
アブスト:コンパクト天体分科会

口頭講演
講演CK-01: 副次的光度ピークを持つIbc型超新星の星周物質とその形成過程
講演者名: 千葉 遼太郎、所属: 総合研究大学院大学、学年: M2
共著者名: 守屋 尭 (国立天文台)
Ibc型の超新星は、水素外層を失った比較的半径の小さな大質量星の爆発であると考えられている。通常のIbc型超新星では、その光度は爆発から20日程度の間上昇してピークに達する。しかし近年、爆発5日程度後に一度光度が極大になった後に、通常のIbc型超新星のように光度がもう一度ピークに達するような超新星が、いくつか発見されている [1]。類似した副次的な光度ピークは、軽量で半径の大きな水素外層を持つ大質量星の爆発 (IIb型超新星)でも観測され、恒星のコアの重力崩壊によって生じる衝撃波により加熱された水素外層の冷却が原因として理解されている。しかし、Ibc型超新星は前述の通り水素外層を失った半径の小さな恒星の爆発なので、このモデルは適用できない。
研究 [2] において、このような光度曲線が、爆発前の恒星からの質量放出によって形成された高密度のガス(星周物質)の存在によって説明できることを、輻射流体力学シミュレーションを用いて立証した。このモデルでは、衝撃波によって加熱された星周物質からの熱放射として、光度曲線を説明する。また、理論光度曲線と観測の比較によって、星周物質の質量を 10^-2 ~ 10^-1 Msun, 半径を 1000 ~ 5000 Rsun と求めた。さらにこの結果は、連星間の相互作用によって形成される、連星に重力的に束縛された円盤 (周連星円盤)の半径・質量 [3] と整合的であることを指摘した。本講演では、連星が形成する周連星円盤の進化について検討することにより、このモデルの妥当性を検証する。
1. Das et al. 2024, ApJ, 972, 91
2. Chiba & Moriya 2025, submitted to MNRAS, arXiv:2504.06445
3. Ercolino et al. 2025, 696, A103
講演CK-02: 近赤外線観測で探るlong-livedなIIn型超新星爆発の性質
講演者名: 後藤 颯太、所属: 鹿児島大学、学年: M2
共著者名: 山中 雅之(鹿児島大学)
IIn型超新星とは、重力崩壊型超新星のうち水素に富む星周物質 (CSM)と超新星エジェクタの相互作用に由来する放射が長期間見られる超新星である。このCSM相互作用により、観測されるスペクトルには水素の幅の狭い輝線が見られ、光度曲線にはある程度の多様性が見られる (Hiramatsu+ 2024など)。特に明るく、長寿命であるものはlong-lived type IInと呼ばれるが、その一部では爆発後しばらくするとダスト放射の寄与による赤外超過が認められることがある (Fransson+ 2014)。これが星周ダストからの放射であるとすると、従来の恒星進化モデルでは説明が困難である親星の質量放出履歴をたどる重要な鍵となりうる。
本研究では、IIn型超新星と同定されたSN 2024dyの紫外線から近赤外線での測光・分光観測を行った。本天体は明るく緩やかな進化を見せるlong-lived type IInに分類され、後期観測で近赤外線での再増光が認められた。SEDの解析からダスト放射に由来すると考えられる赤外超過を確認し、ダストモデルを用いて観測されたダストの性質を調査した。また、可視光の光度曲線の減光率上昇とラインプロファイルの非対称性が見られたことから相互作用領域での新たなダスト形成も示唆される。
本公演では、SN 2024dyの測光と分光観測の結果を報告するとともに、その性質と観測されたダスト放射から考察される星周ダストの性質と起源について議論する。
講演CK-03: 鉱物試料に残されたニュートリノの痕跡から探る銀河系の超新星発生史
講演者名: 山﨑 眞尋、所属: 九州大学、学年: M2
共著者名:
宇宙に存在する星のうち太陽質量の8倍以上の質量をもつ星は、その一生の最後に重力崩壊して超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、ニュートリノを介してその重力エネルギーを宇宙空間に解放する。そのようなニュートリノを検出する方法として、地球上に存在する鉱物試料を用いた Paleodetector と呼ばれる手法が Baum et al. (2020) によって提案された[1]。過去の地球に飛来したニュートリノが鉱物試料内部の原子核と相互作用すると、反跳した原子核は飛跡を残す。この飛跡を顕微鏡で読み取ることができれば、過去の地球にニュートリノが飛来した証拠になり得る。Baum et al. (2020) は、銀河系内の超新星ニュートリノを仮定して、Paleodetectorによって超新星発生率の時間変化が検出可能かどうかを評価した。しかし、一部の天体は超新星爆発に失敗し、ブラックホールを形成する過程でニュートリノを放出と考えられている。また、ニュートリノのスペクトルは原始中性子星内部の構造を記述する状態方程式に依存することが知られている。そこで本研究では、ニュートリノの発生源としてブラックホールの寄与を含めた。また、状態方程式のモデルに基づく数値計算によって求められたニュートリノスペクトルを利用した。これらを前提に超新星発生率の時間変化の検出可能性を再評価した結果、ブラックホール形成の寄与を考慮すると、 Paleodetector による超新星発生率の時間変化の検出可能性が高くなること、またその変化は状態方程式のモデルとブラックホールの存在割合に依存することがわかった。
[1] S. Baum, T. D. P. Edwards, B. J. Kavanagh, P. Stengel, A. K. Drukier, K. Freese, M. G’orski, and C. Weniger 2020, Phys. Rev. D, 101, 103017
講演CK-04: Ia型超新星の光度曲線の教師無し機械学習を用いた解析
講演者名: 尾藤 太宇、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
Ia型超新星は、宇宙論で距離指標として使われるなど、重要な天体である。光度曲線の幅を表すストレッチというパラメータを使って明るさを補正し、距離指標としているが、光度曲線の統計的性質は完全には理解されておらず、 その多様性がストレッチの1パラメータだけで表しきれるかどうかは明らかでない。近年では、Si IIの輝線速度の違いがピーク後20日付近の光度曲線の形の違いに対応しているなどの多様性が報告されている。そこで我々は、大きなサンプルを統計的に調査し、光度曲線の形状を決める特徴量を分析した。
Zwicky Transient Facility (ZTF)のおよそ200のサンプルに対し、主成分分析(PCA)やUMAPなどの次元削減アルゴリズムを適用して解析を行なった。
PCAは、多次元のデータから、そのばらつきを最もよく説明する軸(主成分)を順に抽出し、より低次元でデータの多様性を表現しようとする手法である。元の空間での分散と、低次元に射影した後の分散を比較し、それぞれの主成分がデータの多様性にどの程度寄与しているかを評価できる。
rバンドの光度曲線のPCAによる次元削減の結果、第一主成分とストレッチの間に強い相関が見られ、分散を調べたところ光度曲線の多様性の64%をストレッチで説明できることが明らかになった。さらに、残り36%の多様性を統計的に説明するべく、多バンド測光データの解析や、ホスト銀河など超新星のいる環境情報との関係の調査を進めている。
本研究により、ストレッチが光度曲線の形状を最もよく説明するパタメータであることが機械学習から裏付けられるとともに、ストレッチだけでは説明できない多様性が定量的に明らかになった。1パラメータで行っている宇宙論の補正に加え、残りの成分を考慮に入れることで、距離指標としての精度を高められる可能性がある。
講演CK-05: 機械学習によるX線天体の分類手法
講演者名: 菊池 誠、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名:
機械学習とはデータのパターンを学習し、それをもとに目的に応じて予測や分類を行う手法のことであり、インターネットの発展によりビッグデータが活用できるようになった現在、深層学習を代表とする様々な手法が開発され多くの分野で活用されている。\
本研究の目的は、機械学習により X 線天体を分類する手法を開発することである。現在までに様々な天体が人の手によって分類されてきたが、未だ多くの未分類の天体が存在する。機械学習モデルが分類を精度よく行えれば未分類の天体を短時間で分類することが可能になる。\\
今回教師データとして『Multiwavelength Catalog of 10,000 4XMM-DR13 Sources with KnownClassifications』(Lin et al. 2024) を用いた。このカタログは X 線天文衛星 XMM-Newton によって観測された天体のうち、分類が既知である天体から約 1 万天体を選出したものであり AGN、CV(激変星)、LM-STAR(低質量星)、NS(中性子星)、YSO(原始星) などの 9 つの分類クラスが含まれている。今回、人間の脳の神経回路に着想を得た人工ニューラルネットワークと呼ばれるモデルの一種である多層パーセプトロン (Multi Layer Perceptron; MLP) を用いた。\\
ハイパーパラメータチューニングなどの調整を行なった結果、正答率 87.3 \% が得られたが、正答率は高いもののクラスごとの偏りが激しい結果となった。今回用いている教師データでは 2 つの分類クラス (AGN、LM-STAR) の天体数が全体の83.7 \% を占めており、そのため他の分類クラスが過小評価されていることにより正答率の偏りが生じた可能性があると考えた。そこでリサンプリングと呼ばれる手法を用いてこの問題点の解決を試みた。リサンプリングとは、学習に用いるデータにおいて各クラスの天体数を調整しクラスの偏りを解消する手法である。その結果、正答率 77.2 \% を得られ、正答率は下がったがクラスごとの正答率は上昇した。このモデルは分類ごとの特徴をより把握できており、正答率が高いもので 90.8 \% (YSO)、83.4 \% (AGN) が得られたが、そのほかのクラスでも正答率 60 \% ほどであった。
講演CK-06: 現実的中性子星構造を用いたマグネター混合磁場の安定条件の再検討: 状態方程式への依存性
講演者名: 城 壮一郎、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 藤澤 幸太郎 (東京工科大学)、諏訪 雄大 (東京大学)、徳野 鷹人 (東京大学)
宇宙には、極めて強い磁場を有する中性子星であるマグネターが存在する。これらの天体における双極子磁場は、回転周期およびその時間変化から、表面付近で 10^{14}~10^{15} G 程度と推定されている。一方、その内部にはさらに強い、最大で 10^{16} G に達する磁場が存在する可能性が指摘されている。マグネターの内部磁場は、安定性の観点からトロイダル成分子午面に垂直な面内の成分とポロイダル成分子午面に平行な面内の成分が共存する構造をとると考えられているが、その具体的構造や安定条件は依然として未解明である。磁場の安定性には星の密度成層が重要であるが、Akgün et al. (2013) は密度と圧力が簡略化されたモデルの解析しか行っておらず、現実的な中性子星の安定性の議論はなされていない。本研究では、状態方程式を踏まえて構成した現実的な中性子星の内部構造を用いて磁場の安定性解析を行う。まず核物理に基づいた現実的な状態方程式 (例えば Lattimer & Swesty 1991; Steiner et al. 2013) に基づき、密度勾配や組成変化を忠実に反映した中性子星の内部構造を構築する。得られた構造を背景として、Akgün et al. (2013) の手法に基づきトロイダル・ポロイダル混合磁場の安定性条件を再評価する。これにより、現実的な状態方程式に基づく中性子星構造が磁場の安定性に及ぼす影響を定量的に議論する。
講演CK-07: 偏光輸送計算で迫るガンマ線バーストの放射メカニズム
講演者名: 米永 直生、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 當真 賢ニ(東北大学), 桑田 明日香(東北大学)
ガンマ線バースト(GRB)とは、大質量星の重力崩壊や連星中性子星合体によって引き起こされると考えられている爆発現象であり、数秒から数千秒間続く即時放射は電磁波として最も明るい放射を放つ。GRBの放射機構は未解明であり、従来のスペクトル解析では光球放射かシンクロトロン放射かを区別することは困難であることが知られている。そこでスペクトルとは独立な情報である偏光を組み合わせることで放射機構を解明できることが期待されている。次世代のGRB偏光観測検出器であるPOLAR-2は、30-800 keV帯でGRBの偏光度が測定可能であり、2027年の運用開始が予定されている。また光球放射モデルでは、複数のGRBイベントにおいてPOLAR-2の感度域を含む低エネルギー領域(数10-100 keV帯)で偏光度が20-30%ほどに達する結果が得られている(Lundman et al. 2018)。本研究では、これまで考慮されていなかった熱的電子によるファラデー消偏光の効果を新たに導入し、偏光輸送計算を行った。その結果、従来の偏光度に比べて特に低エネルギー領域で偏光度が抑制されることがわかった。従来予測との比較を通じてその妥当性や観測可能性についても議論する。
講演CK-08: 2024年にSwift衛星によって観測されたFRED型ガンマ線の系統的解析
講演者名: 宮崎 穣、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名:
ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst;GRB)は、ビッグバン以降最大の爆発現象として多くの関心を集めている。GRBの放射スペクトルは2つのべき関数をなめらかに繋いだBand関数で記述できる(Band et al. 1993)。Band関数の詳細な物理的背景についてはさまざまな角度から議論されているが、たとえば空間的に非一様な磁場からのシンクロトロン放射モデルが考えられている。(e.g.Zhao et al. 2014)。これらはGRBの時間平均スペクトルに対する解釈に関するものであるが、スペクトルの時間発展まで含めた検証が重要になる。GRBの時間発展については、勝倉(2020)および堀江(2021)において指数関数的に減光するGRBについて時定数のエネルギー依存性が帯域によって異なることが指摘されている。さらに藤森(2022)では、調査された6個のGRBのうち4個が時定数のふるまいがBand関数の時間変動によるものだと考えて矛盾がなかった。これらを受けて、本研究では2024年に観測された2つのFRED型GRBを新たに解析した。これらはいずれも減光時定数にこれまでと同様のエネルギー依存性が見られた。そこで、その時定数の振る舞いがBand関数の時間変動で自然に説明できるかを調査した。その結果、時定数の変動の大きい領域とBand関数の2つのべきが接続される帯域が重なっていることがわかった。すなわち、今回解析した2つのGRBスペクトルはBand関数で表せると考えて矛盾はなく、空間的に非一様な磁場からの放射である可能性が示唆された。
