitating seamless integration with diverse AI algorithms.
Finally, a comprehensive large vision model (LVM)-based framework has been proposed for multi-task galaxy image analysis, covering morphology classification, image restoration, object detection, and parameter extraction. Incorporating a Human-in-the-Loop (HITL) module, it leverages expert knowledge to improve reliability, especially in low signal-to-noise scenarios. This system demonstrates strong few-shot learning capabilities, requiring substantially less training data than traditional methods, and opens doors for integrating multimodal and multi-domain data analyses in the era of multi-messenger astronomy.
These interconnected advances illustrate how large-scale models—from convolutional and transformer architectures to multimodal language-vision systems—are collectively transforming astronomical data analysis. By improving scalability, accuracy, and adaptability, they pave the way for more autonomous, interpretable, and collaborative discoveries in the coming decades.