講演CK-09: 連星中性子星合体のスペクトル解析による重元素生成量の制限
講演者名: 松林 優太、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 田中 雅臣(東北大学)、和南城 伸也(東北大学)、藤林 翔(東北大学)
連星中性子星合体では、中性子過剰な物質が放出され、原子核がベータ崩壊するよりも速く中性子を捕獲するrプロセスによって重元素が生成される。
理論的には、連星中性子星合体からの放出物質として、重い元素を多く含むdynamical ejectaと、重い元素が少ないpost-merger ejectaが存在すると考えられている。
観測的には、2017年に観測された連星中性子星合体後の電磁波放射(キロノバ)のスペクトルから、Sr(Z=38)、La(Z=57)、Ce(Z=58)が同定されたが、それらの生成量に関する定量的評価は未だ十分ではない。
さらに、先行研究の多くでは、密度構造や温度を固定した条件下でキロノバの輻射輸送計算が行われており、それらのパラメータが質量割合の推定に与える影響は十分に理解されていない。
本研究は、キロノバのスペクトルに見られるSr、La、Ceの吸収の深さを再現するために必要な質量割合を推定するとともに、連星中性子星合体の放出物質として期待される密度構造の範囲を広く調査し、元素合成の検証を行うことを目的とする。
そのために、まずP-Cygniプロファイルを計算するコードを作成し、各吸収線の深さを求めた。
次に、LTE近似のもと、温度と密度構造をパラメータとして扱い、吸収の深さを再現するために必要な各元素の質量割合を推定した。
その結果、質量割合を推定するにあたって最も重要なパラメータは、系の温度構造に大きな影響を及ぼす放出物質の密度構造であることが明らかになった。
そこで、合体後に予想される密度構造の範囲を広く調べた結果、各元素の質量割合は、dynamical ejectaとpost-merger ejectaで期待されるいずれの組成比とも整合的であることが示された。
講演では、スペクトルの時系列も用いた解析結果も紹介し、連星中性子星合体における元素合成の検証結果について報告する。
講演CK-10: キロノバのスペクトルにおけるヘリウム吸収線
講演者名: 千葉 公哉、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 田中雅臣(東北大学)、仏坂健太(東京大学)
宇宙における重元素の起源の1つとして、連星中性子星合体が有力視されている。合成された元素の崩壊熱で合体による放出物質が加熱されることによって、キロノバと呼ばれる熱的な電磁波放射を可視光線域・近赤外線域で観測することができる。キロノバのスペクトルを読み解くことで、連星中性子星合体における元素合成について観測的に研究することができる。
2017 年、連星中性子星合体からの重力波(GW170817)の検出に伴い、実際にキロノバ(AT2017gfo)が観測された。合体後数日のAT2017gfoのスペクトルには、1 μm付近にP-Cygniプロファイルを伴った強い吸収線が見られる。この吸収線に寄与している元素の候補として、ストロンチウムおよびヘリウムが提案されている。この検証のためには、放出物質におけるこれらの電離状態およびスペクトルへの影響を考える必要がある。前者に関しては、局所熱平衡を仮定した輻射輸送計算などによって実際に強い吸収線を作り得ることが検証されている。一方、後者に関しては、その検証に重元素の放射性崩壊由来に由来する高エネルギーの非熱的電子の効果を考慮しなければいけないため、ほとんど検証されてこなかった。吸収線強度から放出物質におけるストロンチウムやヘリウムの存在量を推定するために、これら2つの元素が吸収線にそれぞれどの程度寄与するのかを明らかにすることが重要である。
そこで、我々は非熱的電子による効果を考慮したヘリウムの反応速度方程式を解くことで、ヘリウムがキロノバのスペクトルにどの程度影響を与えるかを評価した。爆発からの時間や非熱的電子による加熱率、ヘリウムの質量割合などがヘリウム吸収線強度に与える影響について調べた。その結果、連星中性子星合体において実現され得る条件で、ヘリウムは実際に1 μmの吸収線に寄与することを確認した。本講演では、ストロンチウムによる寄与との比較や元素合成への制限などについて議論する。
講演CK-11: WZ Sge 型矮新星 GOTO065054.49+593624.51の進化経路に関する観測的研究
講演者名: 保家 大将、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
白色矮星を主星としてロッシュローブを満たす伴星からなる近接連星系を激変星と呼ぶ。伴星から主星にガスが輸送されることで白色矮星周辺に降着円盤が形成されており、この降着円盤が不安定になることでアウトバーストを示す天体を特に矮新星と呼ぶ。今回はそのサブタイプであるWZ Sge型矮新星について観測を行った。WZ Sge型矮新星では数年から数十年の間隔でスーパーアウトバーストと呼ばれる増光がおこり、また減光後すぐに明るくなる再増光という現象がよく見られる。
WZ Sge型矮新星は、その光度曲線のスーパーアウトバーストや再増光の特徴から5つのタイプに分けることが出来る。このタイプ分類は、軌道周期や連星質量比といった連星パラメータと相関があることが経験的に知られている。
しかし、相関をもつ物理的由来、再増光を引き起こすメカニズムはまだ解明されていない。
よって、各天体の再増光の振る舞いや、それらの天体の連星パラメータを調べることは重要となる。
我々は2024年10月にスーパーアウトバーストを起こしたWZ Sge型矮新星GOTO0650+5936について国際的な観測ネットワークVSNETを通じた観測を実施し、解析により連星パラメータを推定した。
WZ Sge型矮新星ではスーパーハンプと呼ばれる軌道周期よりも数%長い周期の光度変動が起こることが判明しており、スーパーハンプ周期と質量比には相関があることが潮汐不安定性モデルによって理解されている。GOTO0650+5936ではスーパーハンプ周期を0.063231(21)日と見積もり、本天体の質量比をq=0.074(14)と推定した。この解析により、本天体が複数の再増光を示すタイプBかつスーパーアウトバースト中に減光を挟むタイプEという2種類の再増光タイプを同時に持つ天体であり、このことからGOTO0650+5936はタイプBからタイプEへと進化するフェーズにある非常に珍しい天体であることが示唆された。
講演CK-12: The optically thick line driven wind from a massive white dwarf merger product
講演者名: 加藤 数麻、所属: 東北大学、学年: M1
共著者名: 樫山和己 (東北大学)
本講演では、WD J005311の星風の構造の理論的な解と、その結果得られた今後の進化に関する考察について発表する。
2019年にWD J005311と呼ばれる奇妙な白色矮星が発見された。この天体は、超新星爆発残骸の中心部近くに存在することや、理論的モデルとの比較から、大質量白色矮星の連星合体によってできた天体である可能性が示唆されている[1]。これが事実であれば、この天体は今後チャンドラセカール限界質量に達して中性子星に崩壊する可能性があり、中性子星形成過程のミッシングリンクである合体誘導型崩壊の機構を解明する鍵を握っていることが期待される。
崩壊が起きるのかを含めた今後の進化に関して知見を得るためには、星風の速度や光度などの観測量を説明できる理論的な解を求める必要があるが、そのような自然な解はいまだに提案されていない。これは、この天体がもつ通常の白色矮星では見られないほど高速な星風を、連続光駆動の輻射圧による加速だけ再現することが困難であるためである。
そこで、本研究では、連続光による輻射圧だけでなく、新たに吸収線駆動の加速も考慮し、星風解の再現を試みた。具体的には、球対称定常流の仮定のもと、白色矮星表面での炭素・酸素殻燃焼によって生成された光度により加速される星風解を構築し、観測結果を説明できる解を探索した。その結果、観測される星風の速度・光度・有効温度が再現できる解が存在することを示すことができた。さらに、この星風解の結果から、殻燃焼より内側の白色矮星の質量がチャンドラセカール限界質量と同等かそれ以上であり、今後崩壊が起こる可能性が十分にあることが示唆された。
[1] Gvaramadze et al, 2019, Nature, 569, 7758
講演CK-13: X線バースト直後の電波フレアを用いた質量放出量の推定
講演者名: 熊田 遼太、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 樫山和己
X線バーストは伴星のガスを降着している中性子星が
暴走的な核反応を起こすことで生じるX線突発天体現象である. 一部のX線バーストはエディントン限界光度に達するため, その輻射圧で光球面が一時的に100km近くまで膨張する. この光球面膨張を利用して中性子星の質量と半径を推定する研究が行われてきたが(例:Steiner et al. 2010), 光球面を構成する中性子星大気がどのような組成であり, どのような機構で膨張するのかはこれまで明らかにされておらず, モデルに依存していた. しかし近年, X線バーストの直後に電波で強い放射を観測したという報告が上がり(Russell et al.2024), 大気膨張の情報が得られる可能性が示された. 本講演では, X線バーストで放出された物質が引き起こす
衝撃波加熱シンクロトロン放射モデルを構築し, 観測結果と比較することで放出質量に下限をつけられたことを報告する. さらにこの結果を踏まえて, 中性子星の大気構造解明への展望を示す.
講演CK-14: 超小型X線衛星 NinjaSat が観測した MAXI J1752-457 から炭素燃焼のX線ロングバースト
講演者名: 青山 有未来、所属: 東京理科大学、学年: M2
共著者名: 青山 有未来 (東理大/理研), 榎戸 輝揚 (京大/理研), 髙橋 拓也, 渡部 蒼汰, 武田 朋志 (理研/東理大), 岩切 渉 (千葉大), 山﨑 楓, 岩田 智子, 大田 尚享, 重城 新大, (東理大/理研), 玉川 徹 (理研/東理大), 三原 建弘 (理研), Chin-Ping Hu (彰化師範大/理研), 土肥 明 (理研), 西村 信哉 (東大/理研), 中島 基樹 (日大), 芹野 素子 (青学), 北口 貴雄, 加藤 陽, 河合 誠之 (理研)
MAXI J1752–457 (MAXI J1752) は、2024年11月9日に全天X線監視装置 MAXI によりその急激なX線増光が検出された (ATel 16898)。超小型X線衛星 NinjaSat は、MAXI の検出報告からわずか2.5時間後に追観測を開始し、X線強度の減衰期全体にわたる2024年11月19日まで長期モニタリングを実施した (ATel 16903)。NinjaSat は2023年11月に打ち上げられ、2–50 keV に感度をもつ非撮像型ガスX線検出器を搭載している。当時、この天体は太陽との離角が小さいことが原因で、多くの衛星でこの減光を追観測することが困難だったが、NinjaSat の観測により、それはおよそ3日間かけて減衰したことがわかった。また、2–10 keV のスペクトルは、黒体モデルでよく再現された。これにより、黒体温度が 1.8 keV から 0.6 keV まで低下し、対応する黒体半径は概ね 8 km であることがわかった。これらの特徴は、X線連星系の中性子星表面で発生する長いX線バースト (スーパーバースト) の減光の特徴に合致する。ピーク光度がエディントン光度であると仮定すると、天体までの上限距離を 12 kpc と推定できることから、MAXI J1752 までの距離を 8 kpc と仮定すると、このX線増光により放出された総エネルギーは 10^42 erg 程度であることがわかった。
中性子星表面における温度冷却モデル (Cumming & Macbeth 2004) を用いて、 X線光度曲線をフィットしたところ、バーストにより点火した層の深さの指標である点火柱密度は (1.6–2.7)×10^12 g cm−2 となり、過去のスーパーバーストの傾向と一致する。本講演では、NinjaSat による MAXI J1752 のスーパーバースト後の減光観測について報告し、さらに理論計算から明らかになってきた過去のスーパーバーストとの相違点を紹介する。
講演CK-15: 多波長電磁波による孤立ブラックホール探査
講演者名: 越水 拓海、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名:
大質量星は重元素の主な供給源として宇宙の化学進化に重要な役割を担うが、その終末進化には未解明な点が多い。特に、超新星爆発を経ずに重力崩壊する「失敗した超新星」の存在が理論的に予想されているものの、観測的証拠は乏しい。仮に「失敗した超新星」が一定の割合で存在すれば、元素放出が抑制され、銀河全体の化学進化にも影響を与える可能性がある。
「失敗した超新星」の痕跡として、星間空間を単独で漂う孤立ブラックホール(Isolated Black Hole: IBH)が考えられる。IBHは連星相互作用の影響を受けず、単独の大質量星の終焉を純粋に反映しているため、その存在数や性質を明らかにすることは、「失敗した超新星」の検証に直結する。しかしながら、IBHは、観測的な手がかりが乏しく、重力マイクロレンズとよばれるIBH候補天体の背景の星の増光現象を観測・解析したSahu et al.(2022)の一例のみになる。
本研究では、銀河系内に存在するIBHの観測可能性を、理論モデルに基づき検討する。近年、IBHが星間媒質を降着することで多波長の電磁波を放射しうることが示唆されており、本研究では特に、強く磁化された降着円盤(Magnetically Arrested Disk: MAD)が形成された場合を想定する。このような環境下では、降着流中の電子が加熱・加速され、シンクロトロン放射および逆コンプトン散乱によってX線と可視光が放射される。
電磁波の放射フラックスの計算に基づき、スペクトル型(有効温度)と光度(絶対等級)の関係を用いて、原始星やM型矮星、白色矮星の連星系など他のX線・可視光源と区別可能なIBH候補の特徴を明らかにした。さらに、GaiaやeROSITAなどの全天観測データとの照合により検出可能性を評価した結果、IBHはX線でより明るく光る傾向があり、他の天体との識別が可能であることが示唆された。
講演CK-16: XRISMの観測データを用いたCyg X-3のコンパクト星の質量制限
講演者名: 岡部 圭悟、所属: 青山学院大学、学年: M1
共著者名:
Cygnus X-3(Cyg X-3)はコンパクト星とウォルフ-ライエ星(WR星; van Kerkwijk et al. 1992, 1996; Koljonen & Maccarone 2017)で構成される大質量X線連星(High-mass X-ray binary; HMXB)である。軌道周期は極めて短く、約4.8時間(Mason, K. O. et al. 1976)、軌道傾斜角は約28°(Vilhu et al. 2009, Igor I. Antokhin et al. 2022, Alexandra Veledina et al. 2024a, b)と見積もられている。WR星からは強い星風が吹いており、コンパクト星からのX線放射を吸収、散乱している(Pearls et al. 2000, A. Szostek & A. A. Zdziarski 2008, Kallman et al. 2019)。
コンパクト星の正体が中性子星(NS)かブラックホール(BH)かは明らかになっていない。その正体を同定するには質量を求めることが有効であり、連星の場合、視線速度振幅を測定することで、質量関数を用いた方法で質量を算出することができる。先行研究としてChandra衛星による観測データによりコンパクト星の質量が推定されており、その値は1.3–4.5×(太陽質量)(Zdziarski et al. 2013)である。
我々は、X線分光撮像衛星XRISMによって得られたCyg X-3の観測データを用いて解析を行った。XRISM衛星は2023年に打ち上げられたX線天文衛星で、高いエネルギー分解能を有する精密分光撮像検出器Resolveを搭載している。XRISM衛星はPerformance Verification(PV)ターゲットとして、2024年3月24日から翌日25日までの期間にCyg X-3を観測した。我々はResolveによって得られたスペクトルのうち、特にコンパクト星の近傍から放射されていると考えられる水素状鉄ライマンα輝線の時間変動に着目して解析した。その結果、視線速度振幅は~330-434 km/sと求められた。
本発表では得られた視線速度振幅からコンパクト星の質量に制限を行うとともに、MCMC法を用いた解析(Miura et al. accepted)の結果及び他の電離状態の鉄イオンを含めた解析(XRISM Collaboration 2024)によって得られた結果(165-223 km/s)と比較して議論を行う。
講演CK-17: XRISM 衛星による高精度 X 線分光観測を用いた 4U 1700-377におけるNi過剰の検証とFe輝線時間変動の解析
講演者名: 伊藤 世織、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名: 山田 真也(立教大学), 幸村 孝由(東京理科大学), 内田 悠介(東京理科大学)
4U 1700-377は、O型超巨星を伴星に持ち、軌道周期約3.4日で周回するHMXBであり、質量は可視光・紫外線観測により 2.44 ± 0.27 M_sun と推定されている[1]。この値は、重い中性子星と軽いブラックホールの中間に位置し、その正体についていまだに議論が続いている[2][3]。
さらに注目すべきは、Ni輝線の存在が示唆されている点である[4]。Ni輝線は、これまで限られた天体でしか観測されていない希少なものであり、高密度な星周物質に起因するとされる[5]。その存在は、爆発によって生成された元素の痕跡を反映している可能性がある。したがって、Ni輝線の検出とその強度を定量的に評価することは、この天体の形成過程や爆発履歴を探るうえで極めて有用である。
X線天文衛星XRISMに搭載されたマイクロカロリメータResolveは、従来のX線CCDに比べて約30倍の高エネルギー分解能を実現し、輝線や吸収線の精密測定を可能にする。XRISM衛星により4U 1700-377を軌道位相0.47-0.87の範囲で約50 ksにわたり観測したデータを解析した。その結果、鋭いFe輝線に加えてNi Kα輝線の検出に成功した。特にNi/Feが太陽組成に比べて高い値を示し、Ni過剰の可能性が示唆された。さらにFe Kα輝線の中心エネルギーに時間変動が見られ、ドップラーシフトから推定される軌道速度を評価することで、従来の可視光・紫外線観測とは独立に、質量関数に新たな制約を与える可能性がある。
本講演では、Resolveの高分解能分光性能を活かして得られた輝線プロファイル、Ni過剰の統計的検証、およびFe Kα輝線のドップラーシフトに基づく軌道速度の評価を通じて、本天体の物理的性質を議論する。
[1] Clark et al., A&A, 392, 909 (2002)
[2] Brown et al., ApJ, 463, 297 (1996)
[3] Seifina et al., ApJ, 821, 23 (2016)
[4] Bala et al., MNRAS, 493, 3045 (2020)
[5] Walter et al., A&A, 411, L427 (2003)
講演CK-18: XRISMによる銀河系内ブラックホールX線連星IGR J17091-3624の観測
講演者名: 小林 聡馬、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名: 上田 佳宏 (京都大学), 志達 めぐみ (愛媛大学), Maxime Parra (愛媛大学), 中谷 友哉 (京都大学)
2025年2月にXRISM衛星によって行われた、銀河系ブラックホールX線連星IGR J17091-3624のTarget of Opportunity(ToO)観測の結果を報告する。この天体は、2-3年ごとにアウトバーストを起こすことが知られている。アウトバースト中、数十keV以上まで伸びたべき乗型のスペクトルと急激な変動を特徴とする「low/hard 状態」と、降着円盤からの黒体放射による軟X線が支配的な「high/soft状態」の間で状態遷移を起こす。興味深いことに、GRS 1915+105で見られたような、いわゆる「ハートビート型」を含む珍しい変動状態に入ることがある。スペクトルはしばしば、円盤風に由来する高電離吸収線を示す。
我々のXRISMによる観測は、2025年のアウトバースト中のフラックスピークの前後に行われた。ほぼ同時に、3-79 keVをカバーするNuSTARによる観測も行なわれた。スペクトルはべき乗型で近似され、準周期振動を含む数秒スケールの強い短期変動を示した。このことは、IGR J17091-3624がその時期にlow/hard状態にあったことを示している。XRISMのデータからは、明確な電離吸収線は見つからなかった。広域スペクトルの解析の結果、降着円盤からの相対論的反射成分に起因すると考えられる、広いFe K輝線構造が観測された。本講演では、XRISMおよびNuSTARのデータを用いたスペクトル解析とタイミング解析の結果を紹介し、明るいlow/hard状態における降着流構造について議論する。
講演CK-19: X線連星系における星風の粒子計算:ラインフォース評価手法の改良
講演者名: 坂下 義季、所属: 弘前大学、学年: M1
共著者名: 野村真理子(弘前大学)、鴈野重之(九州産業大学)、須佐元(甲南大学)、大須賀健(筑波大学)
大質量X線連星(High Mass X-Ray Binary; HMXB)とは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星と大質量星との連星系である。大質量星の表面からは星風によってガスが放出し、その一部がコンパクト天体の重力によって捉えられ、降着円盤を形成する。この過程でコンパクト天体の重力エネルギーが解放され強いX線を放出する。
これまで、連星の公転に伴うX線連続光や輝線の時間変動が観測され、星風によるコンパクト天体の遮蔽やX線の反射が起きている可能性が指摘されてきた(Naik et al. 2011)。2023年に打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISMの観測によって、星風の構造や空間分布をより高精度で捉えることが可能となりつつある(Mochizuki et al. 2024)。理論研究では、輻射流体シミュレーション(e.g., Cechura & Hadrava 2015)や粒子計算(Karino 2025)によって星風の構造やその時間変動が調べられてきた。大質量星からの星風は、ラインフォース(金属元素が紫外光を束縛-束縛遷移吸収する際に受ける輻射力)で加速されることが知られている。ラインフォース加速においては、コンパクト天体から放射されるX線によって物質が電離されると加速が抑制され、星風が減速する。これはコンパクト天体への質量降着率や降着に伴い放射されるX線光度に影響を与える。Karino(2025)ではこのメカニズムによってX線光度および星風の構造が自発的な振動を示すことを明らかにした。しかしながらこの計算ではラインフォースの見積もりに簡略化されたモデルを使用していた。
そこで本研究では、粒子計算に密度や光学的厚みを評価する計算コードを組み込み、ラインフォースの評価を改善する。本講演では、電離状態やラインフォースの分布を先行研究と比較し、従来のモデルで得られていた結論がどのように変わり得るかを検討し、今後の理解の展望について議論する。
講演CK-20: 超小型X線衛星 NinjaSat による Sco X-1 の長期多波長同時観測
講演者名: 髙橋 拓也、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名: 玉川 徹 (理研), 榎戸 輝揚 (京都大/理研), 北口 貴雄, 加藤 陽, 三原 建弘 (理研), 岩切 渉 (千葉大), 沼澤 正樹 (都立大), 周 圓輝, 内山 慶祐 (理研/東理大), 武田 朋志 (広島大), 吉田 勇登, 大田 尚享, 林 昇 輝, 重城 新大, 渡部 蒼汰, 青山 有未来, 岩田 智子, 山﨑 楓 (理研/東理大), 喜多 豊行 (千葉大), 土屋 草馬, 中野 遥介 (理研/東理大), 一番ヶ瀬 麻由 (立教大), 佐藤 宏樹 (理研/芝浦工大), Chin-Ping Hu (彰化師範大/理研), 高橋 弘充 (広島大), 小高 裕和 (大阪大), 丹波 翼 (ISAS/JAXA), 谷口 絢太郎 (理研/早大)
NinjaSat は2023年11月に打ち上げられた 10×20×30 cm^3 サイズのX線衛星であり、2–50 keV に感度をもつガスX線検出器 (GMC) を2台搭載している。X線で明るい天体の長期占有観測や多波長同時観測を目的としている。Sco X-1 は全天で最も明るいX線天体である。そのため、感度の高い大型X線衛星では観測が困難であり、長期間にわたる占有観測も難しい。NinjaSat では観測エネルギー帯域を 5–50 keV に制限し、検出イベント数を抑えることで Sco X-1 の観測を可能にした。本研究では可視光・近赤外線とX線の光度変動の相関から、Sco X-1 周辺の幾何学的な構造を明らかにすることを目的とする。我々は2025年4月から約1ヶ月間、可視光・近赤外線望遠鏡の TESS 衛星と Sco X-1 の長期多波長同時観測を実施した。Sco X-1 は周辺の幾何学的な構造の変化により、複数の状態 (ブランチ) を遷移する。そして、多波長における光度変化は連星系の構造に依存する。X線と可視光における光度変化の相関は、ブランチごとに異なる傾向が確認されている (S. Scaringi et al., 2015)。NinjaSat の観測結果からブランチ遷移の様子を確認するため、hardness ratio を 9–30 keV / 5–9 keV でとり、Hardness–Intensity Diagram (HID) を作成した。その結果、HID は Sco 型として知られるV字型の形状を示し、約1ヶ月間にわたるSco X-1の状態遷移を捉えていることを確認した。先行研究よりも時間分解能の高い NinjaSat の長期同時観測データを用いて、可視光・近赤外線との相関を解析し、Sco X-1 の降着状態について調べた結果を報告する。
講演CK-21: マイクロクエーサー SS 433 の相対論的ジェットのX線分光観測
講演者名: 上西 美悠、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名:
宇宙に存在するブラックホールや中性子星などのコンパクト天体からは、細く絞られ高速で噴出するジェットがしばしば観測され、その速度は時に光速に近い速度(相対論的速度)にまで達する。この相対論的ジェットらは、コンパクト天体に落ちるガスの一部が外向きに加速されることで形成されると考えられているが、加速の仕組みやジェット内部の構造には未解明な点が多い。
本研究では、銀河系内のマイクロクエーサー SS 433に注目した。SS 433は、コンパクト天体と恒星からなる近接連星系で、恒星からコンパクト天体に落ちるガスが降着円盤を形成し、40年以上の長期間にわたり、光速の約0.26倍の速度をもつ相対論的ジェットを安定的に噴出している特異な天体である。SS 433は軌道傾斜角が大きく、降着円盤のX線放射は隠されている一方、ジェット中のプラズマからの熱制動放射やドップラーシフトした輝線が顕著に現れる。また、恒星による「食」の影響で、ジェットの根元が一時的に隠れ、X線スペクトルが変化する。このスペクトル変化を調べることで、ジェットの空間構造に迫ることができる。そこで、2024年4月にX線天文衛星NuSTARが取得したSS 433の食内外の観測データを解析し、ジェットの高温プラズマの性質を調査した。光学的に薄い熱的プラズマ放射と降着円盤からの反射成分を含むモデルを適用した結果、食外の方がジェットのプラズマ温度が高く、ジェット中で下流に向かって温度が低下していることが示唆された。さらに、Niの組成比が太陽より高いことも明らかとなった。これらの結果は、過去の研究と一致する。本講演ではこれらの結果を解説し、ジェットの構造や元素組成について議論する。
講演CK-22: 可視光分光観測によるマイクロクエーサー SS 433 のジェットの構造・運動の研究
講演者名: 宇宿 智哉、所属: 愛媛大学、学年: M1
共著者名:
SS 433 は銀河系内に存在するマイクロクェーサーであり、そのユニークな特徴として、定常的に超臨界降着を起こしており、かつジェットを定常的に光速の約 26% の速度で噴出している点が挙げられる。可視光やX線などの帯域では、双方向に噴き出すジェット起源のドップラー遷移した輝線が観測される。ジェットは約 160 日周期で歳差運動しており、その視線速度(輝線のドップラー遷移の大きさ)は歳差運動および章動などにより複雑に変化することが知られている。しかしながら、これらの運動のメカニズムやジェット中のプラズマの構造・伝播の仕方は完全には理解されていない。
本研究では、2024年に得られた京大せいめい望遠鏡 (岡山)および Las Cumbres Observatory (ハワイ) の可視光分光データを用いて SS 433 のジェットの調査を行った。これらの観測は、2024年 4 月に行われた X 線分光撮像衛星 XRISM によるX線観測と同時期および、その後の約5か月の間に計30夜にわたって行われたものである。それらのデータを解析したところ、ジェット由来の青方偏移・赤方偏移した Hα 輝線などが検出できた。各晩の平均スペクトルを用いてジェット由来の Hα 輝線の中心波長を測定すると、その時間変化は、過去の観測結果から得られたジェットの歳差運動の予測(Katz et al. 1982) と比較して 10 日程度遅れていることがわかった。また、輝線の形状も >~ 1 日の時間スケールで変化しており、Hα 輝線の各成分が、1 成分のガウス関数でよく表すことができる時期もあれば、2つ以上のピークを有する場合も存在した。この結果は、ジェット内部で速度の異なるプラズマ塊が間欠的に形成され、可視光放射領域を通過していることを示唆する。
本講演では、上記の結果について述べ、SS 433 のジェットの構造と運動について議論する。また、可能であれば、XRISM で得られたX線スペクトルに見られる輝線と、可視光の輝線の形状や変動の仕方の相関についても報告したい。
講演CK-23: XRISM衛星を用いたX線精密分光によるX線連星の中性子星と降着流の研究
講演者名: 前川 正貴、所属: 広島大学、学年: M1
共著者名: 前川 正貴 , 高橋 弘充 (広島大学)
中性子星(NS)やブラックホール(BH)といったコンパクト天体と通常の恒星との連星系では、コンパクト天体の強い重力により恒星からコンパクト天体へ質量降着が起こる。その際、重力エネルギーの解放によりX線で明るく輝くので、この連星系をX線連星と呼ぶ。X線連星の中でもコンパクト天体が弱磁場の中性子星で、伴星の質量が太陽質量ほどの天体(NS-LMXB)があり、さらにX線光度が~10^38erg/sというエディントン限界光度に近いものもいる。このような天体は非常に明るいために放射圧がかなり高く、それが天体の重力を上回ることがあり、中性子星の表面から物質が吹き飛ばされるアウトフロー現象が起こる可能性がある。本研究ではNS-LMXBのうちの1つでエディントン限界光度で輝いていると考えられる GX340+0という天体の解析を行った。
今回の研究では、5eVという高いエネルギー分解能をもつ検出器Resolveを搭載しているXRISMというX線衛星を用いた。エネルギー範囲は約2~12keVあたりまでと軟X線領域の検出器である。~10keVあたりまでは降着円盤からの黒体放射、それより高いエネルギー側では中性子星表面からの黒体放射が優勢であった。Resolveの高エネルギー分解能により、6.7keV付近を中心にいくつかの輝線構造が確認できた。これらの輝線について詳しく解析し、ドップラー速度や輝線が出る際の電離度パラメータなどについて調べることにより、プラズマの物理的状況を理解し、アウトフローの有無を考察した。
講演CK-24: 超小型X線衛星 NinjaSatと山口干渉計による Cyg X‑1 の短時間X線・電波相関調査
講演者名: 山﨑 楓、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名: 玉川 徹 (理研), 榎戸 輝揚 (京都大/理研), 北口 貴雄, 加藤 陽, 三原 建弘 (理研), 岩切 渉 (千葉大), 沼澤 正樹 (都立大), 周 圓輝, 内山 慶祐 (理研/東理大), 武田 朋志 (広島大), 吉田 勇登, 大田 尚享, 林 昇輝, 重城 新大, 渡部 蒼汰, 青山 有未来, 岩田 智子, 髙橋 拓也 (理研/東理大), 喜多 豊行 (千葉大), 土屋 草馬, 中野 遥介 (理研/東理大), 一番ヶ瀬 麻由 (立教大), 佐藤 宏樹 (理研/芝浦工大), Chin-Ping Hu (彰化師範大/理研), 高橋 弘充 (広島大), 小高 裕和 (大阪大), 丹波 翼 (ISAS/JAXA), 谷口 絢太郎 (理研/早大)
NinjaSat は2023年11月に打ち上げられた 6U サイズ (10 × 20 × 30 cm^3) の超小型X線衛星であり、2–50 keV に感度を持つ非撮像型ガス X 線検出器 (Gas Multiplier Counter; GMC) を2台搭載している。X線で明るい高密度天体の長期的な占有観測や、他波長との同時観測を目的としており、2025年5月8日から21日まで山口干渉計 (6 GHz, 8 GHz) と連携してブラックホール連星 Cyg X-1 の同時観測を実施した。本研究では長期の占有観測を活かし、これまでの先行研究では明らかでなかったより細かいタイムスケールでの電波とX線の変動を調査することを目的としている。
Cyg X-1 の公転周期は約5.6日である。電波はこの周期と同じ5.6日変調が見られていることがわかっており (Pooley et al., 1999)、今回はその2周期分をカバーするように長期占有観測を行なった。また、Cyg X-1 ではハードステートで 1.5–3.0 keV の軟X線と電波の強度変動に遅延がない一方で、ソフトステートではその相関が弱まり、電波が軟X線より約 50–150日遅れてピークに達することが報告されている。さらに、15–50 keV の硬X線と電波にはどちらのステートでも強度変動に遅延はないことから、ジェットの活動が高エネルギーX線を生み出す領域と密接に関係していることを示唆されている (Zdziarski et al., 2020)。本講演では、2025年5月に実施した山口干渉計との同時観測データを用いて短いタイムスケールでの相関の有無を検証することで、ジェットとX線放射領域との関係について調査した結果を報告する。
講演CK-25: ⼀般相対論的偏光輻射輸送計算で探る相対論ジェットの偏光 X 線
講演者名: 小嶺 龍生、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 竹林 晃大(筑波大学)、川島 朋尚(東京大学宇宙線研究所)、大須賀 健(筑波大学)
本研究では、⼀般相対論的偏光輻射輸送計算を実⾏し、ブラックホールジェットによ
る偏光 X 線を調べた。その結果、⾒込み⾓が 30 度程度の状況において、ジェットに
平⾏な偏光が⽣じることがわかった。この結果は IXPE による Cyg X-1 の観測とおお
むね⽭盾しない。
ブラックホール(BH)の周囲では、降着する物質がその重⼒エネルギーを解放するこ
とで強⼒なジェットや輻射が発⽣していると考えられているが、その構造はよく分か
ってない。こうした構造の解明には、コンプトン散乱によって⽣じる偏光 X 線の観測
が有効である。実際、偏光観測衛星 IXPE による Cyg X-1 の観測では、電場ベクトル
がジェット⽅向に平⾏であることから、降着円盤の円盤⾯近傍にコロナが存在する可
能性が指摘されている(Krawczynski et al. 2022)。⼀⽅で、この観測結果の解釈に
は、相対論的運動の影響が⼗分考慮されていないという課題がある。
そこで本研究では、⼀般相対論的偏光輻射輸送計算を⾏い、相対論的ジェットによ
る偏光 X 線を調査した。その結果、降着円盤と相対論的ジェットからなる系でも
IXPE の観測範囲である 2-8keV 帯でジェットに平⾏な偏光を得ることが確認された。
さらに、⾒込み⾓が 30 度であるという推定は過去の電波観測と整合的である。講演で
は、これらの結果に加え、輻射スペクトルの整合性についても議論する。
講演CK-26: 潮汐破壊現象(TDE)近傍環境の探査に向けた近赤外ダストエコーモデルの応用
講演者名: 櫻井 雄太、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名:
潮汐破壊現象(Tidal Disruption Event, TDE)とは、恒星が超大質量ブラックホール(SMBH)に接近し、潮汐力によって破壊される現象である。現在、TDEの多くは可視光やX線観測により発見されているが、周囲のダストによる著しい遮蔽を受けるため、観測で見逃されている可能性がある。このため、近赤外線(NIR)エコーを用いて周囲のダストの幾何学構造に制限をかけることで、TDEの周辺環境を明らかにする手法が注目されている。
エコーとは、中心光源からの光が周囲のダストによって散乱・吸収・再放射されることで、元の放射とは時間差をもって観測される現象である。この遅延効果を解析することで、ダストの空間分布や性質を間接的に探ることができる。
本研究では、Maeda+(2015)による超新星に対するダストエコーモデルを基に、中心光源をTDEに置き換えたモデルを構築し、TDEにおけるダストエコーの理論的予測を行った。本講演では、TDEに適用したダストエコーモデルの結果と、実際のTDE観測との比較を通して、モデルの妥当性と今後の改良点について議論する。
講演CK-27: 潮汐破壊現象の解明に向けた再落下ガスの一般相対論的輻射磁気流体力学計算
講演者名: 中尾 颯吾、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 大須賀健(筑波大学),高橋博之(駒澤大学),朝比奈雄太(筑波大学),島田悠愛
潮汐破壊現象(Tidal Disruption Event, 以下, TDE)では、恒星がブラックホールによって引き裂かれ、その破片がブラックホールに向かって落下する。このとき破片の一部は非常に低い角運動量を持ち、円盤を形成せずに直接ブラックホールへ降着する可能性がある。
本研究の目的は、このような低角運動量のガスによるブラックホール超臨界降着流の構造と観測的性質を解明することである。ブラックホール超臨界降着流とは、エディントン降着率を超える大きな降着率でガスがブラックホールに降着する現象であり、その先行研究の多くは十分に大きな角運動量を持つガスが回転円盤を形成して降着する状況に注目している(Ohsuga et al. 2005, 2011, Takahashi et al. 2016,など)。低角運動量ガスの超臨界降着に着目した研究も行われている(Okuda & Singh 2021)が、この計算にはブラックホール近傍で特に重要となる相対論効果と、角運動量輸送やエネルギー散逸を誘起する磁場が含まれていない。
そこで我々は一般相対論的輻射磁気流体力学 (GR-RMHD) シミュレーションを用いて、エディントン限界を超える降着率における低角運動量ガスの振る舞いを調査した。その結果、超臨界低角運動量ブラックホール降着流の光度は、スリム円盤の光度(Watarai et al. 2000)よりも質量降着率依存性が高いことがわかった。この結果は、TDEにおいて大量のガスがブラックホール近傍に供給されると、スリム円盤モデルよりも明るく輝く可能性があることを示唆する。
講演CK-28: Quasi-Periodic Eruptions(QPEs)における衝撃波のダイナミクスの計算
講演者名: 近藤 圭悟、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: Christopher Irwin(東京大学)、仏坂健太(東京大学)
Quasi-Periodic Eruptions(QPEs)とは、銀河中心領域での数時間から数日周期の軟X線領域における準周期的増光現象であり、2018年に初めて見つかって以来10個ほどの銀河で観測されてきている。その成因はいまだ謎に包まれているが、有力な理論モデルの一つに、Star-Disk Collisionモデルがある[1]。これは、銀河中心の超大質量ブラックホール(SMBH)の重力的影響で中心に落ち込んできた天体(Extreme Mass Ratio Inspiral; EMRI)がSMBHの降着円盤に衝突し、加熱された高温の物質が円盤から噴出、X線放射を行うために周期的な増光を生み出すとするモデルである。このモデルに基づく計算と観測を比較するためには、EMRIの円盤内の通過に伴う衝撃波の伝播、物質の加熱、物質の噴出、光子の生成および拡散過程を理解する必要があるが、現状の理論モデルは円盤の密度分布や衝撃波の伝播を簡単化した現象論的な計算に留まっており、その妥当性を検証するためには、EMRIと降着円盤の衝突を素過程から見直す必要がある。
本研究では、Star-Disk Collisionモデルに基づきEMRIの降着円盤の通過に伴う衝撃波のダイナミクスを調べた。円盤の密度分布を仮定した上で、EMRIの通過により圧縮・加熱されたガスが生み出す衝撃波の形状と時間発展を解析的に計算した。そして流体計算コードを用いて衝撃波の伝播を数値的に計算し、解析解と比較した。衝撃波で加熱される物質の密度分布・速度分布や光子の生成過程およびそれがQPEの光度曲線に及ぼす影響を議論する。
[1] Itai Linial and Brian D. Metzger 2023 ApJ 957 34
講演CK-29: 機械学習を用いたブラックホールの質量降着率と磁束の推定
講演者名: 松藤 勇希、所属: 筑波大学、学年: M1
共著者名: 大須賀健(筑波大学),朝比奈雄太(筑波大学)
本研究では、ブラックホール(BH)近傍の質量降着率および磁束を推定する機械学習モデルを構築した。BHの成長や相対論的ジェットの駆動に深く関与するこれらの物理量を、観測可能なジェットの放射光度および運動光度の時間変化から導出する手法である。
巨大ブラックホール(SMBH)は多くの銀河の中心に存在し,その成長や活動が銀河の形成に深く関わっている.特に,BHに流れ込むガスの量(質量降着率)やその周囲に蓄積された磁束は,BHの質量やスピンの成長に影響を与えるだけでなく,相対論的ジェットの駆動やフィードバック機構を理解するうえで重要な物理量である.しかし,これらの量はBH近傍(重力半径スケール)で定義され,現在の観測技術では空間分解能などの限界から直接的に捉えることは困難である.
そこで本研究では,一般相対論的輻射磁気流体力学計算により得られたシミュレーションデータを用いて,観測可能な物理量であるジェットの放射光度と運動光度の時間変化から,BHの質量降着率および磁束を推定する機械学習モデルを構築した.その結果,これらの物理量を決定係数0.99という高い精度で推定することに成功し,光度の時間変化がどのように推定に寄与しているかも明らかにすることができた.本手法は,今後の観測データに対しても適用可能な,BH近傍の物理量を推定する新たな手法としての応用が期待される.
講演CK-30: ALMAで観測されたミリ波帯光度曲線解析による銀河系中心核 Sgr A*における降着円盤傾斜角の決定
講演者名: 柳澤 一輝、所属: 慶應義塾大学、学年: M2
共著者名: 岡朋治、有山諒、栁原一輝(慶應義塾大学)、岩田悠平(国立天文台)、高橋幹弥(東京高専)
Sgr A* は、銀河系の中心核に存在する点状電波源であり、4×10^6M_sunの超大質量ブラックホール(SMBH)が付随していると考えられている。このSgrA*は、電波からX線に渡って激しい光度変動を示すことが知られている。特に赤外線およびX線で観測されるフレアは数十分程度の継続時間を持ち、SMBH極近傍で発生する現象と推測される。実際、VLTI/GRAVITY を使用したSgrA*の赤外線フレアの観測によって、約45分の周期で数シュバルツシルト半径を周回運動するホットスポットが検出されている。さらに、ALMAによって静穏時の230 GHz光度においても約30分の周期性が検出された、ミリ波帯光度変動と赤外線ホットスポットとの関連が示唆された。
我々は、ALMA Cycle 8 で取得されたSgr A* のアーカイブデータの入念に行い、230GHz帯連続波の光度曲線に周期53分の鮮明な正弦波振動を検出した。この正弦波振動は、降着円盤内で円運動するホットスポットの相対論的ビーミングに起因するものと解釈された。今回その解析をさらに進め、光度曲線へのビーミングモデルの精密なフィッティングにより、最大のスピンを持つSMBHにおけるホットスポットの回転速度と軌道傾斜角をそれぞれ、v=(1.02±0.01)×10^5 km/s, i=172.1◦±0.1◦ と制約した。χ^2検定の結果、特殊相対論的効果が無視できるv/c<<1の状況は強く棄却されることが分かった。また得られた軌道傾斜角の値はSgrA*の降着円盤が我々から見てほぼface-onの配置にあることを意味しており、これはVLTI/GRAVITYの観測結果から示唆された配置とよく整合している。また、一般相対論的輻射輸送計算により、上記のパラメータで光度変動をシミュレーションした結果、一般相対論効果を考慮しても正弦波を再現できることが分かった。
講演CK-31: Ultra-fast Outflowのラインフォース駆動型円盤風モデル:Clumpy構造形成の検討
講演者名: 川田 寛人、所属: 弘前大学、学年: M1
共著者名: 野村 真理子 (弘前大学),大須賀 健 (筑波大学)
活動銀河核にはブラックホール近傍から噴出するアウトフローが存在することが知られている。中でも、高階電離状態の鉄吸収線によって示唆されるUltra-fast outflow (UFO)は光速の10–30%の速度を持ち、質量・エネルギー放出率が大きいことから超巨大ブラックホールの成長過程や母銀河の星形成に甚大な影響を及ぼしている可能性がある。UFOの有力な理論モデルの一つとして、ラインフォース(金属元素が紫外光を束縛-束縛遷移吸収する際に受ける輻射力)によって加速される円盤風が挙げられる。これまでに、2次元輻射流体シミュレーションとX線観測との比較によって、ラインフォース駆動型円盤風が鉄吸収線の生成と青方偏移を説明できることがわかってきた(Nomura et al. 2020; Mizumoto et al. 2021)。
最近X線天文衛星XRISMの観測によってUFOが複数の速度成分を示すことが明らかになった。この観測結果はUFOがClumpyな構造を持つことで再現できる可能性がある(XRISM collaboration 2025)。しかしながら、このような構造は先行研究では十分に再現されていない。そこで本研究ではまず、ラインフォース駆動型円盤風が伝播する過程でクランピー構造が形成され得るかを検証する。具体的には2次元軸対称計算において内側境界から速度ゆらぎを持つ円盤風を流入させ、ラインフォース加速によってClumpが形成されるか否かを明らかにする。さらに、Nomura et al. (2020)の計算を3次元へと発展させ、2次元計算では抑制されていた流体力学不安定性によってClumpy構造が成長する可能性を検討する。講演ではこれらのシミュレーション結果を紹介し、UFOのX線観測への示唆について検討する(Dyda et al. 2018)。
講演CK-32: ブラックホールジェットの形成機構の理論および同時多波長観測による検証
講演者名: 及川 凜、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 當真賢二 (東北大学) , 木村成生 (東北大学)
活動銀河核やX線連星、ガンマ線バーストといった高エネルギー天体では、ブラックホールから光速近くまで加速された細いプラズマ噴流(相対論的ジェット)が観測されている。ジェットのエネルギー源については、ブラックホールの回転エネルギーを磁場を介して引き抜くBlandford-Znajek過程が標準理論として知られているが、ジェットとして噴出する物質の起源に関しては未だ理論的にも観測的にも明らかになっていない。特に、イベントホライズン望遠鏡で影が観測された活動銀河核M87のブラックホールからはジェットが観測されているが、同じように影が観測された天の川銀河中心のブラックホールからはジェットが観測されていないことは興味深い問題となっている。
近年の一般相対論的磁気流体シミュレーションによって、降着円盤が磁場優勢状態の時に、ブラックホール近傍で大規模な磁気リコネクションが起こることが初めて示され、これがジェットの物質起源に関与する可能性がある (Ripperda et al. 2022; Kimura et al. 2022) 。
本研究では、ブラックホール近傍での磁気リコネクションによって生成されたガンマ線による電子陽電子対生成が、ジェットの物質起源になるというシナリオを一般相対論を考慮して構築した。さらに、本理論に基づいた一般相対論的運動論シミュレーションによって、ジェット内部の電子陽電子対の空間分布および運動量分布を導出した。その結果、従来の物質供給の理論モデルに比べ、今回のモデルでは10万倍もの物質が供給され観測結果を説明できることがわかった。また本理論は、M87ではジェットが観測されるが、天の川銀河では観測されないことも説明できる。講演では、物質供給の際に付随するX線、TeVガンマ線フレアについても議論し、同時多波長観測によって本理論の検証が可能であることを示す。
講演CK-33: 多波長モニターおよびスペクトル解析によるブレーザーTON599の変動メカニズム推定
講演者名: 赤井 嵩宙、所属: 広島大学、学年: M2
共著者名: 深澤泰司(広島大学),中岡竜也(広島大学),今澤遼(広島大学),川端弘治(宇宙科学センター)
活動銀河核(AGN)の中でも、相対論的ジェットがほぼ視線方向を向いている天体はブレーザーと呼ばれる。ブレーザーは、赤外線からガンマ線に至る広い波長帯で強い電磁波放射を示し、その時間変動は、ジェット内の衝撃波や磁気リコネクションなどの物理過程によって説明される。これらのモデルでは、ジェット内の磁場構造の変化が放射特性に大きく影響すると考えられており、波長ごとの光度曲線、偏光、スペクトルの時間変化を比較・解析することは、時間変動の起源を明らかにするための重要な手がかりとなる。中でも、可視光とガンマ線のフラックス変動の相関関係は放射領域における磁場や電子密度などの物理環境の影響で複雑な挙動を示すことが知られている。TON 599 は代表的なブレーザーの一つであり、過去にも多波長で激しい光度変動が観測されているだけでなく、ガンマ線と可視光線の複雑な関係性についても指摘されている(Rajput et al. 2023)。
我々は、2023年頃よりガンマ線をはじめとする多波長で活発な変動を示している TON 599 に対し、Fermi 衛星、Swift 衛星、かなた望遠鏡を用いて赤外線からガンマ線にわたる多波長モニターを実施した。かなたとFermiによる観測から、ガンマ線フレアを伴わない可視光フレアが確認され、その期間では、ガンマ線スペクトルの急激な軟化が見られた。本講演では、多波長の変動の中でもガンマ線と可視光線との関係性に着目し、各期間におけるガンマ線スペクトル解析の結果および、agnpy を用いた広帯域スペクトルのモデルフィッティングの結果を基に、TON 599 の変動を引き起こす要因について考察する。
講演CK-34: IXPE衛星とかなた望遠鏡を用いたブレーザーの多波長偏光観測
講演者名: 栃原 淑慧、所属: 広島大学、学年: M2
共著者名:
活動銀河核には、中心から相対論的な速度を持ったプラズマの噴流であるジェットを持つものがある。その中でも特に、ジェットの噴出方向が視線方向とほぼ一致している天体をブレーザーという。ブレーザーは、ジェット内に存在する高エネルギー電子と磁場が相互作用することによりシンクロトロン放射をしており、電波および可視光で強い直線偏光を示す。この偏光の観測により、内部の磁場構造を推測することが可能である。
さらに2021年のX線偏光観測衛星IXPEの打ち上げにより、これまで観測されてきた電波・可視光に加え、X線の偏光情報も得られるようになった。ブレーザーの偏光を多波長観測することにより、波長ごとの放射領域の関係性や磁場構造の推定に制限をかけることができる。そこで本研究では、IXPEと広島大学の光学赤外線望遠鏡「かなた」を組み合わせた多波長同時偏光観測を実施している。
これまで同時観測を行った6天体のうち、2024年4月から5月にかけて2週間にわたり観測したMrk 421についてX線と可視光近赤外線で異なる偏光変動が確認された。特にX線では偏光度の約3倍上昇とそれに伴うフラックスの増加、可視光では最大80度の偏光方位角の回転が見られた。本講演では、この結果を議論するとともに他5天体、Mrk 501, H 1426+428, 1ES 1101-232, 1ES 1959+650, 3C 273の解析、X線と可視光の比較からの考察を報告する。
講演CK-35: 硬X線とガンマ線から探るFSRQの宇宙論的進化
講演者名: ルフォール シャルル、所属: 大阪大学、学年: M1
共著者名:
Flat Spectrum Radio Quasar (FSRQ)はジェットが観測者方向を向いたブレーザーの一種であり、硬X線・ガンマ線帯域で顕著な明るさを示す。FSRQは遠方宇宙まで検出されており、その宇宙論的進化は初期宇宙の大規模構造形成過程の解明に重要な手がかりを提供する。しかし、従来の研究では観測波長によって進化のピーク赤方偏移に不一致が見られ、硬X線観測では z ~ 3-4(Ajello et al. 2009; Toda et al. 2020)、ガンマ線観測では z ~ 1-2(Ajello et al. 2012)と報告されている。この不一致の原因として、サンプル数の差異(ガンマ線168個、硬X線53個)が考えられる。また、FSRQを含むブレーザーは光度に応じてSpectral Energy Distribution (SED)が系統的に変化する「ブレーザーシークエンス」(Ghisellini et al. 2017)の存在が示唆されており、X線・ガンマ線を統一的に説明する光度関数モデルの構築が求められている。
本研究では、Swift衛星の157ヶ月間の硬X線観測データおよびFermi衛星の12年間のガンマ線観測データを用いて、FSRQサンプルをX線で69天体、ガンマ線で335天体まで拡充した。これらのデータから得られた解析結果では、FSRQがガンマ線背景放射のほぼ全量を説明できる一方、X線背景放射への寄与は約1%程度であることが明らかになった。また、両波長帯で同定されたFSRQの光度相関分析から、X線とガンマ線の光度間に強い正の相関(r~0.7)を見出した。この結果はブレーザーシークエンスの検証に加え、両波長帯における光度関数の統合および統一的進化モデル構築に向けた重要な制約を与える。本講演では、これらの成果を報告するとともに、X線・ガンマ線の統合光度関数構築に向けた今後の展望について議論する。
ポスター講演
講演CP-01: 重力崩壊型超新星におけるSc, Ti, Vの合成による爆発メカニズムへの制約
講演者名: 播田實 りょう太、所属: 総合研究大学院大学、学年: D1
共著者名: 冨永望(国立天文台)、滝脇知也(国立天文台)、吉田敬(京大基研)、梅田秀之(東大)
太陽質量の 8 倍よりも重い恒星はその一生の最期に重力崩壊型超新星爆発を起こす。しかし、その爆発メカニズムとしてニュートリノ加熱メカニズムが有力視されているものの、未だ完全には明らかとなっていない。超新星爆発に伴う爆発的元素合成は、中心に近い場所で生じるので、爆発的元素合成の結果には爆発メカニズムの痕跡が残る。そのため、我々は爆発メカニズムを理解する手がかりとして、爆発的元素合成に着目した。金属欠乏星は宇宙初期に誕生した低金属量の恒星であり、その元素組成は初代星の超新星爆発による元素合成の結果を反映していると考えられている。その金属欠乏星の元素組成を再現することは、重力崩壊型超新星爆発の元素合成における一つの大きな課題である。近年の詳細な観測により、それぞれの金属欠乏星における [Sc/Fe], [Ti/Fe], [V/Fe] の間には正の相関があることが明らかとなった (Sneden et al., 2016)。その一方で、過去の元素合成シミュレーションではそれらの存在量は再現できていない (e.g., Leung et al., 2023)。そこで、我々はまず、温度、密度、ニュートリノフラックスなどの物理量を任意のパラメータとして元素合成計算を行い、金属欠乏星におけるSc, Ti, Vの存在量を再現するために必要な物理条件を特定した。調べたパラメータ範囲で密度依存性はほぼ見られず、ニュートリノの総量と温度が重要であることが明らかとなった。次に、特定したそれらの物理条件が実際の爆発シミュレーションで実現するか、多次元のニュートリノ輻射流体計算と比較することにより調べた。その結果、特定した物理条件は今回計算したどのモデルにおいても実現されていなかったものの、回転している親星では爆発の際、最高温度が低温の物質が受けるニュートリノ照射量の分散が大きくなり、必要な条件に近づく物質があることが明らかとなった。本講演では、以上の結果を報告する。
講演CP-02: 重力崩壊型超新星におけるMüller高速計算モデルの適用性について
講演者名: 呉 雨欣、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名: 梅田 秀之(東京大学)、高橋 亘(NAOJ)
大質量星の爆発可能性を理解することは、どの星が中性子星あるいはブラックホールを残すのか、重元素がどのように生成され宇宙に分布していくのか、そして超新星によるフィードバックが銀河の進化にどのような影響を与えるのかを予測する上で極めて重要である。
これまでに提案されてきた超新星爆発モデルは、特定の条件下で良好なシミュレーション結果を示してきましたが、爆発可能性の研究においては、重力崩壊や初期の爆発段階の詳細を省略し、最終的な爆発の性質や残骸の特徴に焦点を当てた、より簡易なモデルが必要とされる場合もある。
本研究では、Müller et al. (2014, 2016)によって提案された計算モデルに着目し、超新星親星の性質と爆発特性との関係を概算的に解析する手法としての有用性について検討した。このモデルは、乱流圧による衝撃波拡大効果を表す補正係数 alpha_turb、中性子星の冷却時間スケール tau_1.5、および重力エネルギーからニュートリノ光度への変換効率を示す係数 zetaなどのパラメーターを導入することで、多次元の流体力学的効果やニュートリノ放射の影響を簡易的に取り入れつつ、完全な数値シミュレーションを行うことなく、爆発エネルギーやブラックホール形成などの超新星爆発の特性を予測することが可能である。
このモデルを用いて、様々な超新星親星モデルに対する計算を行い、それらの爆発の有無や爆発エネルギーなどを調べた。さらに、得られた結果を Burrows et al. (2024) の3D超新星爆発計算結果と比較することで、Müller高速計算モデルが現実的な爆発シミュレーションを再現できるようなパラメーターの値を調べ、結果について議論を行う。
この結果は今後我々が計算する新たな親星モデルへ適用する計画である。
講演CP-03: 対不安定超新星によるヘリウム燃焼反応の同時制限可能性
講演者名: 川下 大響、所属: 東京大学、学年: D2
共著者名: 西村信哉(東京大学)、諏訪雄大(東京大学)、木村真明(理化学研究所)
対不安定超新星とは200太陽質量程度の恒星がその最期に起こす爆発現象である。爆発の輝きを決定づける56Niの合成量が典型的超新星に比べ多いことがある点が、観測的特徴として期待されている。しかし、対不安定超新星の進化の中でCOコアの性質は重要な役割を果たすと考えられているところ、この形成に重要な役割を果たすヘリウム燃焼反応(特に、3α反応と12C(α,γ)16O反応)は、恒星進化の温度領域において未だ大きな不定性を残している。我々はこれまで、この2つの反応が対不安定超新星の56Ni合成量に影響を与えることを明らかにし、また12C(α,γ)16O反応においてはその最重要温度スケールを明らかにする手法を提案した。しかし、ヘリウム燃焼反応を総体的に観察し、COコアの性質という共通の原因によって最終結果に影響を及ぼす3α反応の寄与を含めて考察する必要がある。そこで本研究では同様の手法を3α反応にも適用し、さらに温度高解像度で分析することで、3α反応と12C(α,γ)16O反応の最重要温度スケールが異なることを示した。また、実際の観測例として期待されているSN 2018ibbについてこれらの情報を考察し、このケースが特殊な対不安定超新星である可能性を見出した。
講演CP-04: Fast Blue Optical Transient(FBOT)の輝線形状解析
講演者名: 瀧藤 晴、所属: 京都大学、学年: M2
共著者名:
Fast Blue Optical Transientは近年発見され始めた新種の突発天体である。BH形成に伴うFailed SNが起源であるとする説や、Wolf-Rayet星とブラックホールの合体によって引き起こされるとする説など、様々な仮説が提唱されている。本研究では最も詳細に観測されたFBOTであるAT2018cowの特異なHα輝線形状に注目し、輻射輸送計算により形状を再現することを目的として行う。計算にあたってはWind-Driven モデル(Uno & Maeda 2020)によって説明されたCOW爆発で吹き飛ばされた物質(アウトフロー)の密度温度構造を利用した。
本公演では、計算された輝線形状をもとにCOWラインプロファイルについての考察を行う。
講演CP-05: 種族合成計算を用いた超新星背景ニュートリノのエネルギースペクトルの予測
講演者名: 杉浦 蒼、所属: 東京理科大学、学年: M2
共著者名:
重力崩壊型超新星爆発とは、大質量星が進化の最期に起こす爆発現象であり、大量のニュートリノや重元素を放出する。宇宙誕生以来繰り返されてきた超新星爆発によって放出され、宇宙空間に漂っているニュートリノを超新星背景ニュートリノ(Diffuse Supernova Neutrino Background, DSNB)という。そのエネルギースペクトルは星形成史に依存するが、星形成史は完全な解明には至っていない。そのためDSNBにも複数の予測モデルが存在する(K. Abe et al (2021))。また、近年の検出器の精度向上によりDSNBの観測が現実的になりつつあり、理論予測と観測結果の比較を通じて、星形成史の解明が期待されている。
本研究では種族合成計算という手法を用いて超新星背景ニュートリノのエネルギースペクトルを計算した。種族合成計算では単独星だけでなく連星系まで考慮しており、連星の周期分布や質量比分布、軌道の離心率分布を取り入れた。恒星進化はHurley et al(2000,2002)によって開発されたコードに、Mueller et al(2016)の超新星モデルを参考にした改良を加えたものを用いた。初期質量分布や星形成率も含めこれらの分布にはいくつかのモデルがあるため、各分布モデルが超新星背景ニュートリノに与える影響を調べた。また、観測やほかの理論的予測と比較し、仮定した分布の整合性を調べた。
講演CP-06: 超新星ニュートリノ観測に基づく物理パラメータ推定の手法
講演者名: 権田 達也、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
超新星爆発は宇宙最大の爆発現象であり、その際に大量のニュートリノが恒星内部で生成・放出される。これらのニュートリノは、爆発のメカニズムに非常に深く関与していると考えられている。しかし、初期段階の超新星は光学的に厚いため、可視光やX線などの電磁波では内部構造を直接観測することが困難である。一方で、ニュートリノは物質との相互作用が非常に弱いため、超新星内部の情報を外部に伝える有効な手段として期待されている。
ここでは[1]によって開発された解析コード SPECIAL BLEND について紹介する。これは、原始中性子星(PNS)の冷却段階に放出される超新星ニュートリノの観測データから、PNS の質
量、半径、そして超新星ニュートリノの総放出エネルギーといった物理パラメータをベイズ的手法に基づいて推定するコードである。論文内では、その精度について模擬観測データを用いて検証が行われている。Super-Kamiokande による観測では ~20 kpc, ~70 kpc, 120kpc の距離で超新星爆発が起きた場合、それぞれ 10 % , 50% , 100% の精度で推定することが可能であることが示された。また Hyper-Kamiokande のような次世代大型検出器で観測した場合、最大約2.8 倍の距離まで同様の精度で測定できることが期待されている。
本講演ではこの論文[1]の紹介とともに、将来的な超新星観測に向けての活用や課題などにつ
いて述べる。
講演CP-07: 重力崩壊型超新星SN 1987Aでのパルサー探査
講演者名: 菊池 龍之介、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名:
SN 1987Aは、1987年2月23日に太陽系から約51 kpc離れた場所にある系外銀河の大マゼラン星雲内でおこった重力崩壊型超新星爆発である。重力崩壊型超新星爆発は恒星の進化の果てに起こる爆発であり爆発後には親星の質量によって中性子星、ブラックホールができると考えられている。SN 1987Aの中心には中性子星があると考えられているが、現在までに検出には至っていない。本研究ではX線天文衛星「すざく」に搭載された硬X線検出器HXDのデータと、XRISM衛星に搭載されたResolveのデータを用いてX線帯域における時系列解析によって、中性子星から放射されるパルスを探し、中性子星が存在することの観測的証拠を得ようと試みた。探査のエネルギー帯域はHXDのデータが10 keV-70 keV、Resolveのデータが2 keV-10 keVである。生まれたばかりの中性子星は、自転周期Pが小さく、周期の時間微分Pdotが大きく、PとPdotの関係を示したP-Pdotダイアグラム上では左上部にあると考えられているため、本研究ではPが1 msから100 ms、Pdotが10^{-13} sec/secから10^{-10} sec/secの範囲の探査を行った。時系列解析の手法として、まず観測データの時刻を太陽系重心の時刻に補正するbarycentric補正を施した。その補正済みデータから得られたライトカーブを天体の変動周期間隔で分割し、すべての分割されたライトカーブを重ね合わせることで、畳み込みライトカーブを作成した。さらに、それを\chi^2検定やz^2検定で評価することで中性子星からのパルスを探索した。本講演では、すざく・XRISMの観測の詳細とその結果をまとめる。
講演CP-08: 中性子星1987Aの直接観測可能性:速いν冷却の影響
講演者名: 泉 啓太、所属: 神戸大学、学年: M2
共著者名: 土肥 明(理研) , 伊藤飛鳥(神戸大学)
超新星(SN) 1987Aは、1987年に大マゼラン雲で発見された超新星。中心には中性子星(NS)1987Aが存在する可能性が高いが、未だ直接観測には至っていない。近年、ALMAの観測により、SN 1987Aのダスト中に中性子星由来とされる明るい領域(ブローブ)が発見された。
中性子星は主にニュートリノ放射により冷却される。特にNS 1987Aは年齢が38年と若く、内部が等温状態に達していないため、コアとクラストの両方の冷却過程が重要となる。2040年代に打ち上げ予定の次世代X線天文衛星Lynxによる観測では、この冷却過程からNS 1987A内部の情報が得られると期待されている。
Page+20は、ブローブが主に中性子星の黒体放射によると仮定し、観測が中性子星モデルに制限を与えることを示した。Dohi+23はPageの熱放射シナリオを前提に、冷却曲線とALMA、Chandra、Lynxの観測を比較し、NS 1987Aの物理的性質に制限を与え得ることを示した。
Dohiらは早い冷却がないモデルを用いており、これはNS 1987Aの質量が1.22–1.62 Msunとされることと整合的である。しかし、早い冷却を起こす状態方程式(EOS)の可能性も否定できない。そこで本研究では、Muto+21のEOSを用い、早い冷却過程であるDirect Urca(DU)過程がLynxによるNS 1987Aの観測可能性に与える影響を調べた。
その結果、DU過程により観測可能性は低下するが、パラメータによっては観測可能性が残ることが分かった。また、コアにおける陽子1S₀超伝導に関して、臨界温度Tc=0のモデルの方がTcが有限なモデルより観測可能性が高くなるという、直感に反する結果が得られた。本発表では、この結果について考察する。
講演CP-09: 原始中性子星の進化計算及び構造解析
講演者名: Liao Jinkun、所属: 東京理科大学、学年: D2
共著者名: 鈴木英之(東京理科大学)、加藤ちなみ(東京大学)、長倉洋樹(国立天文台)
太陽質量の8倍以上の質量をもつ大質量星が進化の最期に超新星爆発を起こす。その中心に原始中性子星(PNS)が形成され、普通の中性子星より温度が高くて、典型的な半径は数十キロメートルと考えられる。ニュートリノはPNSの進化において重要な役割を果たす。特に、PNSがニュートリノを放出しつつ冷えていく過程を原始中性子星冷却といい、放出されるニュートリノは超新星ニュートリノとして観測される。ハイパーカミオカンデなどの次世代ニュートリノ観測装置の検出感度の向上により、銀河系内に超新星が起これば、数十秒のニュートリノイベントを検出できると期待されている。本研究はPNSの長時間進化を理解するために、球対称一般相対論的な準静的原始中性子星冷却計算コードを用いて、原始中性子星の∼50秒の進化を計算した。ただし、ニュートリノ輸送はマルチエネルギー流束制限法を用いた。また、PNSの長時間進化において、外層に原子核が現れるほか、中性子星のクラストが出来上がると示唆されている。本研究は異なる二つの核物質の状態方程式を用いて、外層の物質組成と熱的進化の関連性を議論していく。さらに、PNS内部の対流運動が進化に大きな影響を及ぼすことが知られているため、本研究では対流を拡散近似で扱う手法をコードに実装した。この対流項を含むバージョンによる進化の途中結果についても、従来の計算結果とあわせて紹介する。
講演CP-10: マグネターのバースト活動における量子論的プロセス
講演者名: 山﨑 陸太郎、所属: 早稲田大学、学年: M2
共著者名:
マグネターは非常に強い磁場を持つ中性子星である。マグネターの特徴の1つに大規模にX線/γ線を放出するバースト活動があげられる。バースト活動におけるエネルギーの変換過程を説明した先行研究には、[1]と[2]がある。[1]や[2]ではマグネターの強い磁場によって非線形電磁気学効果が表れ、電磁波が分散性を生じて衝撃波を形成し、そのエネルギーを散逸することによって電子陽電子対を生成するというモデルが提唱されている。しかしながら、[1]や[2]では衝撃波によって散逸されたエネルギーが電子陽電子対生成に使われることを仮定しており、この仮定は決して自明なものではない。そこで電子陽電子生成過程の場の量子論による導出が期待されている。
本研究では、以上のプロセスの素過程からの解明を目指す。場の量子論における有効作用の方法は場の発展方程式を導く非常に優れた手法である。特に二粒子既約(2PI)有効作用は場とGreen関数の発展方程式を非常に簡潔な方法で導く。Green関数はエネルギー分布の情報と粒子数分布の情報を持っており、これを求めることでバースト活動の素過程からの解明が期待される。本公演では、2PI有効作用を用いて電子陽電子対のFermion場および背景磁場と電磁波のゲージ場の発展方程式を導出し、この発展方程式を解く手法についても紹介する予定である。
[1] J. S. Heyl and L. Hernquist. 1998. Physical Review D 58, 043005
[2] J. S. Heyl and L. Hernquist. 2005. The Astrophysical Journal 618, 463
講演CP-11: パルサー観測に基づく中性子星キック速度の較正
講演者名: 中井 陸斗、所属: 信州大学、学年: M1
共著者名:
本講演は、 Kapil et al.(2023)のレビューである。本研究はMandel & Müller (2020)(以下MM2020とする。)が提案した物理的ネータルキックモデルを、銀河系単一パルサーの速度観測に基づいて較正した。
中性子星(NS)は、その誕生過程である超新星爆発の非対称性により、大きなキック速度を獲得する。このキック速度の分布は、連星系の進化や、ブラックホール連星・中性子星連星といったコンパクト星連星の合体率予測において極めて重要な要素だが、これまで多くの場合、観測されたパルサー速度データに対する経験的なフィットに基づく処方が用いられてきた。
MM2020では、三次元の超新星シミュレーションに基づく、より物理的なネータルキックのモデルを提案した。このモデルは、超新星前の母天体の炭素-酸素(CO)コア質量などの物理的な特性と、超新星残骸の質量や得られるキック速度との間の関連性を考慮しており、また超新星爆発の確率的な性質も組み込んでいる。特に、NSの平均キック速度は、放出されるCOコア質量とNS質量の差に比例する形をとる。
本講演では、MM20モデルが持つ2つのパラメータ、v_ns (NSキックスケール因子)とsigma_ns (確率的な散らばりの尺度)を、Willcox et al. (2021)によって得られた銀河系単一パルサーの精密な速度観測データを用いて較正した研究について解説する。単独星進化シナリオと連星進化シナリオの両方について尤度計算を行い、観測と最も整合性の高いパラメータ領域を特定した。
さらに、この較正済みモデルを用いて、合体率の銀河化学進化モデルとの整合性や、球状星団におけるNS保持効率の再現性を検証した。特に、COコア質量が3 太陽質量前後でのキック速度分布の急激な変化は、質量放出メカニズムの遷移を反映する顕著な構造として観測と一致し、物理モデルの妥当性を支持する。今後、このアプローチは超新星・恒星進化研究や、重力波源を含むコンパクト星連星系の形成・進化予測の精度向上に貢献することが期待されている。
講演CP-12: 機械学習による銀河系パルサー分布の分析
講演者名: 瀧本 大芽、所属: 信州大学、学年: M1
共著者名:
本公演は、Ronchi et al (2021)のレビュー公演である。
中性子星は誕生時の非対称な爆発によって数100km/sの速度を持つとされていて、この速度をキックと呼んでいる。このキック速度や
中性子星の銀河内における位置が正確に分かることによって、コンパクト天体の形成の仕組みや中性子星連星の合体の理解につながるとされているため、これらは注目されている。そこで、本論文では機械学習(特にニューラルネットワーク)を用いて、これらを推測できる可能性を探っている。
方法としては、まず誕生時の中性子星のキック速度と銀河内の位置をそれぞれパラメータσk、hcと置いて、これらのパラメータを変えながら様々なパターンで仮想的な中性子星の進化を”population synthesis”という手法でシミュレーションする。そして、得られたシミュレーション結果と与えられたパラメータを機械学習させて、中性子星のキック速度と銀河内の位置を予測できるか検証する。また、学習方法についても何パターンか用意して最適な学習方法を探っている。
講演CP-13: Superfluid Signatures from Multicomponent Pulsar Model
講演者名: Dulinayan Reynan、所属: University of the Philippines, Diliman、学年: D1
共著者名: Reinabelle C. Reyes (Philippine Space Agency, Research Center for Theoretical Physics) Christopher C. Bernido (Research Center for Theoretical Physics, National Institute of Physics — UP Diliman, USC, MSU-IIT)
It has been an open challenge to systematically estimate the physical parameters of neutron star interiors using pulsar timing data. These data encapsulate timing noise or spin wandering—the first observable timing irregularity of a rotating neutron star commonly described as a stochastic fluctuation of its torque or angular velocity. The nature of this phenomena is largely unknown, but it is a process believed to be a manifestation of dynamics intrinsic to the pulsar itself. The phenomenon of glitches, the second major timing irregularity, serves as the most promising signature of superfluidity and multi-component structure of a neutron star. Apart from glitches, there is a theoretical possibility of superfluidity imprints on measured timing noise [1]. In this work we adopt a multicomponent pulsar model in the form of a stochastic differential equation (SDE) proposed by [2] that generally prescribes a timing noise and incorporates a coupling effect between a rotating normal and superfluid component. This model is a stochastic generalization of the classic two-fluid model of [3] to explain the observed glitches of radio pulsars. Time series of angular velocity residuals were generated by numerically solving the SDE using the Euler-Maruyama scheme. The simulation-derived mean-square deviations (MSDs) from the generated time series and the theoretically expected MSDs based from the underlying stochastic model were determined. This is done for 4 different models which represent low/high coupling and normal/superfluid dominated cases. All models have rotational parameters consistent with a Vela-like pulsar (PSR J0835-4510) under the assumption of a fluctuating external torque. Finally, we characterized a possible superfluid signature in the model appearing in the form of MSD turnovers based solely on measured angular velocity residuals. The MSD turnover complements the theoretically observed PSD turnovers rotating neutron stars with superfluid layers from such as those studied by [2] and [4].
[1] N. Chamel. Superfluidity and superconductivity in neutron stars. Journal of Astrophysics and Astronomy, 38:43, September 2017.
[2] M. Antonelli, A. Basu, and B. Haskell. Stochastic processes for pulsar timing noise: fluctuations in the internal and external torques. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 520:2813, January 2023.
[3] G. Baym, C. Pethick, D. Pines, and M. Ruderman. Spin up in neutron stars: the future of the Vela pulsar. Nature, 224:872, November 1969.
[4] A. Melatos and B. Link. Pulsar timing noise from superfluid turbulence. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 437:21, January 2014.
講演CP-14: パルサー・タイミング・アレイおけるpulse-jitterノイズの解析
講演者名: 無津呂 凪斗、所属: 熊本大学、学年: M1
共著者名:
パルサーとは、1967年にJocelyn Bell Burnell、Antony Hewish らが発見した中性子星の一種である[1]。特徴として、強い磁場(B〜108-1014G)を持ち高速に自転して(周期P〜10-3-10sec)強い異方性を持った電磁波を放出する。地球では回転周期に同期したパルスとして観測される。
Pulsar Timing Array (PTA)は、超大質量ブラックホール連星が発生源であるナノヘルツ帯の重力波の直接検出を目指す取り組みである。パルサーと地球の間に重力波が存在すれば、地球とパルサー間の距離が変動するため、周期的なパルス到着時刻が変化すると考えられている。あらかじめ予測された到着時刻との差であるタイミング残差を観測することで重力波の検出を行う。到着時刻の予測にはあらゆるノイズ源を考慮する必要がある。そのため、ノイズの中には、パルサーごとに固有の値を持つpulse-jitterノイズが存在する。jitterノイズはタイミング残差におけるランダムな変化として見られ、パルスごとの確率的な変動として現れる。その特性から、jitterノイズは長時間観測することで影響を小さくできるが、PTA観測では、高感度でかつ短時間での観測のため、jitterノイズの影響を十分に理解しておく必要がある。そのため、jitterノイズの大きさや振る舞いを調べることが非常に重要である。
今回は、PSR J0437-4715における300-500 MHzおよび1260-1460 MHzの周波数帯域でのjitterノイズの測定とその周波数依存性について紹介を行う[2]。
1. Antony Hewish, S Jocelyn Bell, John DH Pilkington, et al. Observation of a rapidly pulsating radio source. In Pulsating Stars, pages 5–9. Springer, 1968. 3.1
2. Tomonosuke Kikunaga, Shinnosuke Hisano, et al. Low-frequency pulse-jitter measurement with the uGMRT I : PSR J0437-4715, 2020
講演CP-15: 狭輝線セイファートI型銀河のX線観測衛星 XRISMでのX線スペクトル観測 シミュレーション
講演者名: 窪田 瑛斗、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名:
狭輝線セイファートI型銀河(NLS1)は通常のセイファートⅠ型銀河と比較して可視光のスペクトルのドップラー速度幅が狭いという特徴を持つ。 X 線天文衛星「すざく」での先行研究では NLS1 はトーラスからの輝線が主要な成分であるとされていた。しかし、XRISM によるセイファート1.5 型銀河の最新研究では鉄輝線を3つの領域からのスペクトルとして分離する能力が示され、NLS1 にもより詳細な研究が進められることが期待される。本研究ではこの鉄輝線の分離を NLS1 でも行うことができるのかをシミュレーションし評価した。シミュレーションには、 XRISM 搭載Resolve検出器の使用を前提とし、その応答関数およびバックグランドを用いた。放射モデルには先行研究で用いられたモデルに加え、先行研究と矛盾しない範囲で、トーラスによる吸収・散乱を再現したモデルを用いた。結果として、十分な露出時間をかければ、 NLS1 でも、各散乱成分の分離を行うことは可能であることがわかった。そのため、現実的な観測時間でどこまで探査できるかについて、より詳細なシミュレーションを行うことが今後の課題である。また、詳細なシミュレーションを行い、先行研究との比較をするためにもよりAGNのトーラスに特化したスペクトルモデルであるMYTORUSの導入について準備を進めている。
講演CP-16: PDS 456における UFOとX 線スペクトルの関連性
講演者名: 久松 大一郎、所属: 埼玉大学、学年: M1
共著者名:
クェーサーPDS 456は、光速の20~30%で噴出する超高速アウトフロー(UFO)が常に観測される天体である。アウトフローは、降着円盤近傍で輻射圧や磁気的なメカニズムによって駆動されると示唆されている。このアウトフローは周囲のガスに影響を与えることによって銀河の星形成を抑制するなど、銀河とブラックホール(BH)の共進化の謎を解く鍵と考えられている重要な存在である。定常的に、非常に高い輝度を示し、またUFOを伴う活動銀河核(AGN)として、PDS 456は貴重なターゲットである。特に、PDS 456からは、X線の高精度分光によって、複数の速度をもつアウトフローがXRISMで測定されている[1]。本講演では、2024年のXRISM 観測[1],2018~2019年のXMM-NewtonおよびNuSTAR 観測 [2]に基づき、主に質量降着率を反映する3~7 keV帯の X線スペクトルの時間変動について レビューする。特に、質量降着率や光度との関係に注目し、降着円盤とアウトフローの物理的相関について検討する。
[1] XRISM collaboration, 2025, Structured ionized winds shooting out from a quasar at relativistic speeds
[2] J. Reeves et al., 2020, Resolving the soft X-ray ultra fast outflow in PDS 456
講演CP-17: 理論とX線・ミリ波観測に基づく活動銀河核コロナの解明
講演者名: 浜本 百夏、所属: 大阪大学、学年: M1
共著者名:
近年、活動銀河核の降着円盤上空に存在する高温プラズマであるコロナの物理状態を探るため、ミリ波観測によるコロナシンクロトロン放射の研究が進んでいる。これまでの研究では、球対称コロナを仮定し、非熱的電子の存在や磁場強度、シンクロトロン放射スペクトルの推定が行われてきた。しかし、コロナの幾何構造は球状とは限らず、様々な幾何構造が理論的に予想されているにもかかわらず、それらの影響を系統的に検討し、ミリ波観測と比較した研究は限られている。特に近年のX線偏光観測の結果からは、従来想定されていた球対称コロナは否定されつつあり、より複雑な幾何構造を考慮する必要性が高まっている。本研究では、コロナの幾何構造の違いがミリ波放射スペクトルに与える影響を理論モデルおよび観測データを用いて検証することを目的とする。これにより、今後のミリ波観測でコロナの磁場やサイズだけでなく、コロナの構造情報を引き出す手がかりを提供することを目指す
講演CP-18: 降着天体の周縁構造解明を目指した天体X線スペクトルの時間変化スケール解析手法の開発
講演者名: 厚地 凪、所属: 東京大学、学年: M2
共著者名: 海老沢 研(東京大学)
活動銀河核(AGN)は、銀河スケールの天体でありながら、多くの主要なX線スペクトルの特徴を恒星スケールの天体である中性子星連星(NSB)、ブラックホール連星(BHB)と共有していることが知られている。よく知られたAGNとBHBのX線スペクトルの共通点に、6.4 keV鉄Kα線バンド近傍に薄く広がった山状の構造がある。従来この構造の成因は、「相対論的ディスク反射モデル」における中心領域からの放射光が一般相対論的効果によって歪められる効果か、「部分吸収体モデル」における放射領域を部分的に覆い隠す物質の存在のどちらかに帰せられ、それらの妥当性が長年議論の的となっているが、近年、後者は前者に比べて成分分解されたX線スペクトルの時間変化をよりよく説明する可能性が指摘された。
2024年、6.4 keVバンドにおける6eVのエネルギー分解能と、80μsの時間分解能を両立したX線観測衛星XRISMの運用が開始され、従来検出できなかった複数の輝線や吸収線をX線スペクトルから分離し、それらの微小な時間スケールにおける変動を検出することが可能となった。これにより、よりよい粒度でスペクトルコンポーネントを分解し、より細かい変動の時間スケールで部分吸収体モデルを検証することが可能となった。しかし、時間変動の解析において、モデル選択の依存性がなく、かつ高精度で分離された各コンポーネントに対して変化の時間スケールを変数として決定できる手法は確立していない。
本研究は、未公開のAGN、BHB、NSBのXRISM観測データに対する適用を見据えて、高い時間分解能で知られるNICER望遠鏡などのX線スペクトルを用い、コンポーネントの分解と変動の時間スケールの決定をバイアスなしで決定することが可能な、時間変動の解析方法の開発を目的とする。
講演CP-19: MeVガンマ線帯域における天体スペクトル予測と観測可能性
講演者名: 漆原 みなみ、所属: 神奈川大学、学年: M1
共著者名:
ブラックホールやパルサー、超新星残骸や活動銀河核といった宇宙の⾼エネルギー現
象を解明するためにはガンマ線による観測が不可⽋である。中でもMeV 帯域はコン
プトンガンマ線衛星CGROに搭載されたMeVガンマ線検出器COMPTELをはじめ
として、いくつかの衛星や気球実験によって観測が⾏われてきた。しかし、この帯域
はコンプトン散乱と電⼦・陽電⼦対⽣成の境界付近であることや、宇宙線起源のバッ
クグラウンドが障害となって、感度やエネルギー分解能に優れた検出器の開発が困難
である。そのため、周辺の硬X線(>10 keV)やGeVガンマ線と⽐べてデータが乏
しいことが課題となっており、「MeV ギャップ」と呼ばれている。
近年、このMeVギャップを埋めるべく、衛星や気球を⽤いた新たな観測計画が世界
中で提案されている。⼀⽅で、周辺帯域である硬X 線やGeV ガンマ線による観測は
Swift/Burst Alert Telescope (BAT)やFermi/Large Area Telescope (LAT)などによっ
て盛んに研究が進められてきた。硬X線とGeV ガンマ線の両⽅で観測されている天
体はMeVガンマ線によっても観測される可能性が⾼いという観点から、両者の観測
データの対応付け、すなわちクロスマッチを⾏うことで、MeVガンマ線帯域における
スペクトルが予測されている[1]。
本発表では、MeVガンマ線帯域の予測スペクトルの妥当性について考察し、現在進⾏
中の観測計画における観測可能性について検討する。
[1] N.Tsuji et al. ”Cross-match between the Latest Swift-BAT and Fermi-LAT
Catalogs.” The AstrophysicalJournal,Vol.916, No.1, 2021.
講演CP-20: X線連星の微弱な輝線・吸収線の探索とHer X-1のeclipseのXRISM解析
講演者名: 坂本 洸、所属: 京都大学、学年: M1
共著者名:
通常の恒星が中性子星やブラックホールなどのコンパクト星を伴星に持つX線連星では、恒星周辺のガスがコンパクト星に降着する。ガスが降着する過程でコンパクト星の周辺に降着円盤、表面に降着円筒を形成し、その重力エネルギーが解放されて連続X線が放射される。この放射が周囲のガスを通過してくる際に連続スペクトルに吸収線が生じ、また周辺物質に反射すると蛍光輝線や高温プラズマから高階電離した輝線も生じる。これらの輝線や吸収線から、恒星周辺ガスの元素組成、恒星風の速度や密度などを推定できるが、過去の検出器のスペクトル分解能では、X線連星では鉄元素以外の輝線・吸収線の検出は限られていた。
2023年9月7日に打ち上げられたXRISM衛星のマイクロカロリメーター『Resolve』はFe輝線付近(6.4 keV)において約4-5eVのエネルギー分解能のため、従来のCCD検出器の約150-250eVのエネルギー分解能では分離できない輝線や吸収線の微細構造を検出したり、微弱な輝線・吸収線の検出が可能になる。
本研究では、Resolveで観測されたX線連星として2025年2月1日に観測されたGX 301-2(中性子星と約40 M⊙の超巨星, 露光時間59ks, 軌道周期41.5日)と、2024年9月10-12日にかけて観測されたHer_X-1(中性子星と約2 M⊙の準巨星, 露光時間21ks, 軌道周期1.7日)の解析を行った。Fe輝線(6.4 keV)とは異なるエネルギーで輝線・吸収線を探したところ、GX301-2ではFeより原子番号の小さい原子(S, Al, Cr, Mnなど)の輝線、Her_X-1の食以外では高階電離したFe(XXV, XXVI)の吸収線、食においてはその輝線が見つかった。本講演では統計学的な有意度を求め、恒星周辺ガスについて位相を考慮に入れながら議論を進める。
講演CP-21: スーパーエディントン降着が高質量連星ブラックホールに与える影響
講演者名: 富永 洸太郎、所属: 信州大学、学年: M1
共著者名:
本公演はBriel et al.(2022)のレビューである。現在用いられているモデルでは、100太陽質量を超えるBHがなぜ発生するのか、また主星の質量分布を35太陽質量付近に集中しているのかを説明することは困難である。銀河形成に関する大規模なシミュレーション結果であるTNG-100とも結果が合わない。そこでこの論文ではBPASSを用いた詳細な連星進化モデルを使い、質量移動の安定性、降着率、残骸質量を決め、スーパーエディントン降着による安定的な質量移動が、35太陽質量付近に集中する原因である可能性を突き止めた。さらに高質量BHの形成には、これまで考えられていた脈動型対不安定性超新星(PPISN)ではなく安定した質量移動によるものであることが判明した。またこれら大質量BHの形成は主星と伴星の質量比が極めて高い。そのため安定した質量移動が発生し、それに伴う角運動量の運搬及び軌道収縮により、宇宙年齢以内に合体することが可能になる。これは現在の宇宙に大質量BHが存在していることを裏付けており、実際の重力波観測カタログGTWC-3と一致する。
講演CP-22: NICERとNuSTARによるブラックホール連星GX 339ー4のスペクトル解析
講演者名: 正宗 智、所属: 芝浦工業大学、学年: M1
共著者名:
GX 339-4は、1973年に発見されたX線連星で、太陽の約4~11倍の質量を持つブラックホールと恒星による近接連星系で複数回のアウトバーストを繰り返している。
軌道傾斜角iは40~60度、地球からの距離Dは8~12kpcと推定されている(Swadesh et al. 2024, ApJ, 972, 1)。
ISS搭載NICERとNuSTAR衛星の同時観測データは4回あり、そのうち2020年2月18日の観測は降着円盤からの放射が卓越するソフト状態を捉えていた。
スペクトルは標準降着円盤を近似したdiskbbモデル(Mitsuda et al. 1984, PASJ, 36, 741)と高温コロナによる逆コンプトン散乱を記述するnthcompモデル(Mitsuda et al. 1984, PASJ, 36, 741)でよく再現され、d=10kpc、i=50°を仮定、かた色温度補正κ=1.7(Shimura et al., 1995, ApJ, 445, 780)と内縁の境界条件補正ξ=0.412 (Kubota et al., 1998, PASJ, 50, 667)より円盤半径は89.8kmと推定できた。
これは10Moのブラックホールの6.1Rg(Rg=GM/c^2は重力半径)に対応し、BHはシュバルツシルトブラックホールと考えて矛盾ない。
実際、このスペクトルをより精度の高いSSsedモデル(Kubota et al. 2024)で再現したところ、Rin=6.0Rgと推定できた。
また逆コンプトン散乱をになうコロナの領域はRcor=7.9Rg であり、中心に集中したコロナという描像が得られた。
他の3回の同時観測は逆コンプトン散乱が優勢なハード状態であり、diskbb+nthcompでは円盤温度は0.27keV、光子指数はΓ=1.6~1.7に分布、
コロナ温度は105~131keVであった。特にNuSTARとの同時観測が得られている2回のアウトバーストに注目して解析を進めた。その結果、観測データを高エネルギー/低エネルギーのX線強度比と全体のX線強度で表したHardness Intensity Diagram(HID)上に3つのブランチを定義でき、それぞれの状態に応じたスペクトルの違いが明確に現れた。また、ソフト状態では円盤半径がほぼ一定であるという結果が得られた。これらの結果について報告する。
講演CP-23: Einstein-Maxwell-Dilaton 理論における数値相対論シミュレーション
講演者名: 富樫 海、所属: 東京理科大学、学年: M1
共著者名:
本発表では、Einstein-Maxwell-dilaton(EMd)理論に基づくブラックホール連星系の数値シミュレーションに関する研究について報告する。EMd理論は修正重力理論の一つであり、スカラー場(dilaton)と電磁場が結合することにより一般相対論+電磁気学の枠組みにおいて成り立つ無毛定理を破るようなブラックホール解を許容する。近年、重力波観測を介したEMd理論の検証可能性が議論されていることを背景に、本研究室において開発中のEinstein Toolkitに基づいたEMd理論に対応する数値計算コードを用い、ブラックホール連星系の初期パラメータ(質量比、初期距離、スカラー場の初期値など)や理論パラメータである結合定数を系統的に変化させながら、スカラー場の空間分布や放出される重力波形への影響を調査する。パラメータを変化させた際の波形の特徴やスカラー場の進化の傾向を明らかにすることで理論模型の分類や今後の重力波観測との照合に向けた基盤の構築を目的とし、将来的にはEMd理論を含む他の修正重力理論に基づいた重力波の振る舞いへの網羅的な理解を深めることを目指す。
講演CP-24: 円筒shearing boxによる降着円盤の磁気乱流ダイナミクスの解明
講演者名: 山口 湧樹、所属: 東京大学、学年: M1
共著者名:
降着円盤は、若い恒星の形成過程における原始惑星系円盤や、白色矮星・中性子星・ブラックホールなどのコンパクト天体、さらには活動銀河核(AGN)といった広範なスケールで、物質移動とエネルギー放出の主要な場を形成している。これらの天体において、降着流は中心天体への質量供給や高エネルギー現象の起源として極めて重要な役割を果たす。1973年にShakura & Sunyaevが提案した標準降着円盤モデルは、未知の乱流的粘性をαパラメータで記述することで、角運動量輸送と質量降着の定量的理解に道を開いたが、乱流の物理的起源は長らく不明であった。その後1990年代にBalbus & Hawleyによって磁気回転不安定性(MRI)が発見され、磁場が駆動する乱流が主要な候補として注目を集めるようになった。これに伴い磁気流体数値シミュレーションが発展し、特に局所構造を扱うshearing box手法がMRI乱流の研究に用いられてきた。しかし従来の直交座標系に基づくshearing boxでは円盤の曲率が無視されるという制約があり、質量降着や角運動量保存の再現に限界があった。この問題に対し、Suzuki (2019) は円筒座標系に基づく新たな局所モデル「円筒shearing box」を開発し、曲率効果を局所的に取り入れる手法を確立した。さらにSuzuki (2023)では、このモデルを用いて磁気乱流の時間変動性や内部構造を詳細に解析し、従来モデルとは異なる特性、たとえばトロイダル磁場の圧縮が磁場増幅に重要であることや、MRIによるリング・ギャップ状構造の自発的形成といった新たな知見が得られた。本講演では降着円盤理論の発展と数値的アプローチの歴史を概観し、Suzuki (2023)の成果をレビューするとともに、鉛直重力を取り入れた円盤風・ジェット形成など三次元構造への発展的展望についても議論する。
講演CP-25: 成層降着円盤におけるMRI乱流加熱モデルの拡張
講演者名: 樫崎 太希、所属: 東北大学、学年: M2
共著者名: 川面洋平(宇都宮大学), 加藤雄人(東北大学)
コンパクト天体周囲の降着円盤では、ガスが中心天体に降着し重力エネルギーを開放する。この際、円盤加熱やX線放射等を引き起こすが、この角運動量輸送とプラズマ加熱の主要メカニズムは磁気回転不安定性(MRI)によるものと考えられている[1]。Sgr A*等の高温弱衝突降着円盤では、乱流で散逸したエネルギーのイオンと電子への分配比が放射スペクトルに強く影響し、その解明は理論研究における重要な課題とされてきた[2]。
しかし既存のイオン・電子加熱モデルは、円盤が持つ鉛直方向の成層構造を無視または単純化することが多い。現実の円盤は重力により必然的に成層し、水平磁場があればParker不安定性[3]を誘起しうる。Parker不安定性は磁束管を浮上させガスの運動を駆動し、円盤全体のダイナミクスやエネルギー輸送に著しい影響を与える可能性がある。本研究の目的は、この鉛直成層の効果を、Kawazura et al[4]およびSatapathy et al[5]のMRIに基づく加熱枠組みに導入し、より現実の状況に即した降着円盤加熱モデルを構築することである。
本講演では先行研究[6]の線形解析を基礎とし、MRIとParker不安定性が共存しうる系について議論する。具体的には、鉛直成層を考慮し不安定性の固有関数を導出し、イオン・電子へのエネルギー分配比決定に重要なAlfvén波と遅い磁気音波のエネルギー注入率の比を算出する。
[1]S. A. Balbus and J. F. Hawley, ApJ, vol. 376, pp. 214 (1991)
[2]R. Kuse et al, ApJ, vol. 977, 22(2024)
[3]E. N. Parker, ApJ, vol. 145, pp. 811 (1966)
[4]Y. Kawazura et al., JPP, vol. 88, pp. 905880311 (2022)
[5]K. Satapathy et al., ApJ, vol. 969, 100 (2024)
[6]T. Foglizzo and M. Tagger, A&A, vol. 301, pp. 293 (1995)
講演CP-26: 粒子法によるブラックホール周りの流体計算法の開発に向けて
講演者名: 野崎 洸生、所属: 名古屋大学、学年: M1
共著者名: 犬塚 修一郎(名古屋大学)
重力波天文学の発展に伴い高密度天体周辺の現象の研究が進み、強い重力場における流体の運動が注目されている。具体的にはブラックホール周りの降着円盤の形成・進化やブラックホールによる潮汐破壊などが特に興味を持たれている.曲がった時空での流体運動を解析的に解くことは難しく、その描像を正しく得るためには精度の良い数値シミュレーションが必要となる。そこで我々は相対論的効果を近似的に取り込んだ粒子法的流体計算法の開発を目指している。粒子を用いた数値シミュレーション法は重力天体近傍で起きる潮汐破壊など、ほぼ真空領域が多い現象を扱うのに有利であり、強い重力場を扱うことができるようになれば、応用範囲が広いと期待される。
今回は回転するブラックホール周辺の物理についての先行研究を精査する。先行研究では回転するブラックホールによる慣性系の引きずりをポスト・ニュートン近似によって取り込み、降着円盤がBardeen-Petterson 効果によって歪む現象をSPHシミュレーション法によって解析している。そこで我々はシミュレーションの実装について考察した。ゴドノフ法を用いる計算の改善方法等について提案する。